イヤ、騙してたわけでもなんでもないんだけど。
ジェラートの開きっぱなしの口を見て、ちょっとそう思う。
俺が誘ったんだし、1度俺の家に来てもらいたかったし。
だけど、まさか5分以上も家の前で固まられるとは思わなかったよ…
ジェラートがようやく、一つだけ言葉を発する。
「すご…い」
ジェラートの目の前にあるのは俺の家。
無論持ち家だぜ?
親が死んで(殺したんだけど)財産相続で(自殺ってコトにしたんだけど)貰った家。
全く金持ちってのはいやだ。なんでもかんでもデカクしやがって。
だからジェラートが固まるんだ。
「なぁ、入ろうぜ…なんか俺恥ずかしい…」
「え?あ。ご免、ご免」
開いていた口をやっと閉じてジェラートが言う。
あんま開けてると突っ込むぞとか言おうとしたけど、反撃が怖いのでやめとく。
西洋風の門を開けてやると、申し訳なさそうに、中に入る。
場違いで困ると言った風にきょろきょろする姿が可愛い。
「ソルベ…へんなこと聞いてイイ?」
「なんだ?」
「どれが…家なの…?」
噴出しそうになってやっとのことで押さえる。
「ぜ、全部だ」
「ううっそぉ!」
確かにデカイと思う、俺だって時々家の中で迷う。
ジェラートの手を引っ張って玄関に連れてくると、また不思議そうな顔をされた。
「コレ玄関?」
玄関以外の何に見えるんだよぅ。
身体が捩れそうなすっとぼけた言葉に、とにかくそこを開いて招き入れる。
「ねぇねぇ」
珍しくジェラートが饒舌なのがちょっと嬉しい。
「掃除とか大変だね…」
現実的な台詞に苦笑する。
「いや、掃除は月一回頼んでしてもらってんだ。俺はそう言うの面倒だし嫌いだし。」
「成金…」
ポツリと呟くジェラートの頭を小突く。
まぁまぁ、と中に引き入れ、台所へ案内する。
「ひ、ろーーーーーーーい!ねえ、このおおきいの何?!冷蔵庫?」
「それは冷凍庫。流しの横のが冷蔵庫。」
なんだか恥ずかしくなってくる。
しきりに感心するジェラートに、早くキスしたいけど…なかなかさせてくれそうにないな。
カパ。と勝手に冷蔵庫を開ける。
「うわ!」
歓声を上げる。そして笑い出す。
「なんにも入ってないじゃないか〜ソルベ何食べて生きてるのさ?」
くすくす笑って止まらない。
「いい加減にしろよジェラート…俺さっきから待ってんだからさぁ〜」
「え?」
「え?じゃないってばよ」
冷蔵庫の前に座るジェラートの腕を取って、自分の其処に押し付ける。
ジェラートが引っ張られた勢いで、俺にもたれかかってくる。
「や、やん、どこに触らせるのさ…もう、こんなところで…」
「ここじゃなきゃ、どこがイイ?」
答えも聞かずに、何か言おうとする唇を塞ぐ。
ジェラートの舌が俺の口の中に割りこんでくる。
吸い上げて絡めると、俺の頭に手を添えてもっと深く入ってくる。
相変わらず上手い。
俺のほうが犯されているみたいで頭の奥がズキズキと熱くなる。
意識がどっぷり浸かる前に、ジェラートの体をキスしたまま持ち上げる。
「プール、行こ。」
「え?」
口付けを終えて速攻言い放つと、珍しく素っ頓狂な声を上げる。
「プ、プール?どこの?」
「家の」
あきれた顔をして、ジェラートが小さくため息をつく。
「ソルベって…ものすごいお金持ちだったんだね…」
「別に豪遊が好きなわけじゃねぇ、
ただ持ってるモンは使ったほうがおもしれぇだろ?」
「その考え方は結構好きだな。って、うわ…!」
ジェラートを持ち上げたまま、台所の裏手のドアを開ける。
大きくはないが、25mはあるプール。何?大きい?うるせぇ。
「で、でも、ソルベ…。プールで…って…何するの…」
「聞かないと分からない?」
「でも、ここ外だよ?」
「見られやしねぇって」
「や、やだもう、下ろしてよぉ」
そう言って俺の胸を軽く押す。
落としてイイなら落とすけど…勿体無いからいやだ。
「お願いだよ、外じゃやだ。いくらなんでも…ッ」
真っ赤になって俺の胸で縮こまる。
可愛いからこのままヤっちゃおうかなっても思う。
無理やり引き剥がして。プールの中に落として…捕まえて。
逃げようとするところを後ろからってのも結構…
「ソルベ…顔が笑ってて怖い…」

仕方なく、俺は場所を変えた。
プールからつながる、ガラス張りのシャワー室。
汗を流す程度のことは出来るようにと、つけたものだろうが…
いかんせん俺はそのまま風呂に直行型。ここは余り使ってなかった。
「意外なところで有効活用できるな」
「は、はなしてよ!ちょっとここだって丸見え…あっ!」
ジェラートを下ろして、肩を掴んでガラスに押しつける。
右手で肩甲骨のくぼみを押して動きを封じてから、
残った左手でジェラートの前をはだける。
「恥ずかしいよ、ねぇ、ちょっと…」
「外は俺んちの庭だ、誰も入ってきやしねぇよ」
「で、でも…ッ…あ…ッ」
はだけた胸を撫でると、手のひらに微かに当たる。
そこを柔らかくなで上げて摘む。
ジェラートが身を捩るのがやたらとそそる。
「こっち向いて」
押さえていた右手を離してやって、そう言うと素直にこっちを向く。
「脱いで?」
「…や。」
「脱がされたい?」
「ば、バカ…」
俺の言葉に恥ずかしげに俯くと、あきらめたようにガラスの壁にもたれかかり、
柔らかい上着から肩を見せる。
するり、と落ちるシャツ。
無言で見ている俺の前で、無言でジェラートが衣服を外す。
脱ぎきるのを見届けて、ジェラートに近づく。
キスをしようとするフリを見せて、目を閉じさせる。
キュ。
柔らかいお湯の雨が降り注ぐ。
驚いたジェラートが竦んで俺を見た。
俺の背の高さのせいで、上目使いになる目にそそられて背筋がゾクっと来る。
シャワーのヘッドを持ち上げて、その裸身をなぞる。
「この感触って、良くねぇ?」
無言のジェラートに、反応を欲してそう問いかける。
だが、以前無言のまま。
シャワーの愛撫するように流れる雨が、その腰に当たる。
やっと気づく。
「耐えてんのか?」
ぎゅっと握った手が震えているのに気づいた。
表情を伺うと、右肩を噛むように顔をそむけ、まつげを伏せている。
「コレじゃ普通にシャワー浴びられないんじゃないか?」
そのまま、首筋に歯を立てる。
「…アッ…」
きゅっと首をすくめると、よろよろと倒れ掛かる。
その腰を引き寄せて、最終手段に出る。
「ヤ…あッ!!いや、だ、駄目って…っく…あッ!」
直接そこを責めることにした。
暖かい雨が、敏感な部分を乱れ打つ。
「やっと声が聞けたな…」
シャワーヘッドを元に戻して、ジェラートの身体を抱きしめる。
温かいお湯が俺にも降り注ぐ。
湯煙で、ガラスが曇った。
そのまま、ジェラートを座らせて足を開かせる。
押さえていないと勝手に閉じようとする。悪い子だ。
内腿に口付けようとすると、ジェラートが腰をひいた。
「だ、駄目…」
「なんで?」
「……其処に…余計なものがあるの」
「余計な…物?」
一生懸命俺の身体を掴んで退かせようとする。
見たくなるってもんじゃない?駄目と言われると余計に好奇心が湧く。
無理やり掴んで、足を大きく広げさせる。
「い、いやぁ!バカ!駄目ッ!!」
慌てて両手で隠そうとしたのは…
バラに絡められた蜥蜴。
その蜥蜴の開いた口に、蠍の毒針が深く食い込んでいる。
「刺青…?」
「消えないの…一生…見せたくなかった…」
ジェラートの声が震えている。泣きそうな顔に、なんだか申し訳なくなる。
しかし、コレは…
「自分で入れたんじゃないのか?まさか誰かに…」
「……印…なんだって…僕は…こんなもの…ッ」
「言っとくがな、押された印は誰が押そうと同じだぜ」
「……?」
「失礼」
広げた足に顔をうずめる。
蠍を舐め上げ、蜥蜴を噛む。
絡み合う蜥蜴と蠍に、強く噛みついて、吸い上げる。
「ん…ッあッ!!」
ジェラートが力を入れたせいか、内腿にすっと筋肉の筋が浮かび上がる。
其処を優しく撫でる。
そのまま、内腿から足の付け根へ。
中心部をそっと指で握りこむ。
その間、ずっと俺はその毒を吸いつづけていた。
ようやく其処から口を離す。
「…ソル…べ…何を…」
「見てみ」
俺の残した内出血の後が、蠍と蜥蜴を真っ赤に染めている。
「あ…ッ!な、何するの…!」
「俺の手が加わった芸術品。どうよ?」
「何、言ってんのさ、バカ…」
真っ赤になって恥らう。
「ゴーギャンが書いたものに子供が落書きをしたとするよな。
 そしたらそれはゴーギャンの値打ちがあるか?」
「こんなものゴーギャンと一緒にしないでよ、もぅ!」
「そうだな、それより値打ちがある」
包み込んだ指で、下から締め上げる。
刺激に喘ぐ唇に、自分の唇をすべらせる。
不意に、自分の下半身に違和感を感じで目でそっちを見ると…
ジェラートの細い指が。俺の其処を優しく撫でる。
「ジェラート…もちょっと強く…」
「ん…」
ジェラートのピアノを弾くような強弱のある愛撫が脳髄を溶かす。
不意に手が離れて物足りなくなる。と、ベルトの音がした。
するり、と服の間から直接触れてくる指がある。
「う…ッん」
思わず声が漏れる。先をなぞられて、下半身から脳天まで快感がつきぬける。
緩んでいた俺の指がジェラートの其処から外された、と思った瞬間。
ジェラートがすべるように、俺の下にもぐりこんだ。
「あ、馬鹿、待て、おいッ!」
慌てる。だって!実はマジ速攻イきそうなん…
暖かい感触と吸い上げる唇に、果てそうになる自分を必死でこらえる。
ジェラートが舌先で舐め上げるのが分かった。
「我慢してないでイイよ…」
そう言われて、ばれてることに気づく。
「なんだよ…ッ…わかってんのか…もう」
「痛いでしょ?それともこう言うの好き?」
そう言うと、ジェラートの指が俺の根元を締めつけた。
締めつけたまま、唇で溶かされる。
「ジェ、ラ…トォッ!」
頭が熱くなって朦朧としかける。
ジェラートの頭を無意識に掴んでいた。
このままこんな事されて乱れているわけにはいかない。
「お仕置きだ…ッ」
掴んだ頭を固定して、喉の奥に深く埋め込んでやる。
苦しそうに舌を使うのが分かる。
「だ、めだ、ジェラート…頼む…イかせて…くれ」
「ん…ぐッ」
ジェラートが素直に指を緩めるのが分かった。
身体が硬直しそうになる。俺はそのまま吹っ飛んだ。


「辛かった?ご免…」
溢してしまった液を舐めながらジェラートが言う。
「いや…いや結構…。」
「…えっと…んじゃ、良かった?」
「答える義務はないッ!」
照れもあって、寝転がったジェラートの足を乱暴に持ち上げる。
「や、やん!どうして君はそう極端なのさ!」
「俺は開かせるのが好きなの」
「は、恥ずかしいってば…」
俺の腕を掴む指をそっと開き、足を、自分の腕で押さえさせる。
「この手を放したら罰金な」
何が罰金だか。
それでも困ったように足に手を添えているジェラート。素直すぎる。
屈み込んで口付ける。
足先から、少しづつ。合計で6つの印を落とす。
「俺のモン♪」
「ばかぁ…ッ…あ、ん…ッ」
ジェラートの其処を口に含む。
確か、こいつは俺のをこうやって愛撫してたッけな…
口に含んだ其れを、唇で締めながら舌でなぞり上げる。
「あ…やぁッ…それ…それって…ッ!」
自分の仕方と同じだと言うことに気づいたんだろう。
んじゃ、もう一つ…
舐めていた口を外す。ジェラートの微かに湧いていた泉が俺の舌先からこぼれる。
其れを指で絡めとり、滑らかになった指で握りこむ。
「ジェラート…コレもそうだろ?」
柔らかく引き下げて、締めながら、擦り上げる。
無論、ジェラートの後ろに入れたときの感触だ。
ジェラートが自分で、自分を犯している感覚…
「や、やぁあっ!」
「お前の後ろってこんなんだぜ?」
「あ…僕の…こんな…ンンッ…うあ…ッ」
恥ずかしさに顔を片手で覆う。指の間からこっちを見る潤んだ目が俺を誘う。
其れを繰り返しているうちに、ジェラートが苦しそうに震え始めた。
ためしに、先端に口付けてみる。
「だ、駄目えぇッ!」
「イキそうならイッてみ?自分の中で出してみるのも…イイかもしれないぜ?」
「ン、な、にっ…て…ああッあ、んっ!」
「お前の中ってもっと気持ちイイんだぜ…もっと絡みつくような感じで擦れるんだ」
「いやぁぁッ!そんな…言っちゃ…ッ」
もっとジェラートみたいに。
もっとこいつの中みたいに、こいつを気持ち良くさせてやれたらいいのになぁ…
もっと淡い感じで。もっと深く…もっと激しくて優しい…
ジェラートの放ったものを舐め取りながら…そんなことを考えていた。

「何…考えてるの?」
荒く息をつくジェラートの身体を抱きしめながら、
出しっぱなしのシャワーの感触にうっとりする。
水がなぞる裸身を俺も一緒になぞる。
「いや…俺もな…こんな風になれたらなって…」
「こんな風?」
一つ大きな息を吐くと、ジェラートが俺を覗きこむ。
「俺は…お前ほど上手くねぇから…もっと感じさせてやれたらなぁって…いつも。」
「馬鹿だな…ソルベは…もぅ」
そっと頬を両手で挟まれる。
口付けしてしまいそうな距離で、ジェラートが囁く。
それだけでも、身体がうずくような。
こう言う感覚をコイツに与えられたらなぁ…。
「ソルベのだから、気持ちいーんだよ。」
「まさか」
「他の指やアレで僕が乱れるもんか」
「嘘つけ。」
「…嘘かもしれない…でも…もっとソルベで感じたいから、
 ソルベに気持ちイイコトもっとしたくなるし…
 だから…ソルベがまた気持ち良くしてくれるし…」
照れながら其処まで言って、照れが最高潮に来たんだろうか。
挟んでいた手のひらで、俺の頬をぱちんと叩く。
その手を押さえて、ため息をつく。
「それもあるけどな、」
「?」
「刺青の主に…嫉妬してんのかもしれねぇ」
「……ご免ね…汚れてて」
ドキリ。
俺はジェラートの痛いところをついてしまったのかもしれない。
悲しそうに目を伏せる。
そんな顔されたら俺が…俺が悲しくなるじゃないか。
「馬鹿、違う!ただ、ただな、俺がそいつよりお前を大事にしたくって、もっと上手くって
そんでもってほら、なんかこう、ギュッて出来たらなって…」
言葉にならない言葉。全く意味をなしていないのが分かってて、それでいて弁明してしまう。
何を言っても通じないのかもしれない。
目を閉じて、ジェラートの額に自分の額を当てる。
「ん〜」
「ど、どうしたの…?」
「念を送ってる」
「え?な、なんの?」
「お前は俺に抱かれて幸せになる」
そっと、額を合わせたまま。
「その気持ち…唇から頂戴…」
微かに開いた唇から、ジェラートの声がため息と共に漏れる。
届け。
もっと届け、もっと嬉しくなれ、もっと楽しく、もっと悲しみを削り取れ、俺の心。
もっと。
何もせずに、ただ、唇を合わせる。触れ合った唇がなぜか熱い。
届け。

お前だから…俺だから…。

だから…


蜥蜴は蠍に溶かされて幸福へと…


FIN