「んんんんん〜〜〜」
立ち並ぶ本の棚に挟まれて考える。
「う〜」
分厚い本のページをめくって考える。
本屋の親父が妙な顔をしてこっちを見ているのは知っている。
だが、こっちも真剣なんだ、親父我慢してくれ。
本に載っているのはいろいろな組み合わせ方。
組み合わさり方といった方がイイだろうか?
「俺には無理だ…。」
ものすごい体位を見つけて驚愕する。親父の口がそのたびにパカーと開く。
親父。俺の驚いた顔ってそんなに変か?
まさかこの本を買うわけにも行かない。しかし俺は何も知らない。
悩んだ末に、本屋の外に出て、携帯電話を取り出す。
親父がまだこっちを見ている。
確かに不思議な客だろうよ。
体位の本、引っ張り出してうめいて、その挙句に電話してんだから。
「あ?俺。聞きたいことがあんだけどさ」
知り合いに電話して、いくつか尋ねる。
無論、知り合いといっても悪友で、その中でも女好きの奴を狙ってかけたつもりだ。
「始めての相手にすんのってやっぱ正常位?」
電話の相手が爆笑する。
「なんか俺変なこと言ったか?」
大笑いしながらもそいつは幾つか教えてくれた。
ふんふん、とうなずきながら頭の中に一生懸命メモる。
「酒に…風邪薬?まじかよ、平気なの?」
ちょっとイイ事を聞いた。
携帯を切ると、本屋にはもう用がないことを知る。
親父よスマン。俺のことは夕飯の話題にでもしてくれ。

数時間後。
住宅街から少し離れた小さめのマンションに俺は戻ってきた。
「たっだいまぁ〜ん」
あれ?いつもの不機嫌そうな出迎えがない。
ユニットバスの方から水音が聞こえてくる。
「シャワーあびてるのかー?」
「あ?おう。」
大き目の声で話しかけると、風呂場に特有のちょっと響いた声が伝わってきた。
そうかそうか。シャワーか。
………前に覗いて殺されかかったからやめとこう。
抱えていた買い物袋から酒の瓶を取り出す。
俺ってば用意周到?いや、コレ結構もう、俺的には最終手段なんだけど。
カチャ。
風呂場の扉が開いて、湯気と主にサーレーが顔を出す。
「なんだ酒買って来たのか」
「おう、たまにはワイン以外も飲もうぜ〜」
結構俺も悪い奴だと思う。白々しく飲もうぜ〜何て言って。
しかし、風邪薬をどう飲ませるべきなのか…う〜ん。
頭をタオルでふきながら、半裸のサーレーがキッチンに向かって歩いて行く。
本人にそのつもりがなくて誘ってるんだからこれは犯罪だ、国家レベルの犯罪だ。
「氷いくつ入れる?」
「3つ」
キッチンからのサーレーの声に答えながら、ふと気がつく。
「ゲ」
買ってきた風邪薬。あ、これ…下…用じゃん?
飲めないってばよ。ますます俺の困惑は広がる。
そんな俺に気づきもしないで、
サーレーが軽い氷の音を響かせてグラスを二つ持ってきた。
「ウオッカ買って来たのか?」
「そ」
「ストレート?」
「そ」
「しらねぇぞ…」
俺はサーレーのその言葉の真意を飲み込めないまま、
注いでもらったウオッカを飲み込んだ。
「げは!」
「だから言ったろ?知らねぇぞって…」
喉が焼ける。食道から胃まで、熱く沁みていくのがよく分かる。
もう一度飲み込んでみる。
熱い。
コレは……う〜ん…何だか良いぞ…
「ちょ、おい?ズッケェロ?」
俺はふらふらしていたらしい。
サーレーに肩を掴まれて、目を開く。
「この酒強いんだ、なんかで割って飲んだ方が良いな…待ってろよ」
そう言って立ちあがろうとするサーレーの腕を掴む。
「どうした?」
サーレーが不思議そうに覗きこんでくる。
薄い瞳の色。野性的なこの目が俺は好きだ。
「ねぇ…俺のこと好き?」
「え?」
おもむろに口がそう言っていた。
サーレーが突然のことに驚いて目を丸くする。
「酔ってんのか、もう?」
「酔ってねぇ」
酔ってはいないと思う。
ウオッカって俺の利き酒だったのかな…と頭の片隅で思う。
「好き?」
「……まぁ…それなりに」
「なんだよそれ」
「妙なこと聞くな。飲むんだろ?手、放せよ」
「やだ」
「なんで」
「抱いていい?」
「なんで俺が男に抱かれなきゃなんねぇんだ」
「んじゃ抱いて?」
「なんで俺が男抱かなきゃなんねぇんだ」
長いため息が出る。
サーレーらしいといえばらしい。ずっとこんな感じではぐらかされてきたんだ。
「なんで、駄目なの?」
「……」
「怖いの?」
「馬鹿野郎」
ゴツンと殴られる。手加減を知らない。
「酒の力借りて何言ってんだ、普通に飲め普通に」
「分かったよ…」
俺はコーラで6倍くらいに薄めて、まるでジュースのような酒を飲んでいた。
サーレーも割ってはいたが、ウオッカを注いでいるところを見た分では
あのグラスの3分の1がウオッカだ。
なんでかなぁ。
なんでかなぁ?
なんか頭が朦朧としてきた。ずいぶん飲んだらしい。
「オイ、マジかよ!?ちょ、ズッケェロ!」
サーレーがそう言ったところまでは覚えてる。
俺は何か叫んでいたらしい。
喉がかれていて、声があまり出ない。
なんか顔が痛い。
目の前に床が見えた。俺寝そべってる?
緩慢に動く腕を顔に当てると、ちょっと腫れていた。
「?」
不思議に思ってよろよろと起き上がる。
「!」
サーレーも横になっていた。
ただ、俺と違うのは、酷い格好で。上半身は裸のまま。
下半身のズボンも半分引き千切られたようになっていて、震えている。
腕は大きく掲げられ、近くの柱にタオルで括り付けられている。
「サ、サーレー?!」
慌てて近寄る。
何かに耐えるようにきっちりつむっていた目が、やっと開いて俺を睨み付けた。
「テメェ…酒乱だったのか…?」
「え?俺?俺がやったの?何したの?ご免!今解く…」
そういって近寄ろうとして、ついサーレーの足に触れてしまう。
「ふぅッ…!」
ビクン、と反応するサーレーの体。
触った足が逃げる。
「い、一体…俺…」
「覚えてないのか…ッ」
「ない、ないんだ、何したの」
体にも触れない、手も解けない。俺は困惑のあまり其処にへたり込んだ。
「お前…なんか変なモンを俺の…その…後ろに…」
赤くなりながらサーレーが詰り詰り言う。
時々何かに耐えながら。
たまに詰ったように息を呑むしぐさが俺を煽る。
「…っく…俺の後ろに、お前が!変なもん酒ごと流し込んだんだよ!」
勢いをつけてサーレーがそう叫ぶ。
言ってしまってからよほど恥ずかしかったのだろうか、
横をむいてしまって顔を上げない。
「さ、酒で?!もしかして、このウオッカで…」
力なくこくりとうなずく。
俺は買ってきてあった風邪薬を、
このウオッカでサーレーにぶち込んでしまったらしい。
な、なんて奴だ!いや、俺か!
ちょっと落ちつけ俺。待て俺。
ってことは今サーレーは…?

俯いた顔を気にしながら、そっと足首を指でなぞる。
「…ッ…や」
逃げようとする足を掴んで、かがんで舌を這わせる。
「ふ…ァッ!や、止めろ、今、俺は…ッ」
「分かってるからやってるの、辛いだろ?耐えるよりいいと思うんだけど…」
そういいながら、もう一本の腕で内股をやんわりと撫でた。
まるで一番弱いところを責められているかのように、サーレーが頭を振る。
かすかに高い音を立てて吸い込む息が余計に俺を駆りたてる。
「キス、するよ?」
「卑怯モン…ッ」
悪態をつきつつ、俺の唇がその唇に触れそうになるのを拒みはしない。
触れる寸前、軽く舌を出してサーレーの唇を舐めあげる。
湿り気を与えた其処に、ゆっくりと舌をねじ込む。中が凄く熱かった。
唇をそのままずらして首筋へ持っていく。わざと音を立ててキスをする。
「は…ぁッ」
切なげな掠れた声に、思わずゾクっとする。
胸に軽く口付け、ほかよりも柔らかい其処に何度も舌を押し付ける。
焦れたように足がもぞもぞと動いた。
思わず下腹部に手をやる。
「サーレー、もしかしてもうイキたい?」
可哀相になるくらい血が昇っている其処をそっと手に収める。
声にならない声をあげて、サーレーの腰がもがいた。
「ゴメンな、俺のせいでこんなんほっといて…すぐ楽にしてあげるから」
「ま、待て、何す…ッあッ」
其処に口付けて咥え込む。
指で根元をくすぐってやりながら唇でしめつけると、甲高い声を上げる。
いつもからは想像がつかない声。
一瞬ビクンと跳ねあがったかと思うと、口の中に熱いものが流れ込んできた。
それを当たり前のように飲み込む。
「少し、楽になった?大丈夫?」
息をあげたまま肩を大きく揺らしているサーレーが心配になる。
「…聞くな…ッ…バカ…」
「後ろ、平気?」
「聞くなッて言ってんだろ…バカやろぉ…」
苦しそうに瞼を伏せる。
さすがの俺も理解して、俺がウオッカで焼いてしまった粘膜に指先を立てる。
「ひっ!」
「痛い?」
そっとなぞってみるが、痛そうな顔はしていない。
ちょっとだけ指を中に入れ込んでみる。
ちょっとだけ…
ちょっとだけ入れるつもりが、想像以上の滑らかさに、
つい、奥まで滑り込んでしまう。
「!」
腕に括り付けられたタオルを苦しそうに握り締める。
その様がなんともこう、またヤラシイっつーか…そそるっつーか。
そこでやっと理解する。
サーレーの体内の熱で溶けたものが潤滑剤になっているようだった。
ためしに、内壁を何度かなぞり挙げてみる。
きつく閉じた口からかすかに漏れるのは、苦痛に耐えるものではない。
「入れて…いい?俺も良くなりてぇ…」
するりと足をなで上げて持ち上げる。
其処にあてがうと、やにわにサーレーが暴れた。
「は、はいら、ねぇって、そんなモン…ッ…」
「大丈夫。入れる。」
「駄目、無理。絶対無理だッ」
暴れる体を押さえつけて、ちょっと苛立ったそいつを無理やり押し込む。
「う、あ、ッ、ッくああああッ」
甲高い声をあげて挿入直後の激痛にもがく。
中まで入りきったそれを動かさずに、俺はサーレーの様子が落ちつくのを待った。
ぬるりとした薬の感触と、ウオッカで焼けて熱くなった内壁が一気に襲ってくる。
「力、抜いて。痛くしたくない」
俺がそう言うと、なんとか力を抜こうと大きく息をついてみている。
何度目かの吐く息で、少しだけ力が抜けたように感じた。
意地悪くも、その隙をついて動き始める。
「ひゃ、アン、ひ、ひどッ…せっかく…ぬい…たん…にぃッ」
喘ぎ声の合間に、かすかに抵抗の声をあげる。
それが俺を煽るんだってば。
グイ、と突き入れると耐えきれないように締め付けてくる。
もうそろそろ限界だってば、まさかこんなに気持ちイイと思わなかったし…っ!
「俺、も、駄目…イっちゃ…んんッ!」
耐えようとしたけど耐えられなかった。
抜ける寸前まで引いて、一気に押し込む。
それで、俺が果てるには十分だった。
サーレーの肩に歯を立てながら、一瞬で果てる。
その一瞬に悲鳴を聞いたような気がしたけど、
それが俺のだったか、サーレーのだったかはもう良くわからなかった。
「…はぁ…サーレー、平気?」
返答がない。
ぐったりとした汗ばむ体に手をかけて揺すってみる。
「サーレー?」
どうやらもう、すでに意識を手放した後だったらしかった。


軽く叩いたり、突っついたりしているうちに、かすかに目を開く。
「おきた?」
「ン…腕…ッ」
「あ、ゴメン、今解く!」
苦しそうに体を捩るサーレーの手首に手を伸ばす。
俺は片手で体重を支え、
片手でちょっと遠いかなと思える結び目に目いっぱい手を伸ばした。
「よッ…っと」
「…んふぅッ!」
手を伸ばそうとして伸び上がった瞬間、サーレーが小さく声を上げた。
忘れていた。中入れたままじゃん俺…
「ちょ、待って、もう少しで解ける…」
ちょっと意地悪かなと思いつつ、そのまま結び目を解きはじめる。
「や…ァッ、動くなァッ…ん」
少し緩んでいた其処が、柔らかい蠕動を示し始める。
「サ、サーレー、締めないでッ」
もうすぐ解き終わるから。
そう言うことにして、最後の結び目を解くために、もっと手を伸ばした。
届かないフリをして、サーレーの体を半分に折り曲げる。
「ひ、ひああアッ!」
より深く達するソレに身悶えるが、その動きさえも自分に刺激を与える結果となる。
ようやく結び目を解き、手を自由にすると、
抵抗よりも先に俺の背中にしがみついてきた。
軽く動いてやると、息を止めて強くしがみつく。
これがサーレーかと思うと、ちょっと意外な気がした。
反面、嬉しい自分もいるのは素直に認める。うん。
じんわりと責め始めると、小さな声が俺の耳元に飛びこんできた。
「じら、すな…ッイカせろ…もぉ…ッ」
ドキッとする台詞に、つい興奮する。
その声に答えるように強く動く。そのままサーレーの中心部を握りこんでやる。
「くっ…あ!」
ちょっと乱暴かなと思うくらいに擦る。自分がしたとき一番良かったやり方で。
「い、くぜサーレーっ」
もう限界だった。深く押し込まれたそれを軽い痙攣が襲う。
「あ、すげ、ソレ凄くイイっ…」
どうやら俺はかなりハマっていたらしい。
こんなもの、1度知ったら手放せない。もう知ってしまったから手放さない。
俺は、サーレーがもう1度気絶するまで放った後も責めつづけた。


ガツ。
後頭部への鈍痛で目を覚ます。
うつぶせに眠っていた俺は、枕の中に思いっきり顔を突っ込んで窒息しかけた。
「な、何すん…!」
やっとのことで起き上がって怒りをあらわにする。
そんな俺をにらみつけたままのサーレーがぺたんとベッドの上に座り込んでいた。
「サ、サーレー…おは、よ?」
「阿呆」
「お、怒ってる?!そりゃそうだよな、
あんな、あんなやりかたしたんだし、
そりゃもう俺だったらめちゃ怒ってリンチして半殺し…」
「阿呆!…したいならしたいとはじめからそう言え!」
「へ?!」
目を丸くして俺も座り込む。
サーレーの言葉に驚愕して目が落ちそうになる。
当のサーレーは必死といった顔で俺から目を離さない。
「………い…だろぅが…」
ぼそぼそと小さくつぶやく。聞き取れなくて俺は耳を近づけた。
「何??もっかい言って?」
「薬なんか使いやがって!……おさ…まらないだろぅが…ボケ!」
ガツン!
近くに寄せていた頭を思いっきり殴られ、バランスを崩してつんのめる。
ちょうどへたり込んでいたサーレーの膝の間に顔を突っ込む結果となる。
「何やってんだ!一遍死ぬかこのヤロォォ!」
「お前がやったんだろが!」
自分で殴っといて逆切れはないよなァ。
ん?
ちょっとまって?
「おさまらない?」
「死ね」
「ねぇおさまらないって言った?」
「なんでお前は嬉しそうなんだっ!」
ボカリ。もう一度殴られて、むっとした俺は
つんのめったフリをしてサーレーの其処に手をつく。
「−−−−−−−ッ!!」
「あら」
「は、放せっ!」
「なんで?」
「…薬の勢いなんか借りたくねぇ」
そう一言言って俯く。
胸がどきどきしていた。
全くガキじゃあるまいし、セックスくらいで大騒ぎすることじゃないと思う。
俺達はパッシオーネだし。
割りきっていなけりゃどこかで足をすくわれる。
そう頭に言い聞かせながら、勝手に腕がサーレーを抱きしめる。
「駄目だ俺」
俺はそれだけ言うと、サーレーの頭をクチャクチャにした。
「シャワー、しよ?」
俺がそう言うと、おう、と小さくつぶやく。
「先、行ってこいよ」
「アラつれないお言葉。いっしょにシャワーしようってばさ」
「い、いや、俺は。ほら…」
渋るサーレーを引きずるようにしてシャワー室へ行く。
狭いけど、なんとかなるだろ?
今は一緒にいたかった。
サーレーは困っていたが、大丈夫、俺まだ出来るしね。
ね?大丈夫。
大丈夫。
一緒に、はいろ。



FIN