暇だ。
暇だ。
暇だ。

…今日というこんな暇な日に限ってセルバンテスは儂の元に遊びに来ない。
ううむ、違うぞ、待っているわけじゃない!
そもそもだな、いつもひょっこり人の都合も考えずに遊びにきて、
気が向けば帰って、気が向けば人のベッドまで占領して、
そして気が向いて途中で逃げ出したり
飯の最中に出かけようとか、まったく人の都合を考えずに、
アレだってそうだ、その気になれないときに無理やり能力を使ってまでその気に

むむむむむ

…なんだか。腹が立ってきたぞ。

一言、文句でも言ってやらねばならん。アイツももう大人なんだ、
そろそろそういった意味での他人との関係に対しての自分の態度の自覚をだな…

…セルバンテスに会いにいく言い訳みたいに聞こえるから、これくらいでやめておこう。

金属でありながら、妙な弾力を持つ廊下を歩いて。
セルバンテスの自室の前までたどり着き、ノックをするべく片手をあげた。

そのまま数秒止まって。


その手をおろして、そのままノブにかける。
たまには、儂が驚かしてやるってのも、まぁ、いいだろう。

がちゃ。


「!」


「…」



目前にセルバンテス



そして、この香りは。



石鹸???



「ぬぅ」


「あのねぇ、人の部屋に入る時くらいノックしたら…」

髪から落ちた滴が当たって冷たかったのか、「ん」、と肩をすくめて。
はっきりとした明かりの下でまともに見るのは初めての、セルバンテスの裸身。
予想以上に線が細い。筋肉のラインと同時に目に付く骨格のライン。
予想以上に、
…刺激が強い。
眼が、勝手にその鎖骨に釘付けになり
濡れた胸、
腰骨
バスルームから立ち上る湯気が、その向こうに見えて。
閉鎖的な空間に、押し込めてしまえば、一体どんな顔をするのか

「アルベルト?」

何者をも狂わせることのできる能力者の目が、自分の眼とぴたりとあって。
肩に触れると、体温以上の温かみが指に伝わる。



すまん

「ちょ、ちょ、ちょッ……アル…」

セルバンテスが慌てると言うのも物珍しく、それが逆に儂をあおるんだが、
それは本人としてはまったく気づくことの無い部分のようで。
ぐい、と肩を押すと、ちらりちらりと後ろを確認しながら、バスルームへと。
そう、閉鎖空間へと。

扉を閉じて。

鍵をかける。

「あ、あのねぇ、ちょっと、アルベルト、キミねぇ!」

無防備なセルバンテスと。
それを狙う獣の自分。

身体全体で逃げの方向を塞ぎ、冷たいタイルにその背中を押し付けた。
「つ、冷たい、ってば、」
「そうか、なら」
セルバンテスのすぐ脇に位置するコックを一気にひねる。
「!」
眼を閉じたセルバンテスと、服を着たままの自分に熱い雨が降り注ぐ。
濡れてしまったタオルはもう必要ないだろうから、その手から引き剥がしてしまおう。
雨に濡れた髪をかきあげた手、そのまま掴んで。
びしょぬれの唇に深く唇を押し当てた。
そのまま、濡れた裸身をなぞる。

「…ん、ッ」

舌を絡めさせて、唇から頬へ、喉元へ、身体を、唇でなぞりながら、膝をついて。
「や、っ」
「そのまま、立っていろセルバンテス」
「だ、だって、膝がっ」
「駄目だ、両手は壁。そのまま立っていろ、たまには云う事を聞いたらどうだ」
「何、勝手なこと、ッ…んぁ!」

かがみこんだ身体をさらに折り曲げて。
腹部にキスをしたまま、唇を滑らせてやると、シャワーの音に混じって「ガリ」、と音が聞こえた。
目だけでそっちを見ると、セルバンテスの爪がタイルの溝に食い込んでいて。
そっちを見たまま、唇を当てている部分を舌で舐めあげてみる。
ふる、と指が震えるのが見えて。タイルを掻く音が再度耳に響く。
セルバンテスに見えないように、顔を伏せたまま、笑った。
「どうしたんだ?静かだな?」
「…っ、」
立ち上がりざま、身体を密着させてその隙間に手を忍ばせて。
押し付けたまま、擦り上げる。
「ひぃ、あッ!!!」
押しのけようとしていた手が。
儂の肩を強く掴んで。
そのまま、その手は背中へと回されて。
中指の腹でなぞり上げると、耳元に熱いため息がかかって。
ため息と共に発せられた言葉

「…アルベルト…もっと、強く、」

「もっと、何をだ?」
「指…キミの指で、」
「イヤだといったら?」
「…駄目、…頂戴。」

耳朶に、尖った歯が突き刺さる感触。

飯をねだる猫が、甘えがてら、爪を立てるような。

ゾクリ、と、背中に何かが走って、全神経が逆立つ。
「知らんぞ、どうなっても」
「…へぇ、私がどうにかなるとでも?」
よく言う。
売り言葉に買い言葉のつもりなんだろうが、この間任務中にした時だって「泣き」寸前だった癖に。
本当に、負けということを認めん男だな。

添えた手に、軽く力を込めて。

「−−−ッ!!!」

セルバンテスの眼が強く閉じたのを見計らって、身体を少し離した。

其処と、表情に、交互に眼を配って、当然、”わざと”。

「…ア、アル、ッ、か、顔笑って、怖…あ、ああっ」
「誰が笑ってるって?」
「キミ…あ、っは」
「誰が?」
「…ん、も、もぉ駄目、駄目だ、私だけ、なんて、」
「いい、儂のことはかまわん」

いいじゃないか、先に刺激したのはお前のほうなのだからな??

儂が刺激したわけではない。

しかし、儂はもっとお前に刺激されたがっているようだから。

だから、

「セルバンテス…儂の見ている前で」
イって見せろ?

「…私に、恥を、かかせる、気」「そうだ」
驚愕に大きく開いた瞳に眼を合わせて、笑って見せる。
しかし、儂も甘いな。
友が苦しむのはあまりほおっておく気にはなれんようでな、キス位はしてやる。気がまぎれるだろう?少しは。


寸前で息が詰まっているだろうが、まぁイイだろう、恥よりはそっちを選ぶタイプの男だ。


膝をついた身体の腰に手を回し、反らして。
愛撫を続けながら口付けを深く…
引きつった息を唇で受けて押さえ込みながら。

「!!、…!−−−−−」

背中に回していたはずの手は、ぐしょぬれのスーツの布を引きちぎらんばかりに掴んでいた。



痙攣して、落ちる









・・

・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・

「うーむ。」
ベッドの脇に、腰を下ろして考える。
困った。
いくら、ちょっとばかり暴走してしまったとは言え。気絶するまで事を運んでしまうとは、
困った。
何が、困ったかって。
…後の反撃が…。
いやしかし、儂だってたまには、しかたがないではないか、たまたま、こう、そう、突っ走ってしまう癖があるからであるからして
「…」
横たわったセルバンテスは、無防備に転がっていて。
ごくり、と喉がなったが、さすがに、これ以上はまずいだろう。
…いや、もうやり掛けた事なのだから、どこまで行っても同じか?
眠り、というのは、ここまで人を無防備にさせるものなのだな。
そう思うと、自然に笑みがこぼれた。

口付けようとして、

不意に髪をつかまれ、目の前の無防備だったはずの顔が、大きく眼を開いてニヤリと笑う。

「セ、セ、セルバンテス…!!!!」

し、しまった、なんの準備もしていない、

「アルベルトォおおおおおーーーーー?ひーどいよねぇえ?アレは、さすがに酷いよねぇぇ?」
「や、あの」
「…ヒドスギだよ、ネェ?さぁて、そんじゃ今度は」

こ、今度?


「君が一人でイク番だよ」


裸身の足を儂の腰に絡ませて、ニィ、と眩惑の笑み。





そ、そ、それがいけないというんだ!


「は?」
「そもそもお前はだな、自分勝手に物事を運びすぎるから、だから、人を毎回イロイロ巻き添えにしたりだな!」
「…まきぞえ?」
「そうだ、気まぐれすぎる!」
「…私のそこが好きなんだ?」



…負けた。



手本を見せようとして、説教でもしてやろうとして、ここに来たはずなのに、
実際のトコロはセルバンテスに襲い掛かっただけのことで。
そもそも、「私のそこが好きなんだ?」という言葉に対して何もいえない自分がここにいるわけで。

はぁ。

確かに、手を焼く。そこが、好々(いい)。
飼い猫に手を焼くとは、よく言ったものだな、と一人ごちながら、誘いの腕に腕を絡めてしまうのは、
もう、完全に取り込まれている証拠。しかしそれが気持ちがいいのだから。


まったく、麻薬のような男だな。セルバンテス。


純粋な、ひどく純粋な、まじりっけのない、麻薬…



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こめんと。
この小説は、ネタをある人に頂いて、書いたものなんです。
えーと、風呂上りのセルバンテスを突如見てしまったアルベルトがバスルームまで押し戻して〜
てな感じでした。面白そうだったので、その場で小説にしていいとの承諾を頂きまして。
書いてみましたが…
ウチのセルバンテスってどうしてこう子供なんだろう…(TT)
他サイト様のセルを見てからウチのを見ると、情けなくなってきます。