「太陽高校の先生じゃありませんか」
キラーン。
妙な輝きとともに現れたのは、確か…
「パシフィックのロイとか言ったか」
「イエース☆そうです、よく覚えておいてくださいましたね」

ソレは俺は居酒屋で一人で飲んでいたときの話だった。
いつもより荒れていた俺は、中ジョッキを目の前に5〜6本ゴンゴン、と並べて。
ツマミ?いるか!こんなときにはアルコールで気合を入れるのが一番だ!
と、まあ飲み始めたのだが…
ちょっと勢いよく続けて飲んだのが悪かったのか、微妙につぶれ加減。
…そうだよ。
響子先生に誘いを断られたんだよぉー!
それだけなら、まだ何時もどおりかもしれん(ソレも問題だけどな
その学校の帰りに、二人でいるところなんて発見しちまったら…

ショック、でかいのはしょうがねーだろ。

そんなこんなで、6杯目やっと口に運んだときだった。
そのアメリカンチックな日本語が聞こえてきたのは。
「ずいぶん荒れてますねぇ先生」
「人間にゃ上りも下りもあるってことだ、だが其処で終わっちまったらそれで終わりだ!」
「…あーようするに」
「ああ?」
「ふられたと」
うがー!
持っていたジョッキの其処で殴ろうとして、いけないいけない、
ここは公共の場であり、俺は太陽学園の教師でありコイツは他校の生徒だ
から、
って、
別に殴ってもかまわんか

ゴン!

「!なにをするんですか!」
その俺の一撃をジョッキごと受け止めて。
俺の目線もよくあわなくて、
ロイの顔もぼやける。
「図星だとしても、怒るだけで解決策を考えようとしないのは先生の悪いところですね」
「…ううぬ」
そういわれてみれば。
なぜだと考えたことはあったが、どうしたらいいのか、は考えたことがなかったな…
響子先生は誘っても誘っても乗ってくれない。
わかってる、英雄先生がいることは。
…でも、もしかしたら、俺と一度でもデートしたら、俺の良さに気づいてくれるかも
「ソレは浅はかなんじゃないですかね」
「…なんだと?」
「女を落とすときには、言葉と、ムード、そして少しの嘘、ですよ」
「俺に嘘をつけというのか!?」
「つけませんか?」
バン!とテーブルをたたいて立ち上がり、
店主に金をたたきつけてその店から出た。
気分が悪い。

俺に嘘をつけ、と?
どんな?
どんなことであれ、嘘は嘘だ、本当の気持ちでぶつかって、それで愛が通じなければ何の実りもねぇ!

小細工なんて、

そもそも英雄先生だって小細工をして響子先生にぶつかったわけじゃない…


はぁ…
何かが、たりねぇんだ、俺には
気合か?まだ足りねぇのか?
「いやいや、ソレはありすぎですが」
「…!ロイ、まだいやがったのか!」
「なぜ俺をそんなに嫌うのかなぁ、と思いましてね?」
「俺と考え方があわねぇ、てめぇの考えは人を騙す事をなんとも思わねぇ」
「人を騙した方が親切だって時もあるんですよ」

俺が歩いている細道、
線路脇。
その線路に、流れに逆らうように、黒い貨物列車が走り去っていった。
それにまた逆らうように、ロイに向き直る。
「騙すことが親切だと?」
一心同体の竹刀。
肩に担ぎ上げて。こんこん、と肩の上で弾ませた。
「まず、無意味にすごまない」
「…」
「自分が怒っていても、気に入らなくても、相手のために自分を殺す」
「…」
「それは、相手のためを思ってのことにはなりませんか、ソレだって騙すという行為ですね?」
「…一理はある」
「でしょう」
「しかし、俺はソレを受け入れたら、今までの自分を否定することになる」
「そのままで自分の愛が実ると思うんでしたらね」


ぐ。


「なんだって、俺に絡みやがるんだ」
「ハ?」
「日本人は嫌いなんだろうが貴様は!」
「…日本人はうそつきだ」

通り過ぎきった貨物の後、しんとした住宅街。
俺は、ロイに背を向けて歩き出した。
高架下に入って、其処を抜けると俺の家までの近道になる。
日本人はうそつきだ?
うそつきなのか?
ロイにはそう見えるらしい。
俺もうそつきなんだろうか。日本人としてひとまとめにして全部そうだと決め付けているだけじゃないのか。
「おやおや、お逃げですか?」

高架下のコンクリートに、ロイの声がこだまする。
「逃げちゃいねぇ!俺は早く家に帰りたいだけだ!」
「嘘ですね」
「!」
「ほうら、うそつきじゃありませんか日本人。」

確かに、俺は今嘘をついた。
家に帰りたいわけじゃない。
このふさいだいらいらする俺の感情として認めたくないのこ感情。
これを何とかしに行きたいだけだ。
本当のことを言うことが、うそつきでない、と、ロイはそう言う。
「すべて俺にさらけ出してくださいよ。そうすれば俺と対等に話が出来る」
「お前となんか対等に話し合ったところで…」
「そうやって自分の意見を完全に通そうとする。キョウコが振り向かないのも無理はない」
「うるせエ!!!」
竹刀を、壁に強くたたきつけて、その音が耳にこだまして、腕に感じた衝撃でふらついた。
「…っ」
「大丈夫ですか?」
見下したように笑うロイの腕、ソレが俺の身体を支える。
「…俺も調子に乗って飲みすぎた…コリャ俺の責任だ、俺が何とかする」
「ほおって置いてくれ、と素直にお言いになったらいいでしょうが。」
「…」

ああ言えば、こう言う!

「ちょっと休んで行った方がイイんじゃないですかねぇ?」
「…そうする」

が、どこでだ?
ここで、飲んだくれたオヤジみたいに、寝っ転がるってのも…
いいからいいから、まかせてくださいよ、と
口の端を持ち上げて目を細めたロイに肩を担がれて。
くそ。
なさけねぇ。
この程度、
別に自分で歩け…
「そんな無防備だと、どこかの誰かみたいにつかまって洗脳でもされちゃいますよ」
「…」
ゲド高の醍醐のことか。
ヤツが、洗脳されたという過去。
…洗脳されるほど、無防備な状態にあの男がなっただなんて、俺には信じられねぇな…。
いや、
俺が無防備になるだなんてそもそも…





ロイが俺を連れて行ったのは、
真っ黒い車。
車?
「貴様、免許もないのに…!」
「いやだな、当然運転手もいますよ。送らせますからご安心ください?」
と、後部座席に押し込まれて。
「じ、自分で帰れると…!」
「俺と話をしましょう」
「ああ?」
「アナタがなぜ、愛されないのか、をね」


その言葉に、俺は唇を噛むしかなかった。



後部座席に乗り込んでみると、意外に中は広くて。
運転手との間には、硬化ガラスの様な仕切り。
バックミラー越しに、サングラス(夜中に?)をかけた男が、会釈をした。
反対側から、ロイが乗り込んでくる。
「あんなあ、ロイ、行っておくが俺は教師だ、色恋沙汰ばかりに生きているわけじゃぁなぁ」
「でも必要でしょう人間ですからね」
「ぐ。」
「愛がわかりますか?」
「…魂だろ」
「ぶー」

ふざけた調子のロイ。
んじゃ、テメェは愛がなんだか知ってるっていうのかよ。
「知ってますよ」
言うが早いか。
「…!!!!!」
後部座席に押し倒されそうになって、とっさに反応して腹筋で身体を持ち上げ…
たらバランスを崩して、窓ガラスに後頭部をゴン!
「っ」
「暴れるからですよ先生」
「突然妙なことしやがるからだ!」
「まだしてませんってば、いやだな日本人は早とちりで」
そう言っているロイの手の先。
指の先が。
「ぎ…!!!どこ触ってやがるーッ!」
「どこだと思います?」
「…お前ホモか?!ホモだろお前!法律的には認めなくもないが俺が認めるとは一言も言ってないぞ!」
「…よく喋る猿だな…」
暴れついでに、ロイの鳩尾につま先を食い込ませて。
ひるんだ!
握り締めた竹刀、振り上げ…
「ち…ッ」
「愛される側の気持ち、考えたことがありますか?」
「え?」
「愛を語るのは勇気のいることなんですよ先生。そして、愛を語られることも勇気がいる」
??????
まったく、
意味が。
わからないのは、いけないことなのか?
ロイが言っているのは、俺に足りないことなのか?

「動かないでくださいよ…動いたら、愛へのギブアップとみなします」

そんな論理が、あるかー!!!!
「んのやろぉぉおお!!!放しやがれ…」
「逃げますか。理解する前に、愛することから」
「…これとソレと関係があるか!俺は俺の方針で…」
「だからアナタの愛は一方的になるんじゃあないのかい?」

胸に、

ズキン、



来た。






「そう、相手を見るんですよ、相手が何を欲しているのか、ソレを体現する」
「…俺にはわからない」
「もうお逃げですか」
「…くそ…ッ…お、男同士で、こんな…」
俺の首筋に、ナメクジみたいに舌を這わせて、
鎖骨。
シャツの上から、手のひらでまさぐる。
ゆっくりと。
確かに、優しい。ロイの掌も指先も舌先も。
「できますか?」

「俺にしてみてはくれませんかね?」
「俺が?なんで…」
「手本と復習ですよ」

首を逸らしたロイの肌に、舌を突き出して。
…舐めろ、ってのかよ。
男だろ。お前。
何で、俺が男なんか…
「あなたは生きること以外何も出来ないんですか」
「…っ」
言葉にあおられて、反抗することが正しいのか間違っているのか、感覚が、鈍っちまう…
気合一発、押しのけてここから逃げ…
出来る、かよ…
乾いちまった舌先、いったん口の中で湿らせて。
ロイの肌を、アイスでも舐めるかみてぇに…
「そう、ようくできるじゃないですか」
「こ、こんなことさせやがって…。何の意味が…。」
「わかりたければ、続きを知ることですね」

これはロイの言葉の魔術…。

流されちまう。

駄目だ駄目だ駄目だ!
冷静に考えろ、俺はどうしたら…

「っぐぅ!?」

屈み込んだロイの頭部、
首を下げて確認した途端。
捲り上げられたシャツの、中心、指先でつまみ上げられた。
そ、そんなとこ。
オンナじゃねぇんだから、そんなトコ、よぉ…
舌先にくすぐられるのが、わかる。
「…ッ、…!」
「声、出していいですよ。っと言うより出してほしいですね」

バックミラー越しに、
あのサングラスの中、どこ見てるかわかりゃしねえ。
…朦朧と、して、
駄目だ、
頭、はっきりさせねぇと…
指先が、這って行って俺のソコまで到達して。
指先で、服の上からなぞられる。
「よ、よ、せっ…」
「嫌ですか?本当に?こんなに先生のために俺が愛撫をしていても、嫌だと本当に言い切れるかな?」
「当たり前だ!」
「これがその言葉の真相ですか?」
キュ。
「ぃうッ…!」
指と指の間に挟みこまれて、掴み上げられて。
「…っ、は…」
「感じてる顔ですよね?」
「ち、違…」
「嘘だ、ほらまたうそつきだ。アメリカはもっと性行為を楽しめる関係が多いのに」
ロイの、肩を掴んで、押し上げ…
足なんか、狭くて動かせないぞ、くそ…
扉、蹴り破って…
誰かに、見つかったら、どう言い訳する?
「混乱しちゃってるみたいですねぇ」
俺の突っ張った腕に押し上げられて、ロイの身体が起き上がった。
「そんなことしたって俺の指は、ココ」
「…!」
「先生のやり方は気合ばかり、勢いばかり、ソレは相手を傷つける。違いますか」

そんな…
俺の生き方を全部否定するような。
そんなこと、平気で言いやがって。
言われたって、俺は俺を信じるしかない、今まで生きてきた道を。
自分を否定したら、またソコから振り出しに…

「自分を知らなければ相手を知ることも無理、じゃぁないかな?先生?」

そういえば。
俺は、響子先生のこと、ぜんぜん知らない…
俺の気持ちばっかりで。
あの人の気持ちなんて、
ぜんぜん。

「手を、離せよ先生。」
目を開いて。
ロイの顔を見た。
「睨んだって、無駄ですよ」
「う、るせぇ…」
「一本気ですね…情報どおりだ」

話しながら、ロイの指は、休まることもなく。
俺はソレに耐え切れることもなく。
耐えようとすると、余計に…
なんでだ。
何故なんだ!
「先生は、愛されたくてしょうがない。違うかい」



壊すな
壊さないで、くれ、俺の。

守ってきた壁を!


「生徒の愛、受け入れてくれませんか」
「…うそつきは、どっちだ」
「…え?」
かがみ込んできて、俺に口付けようとしたロイの動きが、止まった。
それに、笑いかけてやる。
「教師の愛、受け入れられねぇやつばっかり、お前もそうだ」
「お、俺は、俺の生き方を信じて…!」
「俺だって、そうだ、嘘はつかねぇ、」

…そうだろ?
わかってきたぜ。

「本気のお前の言葉はどれなんだ、ロイ」

俺の言葉に。
ロイが、顔を背けた。
唇を噛んで、俺を睨みつけて。
ため息とともに、口の端を持ち上げる。
「…抱かせてくれませんかね」
「はは、本音だな、そう言うのが俺は好きだ、そうやって生きろ」
やっと気持ちがすっきりして。

なんだ。

誰も、間違っちゃいねぇ。

みんなうそつきで。
みんな、だから頑張ってる。
いいじゃねぇか。
楽しいじゃねぇか。

「んじゃ、」
「え?」
「続き」

「?!?!?!?!?!」

おもむろにズボンのすそに手をかけられて、
一気に引き抜かれて、
「ぎゃああああ!?ロイ待て、俺はいいともなんとも!!!!」
「言ってなくても俺はしたい、っていうか、ココまでしといて生殺しですかそりゃないなぁ」
「俺は嫌だ!帰る!!!」

狭い空間で、何とか身をよじって扉に手をかけようとしたその瞬間。
「んっぅ!?」
這い蹲いになった俺の後ろに、ロイの、舌の感触を感じて。
「…ふ、ぅっ、や…」
扉にかけた手に、力も入らなく…
「こんなこと、して、ただで、済むと思う…」
「無茶はしませんからご安心を」
そう言う、意味じゃぁ、ねぇよ!……っ…。
駄目だ。
そんなに、されたら
舐めながら、その手は俺自身に添えられていて。
人差し指と親指で軽く挟まれて、ソコ、弱い、ってのに…!
腕の、力、抜けて。
「っは、はぁっ、は…」
「どうしました?ギブアップですか?だらしがないな」
「く、そぉ…」
なんとか力、振り絞って立ちあが…
「そろそろ、指くらい入りそうですよ」
「やめろ、駄目だ!俺は男になんか、だな…ッ!?」
「暴れるつもりでしょう」
「当然だ、覚悟しろ!」
「しょうがない人だなァ」
「うわああっ?!」

粘膜のねじられる感触に、俺はつい悲鳴を上げて。
「もう、観念したらいかがですか」
「…だ、れが…」
強く開こうとした瞳、焦点が、合わなくなりそうで…
歯を食いしばって、耐えて
…っ、俺は、この程度、かよ…
「快楽ってのは、誰にもあって、誰にでも耐えられないものだからね」
「…っ…」
「当然先生も同じ」
「…ぁ…」

ゆっくりとした動きに、身体の奥が熱くなって。
まるで、これが悪いことでないような錯覚…
生徒だろ、相手は
だから、なんとか、ちゃんと、教師として

弱音なんか、吐きたくねぇけど…
身体が、「いい」って言ってンのは、本当だ。

「二本入ったんだけど、分かるかい?」
声、聞こえる。
俺の脳、どうかしちまったんじゃねぇか?
息をするので精一杯、で、
男なのに、俺
わかってるぜそんな事、
「…ぐ…」
「もうそろそろ、入りそうだな…」
ロイのつぶやきとともに、俺は貫かれて、
痛みに我に返ったときは、もう動き始められていて。
もがこうにも、前を強くつかまれて封じられて、
掴んでる爪が立てられて痛、痛すぎ…る!
「痛いでしょう?」
「…っぅ…ぅ」
「場所は違いますが誰だってそう、初めては痛いんだ、覚えておくことですね」
俺の髪を掴んで。
無理やり引き上げて、笑う。
突かれた体がのけぞって、腹筋がぎしぎしと痙攣するのを感じて。
握り締めた竹刀に、噛み付いた。
「先生は、愛している人を抱くときに」
「…う、っ」
「この痛みを幸せとして感じさせることが出来ますか」

…わかったよ。
お前の言いたいことは。
わかったけどよ、
俺は、幸せでも何でもねー…ぞ、軟弱、者、が…

「先生が今どんなに痛くても、イかせてやるから安心しな、
…アメリカ人は自分だけ楽しむような卑怯なまねはしないのさ」

ロイ。
好き勝手言ってるロイ。
くだらねーぞ、アメリカだの日本だの。
こんな状況で見せるのも、どうかと思うが。
俺の根性、見せてやるから、気合い入れろよな…。







「…」
俺の横でぐったりしてるのは、ロイ本人。
「先生…」
「なんだぁ?」
「すごすぎ…だぞアンタ」
「お前に根性がたりねぇだけだ!俺のほうが強い、これが結果だ、とくと噛み締めろ!」
そういって、豪快に笑ってやった。
身体の奥の方がジンジンと痛むのは、感じなかったことにすりゃどおって事はねぇ。
どぉ、って、コトは。
…ぐぅ。

俺は、初めてだってのにロイが3回イクまでは、と自分の中で決めて。
…つらかったが、これも俺の生き様だ。
……
よく考えたら、こんなところで生き様見せてどうするんだ…



まあいいか。

ロイは見てのとおり、へばっているし、
俺を抱いてる間にこいつが垂れ流した講釈。
参考意見として、俺の心の中で生きるだろうしな。
実際、恋愛や性的な経験が俺に少なすぎたのは確かだ。
こんな方法でひとつの経験をするとは思っても見なかったがな。






バックミラー越しのサングラス。
睨みつけてから、車を降りた。
「え?先生、せっかくだから送ってってやってもイイですよ」
「お前はそのえらそうないい方を治せ」
「WHAT?」
「そんな言い方で女を抱いてみろ、全員マゾになるぞ」

はっはっは、と笑って。
う、痛い。
ソレは振り切って、歩き出した。
…もう一軒、気分よく酒でも飲むかな。
今度の酒は美味そうだ。

見上げると、月がまん丸に光ってた。
おい、
その空の穴から覗いてるヤツ。
輝き続ける俺を、とくと見ていやがれよ。
竹刀を月に定めて、口の端を持ち上げた。

月は、何にも言わずに、ソコからじっと俺を見ていた。