カップ&ソーサー

真白な壁に真白なテーブル。木製の椅子が向かい合って二つ
真白なテーブルクロスの上に、真白なソーサーに乗った珈琲カップが二つ
真白な世界の中で、真白な手袋をはめた男が向かい合って二人

コチコチとただ真白な壁掛け時計が秒針の音を漂わせて

ふらり
ふたり
こちり
かちり

ふらり
ふたり
こちり
かちり

カチリ

ソーサーにカップを置く音だけが単調に響く。
カップを持ち上げる時は音も立てずに
しかし、置く時だけはソーサーとカップが音を立てて一体化する。
ソーサーの上にカップが置かれた状態で一組。それで一つ。
カップだけでも珈琲は飲める
しかしソーサーだけでは何にも意味を成さない。


「次にカップがソーサーにはまった瞬間に、私たちは思いついたことを言うことにしないかい。」
「何も思いつかなかったらどうする?」
「何も言わなければいい」
「成る程、暇つぶしには丁度いい趣向だ」
「では用意はいいかな?バーティー」
「かまわん。次の瞬間からはじめるとしよう」



珈琲のカップを傾けて。
口の中に広がるのは当然珈琲の匂い。
そして、苦味と酸味。
この口は、それを勝手に認識し、判別する。
これは珈琲だね。
そして、それは特に必要なものではないけど、珈琲が珈琲であることにおいてその味と香りは必要であって


カチン


「世の中余分な物だらけだね」
「まったくだ」


珈琲のカップを持ち上げる。
今日の珈琲はカップの底が見えないくらい、濃い目の珈琲だ。
こんな色をしているのに、飲み物だなんて甚だ可笑しい。
黒い液体、しかしこの香りは珈琲である。
口の中に軽く含んで、香りを楽しんだ。
味はどうという事はない。
儂はこの香りがすればなんだってかまわないのだ。



カチン



「世の中余分なものなど一つも無いな」
「まったくだね」




アルベルトを見た。
私の動きを逃さず見ようとしているのか、その目は私から離れない。
そして、なぜかその指はそのカップから離れない。
私もまたカップに手をかけたまま、アルベルトの動きを見ていた。
お互いがこれから何をするかだけはわかっている。
また、珈琲を飲むんだ。
そして、また何か言う。
いつか「儂はそう思わない」と言われるのではないかなとハラハラ、でもなぜかドキドキ。
違うといわれるのはイヤだけどなぜかそれを期待する私がいる。



珈琲カップを持ち上げると、アルベルトの目線が自分のカップに落ちた。
身構えているんだね。
何を私が言うのか、君もまたドキドキしている?
お互いが何を言い出すのかわからない。
しかし、いつ言い出すのかだけはわかっている。
そう。

珈琲カップをソーサーに置いた時だけ私たちは言葉を発する。



カップを持ち上げたセルバンテスは
そのままそれを飲もうともせずに、ソーサーに置きなおした。


「間違っている人間などどこにもいないと思わないかい」
「それは質問か」
「そうだよ」
「…飲んでもいいか」
「いいよ」


カップを持ち上げ、唇を潤すだけにとどめた。
ソーサーにまたカップがはまる。
そして、顔を上げると、セルバンテスは儂をじっと見ていた。

「…」
「…」

「間違っている人間だらけではないだろうか…と思うが」
「そうかい」
「ああ」


向かい合って座っている私たちのテーブルに、当たり前のように給仕が来て、
当たり前のようにカップに珈琲を注ぎ、そして、
アルベルトのカップを私のソーサーに
私のカップをアルベルトのソーサーに置きなおし

一礼すると、そのまま闇の中に溶けるように消えた。


珈琲のカップを持ち上げて。
この珈琲はカップの底が見えないくらい、濃い目の珈琲。真っ黒だね。
こんな色をしてんるのに、飲み物だなんて可笑しいねぇ。
黒い液体、だけどこの匂いは珈琲だね。
口の中に軽く含んで、匂いが口の中に広がる。
味はどうって事ない。
私はこの匂いがすればなんだってかまわないんだ。

カチン


「世の中、間違った人間ばかりだね」
「そうだな」


珈琲のカップを傾ける。
口の中に広がるのは当然珈琲の香りだ。
そして、苦味と酸味。
この口は、それを即座に認識し、判別する。
これは珈琲である。
そして、それは特に必要なものではないが、珈琲が珈琲であることにおいてその味と香りは必要であるものであり

カチン

「間違った人間なんてどこにもおらん」
「そうだね」



私は 儂は 珈琲を お前の 君の カップに注ぎ込み

混ぜ合わせてお互いにそれを口にする




「これくらいが丁度いい」
「これくらいで丁度いいねぇ」
「違いない」
「確かだね」
「珈琲カップは白がいい」
「珈琲カップは白がいいね」

音も立てずに現れた給仕が飲み終ってもいない珈琲カップを勝手に下げ
一礼すると、闇に溶けて消えた。
目の前には、カップをなくして意味をなくしたソーサーだけが平べったく残っているだけ。

「話す切欠がなくなってしまったねぇ」
「まったくだ。カップをソーサーに置かなければ、何かを言う切欠がない」
「困ったね」
「そうだな」
「じゃあ、ルールを変えるかい?」
「どんなルールに変えようというのだ」
「どんなルールに変えようか」
「お前が言い出したのではないか」
「だけれど私にも何も浮かばないんだよ」
「そうか」
「そうなんだ」

じっと椅子に座ったままテーブルを挟んで向かい合って
じっと
じっと
ふいに、頭が痒くなったから、クフィーヤ越しに頭をぽりぽりと掻く。

「痒いのか」
「うん」
「掻いてやろう」
「イイよ別にそんなコト君がしなくても」
「儂に理由をくれ」
「理由?なんで?」
「理由がなければお前の隣にいけない」
「そんなコトはないよ。」
「そうだろうか」
「そうだと思うけど」
「儂は理由がなければお前の隣にいけない」
「私はいつでも君の隣にいけるよ」
「なぜだ?」
「しらない」
「儂は理由がなければお前の隣にいけない」

でも、いま、頭もう掻いちゃったし、どこも痒くないんだよ。
困ったね。
困ったな。

仕方が無いから、私は立ち上がり
君のソーサーの上に屈み込み
そのソーサーをぺろりと舐めた。

すると、ソーサーの上にはいつの間にかカップが乗っていて、
酸味と苦味のある珈琲がなみなみと満たされていて
君はそれを手にすると、ゆっくりとそれを啜った。

ズキン、と、身体に走る電流。

珈琲カップの縁を舐める赤い舌先。

「…気持ちいいか?」
「…うん」

もう一度、君はそれを口に含む。

「…あ」
「もっとか?」
「…うん」

まだ熱い珈琲を君はためらいもせず飲み干し

私はたまらなくなって
テーブルの上に乗り
君のソーサーを犬のように舐める。

満足そうな君の笑みに、私はそれを舐め続け

君はまだかすかに残っている珈琲の水滴をちびちびと味わっていて


「アルベルト…」
「なんだセルバンテス?」
「もう、いいじゃない」
「いいか?」
「頼むよぅ」
「仕方ないな」


私のカップはもうなく
ソーサーだけが残っていて
君は飲み終わったそのカップを私のソーサーの上にカチリと置いた。




「くれる?」
「いいだろう」
「本当にいいのかい」
「愚問だ」
「…そりゃ、失敬」




珈琲がなくなり飢え渇いた君と
カップを求める私は

ただそれを満たすだけのために欲しがる

欲しがる

そして手にいれて


最上級の快楽をこの手にいれて。








次の給仕が現れるまで、君は私の中に入り込み
そして、求め合った結果である射精を何度も繰り返し
それをするためだけに同じ動きを何度も繰返す
君は私を突き上げて
私は君を締め上げて
何度も何度も何度も
気付けば給仕が来ても

珈琲を頭からかけられて熱さに火傷を負いながらも
なんども







カップが落ち粉々に割れ
ソーサーが振動に崩れ落ち







気付けば君と二人きり



コチコチとただ真白な壁掛け時計が秒針の音を漂わせて

ふらり
ふたり
こちり
かちり

ふらり
ふたり
こちり
かちり

カチリ



ぴたり


揺らぎが止まる


絵空事の常連達


珈琲は白に溶け混じりあい 白に消え 白に消え。


床の上で粉々になって混ざり合って
もうそれはどっちがどっちなのか
判別さえもつかない

 つかない

どっちも白く
どっちがソーサーでどっちがカップなのかなんてもうすでに

 すでに




「判別」なんてつきはしないんだ。









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コメント

カップはカップだけで役目を果たせても、
ソーサーはソーサーだけじゃ意味が無い。

カップに注がれる珈琲は何時も火傷するほど熱い。

…なんだか、不完全燃焼した感があります。
また、ちゃんとした話が書けるときに完全なものを作り上げたいですね…
中途半端です、表現したいことが表現し切れてない。

また違った角度で同じコンセプトで小説を書上げたいと思います。