目の前に横たわるのは…ワシが愛した女―――――――――――――――

ワシが望み、そして手に入れたはずの女―――――――――――――――



目の前にいるのは国際警察機構・九大天王が一人 神行太保・戴宗

その腕に抱く屍は――――――――――

ワシの衝撃波をその身に受け…息絶えた―――――――――――――――

ワシの愛しい―――――――――



何故だ、何処で間違えたのだ?

否、ワシは間違えてなどおらん!!

そう、ワシは作戦を、任務を遂行するが為に行動しただけに過ぎん。

だが、その為に手に入れたばかりのものを失ったというのか?

あの男の為に

たった戴宗(ひとり)の為に―――――――――――!!





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俺の腕の中で徐々に冷たくなってゆく身体――――――――――

2年半前、発掘された遺跡で発見された娘。

地下遺跡の最奥にあった氷の池の中に、閉じ込められていた娘―――――――

そう、宿敵(ヤツ)との闘いの最中、まるで昼寝から目覚めるがごとく目を開け

超越した力で戦いを中断させ、余波で遺跡そのものを無に帰した娘だ―――――

だがすぐに意識を失い、再び目覚めた時には彼女は何も覚えていなかった。



そのまま本部に連れ帰り、名前すら分からぬという娘に『琥珀』という名を与えた。

氷の中に閉ざされていたさまが、この宝石を連想させたからだ。

この琥珀、やたらと俺に懐いている。そう、卵から孵ったばかりの雛が最初に見たものを親と思い込むように。

今も任務から戻ったばかりの俺を見つけ、瞳を輝かせて駆け寄ってくる。

世話係りというか親がわりとなった理由のほとんどがそれだ。

まぁ美人に好かれて悪い気はしないことは確かだ。

琥珀の外見年齢は……二十歳前といったところか。

譬えるなら月光を編み込んだような長い銀の髪と少し赤紫がかった瞳

ひどく清雅な美貌――――――――。

古代中国の宮廷風衣裳のせいで分かりにくいが、均整のとれた見事なボディライン……

「戴宗?」

「あぁ、すまねぇ。いま帰ったぜ」

一瞬琥珀を抱き寄せ、すぐに放す。

「報告が済むまで待っててくれるか?なぁに直ぐだ。後で迎えに行く。部屋で待っていろ。」

笑顔でうなずき駆け出す琥珀を見送り、歩き出す。



琥珀が梁山泊(ここ)にいる理由――――――――――――――

わずかに残った遺跡の残骸からの調査と、本人の(ひどく嫌がったが)検査結果から

推定5千年以上前のものと判明。

そして時折見せるその力の片鱗、四大元素を操れるかのような力。

本人は封印されているような事を言っていたが、開放されれば九大天王(俺たち)はおろかBF団十傑集をも凌駕するに違いない。

そんな力を持った者を野に放すわけにはいかない。

ましてBF団に渡す訳には―――――――――――――――!

しかし、琥珀の保護・監視というもう一つの任務を俺は忘れつつあった。

いつしか好意以上の感情が自分の中に芽生えつつあったのだ。



発見から半年後、琥珀の初めての外出に同行した。

本部の中にいても見るもの触るもの全てにカルチャーショックを受けていたが、ようやく適応できるようになった・・・らしい。

その帰り、疲れて眠ってしまった琥珀をながめながら物思いに耽っていたらしく、同じく同行した楊志に腕をしたたかつねられ我に返った。

「聞いているのかい?戴宗」

痛む腕をさすりながら返事をした。

「アンタみたいな男に世話を任せてる上層部の気が知れないねぇ、留守の間は女性スタッフに頼むとかしなかったのかい?外出するのにもまともな服の一つも持ってなかったじゃないのさ。」

「しかたねぇだろッ 本人が今風の服は落ち着かなくて厭だってんだから」

俺がそういうと楊志は重いため息をついた。

「そりゃぁ戴宗(アンタ)が留守の間、花栄や黄信がそばにいたから仕方がないとしてもだよ、女の子なんだからもう少し気を使わないと―――――――――――」

楊志が口ごもる。

「何でぇ」

「……琥珀(このこ)下着の一枚ももってなかったんだよ…」 

な・なにぃ!!そ…そいつは…

なにを想像したのかバレたのか、再び今度はこっぴどくつねられた。

「ったく、助べえなんだから!こんなのが保護者だって判ったらこのコ泣くよ!!」

しかたないだろ!俺だって男なんだから

「だけど……アタシはまだ余り話しをしたことがないんだけど、一度だけ自分の話をしてくれたねぇ。良くは覚えていないって言ってたけどさ」

琥珀が?!コイツの素性経緯一切は上層部のごく一部しか知らないことだ、場合によっちゃぁ……俺の目に剣呑な光が一瞬灯る。

「昔ね ほんの一時的にだけど、とある国主の家に預けられたことがあるんだって。

その国主の姓が『戴』家だったんで、戴宗の事その一族の出だと思ってたらしくてね、

違うと知ってひどく寂しそうだったよ」

俺に懐いている理由の一つを知って少しがっかりした。

なんだ、俺に惚れたわけじゃないのか…



俺は少し安心していたのかもしれない。

琥珀の行動可能領域は梁山泊施設及び敷地内のみだ。

エキスパートとなり任務に就くにはまだまだ先のことだと思っていたのだ。





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私は『琥珀』。そう名前を付けられた。

名付け親は国際警察機構の九大天王が一人、その名も神行太保・戴宗。

私を目覚めさせた男(ひと)の一人。

もう一人の名を知ったのは暫く時間がたった時。出逢ったのはもっと後になってから…。



私は琥珀。

かつて『敖』家の公主として生まれ―――――――――

額に豎眼(じゅがん)を持っていたが為…その場で殺害か生涯幽閉かと選択を迫られ、後者を選んだ父。

持って生まれた竪眼のせいなのかそうでないのか…私の成長はひどくゆっくりとしていただけでなく、眠りと覚醒を繰り返していました。

そう、一族の誰とも違っていたのです。

父が亡くなり異母兄が後を継ぎ…その異母兄が亡くなってもそれは代わりませんでした。

父から何代目かの王・広(コアン)は目覚めた私を養子とし、実の娘として扱ってくれたのです。

後日、養父母も竪眼の持ち主であることを知りました。

幽閉されていた私を不憫に思ったのでしょうか?!今となっては知る由もありません。養父がなくなるまでの…私が再び眠りにつくまでのつかの間の間が、私にとって一番幸せな時でした。

あの日、私を目覚めさせた男(ひと)戴宗に自分の名を伝えませんでした。

私が眠っている間に人の世は長い長い時が経ち、私の知るもの全て遠い過去の歴史に埋もれた今、養父の与えてくれた名など意味の無いものでしかないのです。

もはやその名を知るものも、呼んでくれる者すらいるはずも無いのだから――――――

だから全て忘れたふりをしたのです。

いずれまた眠りの時 あるいは…誰かが与えてくれるかもしれない……死の瞬間までのかりそめの間のことなのだから―――――――――――――――――――――――



私が目覚めて最初に見た男(ひと)の一人、神行太保・戴宗。

私がほんの一時 人の世で過ごした『戴』家の名を持つ人。

養父の妹君が降嫁なされた家の……遠く私の血にも連なる者かもしれなかった人――

なぜこれほどまでにこの男(ひと)に心惹かれるのでしょう?

『戴』家とはなんら関わりのない人間(ひと)と分かっても、戴宗に対する想いは変わりませんでした。いいえ、増していったのだと思います。

そして私はもう一人の男(ひと) BF団十傑集が一人、衝撃のアルベルトと出会いました。

この二人の男性を同時に愛してしまうなど……想像すらしておりませんでした―――





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その女は『琥珀』と名乗った。

そう、あの遺跡で見た女だ。

ワシの放った衝撃波を自ら操った風で対消滅させ、BF団メカを剣の一振りで塵と化した女―――――

ワシを見据えた気丈な目

ワシを威圧する女などそうはおらん

手に入れたい!全てワシのものとしたい!!強くそう思った。

しかし、国際の連中が上手く隠したとみえ、チャンスはなかなか訪れなかった。

だが…そう、見つけたあの日から1年が過ぎたある日―――――――――――

我が盟友、幻惑のセルバンテスの表の顔である『オイルダラー社』が主宰するパーティーで偶然出会ったのだ。

と、言ってもセルバンテスの会社とBF団との関係が国際側にバレては困るので、ワシはセルバンテスの部屋に居ったのだが。

そう、飛んで火にいるなんとやらで…向こうから飛び込んできたという訳だ。

与えられた部屋に戻ろうとしたが、同じような作りの廊下が続いていたせいで迷ったというのだ、そしてワシのいるセルバンテスの部屋に入ってしまったと。

なにやら以前と感じが違うではないか。

こう…触れたら折れてしまいそうな繊細さを感じる。

ワシのことを覚えていなさそうなのも癪に障る!

一瞬の邂逅に過ぎなかったのだから、覚えていなかったとしても仕方がないが…気にいらんではないか!

「ワシを覚えておらんのか?」

つい思った言葉が口に出た。

女・琥珀が口を開いたその時、セルバンテスが忘れ物をしたと言って部屋に入ってきた。

迷い間違えて部屋に入ってしまった事を詫びる琥珀にセルバンテスは「では私が送っていきましょう。お連れの方が探しておられましたよ」と笑顔――本心はまったく違うが―――でそう言った。

忘れ物を取るためデスクに近づいたセルバンテスにしか聞こえぬ声で「アレはワシの獲物だ、手を出すなよ」と告げた。

セルバンテスに伴われ部屋を後にする琥珀を見送り、ワシは笑いがこみあげて来るのを感じた。

獲物―――そう、ワシの獲物―――手に入れる、必ずだ!!



それから暫くの後ワシは任務の為 東欧にある地方都市を訪れた。

本来ならワシが出向くまでもないのだが、あの戴宗が拘っているとの情報が入り

やって来たのだ。

ほんの気まぐれを起こしたワシは迎えの車を返し、作戦本部まで歩くことにした。

不意に後ろから声をかけられた。

何たる不覚!十傑集・衝撃のアルベルトともあろうこのワシが、声を掛けられるまで気配に気づかぬとは!!

振り返るとそこには――――――――

この街には仕事で来たのだと、少し時間が出来たので無理を言って外出させてもらったのだと琥珀は言った。

ワシを見かけてもしやと思い追いかけたのだとも言う。

近くに国際エキスパートがいるのか?と用心するが、その気配は無い。

どうやら本当に一人のようだ。

ワシは琥珀の腕を取ると人ごみを避け、路地の奥へと進んだ。

この女の容姿は人目に付きすぎる。

万が一にも国際側にワシがいることをまだ知られては不味いのだ。

『不思議な子だね。男も女も関係なく、人を魅了するものを持っているよ。

だけど世間知らずのお嬢様だねぇ』

『アレは花だね 聖域に咲く花。守るか無残に散らすかは―――――』

ふとセルバンテスがそう言っていたのを思い出した。

路地の最も奥までくるとさすがに表の喧騒は聞こえてこない。

「あの……」

と琥珀がきりだす。

何!?先日のパーティーでセルバンテスの部屋に入ったことをまだ気にしていたのか?

ちゃんと詫びれなかったばかりか、遭う機会もないであろうからワシからも伝えてくれだと?

それで追いかけてきたのか?このワシを?

むう…嘘ではなさそうだ。ワシを見る目が真剣そのものだ。

気が抜けたワシは笑い出してしまった。そう、毒気が抜けたというヤツだ。

「解った、セルバンテスにはワシから伝えておこう」

ワシがそう答えると、安堵の笑みを浮かべた。

しかしこの女、警戒心というものが無さ過ぎる。

いったい国際側は何を考えておるのやら……ワシなら一人で行動させんぞ!?

と、突然ピーピーと琥珀の腕の辺りからアラームらしき音が鳴る。

なんだもう帰るのか?

そして いきなりワシに声を掛けた非礼を詫びると、琥珀はきびすを返し走り去った。

素直に帰すのではなかったと後悔した時には、姿は見えなくなっていた。





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琥珀に好きな男がいるらしいと楊志に告げられ…俺は言葉を失った。

相手は誰だ?!花栄か?黄信か?それとも日本支部に転属になった天鬼か?

「中身は子供だと思ってたのにねぇ」

そうだ、アレはまだ子供だ。

時折見せる力と清雅な容姿とは裏腹に、中身は世間知らずの天然お嬢様だ。

俺が守るべき―――――――――――――――

「おや?嫉妬してるのかい? 戴宗(アンタ)らしくないねえ」

「そんなんじゃねえ」

とは言ったものの苦虫を潰したような顔をしているに違いない。

事実複雑な気分だ。腹が立ってしかたがねえ!

娘に恋人が出来た時の父親ってぇこんな感じなのか?などと訳の分からないことまで考えた。

「おう!今夜は飲むぞ!!」

「いいねぇ、だけど戴宗(アンタ)のおごりだよ」

「チッ しかたねぇな」



夜も更けた頃俺の部屋に、楊志につれられた琥珀と酒とつまみを持参した花栄・黄信の二人もやってきた。

酒を飲ませ、それとなく相手が誰か聞きだそうとしていたってのに―――――

花栄、黄信、お前らに当分ただ酒飲ませてもらうから覚悟しとけよ!

と、心の中で悪態をつく。

肝心の琥珀は…というと、既に酔ったのか楊志の肩にもたれかかって眠りこけている。

俺にとっては舐める程度の酒でも、琥珀には違ったようだ。

「何て顔して寝てるんだろうねぇ、まったく……幸せそうな顔してさ―――」

「戴宗、その娘 お前が留守の間 剣術の稽古に身が入っておらん!親代わりとしての教育がなっとらんぞ!」

今まで沈黙を守っていた黄信の言葉に、飲みかけた酒を噴出しそうになる。

運悪く気管に入ったのか、ひとしきり咳き込んだ後

「誰が父親だって!」と黄信の方へ身を乗りだした

「戴宗!琥珀が起きちまうよ!!せっかく気持ちよさそうに眠ってるのに、可哀想じゃないか」

楊志にたしなめられ、慌てて琥珀の様子を窺う。

良かった起きる気配はねえ。

だが、このまんまじゃ可哀想だからと奥の俺のベッドに寝かせることにした。

起こさないように抱き上げ、移動する。

細心の注意を払い寝かせたはずが、一瞬目を開け俺の名を呼ぶ。

何だ寝ぼけてたのか?

「いいからそのまま寝てろ」

そういうと琥珀は再び眠りに落ちていった。

まったく、なんて顔してねてやがるんだ。人の気も知らねぇで…

琥珀のこんな幸せそうな寝顔を見たのは、これが初めてのような気がする。

コイツの幸せそうな寝顔を見ていると…ちょっと気分は複雑だが、いつもそういられるように守ってやりたい。本気でそう思う。

戻った俺を見て楊志が笑っている。

親父だ兄貴だと好きに言うがいい。

真実琥珀に好きな男がいたとしても、アイツの一番身近にいるのはこの俺だ!

この俺、神行太保・戴宗なのだ!

それは相手が誰であろうと譲れねえ!!そう心に決めた。



明け方近くにようやく楊志らは帰って行った。

俺はベッド脇まで椅子を引き寄せ座ると、琥珀の寝顔を肴に残った酒を杯に注ぎちびちびやっていた。

琥珀の好きな男…か

いずれはそいつと深い仲になって…その白い肌を許すのかと思うと無性に腹が立ってきた。

それならいっそのこと俺が――――――――――――

無意識のうちに琥珀の髪に、頬に触れていた。

「………」

「悪い 起こしちまったか?」

まだ寝ぼけているのか?幸せそうな顔のまま俺に微笑む。

「…戴そ……う…」

「いい夢でも見てたのか? 幸せそうな顔で寝てたぜ」

昔の―――と言いかけて琥珀は口を噤んだ。

俺は琥珀を安心させるため笑った。

それに安心したのか、琥珀は再び口を開いた。

「昔…一度だけ義父様に……蟠桃会(ばんとうえ)に連れて行っていただいた事があるの。 瑤池での酒宴は…それは盛大で―――――――――――」

話すうちに涙ぐむ琥珀。

涙を見られたくないのか、俺に背を向ける。

昔を忘れたふりをしていたのか?

「寂しいのか?」

「そんなこと!!」

大きくかぶりを振る。

こちらへ向き直ると、体を起こす。

「戴宗…貴方がいるから……寂しいと思ったことなど……」

そう言いながら両手を俺に向かって伸ばしてくる

「琥珀…」

俺はその身を抱きしめた。

「琥珀…俺が好きか?」

素直にうなずく琥珀。

「好き。楊志も花栄も黄信も…天鬼さんも…皆 好き…」

いや…俺の聞きたい好きはそうじゃなくて―――――――

「…戴宗が 一番好き……」

今、なんて?俺が一番…?

…しかたねぇ、俺の好きとコイツの好きにはかなりの温度差があるような気がするが………俺にはもう時間が余りあるわけじゃねえ。

次の任務を終えたら、北京支部に転属の正式な辞令がおりるだろう。

次の…任務への出立は今日の夕刻。

それにすぐに帰ってこられる保証も無い。

「なぁ琥珀……俺と夫婦になる気は無いか?」

恐る恐る顔を上げる琥珀。戸惑いの色が隠せない。

「戴…宗…」

「返事は直ぐでなくていい。考えてみてくれ」

そこで俺はかなり自分が酒臭いのでは?という考えに達した。

一晩中飲み明かした直後だ、いつもに拍車がかかっているに違ぇねえ。

慌てて俺は付け加えた

「酔った勢いで言ったんじゃないからな!」

慌てる俺をみて琥珀はクスクス笑った。

「お酒を飲んでない戴宗なんて、戴宗じゃない……」

やっぱりコイツには泣き顔より笑ってる顔の方が良く似合う。

「琥珀…」

たまらず琥珀の額に、鼻に、唇に口付ける。

琥珀は…拒否せず、俺の背に回した腕の力が増しただけだった

それが返事だと思っていいのか?

俺はこのまま琥珀を押し倒したい衝動を堪えるのにかなりの努力を要した。





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久しぶりに静かな夜だ

満月の光で室内は十分明るい。

取り留めの無い考えにふけるには丁度良いだろう。

暖炉に燃える炎をぼんやりと眺めながら、琥珀色の酒の入ったグラスを傾ける。

この酒は、以前セルバンテスが持ってきたものだ。

そのヤツも今は任務でこの地を離れている。

カラン…解けた氷が立てる音が室内にそっと響く。

ワシはいつしかあの女のことを考えていた。

ワシらしくない。たかが女一人にこうも執着するとは――――――

しかし何故ワシはあの女に固執するのだ

手に入れたいのはあの類を見ない能力か?

確かにあの力を我々BF団に引き込めばかなりの戦力になるというものだ。

おそらく十傑集にも引けをとらんだろう――――――

だが―――何故かワシはそれをしたくは無いのだ―――何故だ?

「琥珀…」

名を呼んでも答えるものはない…

少し間をおいてもう一度その名を呼ぶ 「琥珀」と。

カタッと窓の外で音がした。

そちらを向く。

外のテラスには―――――――――――――

信じられない面持ちで窓を開いた

「琥珀――――」

「………」

ずぶ濡れではないか、それにいったいどうやって此処まできたのだ?

琥珀の腕をとり暖炉の前につれて行き、ぬれた服を脱がしワシのガウンを羽織らせる。

「…………たから……」

「うん?」

ワシに呼ばれた気がしただと?

それでいても経ってもいられずに此処まで来たというのか?貴様は…

梁山泊を抜け出すに水脈(みち)を通り――――――――

あとは気配を辿っただと?

東なら水、西なら風、北なら大地が気配を伝えると、そういうのか?

貴様はいったい――――――――――――

「貴方は…BF団の方なのに―――――」

「かまわん。ワシはお前に逢いたいと思い、貴様はそれに応えた。それだけだ」

ワシらしくない、目の前の女を心底愛しいと思うなど。

ワシらしくもない、優しく抱き寄せ口付けるなど――――――

力ずくで奪ってしまえばよいのだ!

今までも欲しいモノはそうしてきたではないか!!

琥珀の反応にふと疑問が浮かぶ。

もしやこやつ――――?

「初めて…なのか?」

羞恥に頬を染めた顔がわずかに頷く。

こ、国際の人間どもは何も考えておらんのか?!

敵に捕まった女エージェントがどんな仕打ちをうけるか知らぬわけではあるまい?!

万が一の時の対応の仕方ぐらい教えておかんか!!

くっ 此処でワシが狼狽してどうなる

むうっ なぜワシが動揺せねばならんのだ!落ち着けっ ワシ!!

「……宗………」

うむ?今 なんと言った?

「…一度だけ………戴宗と くちづ………」

その名を出すか!わしの前で!!

ふいに体の奥底からドス黒いものが湧き上ってくるのを感じた。

何度も作戦の邪魔をしてきたあの男

少し前 九大天王の一人になったというあの若造 神行太保・戴宗!!

「わしの前で二度とその名を口にするな!貴様の口にその名が上るのは許さん!!」

この女が愛しい――――――

この女が憎らしい―――――!

どうしてくれようか?

ワシの剣幕に恐れをなしたのか、腕の中から逃れようとするが―――――

逃しはせん!!

抗う琥珀を抱きかかえ、ベッドに押し倒す

嫌がるのを無理やり組み敷き、己の欲望のままその身を貫いた。

ワシとは違う名を呼ぶ唇を、ワシのそれで塞ぎ――――

その身体の中で果ててもワシの欲望は尽きることは無かった

貴様はワシのものだと解らせてやろう

その身体に―――その心に―――――――

そう 何度でも!!



何度目かの欲望の塊をその身のうちにほとばしらせた時、ワシはようやく琥珀が気を失っている事に気がついた。

頬に残る幾筋もの涙の痕。

少し乱暴にしすぎたか?

初めてがこうではトラウマになるやもしれんな?

次は優しく愛してやろう――――――

そんなことを考える自分に苦笑した。

らしくないな、この衝撃のアルベルトともあろう者が。

だが――悪くない――――悪くはないな

ワシに出来うること全てをお前の為にしてやろう

お前の微笑む顔が見たいのだ

ワシだけに微笑む顔を――――

そう 誰にも見せず触れさせぬ

ワシだけの宝珠――――――――
コメント
おらくる様に、48484のカモを踏んでいただきまして!
書いていただきました小説!なんと!驚きのクオリティ…。
おらくる様、素敵すぎます。
私のコメントなど、つまらないものは必要ないかと思います。
おらくる様に鴨を踏んでいただけたことが、ひどく光栄に感じます…!
本当に本当に、鴨踏んでくれて有難う御座いました!
これからのご活躍なんかを期待しちゃったりしても、よろしいでしょうか。
いや、是非させてください。お願いします。ビバ、情熱の熱き男たち、
ビバ、暖かく柔らかくそして強い美しき心の女たち。