暑い日差し。
私を焼き尽くそうとして太陽が死に物狂いで光ってる。
その真下でクフィーヤもつけずに、アルベルトってばあまり機嫌のよくなさそうな黒ずくめでさ。
「こんな住みにくい場所がこの世の中にあるとはいささか驚いたな」
「…だからクフィーヤ使いな、って言ったじゃないかァ」
「余計な世話だ」
言葉と共に、グイ、と後ろになびかせたクフィーヤのすそを引っ張られて。
「げう。な、何すんのちょっと!熱くてイライラするからって人に当たらないでくれないか!」

ふん、と鼻で笑われて。
あのねぇ。
誰のためだと思ってんのかね、このバカ。
これでもかというくらい良い天気。太陽は真上、日差しなんかもう、ギラギラ、ってカンジで降り注いでいて。
でも、なんだか懐かしい感じ。
砂の大地と、太陽と、乾いた風。昼間は暑いのに、夜になると氷点下に達することもあるこの不思議な風土。
自分の身体がそれに準じていること、それは感覚で分かっている。
アルベルトにはきついだろうと思ってコッチは気にしているのに。

「アルベルト。今日はやけに突っかかるねェ?」
「下らん詮索だ。」


なんだそれ。


今日、この地、イスラエルに来ているのは、最近不穏な動きがあるという情報によって戦力調査にきているってだけ。
そんなコトくらいなら、何も十傑集を使わなくたって、下のモンで十分だろうと思うんだけどもねぇ。
また、聞けば「ビックファイヤー様のどうたらこうたら」とか言う言葉が帰ってくるだけだろうから、孔明に問いただす気も起きなかった。
アルベルトも同じで。
そりゃそうだよな。

命令を呆れた顔して聴いてたのを私は見ていたし。
そういうところが私達は似ているのかもしれないとも思うね。
違うかい?

ふと気がつくと、私の数メートル先をアルベルトが歩いていて。

「おい、アルベルト?」
「…遅いぞセルバンテス」
「キミが速いんじゃないか。ッて、なんなんださっきから…チッ」

つい舌打ちをして、早足で近づくと、それを確認してるクセに、さも関係ないような足取りで。

…?なんか、あったっけ?
多分ありゃ、怒ってるぞ。いつも結構ぶっきらぼうなタチだとは思うけど、意外に熱血派だし、
それでいて冷静で、まっすぐで、死ぬほど真面目。
自分に対して真面目すぎるんだよな。アルベルトは。

私みたいに多少はチャランポランでいると楽だとは思うんだけどもね。

しかしだよ。私ってばはなんかした?
いつもどおりにしてるだけなんだけど。
歩きながら、道の端に立ち並ぶ、言ってみりゃ出店みたいなモンを品定めしながら。
突然立ち止まった私に、同じように立ち止まって
私の見てるものを覗き込むのもいつもどおりだし。
品定めって言っても別に本気で見てるわけじゃない。

こんな場所に私の目にかなうものが置いてあるというなら別だがね。
ホラ、この店のこの品だって、どうみても観光客用のまがい物。
みんな、一番欲しいのは金であって。
だろ?マネー、ゴールド、それ以外に何が一番だと思える?
…ま、私の場合はそれ以外に大切なものもあるけれど。

「…アレ?」

考え事から復帰した自分の前に。
黒い影が見えなくなっていることに、初めて気がついた。

「な、な、な…。なんなんだ!ちょっと…行動は二人一組でしろ、って命令受けてるのに」

もしかして、追い越しちゃったとか。
考えながら歩いてたから、見ていたのは店の人間と品物くらいだったし
いや、そんなコトはない、アルベルトが近くに来ただけで私には香りで分かるはず。





とにかく、合流しなくちゃ…指定されている基地へは明日の早朝までに着けばいい日程になっている。
アルベルトが現場放棄、なんてことはそうそうないだろうからね。
多分、どこか近くに…


見回して。
ちょっと先まで歩いてみた。

そんなコトはないと分かっていながら、戻ってみた。

「…」

突然消えるなんて、卑怯じゃないか。

サングラスをはずして、太陽の方を見る。
あんな暑い格好してたから溶けちゃったとか。アッハッハ。

日射病で倒れて通行人に病院に運ばれたとか!?
ちょちょちょ、っと、それだったら一緒にいた私がかなり間抜けでは…

慌てて地面を見てみたけど、舗装もされていない珍しい土の路上には、誰かの倒れた後も無くて。
店の人間に聞くわけにもいかない、言葉を交わしすぎると顔を覚えられる、こんなところでダラダラとしていてもそれは同じ。
早く、アルベルトを見つけてココを離れなくては…。

ふ、と熱い風が吹いて、クフィーヤが捲くれ上がって、手で防いだ。
かすかに。
「…アルベルト?」
かすかなニオイ。
アルベルトがいつもハンカチに少し含ませている、あの体の奥をえぐるような冷たい香りの香水。
かすかに、そして確かに。
私の鼻腔をくすぐった。

風が吹いてきたのは、後ろから。

振り返っても。いるのは通行人だけ。

音がして、振り向いて。目の先には猫がいて、店の主人がいて、私を見上げて。

突如、目の中に映るものは、全部必要ないものだと。そう感じた。



グイッ


「……!!!」


ふいに、腕をつかまれ…



そちらを振り向くまもなく暗がりに引きずりこまれて、こ、この辺は観光客狙いのこういった輩も存在するから、危険なんだ…
って、襲われてんのは私か。
「いい度胸……!」
つかまれた腕を振り解いて銃を構えると同時に撃つ
と、その動きをシュミレートしてトレースしたつもりが…
「…なんだと?!」
腕が、離れない。
この、馬鹿力…

コッチは急いでるんだ、こんな低俗なことに付き合っているヒマは

「能力は使うな」
「…え?」
「余計なところで能力を使わんでいい。お前はもう少し出し惜しみをするべきだ」

…この。
この、ニオイ。

「アル…!」

どっと気が抜けた。
安心と同時に、やけに腹が立ってきて。
探してた自分が恥ずかしくて、周りが必要なくなる自分が照れくさくなって。

「あのねぇ。コッチはずっと探してたんだ、キミが勝手にいなくなるなんてことがあるから私がだなー…」
「隠れたわけじゃない。いなくなっていもいない。」
「…なんでそう自信満々なのかな、キミは」
暗がりに慣れてきた目は、少しだけ眉をひそめているアルベルトを捕らえた。
その顔の前に顔を突き出して目を見つめる。

「なーんでいなくなったの?教えてごらん?」
「別に理由などない」

ふーん、とつぶやいて、その鼻のアタマをペロ、っとなめてやると、慌てて赤くした顔を引いた。

「セルバンテス!」
「いーじゃん別に。なに?自分で勝手に迷子になっといて、私のせいだってんじゃないよねぇ」
「…」
「今度はだんまり?」

私が覗き込むたびに少しずつ後ろに逃げて行く身体が、土塀に突き当たって止まった。
もろい壁がパラパラと音を立てて地面に落ちてる。

ヒトが心配してたってのにさ?

何か考え込んでるアルベルトに、駄目だこりゃ、って、クルっと背中向けて両手を広げて。
「ま、余計な詮索されたくなさそうだしな、とにかくいーから集合場所まで…」
と、ソコまで言いかけた途端。
「うわ!?」
クフィーヤを強い力で引っ張られて。
身体が倒れそうになって、慌てて後ずさる。
「いっ」
…気がついたら背中からアルベルトにぶつかっていた。


「な、なにを、する…」
「セルバンテス」
振り向こうと身をよじる私を両腕で抱くように止めて。
強い口調で私の名を呼ぶ。

「おどかそうったって、そんなものは通用…」
「セル!」
「…っ」
なに?
なんか、怖いよ、声が…

クフィーヤを留めてある紐がほどけて落ちて。
それをすくうように止めたアルベルトの手が、私の口元にそれを運ぶ。
「咥えろ」
「…ナニ、いってんの、あのネェアルベル…」
むぐ。
開いた口に布キレは押し込まれて。
押しのけようとした手は払われた。
背後のアルベルトの顔、どうやっても見えない。
わざと、私に見せないつもりだな。
そんなので恐怖煽ろうったって…

「セルバンテス。自由すぎるのは考え物だと思わんか」
…意味が分からないよ、キミの言っていることは

胸元に這わされた指が、赤くボンヤリと光ってる。それは脅し?
照らされたスーツのボタンがその指に外されて。
「…ッ、ん、」
「黙っていろ。人に気づかれる」

低い声を聞きつつ、自分の前がはだけられていくのを自分で確認して。
…もしかして、犯る気?

何故、今?
何故、こんなトコロで。
何故、そんな気に…

カチリという音と共に、足元に布の塊が落ちた。
「-----------!」
もう口に咥えたクフィーヤは、落とせない。
だって…見え、て、しまうじゃ、…
風になのか、かすかに揺れる布が裸身の肌を撫でる。
布と布の隙間に差し込まれていく手、指が、身体のラインをなぞるようになで上げて。

「ん、っふ…」

「ココか?」
「っ!!!ん!」

強く指先ではじかれた胸に、身体が跳ね上がった。
右の指が、止まることなく柔らかにソコをなぞって…左の指は今一番触れられちゃまずいトコへ!

「んー!!!」
「何を言っているのか分からんぞ?」
「!」

湿った指が。
滑るように敏感な場所を握りこんだ。

自分で、分かる。

アルベルトの指の動きがやけに滑らかなのは…

「スゴイな…これはこれは、どうしたことかな?セルバンテス?」

もう。
何、言われても、
滑る、指。
「…ッ!」
喘ぐ、身体。
「ん、んっ」
耳元に聞こえるアルベルトの笑い声。
「ふぅ、ッ」

全部がこだまして、身体の奥を突き上げる。

強く目を閉じて。
歯だけを強く食いしばった。
膝の力が抜けて。身体が崩れようとも快感は途切れなくって…
…頬に触れるのは、土のにおい。
もう、無意味に噛んでるだけの布。
空中掴んでる指。
背後に感じる熱い体温。


「…アル、ベル、ト…ぉおッ…、も、ォ止め」
「気が殺げる。黙っていろ」
「…う、ぐ」


舌先に砂の感触。
じゃり、と苦い感覚。
腰を掴む爪先がいっそう強く食い込んで。
身体が強く押し上げられて、目眩に砂を掴む。






「…あ、ッ…」






腰を掴む手を、右手で包んで。



左手で自分の口を強く塞いだ。
















さくさくさく。
粗い砂を踏んで。

「あのねえ」
「…うむ。」
「うむ。じゃない。」
「わからん」
「わからん。でもない!」

何事も無かったかのように、町並みを二人で歩いていて。
腰の辺りがズキズキするじゃぁないか。

「…そうだな」


太陽は傾いてもまだまだ強くて。
自分の頭からクフィーヤを外して、アルベルトの頭にボサッとかぶせた。
「おい!」
「…なに?また怒ってどっか行っちゃうワケ?」
「…怒ってなどいなかった」
んじゃ、なによ。
「気に入らなかっただけだ、この町はお前に溶け込みすぎていて、しかし、自分だけはじかれたような気になる」
はぁ?

あーあーあーあー。
ようするにー。

「寂しかったわけだ☆」
「!?」
クフィーヤを捲り上げてそのおでこに一瞬のキス。

冷静な顔作ってるけど、眼球内の反応が驚いてるのがわかるよ?

「いつでも抱いてあげるしいつでも抱かれてあげるから」
「セ、セルバンテス!!!」
あっはっは。
笑っときなよ。とりあえず。怒っておきな。今のうちにな。
「ソレ、あげるから大事にしろよー」
「こんなものはいらん!おい!セルバンテス!」
「ダイジョウブ心配ない!私はいつだってキミのものであり私はいつだって私の、モ・ノ、だ」
両手を広げて高らかに宣言すると、しかたない、って顔してアルベルトが笑った。

私も笑って。



そう、笑ってる。体中で心の奥底から笑っている それは「キミと」だけに起きる不思議な現象。



笑う。私達はよく、笑う。









心の中だけに 「予測不能の別れ」に対する覚悟を秘めながら。



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コメント
なんとなくね、寂しい話になっちゃいましたね。
本当はセル調教モノ書こうかなとか思ってたのに(ヲイ
ぜんぜん違う話へ。
しかもなんかまとまり無いし。ごめんなさい。
今度もっと気持ちがしっかり決まったときに小説書きます。

えー、セル亡き今、あるの胸ポケットに入ってるハンカチは、セルのクフィーヤを使ったものだ、と…
エー、はい、妄想でーす☆(爆死)

で、多分この眩惑、眩惑本人じゃないです。偽モンです。
中学生みたいだし!ぎぃー!親父スキーの名が廃るー!!!
…元から廃れてた。エヘ(≧▽‘)ノ★←(死)
もっと、こう、えもいわれぬ力を秘めた感じの男に書きたいですね…受けでそれはムリか?!(笑)