てんてんちきてんてんちきてんてん

あれぇ、外人さンだァ、ちょっと寄って行きなよ兄さンてばよう

日本語分かるかい?

おやまぁ外人さんが浴衣ッたぁまたこりゃ、珍しいネェ、
観世水と松の柄でローケツ草木染めたぁセレクトも粋だぁ


兎にも角にも、通り過ぎりゃァお声がかかる。
あっちらさんからこっちらさんまで、物珍しいを通り越してメンタマ真ん丸、ウチワ扇ぐ手も止まるっつゥ次第。

へぇ。

ここまで、チヤホヤされちまうとはなァ。

ま、あんまり悪い気もしねーけど?

だってヨ、コイツに無理やり浴衣着せたの俺だし?
選んだの、俺だしィ?
俺の衣服的感覚(ファッションセンス)が、可也宜しかったとお褒めに預かるも光栄至極って、もんだ。

大森山とか云う名前のこの山で、一年に一度の催しモン。

俺だって毎年来ちゃア居ネエ。

文化だの伝統芸能だの古くからのナンタランカンタランだのの保存委員会だの歴史的産物だの、
そんな物からチョイと眼ェ離して右を見りゃ、国道に行き交う車の群れ群れ群れ。
山からの眺望は確かに綺麗だ、でもそりゃ、夜だからってわけで、
もっと云っちまやァ、ネオンサインがギランギランと輝いてるからであって。
文化殿にしてみりゃ、へったくれもネェのよ。


なー、そう思わネェ?ヒィッツよー


なー


ってめぇ、聞いてんのかオルァ!


「って」


いやしねぇ!!!


辺りを見回すと、祭りの雑踏。
祭りに見えるが、こりゃ全部、単なる「市」だってのが本当なんだけどな
一般人庶民皆々様におきましては、格調高く「御ン祭り」などと勘違い。

違わず俺もそれに倣っちまぇば、其りゃ又、其れで楽しみ方もあるッてモンだ。

人の群れと、店の群れ。
浴衣と洋服の入り乱れ、アイツに着せたのは「観世水と松の柄」。
もっとギンギラギンに目立つヤツ着せときゃ良かったぜ。
スッパンコールな感じのヤツとかよ、花魁みてぇに派手派手な淦(アカ)とかよ。

…って、こりゃ、アイツがはぐれたのか?
それとも俺がはぐれたのか?
…俺って実は迷子チャン?

…迷子センターにでも行って、呼び出してやるか。
「呼び出しは、ちょっと…」
なんだ、迷子格納所かよ。
くっそう、そんなんなら、こんなトコ置いとくなよ。邪魔クセェ。

まぁいいや、この祭り…おっと、市だったな、にゃァ、外人の客なんてそうそう居ネェだろうから、
すぐ見つかる…

だろー

ってー

…キンギョ掬ってる外人が目に入ったんだけど俺ってばどうする!?


当然、着物の柄は観世水と松の柄でローケツ染め!んなろう、そんな処に居やがったのか!
って云うより

…俺のことも気にせずに、心配もせずに遊んでるッて


どーーーーーーーーーーよ。


むっかつく。


ドカドカ、と近寄って、隣にズドーンと立ってやる。

「?」

顔を上げたヒィッツが、むゥ、として。

「どこに行ってたんだ!」
「そりァ俺の台詞だバァカ!」
「魚は赤いし、飴は糸状だし、訳が分からん!」
「俺の知ったことかよ、ンなん」

手元を見ると、水に浸ったまんまのモナカは既にキンギョのエサ。

「おい、食われてンぞ」
「ん?アアーッ!また食うかこいつ等〜!」

…また、って、御前ねェ…
思わず、苦笑がもれた。

ちょっとその場所俺にゆずらネェか。
マァマァ、イイからよ。

どうしたもんだろ、こうしたもんだろ?
大したもんだろ、どうにかなっちまいそうだろ。ちょチョイのチョイだこんなモン。

「…お客さン、勘弁してくださいよ〜」
「んっふっふ、参ったか。」
「参りました、ねェ、半分ほど返しちゃくれませんか」

どーだ、とばかりに振り向いたら、
ヒィッツの困惑した顔と、
…壁のようなオーディエンス

…は、は、半分といわずに全部返すッて

「え?いいんですかい?そりゃ、流石に…」
「い、いや、3匹だけいりゃ善いや、な、3匹、小ぶりなんで十分、な」

はァ、と情け無い声を出して、テキ屋のおッちゃんは俺に小さな水入りキンギョ入りの袋を持たせた。

立ち上がりざま、ヒィッツに其れをグイと突きつけて、其れを受け取ったのを確認シテ、
其の袖を憤怒とばかりに引っ張りゃァ壁を抜ける。

「ちょ、っと、レッド?おい、余り引っ張るな!」
「うっせェ、兎に角付いて来い」

此処ァ確かに右手は街だ。
然し、左手を見上げりゃァ御山さんがズンと聳え立ってる。
黒い塊が俺たちを見下ろして
多分俺達は其れに何時しか呑まれッちまうんだ。

それとも。

今、正に呑まれて見るか

どう足掻いても溶け込めない
スラッと綺麗な外人さんは、
日本の祭りに一人で浮いて
そりゃァ居心地が悪そうに

「…行こうぜ」
「?どこへ?」
「お前が似合うトコ」
「…え?」

手首、握り締めて。
ああ、この内側から、鼓動聞こえる。
それに答えるかのように、水ン中でくるりくるぅりと回るキンギョ。
トクンひらり。トクンとひらり。

真っ黒な階段
真っ黒な木々
真っ黒な俺と
真っ黒なお前

月に照らされ、ちょーいとボンヤリ光ってらぁ

「どこまで、行くんだ、そろそろ足元が危ない…」
「十傑集が弱気なこと言ってんじゃァネェよ」

もっと、こっち。
もぉっと、こっちだ。

俺の勘が正しけりゃ。

此処を抜けたらぁ…












でっけぇ、ネオンの渦












「…」
おいおい、其のボケッと開いたクチ、何とかしろてばよ。
「私にコレ(夜景)を見せるために?」
「んや」
「?違うのか?一瞬感謝しそうになって損したな」
「俺が此処でお前を見るため」


うん。

其の顔も。
其の姿も。
此処なら、俺が満足出来ンよ。納得納得。
やっぱ、お前にゃ古いもんとか風物とかそんなもんぁ似合わネェ。
もっとギラギラしてて、無意味やたら無闇絢爛。其れがお前にゃ似合ってる。

浴衣がちぃッとアレだけど、其処はまァ、こんな所で剥いてもしょうがネェって事で、勘弁しといてやらぁ。

おいおい、何でそっぽ向いてんだよ。

あー?

「おめー。照れてンな?」
「照れてない!お前が恥ずかしいことを言うからだ!」
「ンじゃ照れてンじゃァネェか」
「…」

ぐい、と突き出されて、ふいに受け取ったのは、キンギョの袋。

「なんだよ」
「これはお前が持ってろ!私はいらん!」
「じゃあ、何でキンギョ掬ってたんだよ!」
「…」
「オイ、俺ほっといて、キンギョすくいたァ、よほどの度胸か、よほどの莫迦だよなァ!」
「…お前が持ってろ」

つき返したキンギョは、また俺の元に戻ってきて。
水の中でてんやわんや。
ンなコト、構っちゃいられねェ。

「探しもせずに、遊んでるってよぅ、どうよ。なぁ。ヒィッツ。」
「…」
「黙秘ってのはマジむかつくんだよなァ。殺すよ?ああ、そだ、裸に剥いて此処に置き去りにしたろか?」
「…お、お前に」

なによ。

「…お前が好きそうだったから…あそこにいれば来るかと…」



…なによ

「…ナニヨそれ。」

「ああ!もう、わかった!お前に似合うと思ったから、何とか手にいれたかった、それだけだ!
 あーもう聞くな、二度と聞くな、聞いたら私はお前を本気で殺す!イーナ、ワカッタナ?!」


え?


「二度と聞くなっていっただろうがー!キー!」
「ネ、ネ、も、もう一度云わねェ?もう一度!」
「い・や・だ・ね」

外人さんは、俺の色にゃそう簡単に染まっちゃくれなくて。
ギラギラの夜景を背に、まるで遠い所の人みてぇに。
分かってるから無理やり引っ張ってきた。
分かってるから無理やりぶち込んだ。
分かってるから堕とした穢した手にいれた。

でも何故かまだまだ遠い、まだまだ、遠い。

手を伸ばせば届くのに、其の色はまだまだ遠い。



遠くに市の盛りサカル音。

         てーんてんちきてんてーんちきてんてん

「もう一回行くか?」
「ほぅ。今度はなにで勝負する?」
「そうだな、射的なんかァ好々んじゃねぇか?」
「シャテキ?」
「まあまあ、俺が案内してやっから。」

遠くにあるのに近くにいやがる。
俺の色を嬉々として受け、そして染まりきりはしねェ。






色に祭りに浮いた男が二人





それでも楽しめりゃァ、ちったぁ色も、付くってもんだ…。







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コメント
いや、やっちまいました、和!(笑)
もともと、こういった文章が大好きでして。
からくりサーカスや、山崎竜二の小説なんかには、こういう感じのがよく出てくるんですが
GRではできないかなぁと思ってたんですよね。
そしたら、某サイト様で、お祭りヒィッツ君を拝見しまして!其の背後の草むらにはレッドの姿(笑)
ああ、そういえばレッドってお祭りか!日本か!和か!

…というわけで、わくわくしながら書いちゃいました。

因みにキンギョは世話ができずにカワラザキに預けられることになりました。
幽鬼とジイ様で仲良くお世話をしているそうな。

キンギョって育つと結構デカクなるッて本当ですか?