今日は久々に街に出た。
でなきゃあんなこと起きなかったんだなって、反省してる。
でもそんなことおきるって俺思ってなかったから、
照れる(?なんで?)ジェラートを引っ張ってフラフラと出かけて。
じゃなきゃこいつにこんな顔させることもなかったのかもしれない。

「ジェラートじゃないか」

そう言って声をかけてきたのは、見知らぬ男だった。
「え?あ…」
振り向きざま、ジェラートが困った顔をした。
「ジェラートだろ?ふーん、髪を切ったのか…へぇ…」
そいつはシタシゲーにジェラートの髪なんか触っちゃって。
ムッとして、ジェラートを引き寄せる。
「ジェラート、誰だ、この男?」
「ソ、ソルベ、勘違いしないでね、変なんじゃないから…」

ふーん。
勘違いしないでっていわれりゃ勘違いしたくなるじゃない?
「新しいヒモ?」
おもむろに俺に向かってそいつはそう言った。
速攻殴ろうかと構えたら、それを制するのはジェラート。
ちょっと、その行動にもムッと来る。

「なんだよ。へー、金持ち?見つけたの?ハァン。」
そう言って俺をジロジロと見る。
「ちょっと、ゴメン、ソルベ、ちょっと待ってて…」

そう言うわれりゃ待つけどさ…。

俺をそこにおいて、向こう側にそいつを引っ張って行ったジェラートは、
なにかしらそいつに話しかけていた。
そうだよな。わかってんだけどさ。
お互いにお互いが知らない知り合いってのはいるもんさ。
だから、ここで俺が嫉妬したってはじまらねぇんだろうけどさ。
でもなんだよ、アイツ、なんか気にいらねぇ。

「そんなんじゃないよ!」
そう言ったジェラートがそいつを引っ叩きそうな勢いで睨みつけたのが見えた。
そんなんじゃないって、どんなんじゃないのよ。
もしかして、そいつとも付き合ってるとか、そんなんじゃないよな?
俺、遊ばれてるとか、そんなんじゃないよな、だって今まで、ずっと愛し合って来たわけだし
ずっと、ずっと抱き合ってきて、流した涙とか、笑ったこととかだって
全部、全部本当だったんだモンな。
……疑ってかかる自分に、ちょっと腹が立った。

「オニイサーン、こいつ良い声で鳴くでしょ?」

そいつがそう言った途端、俺はぶん殴ってやろうと思って足を踏み出した。
その途端。
「死ね。」
そう言う声が聞こえた。
「…ジェラート?」
「死ね、お前みたいな奴。最低だよ。」
……。素直に、怖いと思った。
思ったのは男も同じだったようで。
なにやら文句を言いたそうな顔をして、そこから去っていった。

「…ゴメン…妙なところ見せて…」
「いや…」
「本当…ゴメン…幻滅したでしょ?」
いや、幻滅って言うか、驚いた…ってのが本当だ。
コイツも、あんなこと言うんだ。あんまりそう言うこと言わないな、って思ってたんだけどな。
「もう、あんな自分要らないから、捨てたつもりだったのに…」
そう言ってうつむくジェラートに、なにも声がかけられなかった。
何もいわないほうが傷つけるってわかっていたけれど。
今まで知らなかったジェラートがあそこにいた。
そんで、俺はそれ見て唖然としてる。
コイツが、ジェラートなのかなんなのか、一瞬で信じられなくなる場面。
見たことのない恋人の姿。

「……」
「聞かないの?」
「……なにを?」
「今の…誰だ…って」
「聞いてもらいたいの?」
俺は意地悪だ。こんなこと聞いたら、黙っちゃうに決まってる。
そんで、ジェラートはこんな淋しそうな顔をする。
見たことのない顔。それをジェラートとして受けとめられない俺。
なんか、俺、心狭いよ。狭いよ。わかってるけど、狭いよ。

「……恋人?」
「…。うん」
「今は?」
「つ、付き合ってないよ!?」
「そうか…」

それだけ。
話題なんて出てこない、そんな話題嘘になるから。
ここにいるのは本当のお前なの?それとも俺に対して演じているジェラートって言う生き物なの?
んじゃ、そうだとしたら、俺はなんなの。ただのロミオ?
不意に、服のスソをぎゅっと掴まれた。
ジェラートが、そこで立ち止まる。
「……」
なに?そう、顔で言う。
「嫌い?」
なにが?もう1度、顔で言う。
「……見えない僕が、嫌い?」
嫌いだよ。
無言でそう言って、背を向けて歩き出す。
俺、何やってんだ。ジェラート困らせて。何やってんだ。
なんで困らせるんだ、泣きそうになってる、多分、ジェラート、泣きそうになってるはず。
そうさせたいのか。俺は。泣かせたい?謝らせたい?なんに対して?
「ま、待って…ソルベ…」
待たない。お前のペースにもって行かれてたまるか。
今日は俺のペースなんだ、お前が悪いから、俺にしたがってついてくればちょっとは許してやる。
許す?
なに、を?

ちょっとだけ振り向いてみると、そこにジェラートは立ったままで、俺について来てはいなかった。
そうか、そう言うのかよ。
ムカツクよ。本当お前ムカツクよ。
はやく傍に来いよ。そんで謝れよ、泣けよ。
……。俺…最低だ…

消えてしまいそうな顔で、ジェラートが立ちつくす。


俺、ジェラートのこと、なんだと思ってんだろう。
俺の飼い犬?俺が意味なく怒ってもついてくる、
それじゃただの欲望とかストレスのはけ口と一緒じゃねぇか。
そんな扱いしたかったのか?俺。
そんな扱いしてたのか、俺。
俺のモンだと思ってた。
そうじゃない。
俺のモンじゃ、ない。
だから、だから、来て欲しい。
俺のモンじゃないから、お前の足でこっちに来て欲しい。

逃げて行ったのは俺で、待っていたのは俺じゃねぇか。
アイツは待っているわけじゃない。
俺が拒絶するから、大人しくそこで淋しくしてるんだ。

「ジェラート」
俺が背中を向けたまま、そう呼びかけると、顔を上げただろう。
どぎまぎしながら。怒られると思いながら、何か俺の言葉を、待ってる。
俺は、呼んだだけで、その後何も言えなかった。
とにかく、もう、とにかく、終わらせよう。
いつもみたいにすれば、そう、
いつもみたいな演技を見せてくれれば俺はいつも通りにしててやる。
何も言わずにジェラートを見ると、そっと俺に寄って来た。
申しわけなさそうに。
ジェラートが、何したって言うんだ。



そのまま、部屋に連れて帰って。
そのまんま、脱がせて。そんで、抱いた。
もっと、嘘ついて、もっと綺麗でいてくれ。
俺は、身勝手だ。
受け入れられなかった、チラッと見せたジェラートの一面を。
ムカツク、こんな自分が一番ムカツク。もう、どうしょうもないくらいムカツク。
ジェラートの目にはいつも俺が映っていて。
そんで俺の目には、何が映っていた?
ジェラートの目に映った自分だけを見ていた。
そんじゃ、ジェラートは、どこだよ。
「お前、どこにいるんだよ…」
裸の身体を、叩き壊したくなる。
命令した。上に乗って勝手に動きな。
物凄く悲しそうな顔をするジェラートに、罪を覚える。
だけど、無理やりやらせた。
苦しそうに眉をゆがめてるその顔に、ただ欲望をぶつけるだけの抱き方をする。
ただ、ただ首筋を舐め上げる。腰を掴んで無理に押しこんだり。
「…ッ…う…あッ」
どんな抱きかたしたって感じるんだろ。誰だって構わないんだろ?
快感なんか、よくわからない、ただ、犯して、汚して、ジェラートをとにかくすべて否定したかった。
なんで、なんで俺はジェラートを否定する?
見なければ、駄目なのに、もっとコイツを見たいのに、見えないから駄々こねてるだけじゃねぇか。
わかってる、だけど、見えないことがこんなに悲しいなんて。
こんなに手探りでお前を見なければならないなんて。
薬漬けにして抜け殻みたいにしてしまえば、そうすれば俺の思い通り。
そんなことを当たり前みたいに考える自分が…そこにいた。
殺してしまえば俺のもの。自分のものにならないなら。
そんな、殺人者によくある感情。低脳だ。レベルが低すぎる。
頭が悪い人間は俺は大嫌いだ。だが俺は今。


ジェラートを、ただの。
ただの奴隷にかえて。
抱いてる自分がいた。


最低だ。


駄目だ。
いやだ。
こんなん抱き方じゃ、お前を愛せない。


愛せないよ。


「…ッ…僕が、嫌い…なんだね」
犯されながら、俺にそう言ったジェラートは泣いてた。

こんなの。俺じゃない。
「ゴメンね…」
謝るな、お前が悪いんじゃないはずなのに、勝手に謝っちゃ駄目だ。
俺をもっと卑下してくれ。もっと、なじってくれ。
俺のこの、最悪なこの俺を、なじって、嫌って、そして。
違う、違う。イヤだ。嫌わないでくれ。
ジェラートから身体を離して。そして背を向ける。
今、お前見てられない。
弱虫の俺。最低な俺。なにをしてたんだろう。何でこんなひどいこと平気でしたんだろう。
もう、傷つけたりしないって、そう誓ったのに。

「ゴメン…もう、もうあんな言葉使わないから、もうあんなところ見せないから…」
「そうじゃねぇ!」
「…ッ…」
また、否定と同じことしてる。
「そう、じゃねぇ。」
なにが、したい?俺、何がしたい?
なにを、してもらいたい?
「君の…邪魔…したくないよ…僕が邪魔なら…」
「違うって言ってんだろ!」
振り向きざま、肩を掴む。押し倒して、ジェラートを見る。
無理やり。
俺はいつも無理やり。
こいつはいつもここで抱いてくれてたはずだ。
もう、俺の背中に手を回さない。
こうして欲しかったわけじゃない、そうか、俺は何かして欲しかったのか?
勝手に、なにかして欲しくて、それで勝手にコイツにそれを求めて、
それが出来ない、してくれないコイツに、怒ってたのか。

「死ねって、言って。」
「…。え?」
「俺に、死ねって言って」
「……やだよ」

「なんでだ?なんで、なんでなんだよ!」
また、俺はこいつを虐めはじめてて。
可愛そうに、ジェラート。こんな俺にこんなに傷つけられて。こんな淋しそうなかおして。
でも俺には言ってくれないのか。
俺は、アイツと同じ扱いはしてもらえないのか。
「イヤだよ。ソルベは、違うもん。ソルベは死んで欲しいって思わないもん!」
「だけどお前は、アイツにはああ言うこと言って、俺は、俺は違うって言うのか!」
「違うよ!」
ジェラートが、やっと俺を抱いてくれた。
強く。
俺がバランス崩して、全部の体重お前にかけちゃうくらい、ぎゅっと抱いてくれた。
「違うよ…違う…僕はソルベにあんなこと言いたくない」
「なんで…?」
「あんなボクは、嫌いな人にしか見せたくないから…
 …だから、もうソルベには見せたくないから、だから、」
だから…?
「だから、ゴメンナサイ…って…」


恥ずかしくなったんで、とりあえず抱くことにしちまった。
こんな顔、コイツに見せられるかよ…
恥ずかしいじゃん、こんな馬鹿野郎こんな馬鹿なことやっててさ。
なんで、俺、なんで、馬鹿みたいじゃねぇかよ。
こんなこと言ってもらって、照れて嬉しそうにしてる俺なんて、恥ずかしいじゃんよ。
言ってもらいたかったのは、「自分が一番」ってこと?
でも、そんな言葉そのまま言ったって、たいしてたいした言葉になんかならない。
「トクベツ」でいたかった。って、こと?
わかってるけど恥ずかしいから、とにかくジェラート乱しちゃえば、
ジェラートのほうが恥ずかしくしちゃえば良いかなって。
だから、ありったけのやり方で、とにかくジェラートには前後不覚になってもらって。
そんじゃなきゃ、俺が恥ずかしいじゃん!
「ば…かぁ…ッ…」
ちょっとだけ抵抗したジェラートが、俺にそんなこと言った。
後はもう、言葉にならない声だけで十分だから、とにかく俺に抱かれてて?
そんでもって、俺を抱きしめて。そんで、俺にすがりついてくれないか。
細い足を持ち上げて、下から舐め上げて。
高く上がる声を押さえきれないうちに、もっと気持ち良いところ探って。
つかんでる俺の手を軽めに抵抗する雰囲気だけ見せて、
そのまま手を掴まれて、もっと俺を欲しがって。
こんなお前が大好きで。

馬鹿だよ。俺。

入れながらでもイイかな。
こんなこと、真顔で言えないから、今でイイよな。
「ゴメン」
そんだけ。
そんだけ言ったから、イイよな?だ、駄目?ジェラート?
そんだけ言ったら、そっと手が俺の頬に触った。
そんだけ言ったら、優しいキスを貰った。


また照れそうになったから、もっとしてあげる。


でもやっぱ、怒った時に、俺に、死ねって、たまに言って?
やっぱ、怒られんのも、やっぱ、俺、欲しいからさ。
そんで、たまに、俺に謝らせて。



ゴメンって、言わせて。


お前に怒られて、困る自分も見たいよ。
ア、でも、たまに、本当にたまに、でイイかな。