世の中、水を流す様に忘れることばかりだ。
アレもコレも必要ない。
要するに、必要のない物ばかりだと言うことだろう。
くだらん。
だからこそ、俺は無駄にしない。
水に、流されて行くのはクズだけで十分だ。能無しのな。
必要なものは必ず後に残る。そこに自分が残ればイイ。
そう、それだけだ。

メローネのPCを弾く音が聞こえる。

目を開くと、暗闇にディスプレイの明かり。
そう、アレもコレも…必要ない。
ここにわざわざ俺が出向いて、そしてこの男に抱かれる理由。
そんな物は、俺の中にしかない。
俺は乱れない。
性行為を当然の様に語るこの男の下であっても。

「ああ…今日はする気がしないのでな、他を当たってくれ」

肥大した脳腫瘍でもあるのかこの男は。
お前が必要なのではない。
俺を気にかけない目線に、あえて一瞬だけあわせて、つい、とそらす。
「理屈か?」
メローネの唇が、少々端を持ち上げながらそう言った。
「理屈は必要ないだろう?必要なのは、結果とソレに至る経過だ。」
「賛成しようじゃないか。…さて、俺は俺で必要なものを探すとしよう。
 乗る乗らないはお前の自由だ、プロシュート。」
「…ふん…」

俺は自分に挑戦する必要があった。
ただならぬ、神への冒涜。
それが俺…いや、我々の命であると、俺はそう解釈した。
我々、などと言うと恩着せがましいようなきらいもあるが。
俺達は常に完璧である必要がある。

「…どうする?」
メローネが俺に直接聞いてきた。
特に、答えることもない。
黙ったまま、ベッドに転がると、そのまま放置された。
疲れで、少し眠くなる。


自分のバカさ加減に、腹が立つことが…ないか?


あるね、たった今もそうだ。何故お前をここに招き入れたのか、それについて検索している。



ふっと気が遠くなって、すぐに目を醒ます。
「誘いに来たわけではない…ようだな」
「…。」
「何がしたい?」
「自分の果てを。」
「お前の果てか。」
「ああ。」

それならば、俺も、お前を姦する価値がある。

メローネの身体が、俺に覆い被さる。
細身のわりに、しっかりとした身体に、一瞬ではあるが恐怖を覚えた。
そう言う反応を示した自分を、冷静に分析する。
唇を合わせ、絡めとられる。
「キスは下手なほうだな」
「…余計なことだ」
「そうかな?俺はそうは思わんな」
メローネのその言葉に、少々腹が立つ。
お前の理屈を聞きに来たわけではない。
探しに…
「もう少し、口を開け。」
「命令されるのは好きじゃない」
「命令じゃない、懇願だ。」
「…」
その通りにすると、メローネは納得した様子で俺にもう一度唇を与えた。
舌が、勝手に侵入してくる。
そんなところをくすぐられても…対したことはないものだな。
礼儀知らずな下腹部を撫でる手に、爪を立てる。
メローネが何かに気づいたフリをした。
だから、俺はそれに気づかないフリを。した。
それが何故なのか、俺にはわからずに。

答えのないことなど、あるはずがないのだ。

一つ一つ、服を丁寧に剥がされる。
ディスプレイの明かり。
メローネの横顔をちらちらと映し出して。
俺に、一瞬の眩暈を与える。
「…ッ…」
「どうした?」
「…最悪だな…」
「そうか。」
俺の目の前で服を脱がずに、俺だけをさらけ出す。
コレは計画なのだろうか。
それとも…
無言で口元に指を運ばれて、真意を察して避ける。
「舐めろ。」
メローネの横顔に、もう一度眩暈を覚える。
「聞こえただろう。舐めるんだ。」
コレは、恐らく眩暈のせいなのだろう。
俺の舌が、その指を舐るのは。恐らく眩暈の…
クラクラして、やまずに。
麻酔よりも、ドラッグよりも、強烈な…
コレがなんなのか、かんがえようとする脳髄が麻痺し始める。
「ん…ぐ…ッ…」
指しこまれた指に、くぐもった息を吐いて、その音に更に眩暈を覚え。
「一本だけじゃぁ物足りないな…」
口の中にねじ込まれる異物の感触。
ソレを舌で追い、唾液を絡ませる。
メローネが俺の口元を見つめながら、唇を湿らせた。

「まだわからないようだな…それも、イイかもしれんな。」
メローネの呟きに、考える要素が増え始める。
追いつかない頭に発破をかける。
「もっと音を立てるように…そうだ」
大人しく従う俺をこの男がどう見るかは知らない。
それは関係のないことだ。
この男が求めるから、俺はそれに応じたとも言える?
それでは、ただの、性行為と同じじゃないか。
眩暈が、大きく弧を描く。
すべて、言うなりに。
言われる、ままに。
脳髄が麻痺した自分がする事は、命令の遂行…。
冷静な判断をしろ…メローネ…。
「舌を突き出して、絡ませる様に…
 そう、そうするとしゃぶっている様でエロティックだ。凄くイイ…」
そして、眩暈。
能無しと同等の自分に気づくのは、時間の問題か。この俺が。
内腿に、割って入るメローネの膝。ソレに押しつけられて、刺激を受ける。
口元からは、零れ落ちる唾液と、勝手に動かされる指の跳ねる音。
眩暈が…
「…う…ん…」
ディスプレイの明かり。
チラチラする俺の眩暈。
メローネの指に口内を犯されて。

俺は、一体、どこで、何をして。

この行為が必要な理由を…
提示…して…くれはしないだろうか…。


「同じように…だ。覚えているだろう?」
メローネが大きく足を開く。羞恥のかけらも見せずに。
這いつくばって唇に其処を収めた俺の背に、唾液が落ちる。
ちらりと見たその情景に写ったのは、
自分の指を舐めながら俺の様子を眺めるメローネの姿。
口に含んだ其処が、その行為と同時に反応を示す。
指を舐めた時と同じように。舌で舐りながら、咥えこむ。
「そう…そうだ…。上手くなったじゃぁないか。」
指を引きぬいて、俺の背にかかった唾液をなぞり始める。
わざと音をたてて。
酷い眩暈を感じて、それから逃れようと無理に目を閉じて、
その行為を続けようとすると。
「良く出来た。起きあがれ。俺の前で足を開いて…座って見せてくれないか?」
断る理由と、身体がない。
すべて思い通りに。
理由を探して、それを追い求めるだけの。
「まだ、わからないようだな。」
何度もそう問われる。
知ったかぶりのこの男には用はない。
「自分で、慰めて見せてくれ」

「…ん…っぅぁ……ッ…」
細く漏れる声を殺して。コレは誰だ。
ここで、この醜態をさらけ出すのは、一体、誰だ。
何故だ。
何故なんだ。教えてくれ。わからない。わからないことに腹が立つ。
一体、この眩暈は、なんなのだ。
自分の指に絡まる液体の感触に、ゾッとする。
勝手に息が乱れて。意識だけが空回りする。
こんな無駄な行為が、何故、必要なのだ。
何故、この行為を…
俺は、必要とするのだ…!
「…ッ……っ…」
「イイ表情だ。そそるよ。」
「な、にを…言う…」
「では聞く。お前がしたいのは性交か、それとも自慰か?」

「はぁ…っぅ…!」
メローネの声に、騙される。
そう、これは騙される行為?
「答えが欲しいと言っている」
「……これ以上……の事を…」
「自慰よりも、欲しいものが、あるんだな?」
「ッ…ああ……。」

すべて覆い尽くされて。
すべての眩暈が放出する。
完全な意識の剥奪に、身を捩る。
人間が欲する理由が。
わからない。
わかるのは。
俺が、欲する理由だけ…


自分を冷静に分析する、最悪で悪魔的な、詐欺師を、求める。
一瞬の崇拝。


自分が、後に残れればイイ。
その自分に、跡を残してくれたら…もッとイイ…。

「理屈だな」
「…そのようだな…」




すべて、お前の……理屈、だな。


問う。
性行為に快楽が共なう理由は…?




第1夜・眩暈