…なにか、ギリギリなものを感じる。
ずっと。
ずっと感じていた。
何かおかしいんだ、セルバンテスが何処かに遊びに行こうと連れ出したとしても、日本につれてくるとはどうしても思えない。
何か、裏がある。

ここに来るまでの間に、セルバンテスが見せた、突然空気が鋭くなる瞬間。
それに、意味が無いだなんてコトは、絶対にありえない。

「さぁ、アルベルト。どうする?この部屋に今私たちは二人きり。」
「そうだな。」
「さて。私に溺れてみるかい?それとも空腹が最優先?」

酷く挑発的に。
まるで、戦いを儂に挑んでくるかのように。
命を燃やし尽くすかのように。

「素直に言ったらどうだ?」
「…抱いてくれ、って?言ってもいいけど、そういうの嫌がるだろキミは」
「違うな」
「へぇ、違うの?んじゃなに」
「何にも考えたくないから何も考えられなくしてくれ、とでも言えば一番近いか?」

違うか?
懸命に考えた結果がこれだ。
儂の問いには答えず、沈黙していたセルバンテスが、突如両手を大きく広げて肩をすくめて見せた。
どこまでもスタンスを崩さない。
それが崩れるときは、セルバンテス自身が崩れるときなのかもしれないと思うほどに。

「あーあ」
バフ。
和風を模したベッドに身体を投げ出して、うつ伏せになり、顔を覆った腕の隙間から儂を垣間見て。
「なんで、わかっちゃうかなァ…」
よく言う、切っ掛けの”キー”を何度も儂に投げていたくせに。

「そろそろ教えてくれてもいいだろう。何故ここに来たのかを」

んー。
と、突っ伏して。音を立てて。
ひょい、と反動をつけて起き上がり、ベッドの上で足を組んで膝に手をかける。

「そうだね、そろそろ任務の説明と行こう」

…え?
に、任務!?
「な、なんだと、じゃぁ、仕事じゃない、とか言っていたのは…」
「ウソ。」
「…」

な、何でそんな重要なことを。
何故、友と認めた儂にすぐに言わんのだ。

訳があるのは承知だ。
しかし、悔しくなるのは、どうにも押さえられない。

自分の存在自体を無視されているようで。

「勘違いしてはいけない」

ベッドを降りたセルバンテスが、黒い絨毯を踏んで目の前に立つ。
その目は、鋭く。
その佇まいは、ナイフよりも良く切れる薄い紙のような、そんな想像外の鋭さを。
その身体全体に宿して。

「任務を君に告げよう」

「…は」

「私の戦いの行方を事細かに詳細に記憶し、孔明に報告せよ」

「…なに?」

「遂行か、放棄か。どちらかなどとの選択肢は君には無い。
 持ち帰るのは情報だけと思っていただければ相違ないと補足して置こう。以上、孔明より抜粋。」

それは、どういう…

「セルバンテス。もっと細かく説明しろ!お前の戦い?儂は見ているだけで良いと言うのか?」
そもそも、ならば、何故儂が同行する理由がある!
孔明に報告、だなんて、まるでBF団に帰還するのが儂一人のような、

……
何を、考えているんだ儂は。
任務は、いつも死の危険があって、当然のことであって。
こんなことで驚いていては、いけない物なのであって。
しかし、そんなもの、覚悟しておくものでも、無いだろう。
ただ。

「勝て、セルバンテス」

「…ワクワク、するよねぇ」


一つ、苦しそうにそう言って。
儂のネクタイをつかんで、強く引き寄せるから…逆らうという選択を放棄することにした。