まるで、壊しているようだな、と思う。
スタンスを崩さず、いつも偉そうで人を小馬鹿にしていて。
誰にも頭を下げない。
強く、
やさしいフリをした、
毒蛇。

それを、儂は今こうして、壊している。
そう思える程、セルバンテスは苦しげに乱れる。

儂の上に跨ってて開いた足、筋肉の筋の浮いた腿の内側を指で押し上げながら、ゆっくりと腰を掴むと、
快楽とも苦痛ともつかぬ声を立てて、薄目を開いて儂を見た。
目を合わせたまま、一気に引き下げる。
「んぅあ、ッ!」
こうして見上げてみると、している、と言うよりは、させている、と言う感覚を強く感じるものだな。
気がつけば、流されてここまで来ていた。
それは恐らくセルバンテスが望んだことであるから、だからここまで来た。
それに流されることは、驚きはあったけれども、それほど心地の悪いものではなく。
しかし、ヒトツだけ。

この男が見せる、行為の最中のこの表情は、一体なんなのだろう、と。
自分から望んだのなら、もっと悠長に構えていればよいものを。
やけに、苦しげな顔を見せる事がある。
こっちが萎縮して気を使ってしまいそうになるくらい。
何も、考えずにお互いを感じる、それがこう言う事だ…、なんて、偉そうに言っていたくせに。
何かを頭から外せずに居るのは、お前の方じゃないのか、セルバンテス。

「なに、考えてんの、失敬だな…」
「…夢中になっていいのか?」
「と、言うよりは、溺れて欲しい、ねぇ」

荒い息の中につむがれる言葉。
唾を飲み込んで喉を鳴らす。

「考えたら、出来ないよ、こんなコト。」

ぐ、と締め付けて。
普段のスタンスで笑う。

壊していいのか躊躇する儂を、まるでじれったく感じているかのように。

「さらけ出そうよ。全部、気持ちいいトコ」
「…」
「出来ないのなら、させてあげようか」

口元がそう動いて
その両手が儂の頭を軽く掴んだ

「…!!!」

この、流れは…

「…セ、ルバンテス…!ぅぅううう、あ、あああっ!!!!」
「直に感じるのは初めてだろう?」
「やめろっ、駄目だ、お前は…」
「ねぇ、壊れてくれないか」

ワタシヲ コワスタメニ

「や、やめろ、能力なんか使っ…!」

頭の中に手を突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回すような濁流!
儂の脳の奥深く、セルバンテスの能力の流れが激流のように渦巻いて。
目を閉じた目の裏が黒から、ひどく鮮明な赤へと飲み込まれて…
このままじゃ、本当に吹っ飛んでしまうぞ!
いいのか、セルバンテス。
そんなことで、お前は本当に、いいのか…

セルバンテス

壊されたい?

そんなに。

壊されたいか

この儂に。

何故?

何を、忘れたいんだ、お前は…

…悲鳴と、自分の身体を押し返す腕と。
喉元に食らいついた己の犬歯
叫び声と
爪に食い込む肉の感触

髪が指に絡みつく、だからそれを強く掴んで

………ッ!

遠くに聞こえた悲鳴に身体を押し付けた

……………!!!!!

そろそろ、戻らねば壊してしまう

−−−−−−−−!!!

お前の望みどおりに

「ぅあ、あああああーーーーーー!!!!!」

パシン

声に、何かが弾けた

掴んでいるのは誰の腕なのか
コノ肉体ハ誰ノモノなのか
ヒドク気持チガイイカラ

指先に絡みつく液体で君の身体を穿り返して・駄目だ・壊して
その内側から全て引きずり出してもしそれが見えたなら恐らくヒド
ク綺麗なピンク色キリンが空に向かって吼えるからその首を掴んで
引きずり倒して・駄目だ・その大事な首・イケナイ・引きちぎろうか
其れともへし折ろうかさぁ炎を吐き出せその真っ赤な口から真っ白
な涙を流してよどんだ瞳の中に映ったのは誰、誰?ダレ・見覚え
のある・だれなのかそれすらもうわからないほどにさぁ殺そう全ての

全ての

肉体がはじけ飛ぶ

全ての

精神がはじけ飛ぶ

駄目だ
駄目だ
駄目だ!!
駄目だ、逃げるな!!!
逃げるな、
「セルバンテス!!!」


真っ赤な世界が広がっていて、その向こうに小さく何かが見えた
それが儂を振り向くから
それに向かって手を伸ばして
…助けて
叫んでるから
…遊んで
待っているから
…行かなきゃいけないんだ、自分を見に
駄目だ、
…私の内蔵は何色だと思う?
駄目だ!
…退屈は嫌いだよ
だったら


こっちにこい!!!


遠くにあった何かを強く掴んで、引き寄せた。

ふいに、視界が開ける。
暗い部屋の中に、ボンヤリとした明かり
腕の中に、
力を失った体が崩れ埋もれていた。