ものすごいワクワクする。
ハヤトはあわてて俺を止めようとしてたけど、勝手の違う場所のせいなのか、
俺の走りに追いついてこられないみたいだ。
それとも、映画館であんなことしたから、ちょっと体力消耗しちゃってるとか?
パシフィック学園の渡り廊下。
ハヤトを撒くようにして、俺は屋内に作ってある温水プールの真正面に出た。

スポーツクラブにでも行こうか、と、ハヤト先生が言い出したときに、俺はピン!とそれを思いついて。
休みの間の学校。
そのプールに忍び込んで、使っちゃおう、なんて。
日本はお堅いトコロだから、面倒だから今迄こんなことしようと思わなかった。
アメリカでは、よくやってたんだぜ。
休みの学校襲って、プールで遊んで怒られてフェンス乗り越えて逃げる。なんて、ね。
…ここは、フェンスが無いから、そう言う逃げ方にはならないだろうけど。
振り返ると、ハヤトがいなくて。
「あれ?」
完全に撒いちゃったんだと、意味が無いんだけどなぁ。

…独りで飛び込んだって、面白くない、か。

水面は、揺ら揺らとゆれていて。
…飛び込んだら、気持ちいいだろうな。
ハヤトが、始終身体をうごかしている気持ち、わかるよ。
すっきりするもんな、何もかも。
悩み、苦しみ、寂しい、悲しい、欲望やストレス、そんなの、全部、すっきりしちゃうんだ。
俺も、ラグビーやってると、そうさ。
ちょっと監督がうるさいかな、とか仲間に腹が立つな、とか。
そんなのは思うけど。
でも、俺の仲間は仲間。
…今は、俺が日本に来てるから、アメリカの仲間とは会えないけれど。
コッチにはコッチで、日本で知り合った仲間がいる。

…なんて感じで、考えにふけっていたんだけど、なかなかハヤトは現れない。
…もしかして、迷子になったとかいうんじゃぁないだろうね?
俺がそれを予想から確信に変え始めた頃。
プールの扉が勢いよく開いて、ハヤトが飛び出してきた。
「遅いな、先生」
「遅いも何もあるかー!学園内は複雑だし、学長室はわかんねぇし、よぉ!」
ははは。
息せき切って、ソコにしゃがみこんで、このやろう、って感じでもう一度立ち上がって。
大丈夫ですか?
と、言いかけて。
…?
学長室?
「…センセイ?なんで、学長室を…」
「使用許可取り付けてきたんだよ!無断で遊びに使うなんざ、教師としてほっとけねぇしな」
なんだ。
許可、取ってきちゃったのか。
「…」
「なんだよ、ロイ。」
「アンタ、意外にツマンナイ人だね」

せっかく、ヒミツ気分で遊ぼうと思ったのにさ。
言い放って、プールから出る扉に手をかけた。

「ちょ、ロイ…勝手なことばっかり言うな!」
「日本人は堅苦しくて、決まりばっかり。ちょっとハメをはずして楽しむ、なんてこと、知らないのかい」

ツマンナイよ。
せっかく、内緒で遊んで、スリルとか。
…ちょっとくらい、いいじゃないか。
面白そうだったのに。

あーハヤトは教師だ、教師だよ。

生徒をそうやって制約で縛るんだ。
「待てよ、ロイ!」
脱衣室を抜けて外に出ようとした俺の腕をつかんで。
振り向いたら、怒ってる。
ナンデ?
怒ってるのは、俺だよ。
アンタ、ツマンネェよ。

「俺だってなぁ!そりゃ、おもしれぇことは好きだ!」
「だったら!」
「…俺の教師生命ここで終わらせる気か!」
「…あ」

そうか。

教師が生徒がこんなことするの、見逃したりなんかしたら。
そうか。
そうか。
そっか。
なんだよ。
そうなら、そうと早く言ってよ。
胸の奥、ぐっと、自分でつかんで。
ココロでハヤトに謝った。

ハヤト、教師、だもんな。

「なんだよ、ロイ…そんな、目して…」
「いいえ。」
「まだ、怒ってンのか?物事には通ることと通らねぇことがある!
 という事を、身体で覚えさせてやろうか!」
コブシ、振り上げたハヤトを横目で流し見て。
クス、と鼻で笑って髪をかきあげる。
「…のぉ、ロイ!舐めてンのかー!」
「んーん?」
「じゃあ…!」

振り上げたコブシ、その手首から、肘の辺りまで、ツゥ、と指一本滑らせて。
「アンタが教師じゃなくなるのはイヤだ」
ハヤトは、俺のしたことにか、言ったことになのか、真っ赤になって。
クチ、への字グチ。
そう。
俺は、この人が教師だから、好きなんだ。
教師という地位の上に、こんな形で鎮座しているアナタだから、気に入ってるんだ。
「それに、それだったら、俺とこんな事してるの、ばれる方がよっぽどマズイよ?」
「こんな事…?」
近寄って。
汗に濡れてる頬に手を添えて、
舌から先に、キスをした。
こんな事。
生徒と「して」るのばれたら、それこそ…

マズイよ?

…キスをしたまま、ハヤトの身体を引きずって。
脱衣室の入り口に鍵をかけた。
「ん、んんー」
唇を閉じようとするから、頬に添えた両手から一本の手を選出して、ハヤトの背に回して抱きしめた。
ゆっくりと。
蕩けさせてやるよ。
身体も。
心は、どっちでもイイか。
心まで蕩けるのは、キスよりもっと深い場所の方が、楽しいでしょう?

「お、まえ、本当に、こんなことばっかり、してると…」
「と?」
「頭、悪くなるぞ…」

…あのねぇ。
ムード壊さないでくれないかなぁ。
もう一度、そのクチ塞いで。
唾液絡めて、柔らかい中の感触を楽しむ。
舌を出したまま、そのクチの中から抜き取ると、
荒い息の中、唾液が微かに糸を引いて流れ落ちた。

「センセイ、一日に、何回イケる?」
「…しらねぇよ、そんなこと…」
「ンじゃ、限界にチャレンジ」
「…ここでか!?おい、ちょっと、そう言う許可は貰ってねぇぞ…!?」

貰える訳無いでしょーが。
脱衣室、服を脱ぎ捨てて。
ハヤトのジーンズ、ぴったりしてて。さっき映画館で触りにくかったんだよね。
今度は、そう言うわけには行かないよ?
でもちょっとだけ、マニアックなこと、させて貰うよ。
上着だけ脱いで、下、どうしようか迷ってるから。
「いーよ、そのままで」
「…俺は、するともなんとも言ってねぇ、からな…」
上、脱いだってのは、させてくれるって証拠でしょ?
手、掴んで、引っ張って。

シャワー室に引きずり込んだ。

「そもそもロイ、お前はな、いつもこんな事…うわ!」
まぁた、なにか俺に説教しようとしてるから。
シャワーの蛇口、思い切りひねって、ちょうど真下にいた先生、びしょぬれ。
「ハハハハハ!」
「んの、やろ!」
グシャグシャ、と髪を乱されて、ああ!俺の自慢の髪がグチャグチャにー!
「あー、どうすんだ、コレ、帰りよぉ!」
「大丈夫ですよ、乾燥機付いてますから、ウチの学園のシャワールームには」
だから。
身体に張り付いて濡れたジーンズ。
ギシギシ言ってるその布地、指先で少しずつ脱がして。
出しっぱなしのシャワーは、センセイをびしょぬれに浸してくから…
ちょっとだけ、見惚れてた。
冷たいままのシャワー室の壁に…両手、つかせて。
後ろから、ゆっくり攻め立てる。
「…ぅ…」
黒い瞳が宙を仰いでるから、名前を呼んで、…コッチ見て?
「壁、あんまり…爪立てちゃ駄目ですよ、センセイ…」
「わ、かって……ッん…はぁッ!」
崩れそうになった身体、腰骨を掴んで支えて。
先生の手が壁を掻いて、緩やかに肘が曲がり、体を壁に持たせかけた。
その背中に、雨が当たって弾け飛ぶ。
水玉になって首筋を流れる雨、舌で舐め取った。
「ン…ぁ…」
「もっと、腰、コッチに…」
「や…、んな、格好、冗談じゃ、ねえ…!」

後ろから体を押し付けて。
壁に着いた身体の、先生自身に手を添えて。
「…ぁ、あっ!」
「このまま、イって?」
「……!」

指先に絡まるせっかくの液体。
シャワーに流されて。
もったいないから、先生の首筋に塗りつけた。
どうせ、雨に流されてしまうんだろうけど。



ザパーン。
プールに飛び込んで、一気に水面まで浮かび上がる。
「おー、上手いな、飛び込み!」
「そりゃ、飛び込み上手いと目立つからね」
「女の目ばっかり気にしてるヤツの発言だな」
とか言われつつ。
飛び込みは、得意なんだけど。
センセイと泳ぎの競争して、負けっぱなし。
「俺の勝ちだ、どうした?もう終わりかー?」
豪快に笑ってる先生。
アンタ、本当に勝ち負け、好きだねー。

日本人らしいけど、そう言うトコ、悪くないよ。






乾燥機で乾かしたジーンズ、ちょっときついとか言いながら、無理やり履いて。
帰り際、二人で学長に挨拶した。





学長は、ニコニコしながら、オッケー出してくれてたけど。
…あんな事してたのまでは、知らないんだろうなぁ、なんて、ほくそえんで。
帰り際、また迷子になりかけてるハヤト先生捕まえて、学校外まで引きずり出した。
「広いんだな、パシフィックってのはよ!スゲー…」
門の外から学園の中、感心したように見渡してる。
「プールも広いでしょう?」
「ああ。まさか、50メートルだとは思わなかったぜ、普通は25だろ?こりゃ、五輪のヤツがうらやましがるぞ!」
「秘密はやっぱりあったほうが面白いでしょう?」
「は?」

こっそりプールに忍び込むってコトよりも。
もっと秘密なこと、したもんねぇ。センセイ?
少しの間、考えあぐねて。
俺が、ペロ、と舌を出して見せたら、俺の真意に気づいたみたい。

「…ばっかヤロウ!本当だったらなー!!」
「まあまあ、ここは公道ですから」

先生のへの字グチ、今日は二回目。

それより、オナカ空きません?

ディナーに行きましょうよ、時間もちょうどいいし。
日暮れの空も綺麗だし。
アナタは相変わらずかっこいいし。
俺が認められる人間が何人かでもいるなんて。
捨てたモンじゃないですね、日本も。


ねぇ?どこか、連れて行ってくださいよ。今度はアナタの、ヒミツの、場所へ、ね?