「ねぇ。アレ、やっても良いかな?」
「駄目だ」

寝起きの頭をワシワシと掻きながら、セルバンテスの言葉に不愉快に答える。
当然だ、朝起きたら、このオトコが儂を覗き込んでいた。
気分が良いわけが無い!!
ベッドに起き上がって、シバシバする目を少しこすった。
頭が、ボンヤリする。今、何時だ?
…昼前か。少し寝すぎたようだな。

「ねぇ」

うるさい。

「イヤだって言ってもムリにすることも出来るんだけど?」
「うるさい、お前がどうしようと儂は知らん」
「へぇ、じゃァ、アレに耐えられるんだ?逆らえるんだ?」

セルバンテスが儂にさっきから何度も何度も言っている、アレ。
それは、彼の能力のことで。
精神を完全にのっとられると言うことは無い、と自分でも自信がある。
おそらく、セルバンテスがある程度加減しているからなのだろうが。
それでなくても、儂がそれに自信をもてないなら、十傑集と名乗るのを恥じるべきだとも思うしな。

セルバンテスの手が、儂の肩を触って。
それを、無意識に跳ね除けた。

「…じゃぁ、知らないよ」
「知るか、儂は今不機嫌だ。そして眠い」
「体の中が濁流のようなんだよ。苦しくてたまらない」


苦しい?

思わず、言葉に振り向いた。

瞬間、額に掌が当たり、
っ!

しまっ…


「っぐ」


その手を、どけて…
ムリに、こんなことしても
仕方ないのはわかっているだろう、セルバンテス!


開いた指を掴んで、身体の外へ
光る、目

「ねぇ、ほら。気持ちイイだろう?」

「…っ」

「ほぉら」

「…っく、」

自ら掴んだ腕から、
その、目から

「あ」

「…さぁ、受け入れてしまいなさい、私の能力をね…頼むよ…まだ、出し足りない」

足り、無い?
それは、どういう…

体中がびりびりして。
知らずに背が弓のように反る。

覗き込む、瞳。

「な、ぜ」

「何故?さぁ。君が飛んだら教えてあげよう。飛んでごらん?君の精神は遠くへ、とぉくへ飛んで、しまう」

飛ぶ、ものか

頬に何かを感じて、苦し紛れにそれを確認すると。
セルバンテスの指。
全てが麻痺していくような…呼吸を塞いだものがなんなのか、一体、なんなのか

口内に、ぬめった感触

「んむ」
「…!っ、!!!」

胸の突起を探る指。
弾かれて、気が遠くなる。

駄目だ

「やめろ…!」
「…」
「セル…」
「黙りなさい。私の言うことが聞けないのか」
「…」

口は、勝手に言葉をつぐんで。
もう、もう駄目なのか、儂は。
この男の能力には、逆らえるものはいないのか。
儂でも、駄目なのか。
それが、できる、人間に、なりたかったのに

唯一、お前を任せる人間でありたかった、のに!

悔しくて。

「泣かなくても良いんだよ。怖いことじゃない、苦しいことじゃない。むしろ」
「…う」
「むしろ……」

バシン!

「っ」
「気持ちが良いだろう!?あッははははははははは!!!」

頬をヒトツ叩かれて。
我に返りかけた瞬間、今までに無かった濁流が首筋を掴んだ指から流れ込む!!!
…コレは、誰の悲鳴、だ?

遠く、聞こえる声。

「飛んだ?どうだい、イキそうな寸前の感覚、たまらないだろゥ?」

浮遊感

「綺麗な、目だね。閉じてごらん。私を見る必要はもう無い」

そう、見ない。…目の前が暗くなる

「私の能力はすごいだろう?ただ欠点があってね」

そう、欠点がある

「たまに解放しないと自分が壊れる。」

壊れる

壊れ…

壊す

手を伸ばすと、何かに触れた

「…アルベルト?まさか意識があるのかい?」

意識

触れる、なにか

「…アル…」

壊す!!!!


「…−−−−!!!!あ!?」


掴んだ物を自分のほうへ、力任せにひきつけて。
壊す
その中心部。
そう、コレは内臓を覆う腹
そこへ、


「…!」


構えた掌を、其処へ押し付けて。

「あ、アル…」

押し付けた先が、ひどく震えているのに気がつく。

なにが、どうして?

これは、ナニ?

壊す、モノ

衝撃波の子供が掌に集う

ビリ

ビリリリ

「う、あ、あ、ああっ」

声が聞こえる。それはひどく引きつって苦しそうに

そう、壊さなくては、この声を
でないと、戻れない

「…ま、さかァ、支配下で動くなんて、う、」

頭蓋骨を掴む頭、其処から直接送り込まれるのは、なんともいえない圧迫感!
目を閉じて
のけぞって
手元にあったものを抱きしめ
その背中に熱い

衝撃!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

声の無い叫びが、高くこだました。







「イ、イタイ、痛すぎるよっ!もう、なんでキミはそうなのさ、何時も思い通りにならない!」
べちべちべちべち。
気がついたら床の上で。
半泣きになったセルバンテスが儂の額を叩きまくっていた。
「バカ!死ね!なんなんだよもう!痛いじゃないか!!!」
「…イタイ?」
ぼやけた頭を軽く振って、頭の隅に引っかかっているものを懸命に思い出す。
…イタイ?
「…痛かったのは儂の方だ!」
「うっさい、私だって痛かったんだ!」
「知るか!お前が悪いんだろう!全部が自分の思うとおりになると思ったら大間違いだ!」
「なる!」
「ならない!」
「なるんだよ!」
「ならんと言っているだろうが!!!」

ゴン。

「痛いー!!!」

…しまった、つい、手が。


目の前にいるのは、さっきの悪魔ではなく、情けない顔をしてムスったれている男一人。
単なる、我侭男が一人。

「お前の能力には欠陥があったのだな」

「…」

ジロ。

儂を見る目が。一瞬悪魔の目に変わりそうになるから、額にデコピンをした。

「痛っ」
「忘れさせようとしても無駄だぞ」
「…忘れろ!」
「ムリだ。」
「忘れろ!忘れろ!!!!」

床に向かって、何度も、何度も。
セルバンテスは何度も、叫んだ。

…そんなに、知られたくなかったのか?

なぜ?

「…カッコ、悪いじゃないか!私は強い!誰も逆らえない!そうじゃなくちゃいけないんだ、そう、」


戸惑っていた。
いくつもの顔を見せるセルバンテスの、始めてみる顔に。
脆い。脆すぎる。

この男が、十傑集?

この姿を見て、誰がそう思えるだろう?

この、姿を見て

「…捕まえた」

え?

うなだれたままのその姿に、屈み込んで近づいた、
そして

儂の目の前に。


目を見開き、笑う悪魔の顔があった


…堕ちる


間違いない
この男は、十傑集の一人、眩惑のセルバンテス。そう、相違ない。相違、無い

目が

あったら

殺される

戻ってしまう、あの時間に、

…あぁ!

苦し紛れに自分の腕に食らいつこうと

…ん?
突然、気が抜けたように身体が楽になる。



「なんちて。もう良いや。結構すっきりしたし」



そういって、まるでさっきのことが嘘のように笑う。
儂をふ抜けさせることの無い、この男が、儂の好敵手でもある、そのことは間違いない。



「寝ぼけてると、あの世行きだぞー☆」


「ふん、わかっておるわ」

シャ、とカーテンを開ける音に振り向くと、酷く眩しい日の光。

「目が覚めたかナ?」
「…ああ、さめすぎた」
「そう?おはよう!はい、お返事はァ?」
「…くだらん」
「悪い子だな、アルベルト君は」


はぁ。
たまらない、この男に出会ってからは。
たまらんよ。
儂の、精神を刺激して呼び覚ますことのできる男。
貴様の理由なんてどうでも良い。
儂のこの精神にもっと刺激を与えろ、そうすれば儂はもっと、さらに強くなる。


立ち上がって、窓の外を見ると、やけにすっきりと頭がさえていることに気づく。
そう、コレが必要なんだ。
儂には。
この、ギリギリの感覚がなければ。
それを、儂に与える。惜しげもなく。
そして、儂はそれをどこかで待っている。



しかしだな。
たまには普通に起こして欲しいものだな…大莫迦モンが。






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こめんと
アルベルトが苦しんで無理やり服従される姿ってヤツを望まれたので、
書いてみました。が。
たぶん違うものに…(汗)
駄作も良いトコです。お目汚しでした!!!