どうしよ。
どうしよう。
ドキドキドキドキ。
鼓動、収まらない。

「どうした?セルバンテス」
「…い、いや…」

レンガ通りの道を歩いて、黒い街灯にまだ明かりも灯らない時間。
夕飯時のせいか、人通りは思ったよりも多く、一つの流れになっているみたいに、あちらへ、こちらへ。
目の先に、信号が見えた。

「…いくぞ」

アルベルトが先に立って進む。
どこへ、行くの?
聞いても、ちょっと笑うだけで。何にも言わない。なぁんにも。

息、上がる。


赤信号で立ち止まった彼に、やっとのことで追いついて。
「遅いぞ」
「…アル…もう、止め様よこんな事…。」
「こんな事?どれの事だ?…」

アルベルトの、手が。
黒いジャケットの内側に、ゆっくりと差し込まれていく。

「…ッ、やだ、嘘、待って!」
「コレの事か?」

微かに、耳に伝わる小さな音。
カチリ。

「っーーーーーーー!!!」

一瞬で身体が硬直した。
だって、あの内側にあるもの、あれは私の身体に入ってるアレ…アレで私を攻め立てる為の!
「つらいか?」
「…っ」
気づかれる、誰かに…声、出せない。
アルベルトの手が、私の肩を優しく抱く。
中の奥のほうで、振動し続ける感触は、連続して体中に響いちゃってて…
膝が、がくがく、する…
「…も、やめ…」
「信号が青だ。」
「……いやぁ」

ぐ、と抱いた肩を押されて。
無理に一歩、踏み出す。

「っん!」
「気づかれるぞ。…この男は後ろの穴にあんなものを入れて歩いてます、ってな」
「それ以上、言うと、殺すよ…っ」
子供程度の返し言葉しか、出ない。
もう一度無理やり押されて。
もう、一歩。

「っ、ふ、」

うつむいた私の目線に、人の靴の影が無尽に映る。
ざわめく人いきれ。
私を気遣ってなのか、一瞬足を立ち止まらせかける人間もいた。

中が、熱い

「っ、は、っお、お願い、やめ…」
「仕方ない、コレでは進めんな」

一瞬、止めてくれるのかな、って。
安心しかけた私が馬鹿だったよ。
アルベルトはおもむろに身体を折り曲げて、私の膝と背中に腕を回して…!

持ち上げられる瞬間に、やけに振動がきつく感じて。
足の間、やけに、気持ち悪い…
わかってる。
もう、私のモノは、ずぶ濡れなんだ…



情けない状態のまま、私はお姫様抱っこで。
余計に、人の視線を集めるような状況下で。
…見ないで。

私を、見ないで。

…空が、見えた。
アルベルトの顎が見える。
ふ、と私を見下ろして笑って。
優しい声で。
「メス犬」

…っ

ゾク、

こんなことで身体が疼く自分が、やけに情けなかった。
強く目を閉じる。

「セルバンテス」
「…っ」
「見られているぞ」

其の身体に抱きついて。
胸元にアタマを押し当てて、強く横に振った。
だめ、
ダメ。
言わないで。
こんな事しないで。
こんな事しなくたって、私はいつでもキミの物なのに。


アルベルトの足が止まって、身体に来る徒歩の動きが消えた。
膝がこわばって震えてる。
…イキそう。
…そう感じた次の瞬間、身体の奥の振動がぴたりと止まった。
ほっとしたのと裏腹、物足りなさを感じて、慌てて頭を振る。

体が傾いて、下ろされるんだ、って、理解した
から、身体から腕を解いた。

「ここなら、大して気づかれまい」
「…、…はぁ、っは…」

膝の力が抜けて、身体が勝手にへたり込む。
見回すと、見たこともない、林の中。
ここ、…どこ?

遠くで、子供のはしゃぐ声。

「フォンテカルドパーク」

遠くに、一瞬だけ通り過ぎる若者連れが見えた。

「物足りないか?」
「…もう、やめてよ、こんなこと!」
「何故だ?」
何故、って


「壊されたかったのだろう」


「違う…」


「期待していたのだろう」


「違う!」


私の頬に、
軽く、手が添えられて。


「少し、灸をすえてやろう。お前は今まで、自由すぎたんだ」


自由すぎた?
私が?
…何でも、思い通りになるこの能力。
誰でも、言いなりにさせてきた。
誰も、逆らえやしない。
それへの不安。
そいつ等は逆らいはしない、けれど、本当に私のためにしていることでもない。
そういったことを何度も見てきた。させてきた。

誰も、信用できない。

「そうだ。お前は誰も信用していない。」
「…き、君は違う」
「そうか?儂を信用していると言うのか?」
「……わ、から、ない、でも…」
頬に両手を添えたまま。
ゆっくりと、口付けられて。
唇の表面から、ビリビリ、って、身体に伝わる…
「っは、ぁ」
赤い…瞳。

「いいから。儂に委ねろ…お前は無理をしすぎだ」


内ポケットに、手が入るのを、ボーっと、見つめた。
自分の息の荒いのが、耳に入ってくるよ。
アルベルトの動きに、唾を飲み込む。


目の前に差し出された、小さなアルミの四角い箱。

「自分でイけ…コレを使うか、他の手段を使うか。自分で選べ?セルバンテス」

「じ、ぶんで…?」

「そうだ。」

自分で。
…麻痺、しても、いいの?
わからなく、なっても、いいの?
そっと、手を伸ばして。
箱を避けて、アルベルトのズボンの腰に手をかけた。
「…そっちに来たか」
顔を近づけて。唇で布の上から、其処を確認する。
微かに柔らかく、微かに鬱血の変化を見せてる。
「セルバンテス」
声に、上を見上げると。
前髪を強く掴まれた。
…痛い…よ…

「言葉が足りないぞ?」
「……え」
「”ください”、だろう?」

目。
食らいついて。
離れない
…ああ、堕ちてく…

それが、何故、こんなにも心地いいのか。
私が理解するには、この状況は奇異的過ぎた。

「…く、だ、さい」
「何をだ?」
「キミの…」
「…言葉が悪い」
「っああっ!!!」

髪を引き上げられて、その顔が私を覗き込む。
痛いよ。
いたい、
お願い、離して、離してください、
…嗚呼
「言え」
「…あ、アルベルト様の其れを…私の口に下さいッ!」

言い終わると同時に。
目元に、暖かいキス。
「よく出来た」

髪の根元は、離された後でもジンジンしていた。
アルベルトの手が、ズボンのボタンをはずして、私を軽く手招きする。
歯で、チャックの引きを噛み、チリチリと引き下ろす。
私の右手は、すでにもう、耐えられなくなってる自分の根元へたどり着いていて。
体中、快感だらけで。
やっと触れた舌先から、ジンジンと身体の奥までぐるぐる回ってる。
暖かい感触を、口の中に導いて、唾液でスライドさせた。
「っは…セル…」
…気持ち、いい?アルベルト。
私は、もう、目の前がチカチカだよ…

自分の指にからみつくのは、ねっとりとした私の欲望の象徴。

アルベルトの目が、其れを見てるのに気づいて。
知らずに手が早くなる。

「ん…」

ちゅ。

口元から、卑猥な音。
私がしてること、確認するみたいに、音がしてる。

きらりと光るアルミの箱が目に映って。

カチ

「ーーーあああっ!!!」


のけぞった瞬間、目の端に微かにカップルが過ぎ去るのが見える

こっち、見てる

見られてる

「いや、いやぁ、…!」

もう、声、とめられないよ、
お願い。お願いだから。

…先に

イ、か、せ、て…





お願い、します…











「いい運動だったな」
「な、ワケないでしょ」

公園の隅っこのベンチに座って。
体の中のアレ?
…もう、入ってないよ。
身体はぐったり、もう一歩も歩きたくない。
アルベルトは前かがみになってベンチに腰掛けてる。
チラ、と私を見る眼が、呆れてた。

「なに?」
「…よくもまぁ、あの後でそういうものが食えるな」

…確かに。
私が手にしてるのは、ソフトクリーム。
だって、疲れて甘いもの食べたくて、熱いから冷たいものが食べたくて。
…舐めてる姿はそりゃアレだろうけどさ!
…ペロ。

「…見せつけるな」

べー。

さっきまで、他のものを受け止めてたこの唇。
そう、アルベルトの感覚を麻痺させてるのは、私自身。

アルベルトが、私を壊しやすいように。
私はこうやって、時に君の奥深くを刺激する。

蓄積されたものが爆発するのが、楽しみで仕方がないんだよ。

「食べる?…もとい。舐める?」

「いらんわ!」

赤くなってそっぽを向いちゃう顔は、あのアルベルトとはまるで別人。
そう、あれは、私たちの単なる遊び。

本気で壊れちゃう、君も私も壊れちゃう危険な遊び。

暗黙の、了解……




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こめんと
アルベルトが壊れてますー!!!!
セルバンテスも壊れてますーーー!
誰だーこいつ等はぁああ。

でも面白かったです書いてて(笑)