「君に、コレをあげるよ」
と、セルバンテスが差し出したもの。
丸い、輪っかのようなもの。二重になっているようだが、その一つ一つは外れる事は無くまるでメビウスのリングのような造り。
素直に其れを受け取りながら、顔をしかめる。
「儂は装飾品はつけんぞ」
「まぁたまた。」
「いや、本当だ」
「そうなんだ?まぁ、キミらしいね、いいからとっときなよ。今日はプレゼントデーなんだ」

プレゼントデー?

…またか。
セルバンテスは、たまにこうして、勝手に人に物をあげる日というのを作っては、儂やカワラザキ、果てはレッドやヒィッツにまで、
何かくれてやっていることがある。
貰う方の本人たちは、金目のものしかくれないから、そう嫌がっている風でもないが。
人に物を配る習性というのは、人を支配したがる人間がすることらしいが。
そんなコトをせずとも、簡単に人を思い通りにすることくらい出来ように。

「や。違うね。私はね、精神医学も勉強した。だから自分の行動にそういった裏があると思われても仕方ないと思っている、
けれどね。違うよ。大はずれだ。罠にかかったウサギちゃんだよ其れじゃァ。」

わ、罠にかかったウサギちゃん?????

「そ。もらった本人たちは恐らく私のことを支配的なわがままな人間だろうと踏んで、舐めてかかってくる。
人を舐めた人間ほど、弱いものはなぁい、わかるぅ?」
「成る程な、一理ある。然し儂がお前を舐めると思ったら大間違いだぞ」
「あっはっは、そうだねぇ。そうだといいねえ。」

セルバンテスを話をしていると、普通に世の中で論じられていることの裏の裏までを見せられることがある。
確かに、これだけ精神医学論が世の中に公式認定され始めたんだ。
其れを逆手に使う人間がいたとしてもおかしくは無い。
セルバンテスが其れだと知って、なんとなく納得した。こいつならそうかも知れんな。

「まぁ、とにかく貰ってやってよ。」
「…くれるのはかまわんが、装飾品以外はないのか、邪魔で仕方が無い」

指に引っ掛けて。
輪をくるくると回してみる。
その向こうに、セルバンテスのふくれっつら。

「ふくれる事も在るまいに?」
「あるわい。キミには私が一番好きなものを渡しているんだ、それを邪魔っていわれりゃ膨れてもしょうがないだろぉ」

気に入っているもの、か。
指に引っ掛けた其れが回るのを見て、コレが、こいつの気に入りか、としばし品定め。

「気に入っているものなら、自分で持っていればよかろう?」
「まぁね、そうなんだけどね、私もあまりしないからねぇ、装飾品は。」

嘘つけ。

「じゃあ、其れはなんなんだ」
「其れ?」

何時も、お前がかぶっている布のうえをこう、クルクルと巻いてあるヤツ。

「く、クルクルと巻いてあるヤツ…って、イ、イカルのことかな???」

セルバンテスの苦笑い。
身体を動かすたびに、微かに明かりを受けて、ちらりちらりと光っている、其れ。
イカル、というのか。

「そう」
「其れは装飾品だろう」
「…ああ、そうだね、そうと言えなくも無いか」
「そもそも、国の服装なのかも知れんが、ニューヨークくんだりでその服装は、季節によっては暑かろうが。」
「暑いよ」
「…なら」
「だってかっこいいじゃン」

  ずがーん!

い、石が頭に落ちてきたかと思った。
あまりのことに、手にしていた輪を落としそうになって、掴みなおしたのだが其れは勝手に落下して。
「おっと」
かがみかけた儂よりも先に、ひょい、と其れをつまんで持ち上げる。

ふむ。

「何?」
「やはり、其れはお前のほうが似合うな」

手にした金色の輪。
装飾品をつけている印象があったのは、恐らく似合うだろうと頭の中で踏んでいたからで。

「つけてみろ」
「え?」
「つけて、みろ、多分お前には馴染む」

うーん、と首を傾げて。

儂を見て。
輪っかを見て。
うーん。と、もう一度。

しばらく自分の頭を撫でていたかと思ったら、突然こつこつと歩き始めて、儂のベッドにドカン。
「しょうがないな、君にいわれちゃ断れないね」
それは、わざわざお気遣いをかけてすまんな。


ベッドに座ったセルバンテスは、ひょい、と足を持ち上げて。

「?」

おもむろに、靴を脱いで。

「???」

靴下を脱いで。

「お、おい?」
「え?だって、付けてるトコ見せろっていうから」
「?え?ということは、其れは、足の?」
「そうだよ、あああ、言わなかったっけ、ゴメンゴメン、まぁいいじゃない、何に関わることでもなし」

にべもないな。
確かにそうだが。
そのまま、素足になった足先から、その輪を通して、足首へ。
…よく、入るものだな。
「コツがあってね」
「ほう」

に、と笑って。
ベットが軽く軋んで、セルバンテスが足を上げて見せる。
シャラン、と、金属の触れ合う音がした。
「つけたよ、こんな感じね、満足したかい?」
「…」
お前、
妙な状態だぞ。
ベッドに座ってて素足で足を上げてるってのは、こう、どうも…
躊躇する儂に。
勝手に儂の動揺に気づいたらしく。
こいこい、と、手招きをする。
…それでは、お前、まるでどこかのストリッパーだろうが。

「おいでよ」
「…」
「せっかく人がその気になってるのに、ほっとく気?」
「…わ、儂には関係ないだろうが」
こいこい。
ため息をついたのは、儂のスタンス故。
近くにたどり着いてから、初めて、自分がセルバンテスに自ら近づいたことに気づく。

「あんまり時間がないから、下だけね」
「い、急いですることもなかろうに」
「いいのいいの。いいんでしょ?」

仕方、ないか。
実際、煽られているようだしな、儂は。

するり、とこともなげに下だけ服を脱ぎ捨てて。
おいで、と、手招きをする。

「ちょっと待ってて…」

自分の指を口元へ運び、舌先が其れを舐めて。
口に一度含んで、儂をチラ、と見て、すぐに目を閉じて。
この男は。
どうして、どこで、こんな動作、仕草を覚えてきたのだか。

濡れた指は、自分自身の後ろへと移動して。
「…ン」
其処に指をゆっくりと這わせながら、空いた片手を儂に向かって伸ばすから。
その手を取って、身体を近づけた。
下腹部で、柔らかな音。
「っはぁ、」
見ている前で、ゆっくりとのけぞらせる首筋。
本当に、本当にこの男はドコでどうしてどうやってこんな動作を、だなぁ
「…もぉ、いいよ、」
背中に回された手が、ぐい、と体を引き寄せる。
「ゆっくり、頼むよ、慣らし足りないから」
注文が多いぞ。
内腿に手をかけて。
引っ張りあげると、間抜けな声を出してひっくり返った。
無視して、足を肩まで担ぎ上げる。
…シャァン
金属音。
「ちょ、ちょっと持ち上げすぎ!」
「慣らしていないのなら、やりやすいほうがお前も楽だろう?」
「そ、そりゃそうだけど、って、そういう問題でもな…っぅ!」
ゆっくりだろう?
どれくらいだ?
焦れる位か。
…知らんうちに、儂もずいぶんと慣れたもんだな…。
我に返らないように、セルバンテス自身にもっとのめり込む方法。
其れを、覚えつつある。
冷静なままで、こんなことが出来るか。

「ん、ちょ、っと、ゆっくり、過ぎ」
「そうか?そうでもない」
「ん、ああ…」

やけに鮮明に感じる感触に、セルバンテスの腹が蛇のように波打ち、
その片鱗は儂の身体へと押し返された。
思わず、声を漏らす。
「…くっ」
「い、いぃよぉ、アル、ベルトっ」
しがみつこうとするから、胸を押してベッドに押し付けて。
「う、あ」
肩に乗せた足をつかんで、グイ、と身体を丸め込ませた。
「あ、ああっ!?」
「っは、…やけに、乱れるな?」
もっと、足を押し付けて。
膝が肩につくくらいに。
そのまま、身体の奥へと叩き込む。
「苦し、よぉ、あ、っ、ぅ」
「其れがイイんだろゥ?」
問うと、こういう時だけは素直に首を縦に振って。

仕方のない、やつだ。

儂も、な。

シャラン、と、足首の金属音。

そう、やはりコレはお前によく似合う…








「んじゃ、私はこれからちょっと会議があるからね、旅立つよ」

身支度を簡単に整えて、香りのオイルを首元に軽く塗りこむと、身も軽く立ち上がって。
「コレは君に上げるから。貰ってくれるね?」
「…中古品か」
「そう、私が使ったから、中古品。喜びたまえ、レアモノだよーぉ?」
莫迦を、言うな。
手元に残された、金属の輪。
悪い、物でも、ないか。

邪魔だが、とっては置いてやる。

「ア、ちなみに其れ女がつけるものだから。君に其れを贈るって意味、頭の隅で理解してネン。そんじゃ!」


バタン。
扉が閉じた。

…お
女ぁ?!!?

や、やっぱりコレは邪魔だ!取って置いたって仕方がないっ!
わたわたと、手の中でその輪っかを転がして。
シャラン

シャァ、ン



人を、女扱いか。


シャン


お前のほうが似合うわ、大莫迦者めが。


シャ、ァ


仕方ない。
お前のその莫迦さ加減に免じて。
コレは、取って置いてやろう。


多分、最後に残した言葉も、セルバンテスの精神工作、
いわば儂を、曰く「罠にかかったウサギちゃん」にしようとしたのだろう?
みすみす、嵌ってやる事にするか。
そして、捕らえに来たところを食らってやることにしよう。
罠の意味を知るために。



それも、なかなか、悪くはない。



悪くは、ないな…



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こめんと
…すみません、なんかすごくこの小説公開するの恥です…。
やけに、口惜しいんですが…