「やぁアルベルト元気そうで何よりだね」

声はそれだけで、さっさとそのまま通り過ぎてしまう。
なんだか、
すっぽかされたような気分になって一瞬立ち止まる、相手を確認する、間違いないセルバンテスだ、そこで始めておかしいと思う。

一瞬通り過ぎる、また声が掛かる、ちょっと振り向いて笑いかけたから続くのかと思いきやそうでもなく、取り残される。

そんな日々が続いていた。

忙しいのを儂に見せ付けたいのか、それとも、単に本当に忙しいのか。

そう言えば最近中南部のほうの元王は崩御し、子供が即位するとか言っていた。
そのせいかも知れんな、なんて、勝手に想像してみる。
全然関係ないかもしれないが。
表の顔のオイルダラーは各界の要人と繋がりを持っている「らしい」から、(儂はよく知らん)まぁイロイロあるのだろうが。
…愚痴っぽいな。
かまってもらえないから寂しいとかそんな女みたいな理由は言わんぞ。


言わんぞ。






最近手に入れたレコードの二曲目がセルバンテスの好みだったから聴かせてやろうかと思っただけだ。







そんな日が、何日も続いた。
電波が伝える。昨日昼間11時15分。即位式で国王が自害したと。

目を向けても機械しかないのに、つい、ラジオに目を向けた。

「…また、忙しくなるなアイツは」

そんな事を勝手に決め付けて。
そうともわかりもしないのに。
興味がないと言えばウソになる、然し興味があるとは言わん。

…何処かへ、身体を動かしにでも行こう。
動かんから、考えばかりが先行するのだ。そもそも、アイツが忙しいのが儂に何の関係がある。

暇な時間を共有して語り合うのが麻薬のように心地がいいのは自分でも理解しているがそれを求めたりし過ぎると人間は弱くなる

…頭の中がぐるぐる回るから。とにかく、外に出た。
















外の空気?
相変わらず、咽ぶような無機質感しかない。
そんなものが、今、何の意味がある。
人間が生きていることに、この世界の存在は意味がある。
然し自分が存在していることに一番意味のあるものは
空気などと言う何時か勉強したものではない。
己が感じたものだけだ。







ぬううううう




グダグダ並べても仕方がない!










コツン。
力みすぎた靴先が扉に当たるほど近づいたので、息を取り直して一歩引いた。
コンコン。
無用だろうが、ノックなどしてみる。
コンコン。
何故、ノックというのは二回なのだろうな。
一回だとわかりにくいからか。じゃあ何故三回ではないのだ。しつこいからか。
程よいのが二回ということなのか?
お決まりどおり、扉を二回叩く、ということに照れを感じ始めた儂は、目の前にドウゾと言わんばかりにくっついてるノブに手をかけた。
ガチャ。

無用心すぎる!!!!!!!

こんなことで十傑集を語ろうというのだからなお前ってヤツは本当に、なんだ、
ただの一般人というかこう、意識が欠けているというか

「…」

一言文句を言ってやろうかと開けた口は、言葉を発することをためらって自ら塞がれた。

部屋の中は真っ暗で。
確か、戻っているはずだったのだが…また、出て行ってしまったのだろうか。
そうも思った。だが、そうではなかった。
ベッドの上から、白いものが床にだらりとたれている、と見えたのは、単なる錯覚で。
床に座り込んだセルバンテスがベッドに上半身のみを凭れ掛けさせているのだ。
入り口のドアからこう、入ってきて、そのままベッドの方まで歩いて…
セルバンテスの過去の動きが見て取れるようだ。

…寝ているのだろうか。

カサ、と手が鳴ったから、なんとなく指を握り締める。
カサ。
余計に鳴った。

ベッドの上の背中が大きく膨らみ、ため息をつくように萎む。

「起きているのか?」

…返答がない。
試しに、近くまで寄って見た。
そっと。
こいつが儂と寝ているとき以外の顔なんて、見たことがない。
…秘密を覗き見るような罪悪感。
興味がないわけではない、でもあるわけでもない、儂はそう言った。
ただ、惹かれるだけだ。

近くまで、もう少しでたどりつけてもう少しで顔が見えるかも



ガバ

「ぬわぁ!?」
「ひゃー!?」

起き上がったセルバンテスは儂の声に驚いてベッドに飛び上がり、儂を認めて、眼を丸くしてる。
猫かお前は。

「ト、突ツ然起きるな!」

自分の声が少し上ずってるのに気づいて、一つ咳払いをする。

くんくん。

「…」

くんくんくん。


セルバンテスが、辺りの匂いをきょろきょろしながら嗅いで。
儂の持っているビニール袋に目をつける。
…人間捨ててどうするセルバンテス。

「美味しい匂いがする」
「あ?ああ。いや、外に出たらたまたま見つけたから、たまたま、そんな気になって…」
「オイシイニオイガスル!」

…はぁ。

「…お前に買ってきたんだ、食え」
「本当!?」

テーブルに、カーネルサンダースの袋を置いて。
取り出してやると、手袋をわさわさとはずして、それを受け取る。
…腹、減ってたのか。
もしかしてそれで倒れてたとかいう話だったら儂は泣くぞ。

そんな儂の気も知らず、本当に動物染みたセルバンテスは肉にかぶりついていて。

…エサを与えたような心境だな。

「食ってなかったのか?」
「んー」
「…」
「んー」
「いいから食え」
「ん」

見た感じ、少し、痩せたな。
仕事か?それは、どっちの?
BF団は時に内部にも事をもらさずに仕事をさせる場合がある。
恐らくは信用されていないのだろうと思いつつ、それが組織だとも理解はしている。
求められているのは己の能力のみ、人間性は二の次だ。

口の周りにくっついた油を指でぬぐって、それを舌で舐め取って、次に手を出して。
出しつつ、儂の目線に気づいたのか、はたと止まって。
「…ゴメンなんか夢中になっちゃったよ」
「いい、餓死されるのは見た目に悪い」
「えー?見た目だけ?」
そういいつつ、次のチキンをもぐり。
口に運ばれたそれを、歯が食いちぎるのをみる。
もう一度、目が合う。
咀嚼していた口が止まり。喉の動きがそれを飲み下したのを伝える。

ペロ。

光る唇を、赤い舌が舐めた。

喉が鳴る。

むき出しになったチキンの骨が、白く輝いていて。

-------赤い舌が這う

動物の瞳の瞳孔が収縮して儂を捕らえた。

ガリ。

骨に、歯が立てられる音。
ゾク、と身体が総毛立つのを感じて。
唇が鮮明に儂を捉え離さない。

「私の唇が女性器に見えるだなんてのは無しだよアルベルト」
「…ば、馬鹿をいうな!」
「ありでもいいけど」
「…え?」

「ありでも、いいけど」

コトン。

骨が、テーブルにぶつかって、それはもう用済みのものだと。
そう、示唆されたから、近づく唇を避けたりはしなかった。

軽いスパイスの匂い。

捕食した獣は、その自分自身が捕食される対象でありうることをどこかで感じている…

やけに、滑るようなキスに、食物の香りが混ざり合う。

離した唇は己の指を掃除するべく舌先を絡めてそれを味わい、次のターゲットを儂に定めて見据えているから。
ああ、食われるのか。

そう感じた身体は、それだけで滾り始めた。

揺らめくように近づいた獣は、儂に顔を近づけて、それがなんなのか、匂いを嗅いで。
自分の物なのか、敵なのか、味方なのか、食べられるのか、毒があるのか
首筋に、す、と息が掛かる。
「…ちょっと汗の匂いがする」
「え?」
…そう、言われるとやけに気になり始めるもので。
自分の腕を持ち上げて、匂いを嗅いでみる。
…だが、自分でわかるはずもなく。
「匂うか?」
「淫靡にね」
「…変態めが」
ふふ、と嬉しそうな笑い声。
その声はすでに儂の腹の辺りにあって、内耳に心地よく響く。
下腹部までたどり着いた笑い声は、そこで止まるから。
ふと、匂いのことを思い出して、足を閉じた。
膝に手が掛かる。
「ダメ。嗅がせてごらん?」
「…な、何を言うか、嗅がんでいい!」
「ンじゃ此処に顔突っ込むけど?」
「…」

それはさすがに馬鹿だ

と、言おうとした次の瞬間。
ぼふ
「うがぁ!」
「色気のない声を出さないのっ!仮にもこれからエッチしようとしてるんだから、ムードくらい考えなさい」

そりゃ、儂がお前に言いたい。
上手いもので、気が殺がれ掛けた儂の膝に当然の様に手をかけて当然のように開くから。
思わず、したがって開く。

…しまった

内腿に指を食い込ませて。
力を入れれば、痛みが走る。
閉じように、閉じられない。
この男は、知らない間にこういった人間の身体のツボを覚えてきては、人を指一本で操る。

自分の指が食い込む内腿から中心部へ、唇を這わせて。
「…っふ」
「此処は皮が薄くて神経に近いからね、気持ちいいよね」
いいよね、って言うことは、自分もそうだというわけだな…
「足、閉じないでね、私がサンドイッチされちゃうよ」
「…」
内腿の指がはずされて。
ズボンのボタンに手が掛かる。
上から、それをじっと見ていた。
身体のどこかで、早くと促しているのがわかるが、それは口には出さない。
恐らくセルバンテスには気づかれているのだろうが。
軽く布地を引っ張りながら、ジッパーを引き下げて。
内側に人差し指を差し込んでそれを取り出しざま
「っ!!!」
おもむろに、口へ。
一瞬のうちにそこに血が結集し、セルバンテスの喉を突き上げていくのを感じた。
ちょっと離して見上げた目が輝いて笑う。
「オマタセ?」
「…待ってない」
「嘘つき」
そのまま、目を合わせたまま。
先端のくぼみに舌を這わされると、身体はもう欲望のままにしか動かないものに変わる。
それが、不思議で、それが、心地よく。

知らずに髪を掴む。
知らずに、喉を突く。
苦しそうな音に、被虐と残虐が入り乱れて脳を駆け巡るから。

掴んだ頭を強く押し付けた。

「んーッ!!!」

内腿にセルバンテスの爪痕が走るのを見る

だから、もっと強く。

一旦髪を引き上げてから、もう一度強く押し付けた。

「…、ふぅ…っ」

それでも絡み付こうとする舌に、喉をそらし始めた自分に天井への視界から気づいて、
そのまま、目を閉じた。
感覚に身をゆだねるために。
音を鮮明に感じ取るために。
震える指が、シャツの裾を掴んでいる。
…苦しいか?
…本当だろうか。
演技かも。


髪に目線を落として、腰を引いてやると、ほぐれ乱れた髪の隙間から、糸を引く舌先が垣間見え。

「…ひどい、なァ…やっぱり私の口は女性器かい」

「それもありといったのはお前だろう?」

「…言わなきゃよかったよ」

そう言いつつ、手早く上着を脱ぎ捨てて。
シャツの前だけ肌蹴て、ズボンの前を割る。
「お腹いっぱいになると、入れたとき苦しいからね、先にやろ?」
「…ムードも減ったくれもないのはどっちだ」
「よく言うよ」
「っぅあ!」

先端に八つ当たり。
ピン、と指で弾かれて、身体を竦めた。
衣擦れの落ちる音。
目を上げると、白い鼬が儂を見下ろして立っていた。

身体を裂いて、交じり合う。

儂の身体の一部がその体の中に取り込まれ、喰らい付き、そのまま飲み込むように。
食の快感に鼬が身をよじる。
喰らっているのは、果たして、どっちなのだろうか。

儂はその身体に喰らい付く。噛み付いて、飲み込む。

「嗚呼、ッ、アル、アルベルト…」

名前を呼ぶのは欲する証拠。
ならば、お前に儂の一部をくれてやろう。


さぁ、餌をやる。

その身体で、飲み込み消化し、

…同化しろ…。











儂もチキンも全部食い尽くしたセルバンテスは、満足げにテーブルに突っ伏して。
儂は、それを見ながら、もう一度自分の腕の匂いなど嗅いでみる。
…うむ、わからん。
とにかく、セルバンテスの匂いが移ったことは確かだ。

「もう食べれませーん」
「もう食わんでいい」
「んんんーーーーー」

うつぶせのまま、腕を伸ばして、どうやら伸びをして。
コツンと当たった残骸の箱が落ちそうになったから届かない所へちょっとどけた。

「…疲れたー」
「激しすぎたか?」
「んーん、仕事」
「…仕事か」
「そう、仕事」

終わったのか?

問うと、眠そうな目が微かな笑みを浮かべて細まる。

「昨日の昼間11時15分。きっちりきっちり」

そうか、なら、少しは立ち止まって会話をすることも可能になるという…

昨日


昼間?

…ラジオの声



「セルバンテス」



今現在世界に知られることのない最大級の犯罪者は素っ裸でテーブルに突っ伏して。









眠っている。










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コメント
終わり方が納得いきませんが、とにかく書けました!
日曜日の夜に、ムスタング38さんの超素敵サイト、
「株式会社スカール」のチャットでお話を頂きまして♪

『仕事で忙しくてまともに食事をしていなかったセルバンテスに、
アルベルトが差し入れを持っていく、そしてチキンにかぶりつくセルを見てアルが…』

というような内容のお話で!!
「それ書いていいですか!?」と、思い切り飛びついちゃいました(笑)
快く了承を頂きまして!ありがとうございます〜〜vv
食欲と性欲、本能マニアのネコシマには、たまらんネタで御座いました。

前に、「アルベルトは黒豹」なる記述を小説内で書いたのですが、
セルバンテスは「鼬」かなー。
「猫」でもあり、「鼬」。白イタチ。ガンバの大冒険の白イタチ。
アレは残虐性と妖艶さを併せ持つ、子供ながらに恐れを感じ、そして憧れをも感じてしまう危険な動物でした。
喰らわれる。
アレになら、喰らわれたい。自分の内臓をさらけ出して全部喰らわれて、
同化したい。
セルバンテスは他人から見てそういった存在であると、いいなぁ(弱気だなオイ