無礼ラヴァJUNKIE

バサ、と広げられた新聞。邪魔だねェ。
邪魔で、アルベルトの顔が見えないよ。
もうちょっと、目から離しなさい。年寄りじゃないんだからさァ。

ひょい、と、その新聞に指を引っ掛けて。

「…なにをする」
「目が悪くなるよー?」
「…うむ」

納得したみたいだね。ヨカッタヨカッタ。
…今度は、ちょっと離しすぎて老眼のヒトみたいになってるけど…面白いからいいや。
面白いね、アルベルトは。
見てるだけでも飽きないよ。



動かないね。
そりゃそうだよね。新聞読んでるんだからね。
葉巻の灰、落ちそうなんだけどなぁ。気付いてるのかなぁ。
葉巻って、灰が固いからなかなか落ちないってのは分かるけどさ。
あんまり、煙草の先に灰がくっついてるってのは、見た目にいいもんじゃないよ。
ほっとこうかなあ。

テーブルの上から、石の灰皿。
重いね。やだなぁ、私がこれ持つの?
重いよこれ。ほら、さっさとその灰落しなさい。
「うむ」

…あ、落とした。
面白い。
おとなしく言うこと聞いてるみたいで面白いねェ。

じゃあ、あ、そうだ、っと、

ポケット探って。

ガムー。

ほらガム。

オイコラ。アルベルトコラ。見てないし。

こないだレッドに貰ったヤツが、ポケットに入れっぱなしだったんだよね。
食べる気しないから、そのまんまになってたけど、
君に上げよう。うん。ほら、
…見てないし。
って言うか気付いてないし。



任務開始を待つ間、時間が来るまで、ホテル内での時間潰し。
こういう時は、必ずアルベルトは、その日の新聞の社会面を見ているね。
文章読むの苦手なくせに、見てるよね。当該地域の当日の情報は確かに重要。
私はすでに頭に入ってるから必要なし。アルベルトも聞いてたはずだと思うんだけど、
でも自分の目で確かめなきゃ気がすまないンだよねこのヒト。
仕事になると真面目だよねェ。うん。

遮光カーテンを引いて、昼間だってのに明かりをつけた部屋。
ココは、4階。
ターゲットは夕方6時ちょっと前にこのホテルに着く。
私たちがこの部屋にいるのを知っているのは、監視をしている団員の中のごく一部だけ。
当たり前。ホテルの従業員は全員団員に摩り替わってる。
…大げさだから、情報が漏れる可能性がある、って、進言したけど、
聞き入れられなかった。私は、「仕事の内容が自分の思うとおり」じゃないのか、ちょっと気に入らないらしい。
口ではなんとも言わないけどね。面倒だし?
自分の思うとおりにするのは、自分の会社とアルベルトだけで十分。てか、それだけでイッパイイッパイ。
その証拠に、今日は、一番のお気に入りのスーツで来たよ。

遊び半分。アルベルトにばれたら怒られるだろうけれどもねぇ…
政府の要人から情報を引っ張り出すのが私の役目。つまらない仕事だね。
その後、アルベルトがこのホテルを全部破壊する。
ロボットを持ち出すと、目に付きやすい。
こういうとき、人間大のアルベルトの使用用途が広いのだろうね。

…いいよね。そういう能力ってのも。私もそういう感じで暴れてみたいよ。見た目にかっこいいじゃない。


ガム。


ほらー。ガムー。


「…何の臭いだ?」


ガム。


しょうがないなぁ。


「ん?」


臭いが気になったのか、アルベルトが顔を上げた。
そこへ、ありがたくも私が紙を剥いてあげた板ガム登場。

ほい、っと口に押し込んだ。

「…」

メッチャクッチャ嫌そうな顔!
あはは、面白いなあ君は。

「大丈夫、私も食べるから、ほら、ぱくー」
「…このガムは何のためだ?」
「?」
「なんのためだ?」

ガムに意味なんてあるわけないでしょ。
昔のスパイ映画じゃあるまいし、絶縁体に使うなんて初歩的なこと、
そんなツマンナイこと私はしないよ。
あ、でも一度やってみたいね。
でもあれだよね、ガムは使えるかもしれないけど、DNAの所在がばれるよね。
映画なんかでよくガムを使うけど、あんなの、科学の発展がたいしたことの無い時代にしか通用しないものだよ。

「だろうな」
「だから、そのガムに意味はないのであるのである」
「そうか」
「うん」


あ、もぐもぐしてる。
…うふふ、面白ーいねーぇ。
じ、っと見てると、おもむろに新聞の影から分厚い手の平。
私の口をぱちんと叩く。
「ったいなーなにすんの」
「音をさせて噛むでない」
「へいへい」


覗き込むために、中腰になっていた身体をよいしょと持ち上げて。
椅子に座ったまま、大きなあくびと大きな伸び。

「緊張感が無いぞ」
「いつもないよ、わはひはー」
「…あくびをしながら話すな」
「あーい」

いちいち煩いよね、小姑みたい。別に気も悪くならないけどね。

アルベルトが、軽く鼻で笑った。

なんか面白かったかね。それは私の行動かね?それとも、新聞?
はぁ。
この部屋。何もないね。
この部屋はこれから、消滅する運命にある。
BF団の行動は、起こされて終了してから名を掲げると言ったものが多い。
名を上げて表明し、それに順ずるように動き…テロを起こす、そう言った物ではないね。
こういう点については、私は嫌いじゃない。むしろ、爽快感さえ覚えるね。
名前隠して悪戯しても面白くない。
先に名乗りをあげて悪戯も面白くない。
悪戯して、

『私の仕業でしたー、ザマーミロー!』

う、うん!こういうの大好きだね〜〜〜。

…まだガム食べてるね。
私の口の中のガム、そろそろ味が無いよ。





「飽きた」

「なに?」

「ガム飽きた」

「…」

鼻の奥に小さく空気が当たるような笑い。

笑われちゃったよ。

「だって君、これもう味がないでしょ」
「そうだな。そろそろ儂もいらん」
「出せば?」

アルベルトの口の下に手を出した。

「手?」
「うん。手」
「…包み紙は無いのか」

おいおい包み紙?!真面目だなオイ。
しょうがないな。
灰皿に放り投げてあった包み紙を引っ張り出して、
かさかさと開いて、ッと
「ほら」
と、口元に

ぺち

「…」

「使わないの?」

「…」

唇に当てられて包み紙をさもさも嫌そうに受け取って、
あ、今ちょっと舌先見えた。

それを丸めて、灰皿に放り投げてる。
こん。ぽて。

あのぅ。灰皿に届いてないよ。
落ちてるよ。
ねぇ、ちょっとノーコンおじさん。
ねぇ?

…暇なんだけど。

読んでる新聞の端っこつかんで、折り曲げてみた。
新聞は、紙が薄いからすぐ戻っちゃうね。よし、ならば2枚まとめて折り曲げ。
折り曲げて、曲がった部分をヨジヨジと、指で挟んで跡をつけて。
ああ!
「指が真っ黒だ!」
「いいかげんにせい」
「…わかった。黙ってる」

ちょいちょい、と新聞の端っこを直してから、
もう一度椅子に座りなおして、お尻の位置直して、伸び。
あ。クフィーヤの裾、椅子の足に噛んでるじゃないか。
あーもう。



椅子を持ち上げて、裾を引っ張り出してぽんぽんと叩いて。
チラッと見ると、一瞬アルベルトが私の動きを確認した証拠の目線の戻しが見えた。


裾をつかんだまま、アルベルトを伺う。


動かない。





なんかね、びしびしと伝わってくるんだけど。


えーと、腕時計を見る分には、まだ5時。


…この、身体に伝わってくるプレッシャーは何?
ねぇ?
アルベルト。
なに?

「…構ってもらえなくて寂しい?」
「!ば、バカを言うな!」

アラ

「図星?」
「知らん!」
「…ふぅん」
「…」
「へえ」
「…」
「おじちゃんも寂しいんだけど」

指も黒いしね。寂しいよね。暇だしね。
って言うかさ、一緒にいるんだから話とかしようよ。

「任務前に不謹慎な」
「不謹慎かい?」

不謹慎か。なら、不謹慎ついでにねぇ。

椅子を引いたら、ガガガガガ、って、床に響いた。
眉をしかめて私を見上げるから、ひょい、と目線を外して。
なんでもないよ。なーんでもないよー。

っと、机の下にもぐって。

「セ、セルバンテス?何を…」
「防災訓練」
「ボウサイ…って、ああ?おい?」

頭をぶっつけないようにもぐって、懐かしいね、よく昔は…

いや

アルベルトの足発見。
足を掴むと、王手を打たれた挑戦者のような声が上から聞こえた。
そのまま、這いずり上がって。
ベルトに手をかける。
「セルバンテス!」
「いいよ新聞読んでて」
「任務の前だぞ!」
「君はどうかしらないけど、私は軽く身体を温めて突発的に動けるように用意をしておくタイプなの。」
「外すな!」
「なに言ってんの?」
「なに?」
「外さなきゃ出来ないじゃない!」

任務前にスーツ汚したくないでしょ。
私もそう。だから、上手にやってあげるから。

いいだろう?

ニコニコと笑う私と。
凛とした目で表情を変えない君。

私たちはいつもこうだね。

君が笑うと私は死にそうなくらい嬉しい。
そんな一瞬が欲しくて、どれだけおどけたか。どれほど刺激物になろうとしたか。
君は勝手に自分の面白いものを見つけて私の知らないところで笑っているんだろう?
私はどれだけ君を笑わせられただろうか。

前を開けて、口を近づけると、微かに雄の匂い。
布越しに唇を押し付けた。
この感触が、結構気に入ってる。
膝に手をかけて。
邪魔な布を、歯で咥えて引っ張った。

「…するのか?」
「うん」
「嫌だと言ったら?」
「…言わない」
「…」
「言わないでしょ、君はさ。」

布をゆっくりと下げて。露出したそこをゆっくりと舐め挙げた。
舐め挙げられる形になってた。

ゾクゾクしてきたよ。
だらだらしてるとね。ゆっくりしか動けなくなるような気がするんだ。
時間がゆっくり進んでいるときは、多分私もゆっくりと動いてる。
時間が激しく動くときは。私もまた。
これから、恐らくその激しい時間が始まる。
ウオーミングアップ無しに、くすぶっている火を突然炎にすることが出来ないんだ。
君のように常に炎を抱えていることが出来ないからね。

そんなに器用じゃないんだよ。意外だったかい?

「儂から火種をとろうと言うのか」
「そ。横取り。君がここにいることに、さてはてラッキーな自分が見え隠れ」
「高いぞ」
「もとより」
「くれてやる」
「あなたのご希望に見合うものをお届け。」

丸めた新聞で頭をポコンと叩かれた。
口元の君が軽くはしゃいでる。
見上げたら、アルベルトが肩を震わせて笑ってた。

お許しを頂いたので、それを口を開けて飲み込む。
焦れる位のスピードで。
だって、君が私を見ているからね。
君の炎は、私が遅ければ遅いほど燃え上がる。違うかい?

口の中、熱いよ。
アルベルトの座る椅子が、ガリガリと音を立てて下がった。
私の頭上の机が、遠ざかる。
そうだね。これなら、私も動ける。
ゆっくりとした時間が、だんだんと早くなる。
私もまた。
君の呼吸もまた。
脈動もまた
流れも
鼓動も
刺激も
感覚も
脳内麻薬を奮発

ああ

ねぇ

それを



「っは、口に出していいよ」
「……しかし」

答えはどうでもいいから、兎に角このまま

そう、

来た。

君が私の中に来た。

まだ、もっと、そう、もっと




…貫け、脳天まで君の炎で…!!!!!























火種。
確かに、この身に。

新聞を広げなおしたアルベルトを顎で引っ張って、
バスルームで、クフィーヤを燃やした。
綺麗だねェ、あははははは。
ねぇみてよ、煙が上がってる

遠くに鳴り響く警告のベル
火災報知器はきちんと機能していたようだね!
「まったくだ!」
「っははははは!そろそろ御仁が来る頃だ。そうだ、来る前にこちらからお出迎えに行こうかアルベルト殿!」
「それはいい」
「お手を」
「面倒をしおって」
楽しそうだねェ、君。
さっきまでの顔はどこへ行ったんだい?
私は刺激物になれたようだね。
獣にならなきゃ強くなれない。
平和なら死ねない
退屈の中でくすぶっているヤツほど弱いものはいない。

さぁ。どうせなら、窓から出ようよ

そう。この夜の摩天楼全部破壊するつもりで。

どうせ後で孔明が言うさ!「BF様は全てお見通し」だとか何とかね!!!!

これを待っていたんだよ、多分世界も私たちも。

皆退屈したくない
つまらない日常から解放されたい
平凡が一番だなんていってるヤツは死ねばいい。


さぁ。舞台を開く時間だ。


「…お前はいつも笑っているな」


「…ボケ防止さ」


「なんのだ?」


「さーぁ?」


平和ボケしたこの世界に、鉄槌を。
人柱を罪とするこの世の中に、この火柱を立てて。


燃やそう。

















君のその手で。



この命の炎に憧れて止まない人間がそこらじゅうで羨んでいるのが見えるようだよ。


















そう。解き放たなきゃ、意味が無い。













死んでいた時間はそろそろ終わりにしよう。












開幕のベルが鳴る。緞帳を鈍く燃やして幕が開く。
その向こうには、二分で終わる羨望の客人が目を見開く…










ステージの始まりだ。









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コメント
この小説は、51000キリを踏んでいただいたおらくる様に
捧げます。エロで小説、とリクを頂きました。
なんだか生ぬるいエロになってしまいまして申し訳御座いません。
もうちょっと、描写を勉強しなくてはなりませんねvvv
こんなものですが、お受け取り下さいませ。

からくりっていうジャンルの、阿紫花と言うキャラクターが、
「退屈」を連発していたのですが、
もう、アルベルトとセルバンテスも、そんな感じの部分があるなぁと。
腐っている自分が嫌い。
ゆっくりとした時間は楽しめる程度ならいい、
しかし、余計なものは身を腐らせるだけ。
魚も、動かないで海底に沈んでいれば、命があろうと腐ります。
人間もしかり。

怖いとかそんなコト言ってる余裕がなくなるんですよね、
目の前に危険や、自分を駆り立てるものがあるときってのは。
車でスピンしたときとかもそれですね…怖いって言うより、
キタ!この瞬間が来たか!
って、そんな感じ(笑)
でも、立て直した後は即座に冷静にならないと、
またスピンする。
自分に負けたら、恐怖するだけのことしか出来なくなる。
恐怖は、自己批判か他人中傷といった汚い形で出てくる。
かまっちゃいられない。

だから、ギリギリの場所にいる人ってのは、魅力的に見えるんだろうな。
強く、恐ろしく、そして、その笑みはひどく美しい。
自分の見たことの無い顔で笑う。死を知っている人間ほど、
ものすごい笑顔をするものですね。
アルベルトもセルバンテスも。GRキャラは死を知ってるから…
だから、おそらく、半端じゃない笑顔をするんだろうな。
怖いって言う意味じゃなくて。命がもう笑っている感じの。