ラジオの上に位置しているシステムが、自車のナンバーがゲートに登録されたことを知らせる。
「是で、不真面目なのが組織にばれたな」
「あ?このデータ、偽モノだから」
「だろうな」
あれれ、なんか最近手の内知り尽くされちゃってる?
慣れられ始めると、つまんないもんだね。
んじゃ、何か新しい手を考えて、びっくりさせてあげなきゃね。
ゲートを抜けると、国と国をつなぐための未完成な道路が開けた。

遠くの方で、夜が始まろうとしていて。

多少冷えてきた風が、頬を冷たくする。

「今夜も冷えるね…」
「雪にはならんだろう」

折角貰った葉巻の火種が消えるのももったいないから。
ボタンを押して、車の屋根をスライドさせて風を防ぐことにした。
サイドミラーに遠く映る町明かりが、煙に掻かれて乱れて消える。


…まだ、アルベルトには伝える気には為れなかった。


自分が何所に行き、そこで何をしようとしているのかを。
それはビッグファイヤの命令であり。
アルベルトを看取り役として副えさせたのもビッグファイヤであり。

…自分の能力を呪う事は無いけれど。
…多少、怖いな、とは、思うよ。
…別に自分で使う分には、楽だし楽しいし、ゾクゾクするから大好きだけれどねェ。

「セルバンテス」
「ん、あ、あっ?な、なに?」

考え事をしていた所為も在って、突然声を掛けられた様に感じて。
つい、顔ごと振り向いた。

「何を驚いている?運転に集中せんか、是だけのスピードなんだからな」
「おやおや、甘く見られたモンだね」
「…あまり思い悩むな」
「別に、悩んでたんじゃないよ、お腹すいたなーと思ってね」
ん?
誤魔化しの為にそう言った心算(つもり)が、言ってみると、是が実際身体が求めていることであったりする訳ね。
「…お前、また朝も昼も…」
「あ、忘れた」
私は、良く昼を食べ忘れる。
今日は任務の勅令もあって、忙しかったからかもしれないけれども、
と思ったけど、そんなの忙しくなくても食べないときは食べないなぁ。
「体力勝負が重要な場所でよくそういうことを平気で…。」
「君とご飯が食べられると思うとね、美味しく食べたいから、両方とも抜いたわけさ」
「そう言うウソを平気で言うな」

まぁまぁ、と、ひらひらと手を振って。
「ほころへなにはれ」
「…セルバンテス、葉巻」
ひらひらと振っていた手を、自分の口元に持って行って。
指示通り、葉巻を手に取って、是で好々?
「で、なんだ?」
「ところで、なにはれ。」
「?」
あ、葉巻咥えてないのについ変な喋り方に。
「えーと、ところで、何食べたい?」
「本当にそう言っていたのか?」
「うん多分」

そうだな、と、腕を組んで。

「ううむ」

そんなに悩むことでもないと思うけど。
…と、言いかけて。
辺りを見回して、納得。
ゲートを抜けたこの道路にある機能としては、高速道路とほぼ同じ機能であって。
いわば、シズマドライブの交換所(SS)と、後架。人間がどうしても我慢できないことのためにある場所の旧名ね。
それと、ちょっとしたファーストフードやお菓子なんかが売ってるだけで。

ポテチでもつまむ?
「そんなんだから、そんなに細いんだ」
「結構しっかりした骨格だよ私は。触る?」
「…と、とにかくもっとまともな物を…」

と、もう一度腕を組んで。

「聞くまいと思っていたが、何所へ向かっている?其れに依っては…」

はは、聞かないで置いてくれようとしてたんだ。
行く先くらい、聞いたって、別にかまわないよ。
言いたくないことだったら、いつだって誰にも言わないんだからね、私は。
今回の質問は其れに準じてないから。

「旧国名・大日本帝国」
「…日本か」

そう。

遠く、海の上を走る道路。
そのはるか向こうにまだ見えない島国が在る。

グローバルでありながら、何国にも本気で肯くことのなかった島国が。