「めしー」

「腹減ったなぁオイ、え?」
「…だから、なんだよ」
「なんか食わせろ。今すぐ食わせろ、自分料理してでも食わせろ。」

これが、さっきまで部屋の入り口でかわされていた妙なやり取り。

コンコン、と、お行儀よくノックなんかするから、まさかコッチだってレッドだとは思わずに、扉を開放しちまって。
…開けるんじゃなかったー!!!
この後悔の気持ちはなんというか、もう、
いわば、毎週見てるドラマの最中の新聞屋。
出かけようとした瞬間にやってくる近所のウワサ好きのおばさん。
家を出たとたんに何故か歩いているジャイアンのような。
それに出くわしたような、

躊躇している私をドカーンとばかりに押しのけて、
「あだっ」
「へー、結構部屋綺麗にしてんじゃん?」
「こ、こら!勝手に入るな」
「…それは命令のツモリか?それとも嘆願か?」

…呆れて、諦めて、とにかくこの台風の何とか過ぎ去るのをやり過ごすしかない、と。

「で、なに作ってくれんの?」
「は?」
「自分料理してでもなんか食わせろっつったろ?」

あまり物を置く主義でない部屋の、真ん中に置かれたスツールを足で小突きながら、レッドの指が私を指差す。
「…腹が減っているなら、どこかに外食にでも行けばいーじゃないか」
「うるせぇな、俺に指示すんじゃネェよ」


なんなんだ、コイツは!
いつもいつもいつもいつもいつもいつも!
は、腹が立つ…
もう許さん、こうなったら腕づくででも追い出し…


「…ふん、仕方ないな、作ってやろう」

諦めた風を装って、そう言ってやると、テーブル脇の椅子にどっかりと座り込んで、にま、と笑う。
やけに嬉しそうに。
知らないからなー。
いいか。
今から、私はお前に特製の激辛料理を作ってやるからな。
文字通り、火を噴かせてやる。
さて、そうと決まれば、冷蔵庫に何があるのか確認だけでも先に…
「なになに?なにつくんの」
「わ、な、なんだ、おとなしくしてろよ」
スーツの上着を脱いで、カウンターに引っ掛けて冷蔵庫を覗き込むと、カウンター越しにしかし近くから声がして。
振り向くと、カウンターに両手をついたレッド。
…こういうところを見ると、子供みたいだな、と思うんだけどなぁ。

そうだ、コイツは単なるガキなんだ。
だから、私がおびえることも張り合うことも、
…不毛だ…

クソガキ。

「なー、なに作るんだ、って聞いてんだよ」
「さぁな」
「ずいぶん偉そうじゃねェ?後が怖いぜ?」

後が怖いのはお前の方だ。
覚悟してろよ、チリペッパーを使ってやろうか、それとも、ペパロニを使ってやろうか。
笑みを抑えるので、精一杯で。
慌てて、冷蔵庫の前に座り込むフリをして、それを隠した。

レッドの気配は、まだカウンターの向こうにある。

冷蔵庫をあちこち開けて探りながら、なんとなく気になって、幾度となくそちらの方向に気だけは配っておく。
いつ何時何をされるか分かったもんじゃないからな。

そういえば、レッドは日本人か。
なら、唐辛子の方がいいのかな?
…なに、気を使ってるんだ私は。
なに使ったって関係ないだろう、どうせ、わかりゃしないんだから。

米、有ったっけな。

ドライトマト。
フリーズドライ化された鶏肉。
ニンニクに、
これは手の中に隠して、唐辛子が数本。

よし、

と、立ち上がると、カウンターから乗り出しているレッドと目が合った。

やけに、楽しそうで。



何でこいつは、こんな顔して私を見てるんだ?

「おもしれぇなぁ、オメーは」

なにがだ。私は冷蔵庫から物を出してきただけなのに。
今の、何か面白かったか?
謎だ。
頭をひねりながら、簡単な料理だけはできるキッチンへと、レッドに背を向けた。
「腹減って死にそうだー早くしろぃ」
うるさい!なんなんだおまえはっ!
…思うだけで言わず。

鍋に、ドライトマトを細かく刻んで入れ、水と共に火にかける。
ニンニクは別口で軽くいためて、オリーブオイルを含ませて置いておく。

鼻歌でも歌いそうになって、レッドの存在を思い出してやめた。

ちら、と見ると、カウンターを乗り越える瞬間で。
…乗り越えなくても、回って入ってくればイイのに。
そのまま、私の元へ近づいて、手元を覗き込む。

「…どこかの邸宅でメイドでもやってたんか?」
「物言いが嫌味だな」
「嫌味で言ってんだよ」

むか。

死ぬほど辛くしてやるからな。

鶏肉を投入して、軽く味をつけて、ちょっとだけスプーンですくってみる。

…味なんてどうでも良いのにな。辛くしてしまうんだし?

「何で、料理できるんだお前」
「料理も出来ないようじゃオトコとしてのランクが落ちるだろぅ?」

そ、まさにそれ。
常に私は女性のためにあり、常にいい男のレッテルを貼られ、
それを作り上げるには自分自身の魅力と共に、それに付随する何かを習得しなければ、
要するに、勉強なしではイイ男で居続ける事は出来ないわけだ。

「へぇ。ムリしてんだ」
「そりゃそうだろう、男だったら多少の無理はしてでも格をあげたいものさ」
「…そうだな、それは分かる。オトした相手の数でオトコの価値が決まるってやつだろう?」

ぶ。
ちょ、ちょっと違うぞ論点が。


「お前はオトされたもんな、俺に。その分俺は格が上がってるってわけだ」


え?
意味を確認するべくして、レッドの顔を見る。
「落ちたじゃネェか、無理矢理、でもかなりハマってた、なぁ」
「…」
「え?忘れたんか?」
「い、いや…」

何とか、話をはぐらかそうとして、頭をめぐらせようとして

「!」

腰骨をつかむ指の感触に思わず飛び上がる。

「?!??!?○×◎煤H???」
「何言ってるかわからんなぁ」

な、なに、腰、撫でて

「食欲と性欲って似た感覚だって聞いたことあるか?」

そ、そんなの似てたからって同じ物であるわけではないのだから私としてはソノ

「腹が減りすぎちゃってさぁー。似てるってことはだ、ヤリたくて堪らなくなっちゃった、って感覚とにてるって訳だよな?」

いや、だからソレは似てるだけであって、ヤ、ヤル?やるってことはアレですかドレですかソレですかもしかして

「飯食う前に、身体満たさしてくんない?」

どん、
キッチンの一番奥に背中をぶつけて、
我に返る。

「レッド!に、似てるってコトはだな、その、飯でも食って腹が満たされればそっちも満たされるって言う…」
そう言う事だよな、うん、そう言う事だ!
「ああ、まぁ、どっちにしろ関係ネェんだけどな」

…ないのか!!!(ガーン





「っなぁ、膝ついて、そこで。クチで、いいだろ?」
どうせ逆らわせやしないんだろ。
…火、止めないと
見ると、もうすでにコンロの火は止まっていて。
…レッドが止めたのか。
「痛」
髪をつかまれて。見上げると、レッドの勝ち誇った笑顔。
…あーあ、逃げられないのか、また。
なんで、私がこんなこと。
私を誰だと思っているんだ、このガキは。
ちょっとくらいだな、ちょっとくらい強いからって、


指を添えて、口内へと導く。
頭をつかむ指が、無理に押し込もうとするから、喉の奥に当たって。
吐き気と苦しさが入り混じって、でもその向こうではトマトが湯にほぐれるいい香りが漂っている。
「いーよ入れなくて、舐めてれば」
つかんだ髪を引っ張るから、それに応じて頭の位置を変えて。
言われるままに、舌を出そうとしてフト視線に気づく。
「…」
え、えーと
…見られていると…ちょっと
ぽんぽん、と、頭をはたかれて。
これは、催促だよな…

見られてない見られてない。自分に言い聞かせて、うん、見られてない

舌先に当たる感触を、押し上げるようにして

「やーらしー」

…見られてないっ!!!

「目ェ開けろよ、そんでコッチ見て」



レッドの顔。
上から私を見ている。

…確実に、見てる。

手を添えて、よくアイスを舐める仕草とかそんな表現をなされる行為だけど。
それは、まったく違っていて、絶対に、そんなに可愛いものじゃない。
肉体的な、完全なる奉仕だろう、この行為は。

「すんげぇ、イイ感じ…エロいよ実際」





脱ぎ捨てた服は、カウンターの向こうに放り投げた。
壁に手をついて、腰を引かれて、って、これじゃァ
「バックから行きまーす」
「…っ」
何で、そんなに楽しそうにこういうことをするんだコイツはッ!!!

もしかしたら、結構照れ屋なのかもしれないな。なんて、
ふと思った瞬間に
それを打ち消したくなった。
ドロ、と、やけに濃い感じの液体が後ろに流れる感触!!

「な、っ、なん…」
「アブラ」
いいいいいいい?!
「何でそんなもん!」
「え?ンじゃ濡らしてもいないのに無理やり突っ込んで裂けて血が流れてそれを潤滑代わりに使ってヒィヒィ言わせても良い訳。」
「や、そ、それはちょっと…」

ぬる

「んっ」

指、ちょっと待っ…

「は、っ」

そんなにゆっくり入れないで

「あ、あ」
「ダイジョブそうだな」
「ン、ッ…っく!!!!」

油で汚れた手で、腰をつかんで。
自分の身体がレッドの其れをくわえ込む、やけに鮮明に感じるのは、恐らく油の所為で、
「う、動くなぁ」
「ナンデ?なぁナンデ?気持ちよすぎるとか?」
まみれたまんまの指が身体を滑って。
レッドの声が耳元に近くなる。
「胸触ってやろうか?」
「い、やだ」
レッドの髪の先が、背中に触れてちくちくする。
ぴったりと背中に肌を合わせて、押し上げられると体中がキュウとなって、
あ。
ヤバイ
すげぇ、イイ…

胸元に滑ってきた指が、突起に軽く触れる。

「は、あっ!」
「うりゃ」
「んんんっ!!!」

あ、遊んでるんじゃ、ないんだぞ

クスクス、と耳元で笑う声。

なんだか、やけに楽しそうで。

片手を壁についたまま、自分の胸元に這わされる指に指を絡めた。

…もっと、こう

「こう?」
「ん、っ、う、ッ、っ」

指の腹じゃなくて、横の方で
あ、そぉ、そんな、カンジ

「きもち、よさそー…いいな、お前」
「…っ、?」
「家畜みてぇ、俺に飼われて喉を撫でられて喜ぶ猫」
「…撫でて、喜んでる、くせに」
「否定はしネェよ」

身体を起こして、もう一度腰をつかみなおして。
「すげェの食らわせてやっかんな」
え、と振り向きかけた途端
「ひぃあ!!!」
衝撃に、肘を突っ張って体がそり上がり
そのまま、壁に肩を押し付けて歯を食いしばって。
何度も
なんども、
繰り返し送り込まれるのはレッドの濁流…





「ナンデ、飯作ってくれんの?」


誰かの荒い息遣い


「苛めてホシイ?」


高い悲鳴


「だからお前、やめらんねェンだよなぁ」


目の前が白く 弾け飛ぶ


「なぁ、気持ちいーよお前」



飛んで、全部、もっと、強くして…飛ばせて







  ・     



・        ・            ・・・・・  ・・






・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 


・・・・・・・・
・・・・
・・・
・・













うーん。
ボディーソープ、ほとんど使い切っちまったなぁ。
洗っててぜんぜん泡が立たなくて、文句を言ったら斬られそうになったから真空波、とかやってたから風呂場はめちゃくちゃだし
もう、面倒だからいいか。
ほこほこと湯気が上がる頭をタオルで押さえて、スプーンを置いた。


カチン。




キッチンの端に置いたままの唐辛子。

白い皿に、ほの赤いトマトリゾットの残りが少し。

鍋ごとかっ込んでるセンスのない男を会い向かいにして、ふぅと一つタメイキ。





・・・・・・・

 ナンデ、飯作ってくれんの?
…お前が食いたそうだからだよ
 苛めてホシイ?
…かまってほしいのはお前の方だろ
 だからお前やめらんねェンだよなぁ
…勝手なことばっかり
 なぁ、気持ちいーよお前

…お前もな






「イタダキ」
伸びをした私の前の皿が持っていかれて、其れを見るのも苦笑交じり。



台風の襲来は過ぎ去ったわけではないけれど、
その台風の目に入ったときの心地よさには、逆らえんもんだよ、なぁ。





ん?





納得、してる場合じゃないか。










FIN==================


コメント
はまりますなぁ。レッヒツ。
ヒィッツって呼ばれてるけど、本当はフィッツカラルドでしたね。
この小説ではヒィッツって呼ばせてるけど、できればレッドにはフィッツカラルド、って
オールで呼ばせたいなぁ、と思っておりまつ。普段はフィッツでもヒィッツでも良かですが。
なんかその方が圧力があるから(笑)
「新ちゃん!おかたづけしなさい!」
より、
「新之助!おかたづけしなさい!」
のほうが、なんとなく言葉が強い感じがしますしねー(何故新之助。)
要するに、レッドはフィッツカラルドを完全に圧迫してホシイ、と。
管理人のアブナイ願いでした(笑)