イルーゾォが足の骨を折ったらしい。
そう言う噂を聞いていた。
俺はイルーゾォが通常働いている店に顔を出してみたが、
案の定其処にはその姿は無い。
「ねーちゃん、イルーゾォは今日は?」
アミューズメントフロアの一角のちょっと大きめのゲームセンター。
カウンターのねーちゃんに軽軽しく声をかける。
「あ、スミマセン。なんか足折ったとかで、
もう一週間くらい休んでるんですよ〜」
ねーちゃんも軽軽しく答える。
ガキの遊び場ってのはこの程度だ。

イルーゾォの家に直接行こうかとも思った。
アイツはパッシオーネに与えられたマンションで一人暮しのはずだ。
パッシオーネは格が上がればそのヤサを用意してくれる。
イルーゾォは認められているってこったな。
俺は持ち家があるから、そのありがたい申し出を受け取らなかった。
案の定だぜ、と、イルーゾォが言っていた。
盗聴機だらけで外すのに手間がかかったと。
そんなところにずかずかと上がりこむのもどうかな…
そんなことを考えながら、まっすぐイルーゾォの家に向かう自分に気づく。
「阿呆か俺は」
最近刈りなおした坊主頭をワシワシと掻く。
まあ別に、相手は足を折ってるわけだし、変なことにはならないだろうと思う。
俺にだって分別くらいある。

パッシオーネが与えたマンションはわりと小奇麗なものだった。
意外に神経質なイルーゾォは部屋をきちんとしている。
しかし見えないところが結構…
いや、イルーゾォのためにコレ以上は触れないで置こう。
玄関脇のチャイムを無視して、思いきりドアをダイレクトに叩く。
「イルーゾォ!いるんだろ?開けろー」
ガンガンガンガン。
部屋の扉が開く変わりに、隣の扉が開き、オヤジが顔を出した。
「こんにちわ」
オヤジには借金取りか何かに見えたのだろうか。無言でドアを閉められる。
ガンガンガンガン。
「るっせぇな!近所迷惑だろ!」
叩きつづけるドアが突然がばっと開いて俺の脳天を直撃する。
「俺の叩いたノックの音よりお前の声のほうがデケェぞ!」
文句をたれながら、イルーゾォの了解も得ずに扉の中に押入る。
コレじゃ全く持って借金取りだ。
ぴょこぴょこと、片足でイルーゾォがあとずさる。
玄関を俺に開けてくれたようだ。

「松葉杖は?」
「面倒だよあんなモン」
そのまま向きをかえて、ベッドに、ぽふん、と座る。
折れた片足をプラプラさせながら、冷蔵庫を指差す。
「なんか飲むなら其処開けて。なんかあったら飲んで」
「無いだろうと思って買って来た」
「おお、イイ嫁さんになれるぞホルマジオ!」
誉められてるのかバカにされてるのか。
横に据わった俺の持っている袋を、足もかまわずに覗き込む。
「酒も買ったの?」
「俺が飲む」
「俺も飲む」
「怪我の治りが悪くなる、止めとけ」
本当は絡みグセのあるコイツに飲ませたくないだけ。
絡まれて抱き着かれたりなんかしたら、多分責任持てない。
怪我してるときくらい休ませてやろうと思っているのに。俺の心遣いだ。
つまらなそうに舌打ちをすると、
がさがさと中を探ってスポーツドリンクを探し当てる。
「コレ貰ってイイ?」
「開けてやろうか」
「アホ、怪我してんのは足だ、コレくらい開けられるって」
それを取り出して、頬に当てる。
「あーつめてぇ…」
小さくため息をついて、目を閉じる。
「お前まつげ長いのな」
「それお前に言われるの多分10回目くらい」
俺に目もむけずにそう言うと、イルーゾォはそれを首筋に移動した。
「あーきもちいー」
「なんだ?汗かいてんのか」
「あ、わりい俺風呂あんま入ってねぇんだ…匂う?」
そう言われて、イルーゾォの肩口に顔を寄せてみる。
「うんにゃ。お前の匂いがする」
「それ遠まわしに匂うって言ってない?」
ばつが悪そうに、俺からちょっとだけ離れる。
言うんじゃなかったかな。離れられちゃったよ。
「気になるなら、風呂、入るか?手伝うぞ?」
「面倒だしな、いいよ」
「面倒だから手伝うって言ってんだよ」
おもむろにイルーゾォの体に手をかける。
「うわ、あぶねッ!何すんだ、離せ!」
ばたばたと暴れるが、あっけなく俺の肩に担ぎ上げられる。
飲み物の入った袋をそのまま冷蔵庫に入れて、
肩の上でむっつりしているイルーゾォを風呂場に運ぶ。
「そんなに面倒か?」
「ッて言うか、なんか俺、物みてぇ」
「人形だってたまに洗わないとダニが湧くんだ」
そうイイながら、イルーゾォの服を脱がせる。
「じ、自分でやるってば!」
イルーゾォがもぞもぞとボタンを外し始めるのを確認すると、
かなり余裕のある丸い浴槽に湯を張る。
そろそろ終わったかな、と脱衣所に戻ると、
ズボンと苦戦しているイルーゾォ。
床に座り込んでいるのをみて、つい噴出す。
「しょうがねえだろ!それ以上笑うと殺す!」
無事な方の足で脛を蹴られる。
「ってぇな…貸せ、ここで縺れてんだ」
「だから!自分でやるって、バカ、変態、放せ!」
聞く耳を持たないフリをして、さくさくと脱がす。
冷えないようにタオルをかぶせると、其処で俺も脱いだ。
「何?お前も入るの?」
「俺が入らなかったら湯船につかれないだろ?」
「は?」
なぜか照れるイルーゾォ。別に抱くなんて言ってねぇっての。
「なに?湯船でされたいのか?」
「バカ野郎、死ねハゲ」
裸の脛をぺちっと蹴られる。
包帯でぐるぐる巻きの足に、水でぬれないようにビニールをかぶせる。
そのまま担ぎ上げると、またまた暴れはじめた。
「お、おろせ!自分で…」
「せっかく来たんだ、なんか手伝わせてくれよ、なぁ」
何度か後頭部を殴られながら、風呂場の湯気の中にイルーゾォを持ちこむ。
「ぬるめにしたからゆっくり入れるぜ」
抱えたまま、一緒に湯船に入る。
ぬれないようにと、包帯の足を肩に担ぎ上げてから
イルーゾォに向き直る。
「……」
イルーゾォがめちゃくちゃ困った顔をしている。
俺も困った。
いくらなんでもこの格好は…。
「ホ、ホルマジオ…ちょっとコレは…あの…」
相向かいになって座った状態、それでイルーゾォの足が肩の上にある。
ちょうど開かれたソコに、俺の足が入っている。
イルーゾォが倒れないように、腰に手を回しているのが余計に…。
無事な方の足を幾分内股にして、イルーゾォが俯く。
「ちょっとヤラシイいな、この格好は…」
「言うな馬鹿ハゲ…そう思うなら放せって…」
気にすれば気にするほど気になる。いや、俺何言ってんだ?
「でも、ほら。俺は今日は絶対、しないってつもりで…」
「ホルマジオ…」
「な、なに?」
イルーゾォが俯いたまま、俺を睨み付ける。
「……当たってる…」
ゴメン。
絶対大丈夫だと自信があったのに、下半身は素直だった。
イルーゾォが俺の足につま先を突っ張って腰を持ち上げて逃げる。
「放せよ、濡れてもイイから、足…」
「気にするな、俺が若い証拠だから、な」
「そんなん納得できるか、
こんなモン押しつけられて落ちついて風呂になんか…」
ずるり。
イルーゾォがもがいたせいで、俺の手がすべる。
「っひゃ!」
身体がすべってずり落ち、首まで湯に落ちたところでなんとか捕まえた。
ゾク。
イルーゾォの後ろに、俺の立ちあがったソレがもろに当たる。
「…ッ…ホルマジ、オッ…どけっ!」
「どけって言ったって…う、動くな!」
真っ赤になったイルーゾォがむちゃくちゃ可愛い。

抱きしめようとして、体を持ち上げる。肩にかけた足首を膝まで持ち上げて抱えた。
湯船の向こう側にイルーゾォを押しつけて、顔を覗き込む。
必然的に、身体が密着する。
透明な湯に浸かった黒髪が、ゆらりとゆれるのを見て、指に絡め取る。
そのまま、引き気味の唇に口付ける。出来るだけ優しく。
そっと口付けた後、舌を入れて口の中を探る。
「ん…ぅ」
上顎を舌先でなぞると、くぐもった声を出して肩に手を回してきた。
イルーゾォの左足が邪魔で、身体を寄せられない。
右手で左膝を掴んで開かせる。
足の間に割って入ると、肩に回していた腕が俺の頭を叩いた。
叩かれたお礼とばかりに、ゆっくり犯していた口の中を、
強姦するように無理にこじ開けて舌を進める。あの時のような音が響く。
「…っはッ、んっく…ッ」
長く塞いでいたせいで、窒息しかけていたのだろうか。
離れるとむせながら荒い息を吐く。
「し、しないんじゃ、なかったんかよ…」
小さい呟きで抗議すると、上目遣いに俺を見上げる。濡れて光る黒い瞳。
「お前がそうやって誘うからだって」
浮力で軽くなった体を少し持ち上げて、
イルーゾォの背中から、下に向けて…指を動かして行く。
背中に知らない文字を書く。背中から腰。背骨に沿うように。
水の中なので、まさか口で濡らして入れる訳にも行かない。
ちょっと考えて、軽く後ろをなで上げる。
「う、あッ…」
恥ずかしげに俺の胸に腕を突っ張る。
「嫌か?」
「だって、風呂の中で…」
「んじゃ強姦だ」
「な、何言ってんだよ!あ、ひあああっ!」
何も言わずに無防備な後ろに指を入れると、水音と共にイルーゾォが跳ねた。
押さえつけて、キスで口を塞ぐ。
密着した身体の前で、お互いが擦れ合う。
慌てたイルーゾォが俺の肩を掴んで押すが、水で滑って上手く行かない。
押さえつけるように、より体を押しつけ、
久しぶりの挿入に強張る其処をちょっと乱暴に探る。
イルーゾォの苦しそうなうめき声が俺を煽る。
その声が聞きたくて、何度も挿入しなおす。
「…っぷは」
舌を絡めながら唇を離すと、その頃にはイルーゾォはぐったりしていた。
荒い息と、微かに開いた瞳で俺を見る。
「生きてるか?」
「っふぅッ……や、ぁ…ッ」
呼びかけと共に中で指を曲げると、掠れた声で反応する。
湯気で暖まった風呂の流しにイルーゾォを持ち出す。
浮力が消えて一気に重くなる。無論、折れた足は俺が担ぎ上げたままだ。
「足…下ろし…ッはずかし…」
「駄目」
「恥ずかしいってばよぉ……」
「ヤらしいモンなぁこの格好。」
言葉で煽っておいて、逃げようとする傷ついた足を掴んで離さない。
「ふ、ッ、く…や…は、な、しっ…」
もがくイルーゾォの中心部を焦らすように指でなぞる。
俺の身体で押し広げられた膝は、隙あらば戻ろうとする。
力で押さえる。なんだか俺自身が興奮してくる。
俺ってこういうの好きだったのかな?
「本当に、強姦でイイのか?嫌がると…それはそれなりにそそるんだぜ」
「お、お前がッ…そう、言うから…よけーに恥ずかしいんじゃ…」
「んじゃもっと恥ずかしくしてやるから、もっとイイ顔見せて?」
そう言って寝転がったままのイルーゾォの腰を浮かせ、
その腰を自分のついた膝の上に乗せる。
イルーゾォが掴みかかるが、距離があって俺にはとどかない。
この格好だとバランスが取れなくて起き上がれないはずだよな。
なんかテレビで見た。
「どう?」
「バカ!し、死ね!最低だお前ッ!」
「最低?へ〜…」
蹴り飛ばそうとする左足を肩でこじ開ける。
そのままその腰を引きずり上げ、おもむろに唇で犯す。
「ヤぁッ!嫌だ、や…ん、う…ッあァ」
濡れた体がのけぞる。もっと苛めたくなる。
脚の付け根を掴むように両手で持ち上げ、両の親指をねじ込む。
「ひッ、も…駄目、俺、ン、放し、て…じゃないと…イっちゃ…ああッ」
グイ。
軽い衝撃にイルーゾォが目を見開く。
俺は其処から口を離すと、舌先で舐め上げる。
「まだイかせやしないぜ…?なぁイルーゾォ、もしかしてお前溜まってる?」
何も言葉を発さずに、
おそらく発せないのだろうが、イルーゾォが抗議の目を向ける。
根元を指でくくって締めながら…
自分でも器用だなと思う…開いている人差し指と中指で、刺激を与えつづける。
「出せないのに、煽られるのってどう?」
「な、なんで…お前は…そう、そう言う…」
「俺もイきたいの。中で気持ちよくさせて?」
ゆっくりと閉めていた指を放す。一本一本。
放しても大丈夫なのを確認して、下半身を自由にする。
右足は掴んだままにしておいたが。
指で慣らした其処に、入れたくて仕方なかったものをゆっくりと。
中で蠕動する筋肉が俺の意識まで引きずり込もうとする。
「馬鹿、そんな締めたらすぐイっちゃうだろが…」
「今度は、俺、の番ッだ…」
そう言われてイルーゾォの顔をうかがう。
久しぶりの挿入の痛みに顔をしかめながら、
懸命に其処に意識を集中させているようだった。
「何?良くしてくれんの?」
「こ、後悔、させたるッ…っく…」
乱れる息を聞きながら、次第に深くして行く。
イルーゾォが懸命に力を抜こうとしているらしかった。
意地悪してやろうと思って1度腰をひこうとする。
途端。
「っぅッ!イ、イルーゾォ…締め…ッあッ」
イルーゾォの内壁の突然の締め付けに、恥ずかしながら息があがる。
良すぎる。どこで覚えたんだこんなモン…
悔しいからもっと感じさせてこんなこと出来ないくらい乱してやる!
俺はかなり照れていたらしい。
イルーゾォの意識がぶっ飛ぶまで、かき乱すことに決めた。
「覚悟、しろよ〜イルーゾォぉ!」
俺の猛攻に悲鳴を上げるイルーゾォを抱きしめて、抱きしめられて。
キスをして、されて。
溢れ出して止まらない。
俺まで、ぶっ飛んだ。

「ふぇ〜」
ちょっとぬる過ぎるくらい冷めてしまった風呂を沸かしなおしながら
ぐったりと風呂に浸かる。
「ムキになっちまった…いや〜ホント俺若いね。」
風呂の中で俺の声が響く。
イルーゾォがしかめっ面をしている。
「どうしたイルーゾォ?」
「どうしたもなにも…。」
「何か問題あるか?」
「あ、あり過ぎだ…!」
「へー?どこが?」
そう言って意地悪く舌を出す。
「ど、どこがって…あッ…」
「あ、悪い、俺動いた?」
面倒だからな。どうせ足は担ぎ上げなきゃ浸かれないし。
そんでそそられてヤッちゃうくらいなら、
元から入れとけばイイ…って、
俺、極端か、な?
乱れたせいでゆるく縛っていた髪がほどけて湯に散らばっている。
ゆっくりと目を閉じる。
あったかいお湯が肌を優しく撫でる。
あったかい俺の手が、この水みたいにこいつの身体を撫でられたらいいのになァ。
流れ動く水の感触に、ため息をついて目を開くと、
あったかいイルーゾォの手が俺の肌を撫でてた。
水みたいに。
俺を包んでいる水みたいに。
俺はもう1度目を閉じた。

時がゆっくり流れる。水音。イルーゾォの小さなため息。

手を伸ばすと今そこにある。

FIN