目の前に、情けない格好の男。
ベッドに這い蹲って、シーツの下からぐるぐる巻きの包帯の足が覗く。
俺はといえば、そのベッドの前に口ひねって片眉吊り上げて。

「…ばーか」
「うるさい、貴様に言われたくない」

ヒィッツはムス、とした顔でそっぽを向く。
そっぽ向いたって駄目だって。
そもそもさぁ、十傑集だろ?
怪我とか簡単にしてんじゃねぇよ。
だってよ、だって、わけわかんねーよお前。





        

         階段落ちたくらいで足折っただぁ!?






信じらんねぇ!

「やっぱバカ。お前バカ。相当バカ。」
「も、元はといえば!!!」

怒鳴ろうとする頭押さえて、マクラに押し付けたら、なんか「むぐー」って音が下から漏れて。
つい、笑っちまいそうになって。
…ま、確かに突き飛ばしたの俺だけどよ。
ほんっとう、怪我する?バカ?信じらんね。

手を離すと、顔を上げてまたなんか叫ぼうとするからもっかい押さえた。
うっさいなぁ、わかってんよ。
俺が悪いって言いたいんだろ?
うっせぇよ、
俺が悪いんじゃねえだろ、お前が悪いんだろ、怪我なんかしたんだからよ。
自己管理とか言うヤツだろ、どうだすげーだろう俺だってそれくらい知ってんだ。



ちょっとはさぁ

ちょっとはさ。

まー、

反省?
ッテヤツ?



しねーーーーーーーーーーよーだ。


しないしない。絶対しない。
無理無理、期待するだけ損だぜ?


わたわたと動く腕が俺の手を掴んで、引っぺがして、
「し、死ぬっ!息が出来ない!」
「へー、死ぬ?いいね、お前殺してみたいよ」
「何をバカなことを言うか!」

じたばた。
って、お前さ。

足怪我してんならジタバタすんなよ。

ベッドの上、腰をボスン、って乗っけて、
その身体押さえ込んで。
ちら、と見えた包帯の足。
ベチン。
「ああああああー!!!!」
「あ、痛い?」
ベシ。
「イタイイタイイタイイタイ!!!」
うっわー、
そういうのってよ、俺に向かって言っちゃ駄目だって
…ゾクゾク来て、も、もっと痛がらせてそう、たとえば泣き叫ばせてやりたくなんかなっちゃったりす、する、じゃァン!!!

ゴクリ。

と、喉が鳴って。
やべ、勃ちそ…

刀の先で、あの足をゆっくり突き刺したりなんかしたら、どんな悲鳴上げて泣くか


…って、やめやめやめやめ。


はーはー。



あ、


俺、なんで刀に手をかけてんだ?


気がつきゃヒィッツの上に馬乗りになってて。
右手が刀抜こうとして、背中に絡めた柄を握ってる。


んー。
ある意味危機一髪?


ひょい、その背中の上からどくと、恨めしそうな目を俺に向けて。
へへへ、と笑うと、シーツが俺に向かって飛んできたから、手で払った。

ぼふ、と風が舞い上がって、その中に、微かにヒィッツの匂い。
抱いて犯してるときに強く漂う、汗の臭いの欠片。

「…お前風呂入ってんの?」

払ったシーツを拾い上げて、ちょっと匂いを嗅いでみる。
ん、やっぱ、汗臭ぇ。てか、なんかエロクセェ。
くんくん、と嗅ぎながら、ひょいと目を上げると、ベッドの上でオモシロオカシイ顔のヒィッツ。
口がヘニャ。
眉もヘニャ。
今にもその口から「はにゃー」って声が出そうな顔して、
いつの間に起き上がったのか、エサを待つ猫座り状態で俺の手元をまん丸の目で見てる。

…くんくん。

「あーーーーーーーーーー」

はむ。

「ああああーーーー!」

もぐもぐ

「いやああああ変態かお前はぁああ!!!!」

お、おっもしれー!

「あっはハハハハは、ヒー、お、お前凄い反応!」
「返せ、それ返せ!食うな!嗅ぐな!噛むな!」
「はむ。」
「はにゃー!」

あ、はにゃーって言った(笑)

手に持ったシーツ、口で咥えて、ベッドの端までたどり着くと、慌てて手を伸ばすから。
その手は俺の手で握って。
口を「あー、」と開けると、シーツが足元に転がり落ちる。

「けーっこう匂いしたぞー」
「う、ウウウウ、うるさい、私だって人間だ!」
「アレの匂いとか」

ぼーん。
って、音が聞こえそうな顔して。
俺に手を取られたまま、その顔は爆発寸前。

「ドウスル?もっと匂い強くするか、風呂はいるか」
「へ?」
「だから、これから一発やるか、あ、一発ってこたねぇな、ん、それか、風呂入るかどっちだって聞いてんだよ」
「は?」
「入るのかヤルのか」
「…手伝ってくれんなら……入る」

…!??!?!?!
な、
なにコイツ甘えてんの!?
ビビビビ、びっくりした!
俺がびっくりした!

と、とにかく持ってた手を出来るだけ自然に離して。
風呂場、って、アッチか、しょうがねぇ、分かった、お湯くらいは溜めといてやるから勝手に
あ、その後が無理なのか
バスルームの中はなんかやけに気温が低くて、
其処の穴に丸いボールの栓押し込んで
蛇口をひねったらお湯が出まーす

って!

なに俺まともに真面目に本気で風呂の用意してんの!?

ガバ、と起き上がった向こうに動くものが見えて、そっちをみたら、ガラスに俺が映ってた。
なにこの顔。
…相当俺もバカ。
…ヒィッツのせいだな。
うん。
アイツのせいだ。
あいつが何もかも悪い。
多分ハルマゲドンもアイツのせいだ。
て、ハルマゲドンて何。
しらねーよ。
とにかく、ヒィッツが悪い。残月があんな頭なのも、セルバンテスが金持ちなのも、アルベルトが怖いのも、そうだ、幽鬼が痩せてんのもアイツのせいだ。

そうだそうだ、落ち着け俺。

「…ナニ、やってんだ?」


「!!!」


ぎょっとして振り向くと、動けないはずの男がバスルームを覗き込んでた。


「お、お前のために風呂なんか入れてやってんの。高くつくからな、あとで覚悟しろよな?」
「…た、たかく」
「そうそう」
「カクゴ?…ナンノ?」
「んっふっふー」

ほら。
こっち来いよ。

壁伝いにピョンスカとこっちまでやってきて。
風呂の中を見て、お湯が張ってあるのを確認してる。
から、そのスーツのボタンに手をかけてはずし始めた。
「え、あ、じ、自分で…」
「動くな」
「…」
強い言葉に弱いよな、こいつ。

ボタンはずして、ネクタイはずして。
シュル、と抜き取ると、一瞬頚をすくめた。

緊張してる首元に、髪の毛に、鼻先を埋め込んで。
首筋から
耳の内側まで、全部、舐め尽す。
「…んんっ!」
「カンジル?」
「は、馬鹿…風呂、入るんだから、止せ、汗臭いって言ったのお前だろ」
「うっせ、黙れ俺がヤッてんだからおとなしくヤラレてりゃいいんだよ」

耳元で、小さな声で、だけど強く。
身体、すくめて。
コイツ、なんでこうやって俺の言うこと聞くんだろうな。
嫌って逃げてもよさそうなもんなのに。
…余計に調子に乗っちまうじゃんかよ。

舌先、耳ん中ねじ込んで。
ビクン、と震えて体が逃げるから、背中と頭に手を回して固定した。
ちゅる
耳の輪郭を舐めて、噛む。
「は、っはっ…ァ」
「…耳、弱いンか?」
「、…」
ゆっくりと、うなずくから。
んじゃ、もうちょっと舐めてやンよ。

なんか、やけにコレをすることに、俺、集中してる。

今までの現実、これからの現実とか全部吹っ飛んで。

目の前のコイツが気持ちいい声出すことに、目の前の一つの身体に、気持ち奪われて。

なんだろ。

…ドキドキする

耳朶、甘噛みして。
俺の息。
熱い。

「ん…」
「な、俺にも…」
「…」

ヒィッツの赤い舌。
チラ、と見えて。
それ、俺の首筋に這う。

「…あ、はぁ」

陶酔したような動きに、持って行かれた。
も、ダメだ。
ぐる、と、抱きしめた身体を回して。
鏡の前で、後ろから抱きしめて。
首筋に軽く、軽く歯を立てた。
待っているかのように首を反らすから。
その曲線、筋肉の隆起にしたがって、歯を滑らせる。
目だけで鏡を見ると、ヒィッツが薄目で俺を見てた。

後ろから回した手。

それに、目を移させて。

「…この手はどこに行こうかなー?」

「…」

ゴクン、と、至近距離で喉が鳴る。

待ってる?待ってんだろ。欲しいだろ?この指。

荒い息が半開きの口元から、微かに見える舌を揺らしてる。

指先で、胸元、探って。

ほら、此処、好きなんだろ。もっといじってやるからさあ
なぁ

もっと顔上げろよ、もっと声出せよ、もっと感じて俺を気持ちよくさせろよ…


「見てみろ、お前のエロい顔映ってる」

言葉もなく、ただうっすらと開いた瞳は、焦点の合わないそれを宙に走らせていて。
そんなに、気持ちいいか?
ココ。
そんなに?

「あ、ああ、っ」


指先に伝わる、もっと触れてとそそり立つ感触に応じてやるから。

跳ね上がる身体。

ああ、も、入れてぇよ、たまんねー…












かぽーん。


んー、堪能した。


目の前にはやっとのことで風呂はいってるヒィッツの足。
肩まで持ち上げて、濡れねぇようにカバーして。
「…い、いい、から、下ろしてくれないか」
「駄ー目」
「…」
への字グチで、動かせる左足だけ内側に折り曲げて。
「そんなコトしたって丸見えだバーカ」

…真っ赤

「…あんまり…虐めるな」

…って

虐めたくなるだろうがよ!!!

だ、駄目だ駄目だ、いくらなんでも、駄目だっての、
挑発しすぎ!
もっかい犯ッちまうぞ!もっかい!

「何でお前、そんなに虐められたそーに虐めるなって言うわけ?」
「は?ンなつもりあるわけねーだろ!」

バチャ。

「うわっ」

ばちゃ

「んに、すんだよー!」
「ああっ、足が濡れた!」
「知るか!」

肩の足を掴みざま、引き上げると、その身体が湯の中に沈む。
「!」
足を離さずに、そのまま沈んだ首に手をかけた。
フイに、頭に血が上ってぼうっとする。
ごぼ。

「…ばか、やろー…」

指先に、お前の感触。

「馬鹿。ばかやろぅ」

俺の手を掴もうとした指が、それをやめて。
湯の中にほぐれて。

「何で、抵抗しねぇンだよぅ!止めろよ、止めなきゃ俺はいつかお前を殺しちまう!」

ほぐれた指が、肌の色が変わるほど強く握られて。
拳となって、俺の腹を突き上げた。

「ぐっは!」

「−−−−−、げ、げほげほげほ!」

「…やりやがったなぁ」

「…」

俺をにらみつける、

…いーよ。

そろそろ、

俺を否定しろよ。

「…お前なんか嫌いだ」

…そうだよな。

そう言えばいいんだよ。

始めっからよ。

それなら、はじめッから、なんも気にせずに殺せたんだ。

いいよ。

…死ねよ…お前

髪に仕込んだ針、抜こうと手を上げ…




ザバ。




「!?」

真っ向から飛びついてきたヒィッツに、俺は何も出来ずに、
し、しまった、逆に殺られ…

間抜けに開いた唇に。

ヒィッツのあったけェ舌が飛び込んできた。






俺の背中を抱っこしてる腕。


動きに答えて、舌を絡める。
柔らけー。
あったけぇ。


舌先、確認しちゃいながら、キスは終わる。

指先に触れる髪…濡れて、でも柔らかく指に絡んで
…冷たい
冷たいよ、お前の髪。

ペチン。

「ってっ」
「そりゃ痛いだろう、頭殴ったんだから」
「テメーヒィッツー…」
「…止めねぇよ」

…え?


「止めねぇ、から、いつでも来い。お前が本気の時には私も本気で行く」





こ、この、


この、馬鹿。






なんだよ。馬鹿。







……








足りねぇ頭で試行錯誤してたのは、俺のほうで。
ヒィッツはすでに俺を見抜いてた。
わかったよ。
だから。
だから、コイツが欲しいんだ。





なー。…お前。俺に答えろよ。もっともっと、俺に。


もっと、答えて、くれよ…?


俺は、もう、やめらんねーかんな。たまんねー。気持ちよすぎるよ…、お前…。










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コメント

?ちょっと寂しい?ありゃりゃ。
どうも、ヒィッツをレッドが殺したことを、正当化しようとしちゃってますね、私は。
愛ゆえ、なんつって、そんなン(笑)
ヒィッツが懐の深い人になっちゃってます!!!
でも、はにゃー。(笑)
可愛いのう。この二人は。
たまには、心のセツネーとこ、さらして見せてくれるし。
ちなみにタイトルの種明かし。
英語の文章で使われるcrack on…「どんどん続けてやる」と言う意味と、
これまた英語ですが、俗語のcrack…麻薬
って意味を、かけてみました。
「とまんねぇ」ってわけですよ〜この二人は(笑)