なんか食べたい。
お腹がすいて、でもコレといって、何が食べたいわけでもない。
でも、お腹がすいた。
イロイロ思い浮かべてみる。パスタ、パエリア、チャイニーズ、甘いお菓子に激辛のカレー。

うっぷ。

何にも食べたくないけど、何か食べたい。本当に厄介だな、今日の私の胃袋は。

とりあえず、自宅のキッチンへ行って見る。

「どうか、なさいましたか、セルバンテス様」
「ん?ううん、なんでもないよ」

…人がいると、冷蔵庫ってのは漁りにくいもんで。
買い物に行くのも面倒くさいし、部屋に戻っても目に付くのは水差しだけ。
水には感謝しなさいというけれど、コレじゃ満たされないっての。

「で?」

目の前に、ムスーーーーーーーーーーーっとした顔の男が一人。

「そんなつまらん理由で儂を呼びだしたのか」
「つまらん理由じゃないでしょ、危機だよ、完全なるワタシの胃袋の危機!」
「死にそうな声で”私の身に危険が!”などと言ってプツリと電話を切った挙句の果てがコレか」
「だって昨日もおとといも何も食べてないんだよ」
「昨日も?」
「うん」
「おとといも?」
「そう。」
怪訝そうな顔が私に近づいて。
顔、見て、何か分かるわけ?
…そんなにジロジロみないでくれないかな。さすがのワタシも、ちょっと照れるよ。

「何が貴様をそうさせた?」

…そ、そんな、B級映画の台詞みたいなこと言わないでよ。

「ストレスか?お前にストレスがたまることがあるのか?あるのだとしたら相当なことだぞ」

真面目な顔して。
ワタシはキミの研究材料じゃないぞぅ!!
…ぐぅ。

「…」
「…」

ぐー。

「本当のようだな」
「疑ってたのかい」

さらにもう一度鳴ったお腹に手を当てて。軽くなでさすってみる。
そんなコトをしたところで、満たされるわけではないけれど。

「何も食えんのか?」

本当だということを理解したらしいアルベルトは、やっと私を信用したらしく、勝手にテーブルの椅子に腰掛けて。
腰掛けた後、すぐに立ち上がって、椅子を引っ張ってきて。
ベッドサイドに据わってる私の前に、其れを置いて、腰を下ろす。

「まるで病人扱いだね?」
「3日も食わず、ではなく食えず、ならば、病人として成り立つだろう」
「そういうもん?」
「普通じゃなければ病気。世の中ではそうなっているのだろうな。お前の中ではどうなのかは知らんが」

私の意見が聞きたそうな顔をするから、ちょっと考えて。
「ワタシが思うに…」

ぐぅ

…。


「っはっはっは、コレは病的だな」
わ、笑い事じゃないよ。
「本当に何も食べられないのか?」
「食べられないって言うか、食べたくないから食べないんだけど」
何を言ってるんだお前は?
あからさまに、そんな声が聞こえてきそうな顔された。
葉巻を取り出そうとした手が、其れをもう一度内ポケットにしまいなおして。
「吸わないの?」
「ん、ああ。食べたくないのに食べたいのか」
人の質問を質問で返して。
うん、とワタシはとりあえず、頷いておいた。







「これはどうだ?」
ガサガサと、紙袋を持ったアルベルトが部屋に戻ってくるなり、テーブルの上に、のるわのるわ、食べ物の山。
う。
そ、そんなに見せられたら、余計に食べたくなくなる…
「プリンなどなら、簡単に胃に入るだろう」
…甘いのは食べたくないんだけど
っていうか、君、どこかの店でプリンを手にして買ってきたわけ?
それだけで、十分爆笑モンなんだけど。
いま、力出ないから顔がヘニャっと笑うだけだけどね。
「ううむ、ならば、コレはどうだ?」

…出されたのは、カップラーメン。

食べられるわけ無いでしょ。

…一生懸命、考えて買ってきてくれたんだね。
その気持ち、嬉しいけど。

でも…

「う」
「…駄目か」

ずいぶん、今日はやさしいじゃない?
嬉しいよ、すごく。
なんだか、気持ち、落ち着く。

「これは?」
「…あ」

手にしていたのは、ヨーグルト。
それなら、食べられるかもしれない。甘くないヤツみたいだし、お腹がつらいなら、お腹にいいもの、ってのはいいかもしれないね。
答えない私に、了承と受け取ったのか、其れを渡して寄越して。
じ、と、また私を見る。
食べろ、ってコトかな。
…んじゃ

ふたを開けて。

うーん。

「それも駄目か?」
「…わかんない、でも、もしかして食べたら気持ち悪くなったりしたら、」
「そう思うからそうなんだ」

「あ」

手元からヨーグルトが離れて。
其れはちょこんとアルベルトの手のひらの中に収まった。

スプーンですくって、

自分の口に

って、君が食べてどうすんの!

コン。
テーブルの上にヨーグルトが置かれた音。
喉元に、アルベルトの指が当たる。
促されて、上を向いた。
舌先ごと、口の中にヨーグルトが入ってくる。
「…。」
「どうだ、気持ち悪いか?」
「…むしろ気持ちがいいよ」

肩をすくめて、小さなタメイキ。
しょうがないでしょ、本当のことなんだから。
気持ちよくて、すっぱかったよ。
自分で立ち上がって、テーブルの上の容器を取って。
立ったまま、其れを口に運んでみる。
アルベルトが、みてるね。
気になるんだろうね。自分が選んだものが、私の口に合うかどうか。
私が、ちゃんと食べるかどうか。

口に運んだ其れは、中ですぅっと溶けて。

「…美味しいよ」

と、私が言うと、やけに安心した顔をしたから、私も安心した。

もう一口、口に含んで。
向いた先のアルベルトの口に、真似ッコで。
口元、熱いね。
ワタシはどうして何も食べる気がしなかったんだろう。
楽しくなかったから。
そういえば、面白く無かったよ、ここのところ、食事が。
口付けしたまま、体を押して、ベッド脇まで後ずらせてから、口を離した。
「…食べた途端に其れか?」
「いけませんかー?」
いいじゃない、せっかく面白くなってきたんだしさ。
「…いいだろう」

私の腰を取って。
くるりと回されて、そのままベッドへ倒された。
…この感覚さえも、気持ちがいいね。

口付けてみると、ヨーグルトな感じ。
そのまま、キミの匂いを探して、もっと、深く。

「大丈夫なのか、体力も落ちているだろう」
「いいから、私を抱きなさい。余計な口はシャットアウト」

頭を掴んで、無理やり口付け。

上に乗ってる体、ちょっと重いけどね。
身体と身体の間に手を差し込んで、キミの其処、刺激してあげるから、精々頑張りなよ。

「…セルバンテス、ちょッ…」
「照れたフリしても駄目。私に溺れたいんだろう?」
「…」
「ホラ、証拠がここにある」

指でなぞりあげて、包むようにして軽くねじってあげる。

ほら。

気持ちいいでしょ。

「息、荒いよ?」
「…っ、言うな」
「このまま、一度イっちゃいなよ。飲んであげるから」
「な、何を言うか、っ、」

だって、多分、ここ、もうすぐ破裂する。
浮き上がってる身体の真下を、ずり落ちるように通って。
抱え込んで、口の中へと誘導して。
軽く、吸い上げると、横に見える膝が小さく震えてた。

出しちゃいなさい。私の口の中に、君の欲望。イイよ、受け止めてあげようじゃない。
コレは、ちょっとした御礼だと思ってもらえればいいからね。
この先のは、キミへ貸して置くから、後で私に返しなさい。
ね。
だから。

「んっ」

コレは、飲んであげるよ…














「しかしだな、何故食欲も無いというのに、…全くもって理解できん」
コトを終えた後、温まいタオルで身体を拭きながら、アルベルトがぶつくさとぼやいてる。
私はそんな彼の隣で、ヨーグルトの残りをムグムグ。
結構、美味しいもんだね。こういうすっきりしたものも。
「普段から、濃いものばかり食べているからだ」
「濃いもの?」
「…其処で反応するな!!!」

投げられたタオルがベチって当たって。

「…あのさあ」
「…なんだ」
「キミの匂いがするよ」

慌てて私の頭からそのタオルをはずして。
ばっかだなぁ、当たり前じゃない、自分の身体拭いてたんだから。
しかも、行為の後だからね、其れはもう並じゃないよ並みじゃァ。
「余計な口を叩くなっ」
「シャラァップ」
開いた口に、ヨーグルトのスプーンを差し込んで。
もぐもぐしてるから、指差して笑った。

なんか、もう、何でも食べられそうな感じ。

足りなかったんだろうな、私には、コレが、キミといる、この雰囲気が。
よっぽどハマっちゃってるみたいだね。



ありがとう。ヨーグルト美味しかったよ。
君の身体もね。



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コメント
甘い!あめぇ!砂糖吐くだろ。
でも他の小説より筆が簡単に進みました。
やっぱ、自分の中の感覚を小説にするのが一番よいみたいですね。
でもなぁ、自分の感覚とキャラが合うかって言ったらそうでもないものでして…
タバコ咥えてアグラかいて、PCの前でこんな小説打ってます。
よく考えたら私ってかなり変なヤツ。