何もかも、思い通りにならない。
スベテが私に逆らってくる。
あの金は動かした、あの株はハジケさせた
あいつは殺して、アレはもう見限った
スベテ自分がやったことなのに、すべて思い通りにならない。
何故だ。
何故だ。
何故思い通りにならない。
そもそも、

思い通りにしたいと願ってる私は、

…「何をどうしたら」「自分の思い通りだ」と感じられるのか、それさえも…


街灯、石畳。
車通りよりも駐車のほうが多い、S−5番街。
番街、というとどうも暗いイメージがあるけれど、ここはそんな感じはしない。
むしろ、街の中心部のように見える。

ウインドウの向こうに、人をかたどったマネキンが当然の存在のごとくに聳え立つ。

時を刻む時計は寸分の狂いなく、商品としてその時間を金に換算する。

…私は時計が嫌いだ。

でも、時計が必要だ。

しかし、その針の一刻み一刻みが私の人生であり、私の生活を刻んでいるなどと?はっ、おこがまし過ぎる!

えらそうに時間なんか刻みやがって。
私の時間はお前のようななちっぽけな物が計れるモンじゃぁない!

…何を見ても、苛苛する。

時計もマネキンも、罪など無いのに。

ありきは、この身我がこの身。




認められるものか。
認めたら、私は笑えなくなる。
認めたら、私は、
…前さえも見られなくなるだろう。




…腹が立つ!!!!!







左側の駐車車両を蹴飛ばそうとして、あまりにかっこ悪いので、やめた。







こんな公の場で、私の怒りをぶちまけてしまっては駄目だ。








私は人知れず怒り、そう、人の前では笑っていれば、それで良い。










__________________________










…あれは、セルバンテス。
珍しい。
一人で歩いているなどとは、本当に珍しいな。
そんなところを見る機会も無いだろう、面白そうだ、ちょっと後でもつけてやるか。
興味半分、後の半分がなんなのか分からぬまま、その白い後姿を追った。

影はショウウインドウの前で立ち止まる。

…っと、危ない危ない、気づかれては面白くない。
向こう側の歩道に回るか。
いやいや、何か考えながら歩いているようだ、もしかしたら気づかないかもしれない。

…何かの拍子にコチラに気づいて、儂がいることに喜ぶ顔も見たくないこともない。

うむ、向こう側の歩道はやめておこう。

ウインドウの前に歩を留めて、そのままじっと其処を見上げている。

??一体、何を見ているのだ?
何か、買い物か?

振り切るように、ウインドウから身体を反らして、セルバンテスはまた歩を進め始めた。

距離を保ちつつ、ウインドウの前に差し掛かる。

「…??」

…ウ、ウエディングドレス?

な、何故コレを見ていたのだ?コレの何処に何があるというのだ?
やけに、集中して真面目に吟味していたように思う。
コレはやはり結婚式に着るものだ。
しかも、ココはレンタルのドレスとかそう言った物を置いている店ではなさそうだ。
と言う事は買うのか?
このウエディングドレスでは、気に召さなかったのか。
い、いや、そもそも、ウエディングドレスなど、何に使うのだ!?

結婚式くらいにしか使わんだろうが、儂も呆けたか。

結婚式?
セルバンテスは、コレを誰かに贈るのか、それとも、自分で必要なのか?
…アイツが結婚!?????

そ、想像つかん。

ま、まあ、なにか、たまたま凄いドレスだったから、デザインや何かに見とれていたか、
デザイナーやら、ああ、そうだ、アイツのことだ、もしかしたら、会社の関係かも知れん。
気に入ったデザイナーを探しているとか。
…こんな街中でか?

「お」

っと、しまった、そんなコトを考えているうちに、セルバンテスが行ってしまう。

よし、解明だ。
ヤツが何をしているのか、必ず解明してやる。

本人を引き止めて聞けばいい?

…それでは、面白くないではないか。

セルバンテスがまた立ち止まる。
今度は、また違った店の、ウインドウとしてはさっきのよりは、もう少し小さめのものだ。
今度は、なんだ?

何を見ているのだ?

ウエディングドレスの時と同様、じ、っと見入っているようだった。
また、何か考えておるな。
何を考えている?
買い物でもしたい気分なのか?ならば、店に入れば良いものを。

やはり先ほどと同じように、少しの間、其処で立ち止まってウインドウとにらめっこを続け、
また振り切るように歩き始める。
欲しい物があるのに、我慢をしているのか?
いやいや、アイツに限ってそんなコトは絶対に無い、欲しい物は、即金だろうとなんだろうと、その場で手にいれたがる性質だ。

また、距離を保ちつつ、セルバンテスの見ていたウインドウに差し掛かり、横目で確認する。

…!?

ゆ、指輪?
貴金属類が並んでいるウインドウ内には、時計や、装飾品が並んでいる。
その真ん中に、

**二人の誓いの印を形にしたいんだ…**

と、このまま頭に記憶しておいたら、プロポーズに使えそうな文句が添えてあり。

その下に、対の指輪。


指輪?ウェディングドレス?!?


分からん!

理解できん!

いや、理解はできる!

し、しかし、しかしだな、どういうことだ、


そうなら


儂は…


_________________________


何かに当たったとしても、多分この気持ちは晴れない。
何で、私は外を歩いているんだろう。
人にすれ違うたびに、その存在を消滅させたくなる。
全部、塵になってしまって、私だけ残れば、どんなに楽かもしれないのに。
 
そういえば。大作くん。
 おじさんおじさん。おじさんは面白いね。
草間。
 あなたには本当にいつも息子がお世話に…また遊んでやってください
孔明
 貴殿は気楽でいいですねぇ

ふざけるな。
死ね。
死ね。
死ね。


面白い?
遊ぶ?
気楽!?


ふざけるな。
私に近寄るな。
近寄るな。

私に笑顔を作らせるな。

ああ、分かってる、私の存在をよしとして認めてくれているんだよね。

認めてくれているんだよね。

うるさいんだよ。

うるさいんだよ。


「あら、ダラーじゃありませんか、こんな所で珍しい」
「…おやおや、これは、神楽コーポレーションの」


こんな時に人に会うなんて。
早く、話が終わらないだろうか。
ああ、



ワタシ



 ま た、 笑 っ  て  る





________________________




もし、そうなら、儂は…
どうしたらいい?
なにがだ?
儂に何の関係があるか。
儂は何を考えている?
わからん。
わからん。
そうだ、儂には分からん。
何のことなのか、さっぱりわからん。
分からんことも、世の中には存在して然りなのだ。
そうだ。



儂はなんなのだ。


セルバンテスが結婚?


ならば、儂はなんなのだ!


今までの儂、今までのお前、儂を求めたお前は一体なんなのだ。


許せん!!!


ハッキリした言葉を聞かせてもらおうか!


「セルバン…」


テ、ス。っと、お、くそ、こんな時に、誰かに捕まりおってからに。
儂が話しかけにくいではないか。
しかし、ココで突っ立っているわけにもいかん。
通りすがりのフリでもするか。

いや、このまま帰ろうか。
いやいや。
儂は、こういった中途半端は好かん。

はっきり、させてもらおう。
今すぐに。
そう、今すぐだ。
だから、その男をさっさと退けんか、セルバンテス!


__________________________



「どちらへお出かけですかな?」
「やぁ、単なる散歩ですよ」

(うぜぇよ)

「ほほう散歩ですか。ダラーほどのお方になると、やはり息抜きと言いましても
 遠くまでお出かけになることは出来ないわけですな」
「あはは、そんなコトは無いですよ、神楽専務もお忙しいのにお声など掛けていただいちゃって、よかったんですか?」

(消えろよ、うぜぇ)

「ああ、ワタクシは今丁度休暇中ですから」

(顔が、引きつる…)

「そうでしたかー」
「おお、そうだダラー、どうですか、昼食でも?」

(嫌だ、これ以上拘束されてたまるか。気づけ、私の都合に気づけ、押し付けるな、自分の都合ばかり!)




「ダラー」




!!!!!!?





振り向くと。




「あ…っ」
「まだこんな所で油を売っていたのか、待ち合わせに遅れるとはお前らしくも無い」
「…すまない、ちょっと、親しい人に久しぶりに出会ってしまってね」
「ほう、これは、邪魔したか?」

いつ、君と待ち合わせしたんだよぅ。

「おやおや、それでは引き止めてしまって申し訳御座いませんでしたな、ダラー、また、次の機会にでも」
「そうだね、そのときはご馳走するよ」
「それはそれは、楽しみですな…それでは、失礼を…。」

神楽専務は、アルベルトに他人行儀に頭を下げると、私が蹴ろうとしてやめた車へと乗り込んだ。

…助かった。

一人でいたかったんだ。

もう、しゃべりたくないよ。

今ので、どっと疲れ…

「セルバンテス」
「…」
「返事をせんか」

やめてよ

「一つ、聞きたいことがある」

…お願い、ほおっておいてよ。君を邪魔だと思ってしまわないうちに。

「そ、その、う、なんだ、お、おまえは」
「?」

な、なに?
あまりにどもるから、気になってアルベルトの顔を見てみたら。
四角と丸と三角で作ったような顔してて。
…な、何、その顔。

「…っぷ、ッははははハハハハは!な、なにその顔!」
わ、笑わせないでよ!
「笑い事ではない!結婚するなら、すると、儂に何故言わん!」

ハァ?
結婚?
誰が?

「…お前が」

空が暗くなってきたのを察知したのか、街灯がボンヤリと灯り始める。
でも、まだまだ空は明るいのに。
こんな所で、光を燈していても、誰にも、何にも、届かないよ。

目の端に、無意味な街頭の光。

でも、それがまた、どこかこうわびしさを感じさせていい感じがするよね。

うんうん。

ああ、今日は夕焼けが無いんだ。
だから、空が青いまま、夜になっていくんだね、ビルの隙間から、ちょっと見え




__________結婚ンンンンンン!?!?!??!!




だ、誰が!?
私が!?
街灯が!?
夕焼けは!?
え?!
なんでそうなるの!?
いつ誰からどうやって何処でどんな風にそんなコトを聞いたのか私に教えなさい今すぐ殺してくるから!!!


「ち、違うのか?!」
「何で私が結婚するのさ、嫌だよ冗談じゃない、一人の女に縛られるようなタマに見えるかい、私が?!スッゴイ心外!ダラー心外!!」


ガシ、と腕を掴まれて。
ずるずると引っ張っていかれたのは、宝石店の前。

「こ、ここで、見ていただろう?」
「あ、ああ、うん」

「指輪を」 「時計を」







アルベルトー。
凄い顔だよーー。








「ちょ、ちょっ」
「こっちに来い!」

次は、大きなウインドウの前で。

「ココを見ていたろう!」
「あ、ああ、うん」

「ドレスを」 「マネキンを」










アルベルト〜〜〜

キミ。

「ニャッはハハハハはあっはハハハハ、ひ、ひぃぃぃー何、ナニソレ!ナニソレ!!!」
「う、うるさい!普通ココを見たら、ドレスを見るだろうが!」
「あっはははははは!そ、ソレで私が結婚!?結婚!?ひぃ、く、くるしひ、しむー」
なんなの、何なのキミ。
私笑いたくなかったんだよ!?
笑っちゃったじゃないか。

しかも、


キモチイーじゃないか!


よし分かった。
面白いから、気持ち良いから、私の気分が良いから。
「ドレスは駄目だけど、君に指輪を買ってあげるよ」
「…な、何故そうなる」
「いいから、ほらァー」

ホントの気持ちをぶつけてくる君に。
安心した私は、君にゴホウビ。
私に、ゴホウビ。

大丈夫。
大丈夫、私はまだいける。

扉を押して。

暖かそうな光が、中から漏れてくるから。

たまには、その中に二人で入ろうよ。

安物でも、輪ゴムでも良い。君に、何かプレゼントしたくてたまらない。




ねぇ





   私








  ……









君が、大好きだ…











〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

コメント

…一気に書きました。
と、久しぶりかな?視点が変るタイプの小説は。
でもいつも、どっちかの視点で最後を締めちゃうんですよね。
最後のセルバンテス視点から、アルベルトのキモチも分かってもらえるといいなぁ。

ちなみに、タイトルの うら 【心】  とは、
表に対する裏、外面に現れない内部の意
です。
心、って字を、大辞林第二版で調べてみると、色々出てきてちょっとオドロキ。