「ふふ、待っていたよ先生。」

そう、絶対にここを通るだろうと、張っていたんだ。
って言うか、ここは熱血隼人の家の前、通って当たり前だとか言うつまらない突っ込みはナンセンスだぜ。

「なんだロイお前。ストーカーか?」
「違う!」
あきらかにあきれ果てた顔の先生は、何時もながらに赤い顔で。
「飲んでいるね、先生?」
「飲んでちゃ悪いか。教師にだってイロイロある」

ふてくされているところを見ると、また、キョウコか。
いいカモになってることに気がつかないから、これがまた俺にとって面白くて仕方がない。
日本人は単純だ。
よく言えば純粋。
アメリカ人の真似ばかりして、真似をしたつもりでそぐわないから見ていて恥ずかしくなる。
俺の顔をいぶかしげに見てる隼人先生は、
生粋の日本人。
でありながら。
何かが違う、ソレが知りたい。
調べさせても、特別変わった情報は手に入らないし
まったく、雲を掴むような人間だ。

と、モノローグに浸っていた俺は辺りを見回して。
お、俺を無視してマンションの鍵なんか開けているなんていい度胸だ!!!
アメリカの炎でも食らわしてやろうか!

ずんずんずん、と勢いづいて近づいた俺を振り返って。
「あ?寄ってくか?」
「へ?」
振り上げた、この手はどこにしまったらいいんでしょ。



でっかいソファ。
俺の家と比べたら猫のヒタイ、いや、蚊のヒタイほどの家だが、
想像とは違って片付いていた。
もっと、こうカップラーメンだの雑誌だの、ビデオだのゲームだのが散らかっていると思っていたのに。
どっちかというと、何もない部屋、というか。
あるのは、ダンベルとか、そういったものばかり。
らしいといえば、らしいか。

アルミ製のテーブルの上に、こん、と置かれたのは湯飲み茶碗。
「緑茶飲めるか?」
「は。はい。」
ずずー。

「じゃなくて!」
「ウワア!何だ突然!」

がば!と立ち上がって、危ない危ない!
ペースに飲まれるところだった!

「アンタにリベンジを申し込みに来た!」
「リベンジ?ほう、いい度胸じゃねぇか!よし、表に出ろ!」
隼人先生の表情が、楽しそうに輝く。
その一瞬後。
「…なんのだ?」

「あのう…こないだの」
なんなんだよこの人ー!
「?お前と手合わせした覚えはないぞ??」
「身体を合わせたでしょう先生…忘れたとは言わせませんよ」
俺の言葉に、隼人先生は大きなため息をついてどっかりと座り込んだ。
「…そんなことのリベンジに来たのか」
「そうです」
「帰りな」
「え?」
「あのなあ、俺は教師、お前は他校の生徒。そもそも俺の色恋沙汰に口を出されてもだな」
色恋沙汰に口を挟むつもりじゃないんですよ。
違うんです。
勉強しましょうよ。
俺が面白くてたまらないから。

俺が気になって仕方がない日本人、何で気になるのかが知りたくて堪らないんですよ。

そういいたい言葉をぐっと飲み込んで。
「言ったでしょう、あの時。」
「あ?」
「言葉とムードと、少しの嘘が必要だって。」

そう、この間、飲み屋帰りの先生を無理に車に連れ込んで。
勢いもあって、先生のある意味処女だった部分を奪った。
しかしだ。
あの時、俺は負けたと感じたんだ、この俺のテクニックをもってしても俺が先にイクまで耐えるとは並の人間じゃない!
くやしい。
悔しくて堪らないから。
いいようにしてやれるまで、なんて、
そんなの理由かもしれないけれど。

「あーあー、お前の嘘の定義はわかったよ、しかしだ!俺にゃ無理だ、その辺は譲れん」
「だったら、言葉を覚えましょうか」
「言葉?」
「そう。言葉。」

こんどこそ。
気に入らないその目も、その強さも、
俺が強いという証明のために。
日本人なんか嫌いだ。
ずっとそう自分に言い聞かせてきた、その理由も知りたい。
俺は何で日本人が嫌いなのか。
鼻につくからなんだけど。
何で鼻につくのか。
俺が生粋の一番の日本男児の象徴と、そう見立てたアンタ、先生を、すべて探れば、ソレがわかるかもしれない。
「日本人は言葉が下手だからね」
「…そうか?」
「そうです。」
「わからんなぁ。言葉より気持ちだろうが。魂だろうが。心でぶつかる、ソレが男ってモンだろう」

…それが、わからないんですよ。

だから。

「ロイ?」
「これは3本勝負です。受けますか?」
「…〜〜〜〜〜」

勝負、という言葉を出せば、絶対に…

「2本先取制か?」

ほら、引っかかった。

「そうです、俺と言葉を言い合って、言い負かされた方の負け」
「なんだ、使うのは口だけか?」
そんな、つまらなそうな顔しないで。
「いえいえ、すぐに身体も使うことになりますよ」
「??」

ワケがわからない、といった風に頭をぽりぽりと掻いて。
「はじめましょう。すぐにコツはつかめますよ…」
「…いいだろう。どのみち俺が勝つがな!」
そう言って、笑う。
こんな純粋な日本人、騙して転がしていいように扱うのがアメリカの風土。
…初めて、アメリカという風土が汚いのではないか、なんて思ってしまいそうになった。







汚い俺は。
先生を騙す。






「目隠し?」
「言葉だけを聴くには、聴覚だけで十分ですからね」
「…わっけがわかんねー勝負だな」
「ソレでも俺に勝つ気でしょう?」
「ったりめーだろ」
床に座ってもらって、その視界を、自分で黒い布で覆わせた。
同じように、自分も目隠しをする。
「さて、勝負しましょう」
「…どうすりゃいいんだ」
「俺がいくつか話しかけますから。答える答えないは自由、俺に質問してもイイし、好きなことを言ってください」
「???」

目隠しをしたまま。
首をかしげる先生の姿。
見えてますよ。
だって。俺はもう目隠しをはずしてしまっているから。
素直な人だな。
純粋だな。
俺は何でこんなに汚いんだろう。
日本人は素直すぎるんだ、要するに馬鹿なんだ、騙される方が悪いんだ。
騙されるから、吸い上げられる。
汚れる事を覚え始めた日本人、ソレが嫌いだ。
この人は汚れずに、真っ向から生きている。

もう、「日本人」なんて枠。俺の頭から消えてしまえばいいのに。

「先生」
「ん?」
「何が好きですか?」

まずは、簡単に。

「…自分だな。ソレと生徒たち」

…そんなこと、
本気で言える人なんていないでしょう?
建前でしょう?ソレ。

「本当は何が好きですか?」

「だから、言ってんだろ、俺と生徒だよ」



足音を立てないように近づいて。

座り込んだその身体の横に、同じように座った。
「ロイ?これは勝負にも何にも…」
「なりますよ…じゃあ、その生徒、どのくらい好きですか?」
「え?」
「たとえば、夜に生徒のことを考えてココに手が伸びてしまうほど?」
「!!!」
胡坐をかいて座っている、その内股に爪先をツゥ、と這わせて。
「な、何を…!」
「生徒で抜いたことありますか?」
「あ、あるわけねぇだろ!」
はは。
赤くなってる。
逃げるように俺から離れてしまったから、ソレを深追いするのはやめた。
だって、声は聞こえるから。

目隠しをおとなしくつけて。
そのまま座り込んでる先生。
俺、見えてるんですよ。

ねぇ。
先生。
日本人。
ねえ。
俺は。
何でこんなこと…

「集団に犯されて、体中にかけられたり」
「はあ?!」
「そんなこと、されてみたい?」
「な、な…」

口をパクパクさせるだけで。
はは、
そりゃそうでしょう。
俺がこんなコトいうなんて、思っても見なかったでしょう?
言葉の恐怖。
言葉の強さ。
言葉の重要さ。
「セックスをするときに、女性にいろいろ話しかけてあげるといいんですよ」
「な、何の話だ?ちょっとまて!」
「安心するし、逆に感じさせることも可能なんです」
「ロイ?おい、外すぞ?」
「はじめに決めたルールも守れませんか?先生」

俺の言葉に、
全部操られちゃって。
しょうがないヤツ。
ははははは。
アンタみたいに。
純粋だった頃が俺にはあったかな…

じっと見つめる。
身体の線が浮いたシャツの中身。
こわばってる首筋。
「俺の舌が、その首を舐めたとき、どんな感じでした?」
「…答えなくってもいいんだろ」
「ええ。いいですよ。そう、あの時、本当は耳も苛めてあげようかと思ったんですよ」
隼人先生の返答はなく。
聞かないフリですか?
視覚をふさがれると、聴覚というのは鋭くなるものなんですよ?
あがいて見せてください。
「そっと中の方、舌の先でゆっくりと濡らして、体中全部、濡らしてあげたかった」
「そ、そんなことされたかねぇ!」
「綺麗な身体でしたよ。筋肉の筋が感じるたびに波打つのがとっても。」
「…ロイ!言葉の勝負ってのは、こんなことだったのか?!俺は降りるぞ!」

目隠しに手をかけた手を、ぎゅ、と掴んで。
「先生」
「離せ。茶番だ!」
「あなたは言葉が使えますか?ただ無我夢中で愛せばいいというものじゃない」
知ってしまっているから。俺は。
セックスが、単なる入れたり出したりの行為だけでは、満たされなくなっていくことを。
何も知らないあなたは、ソレを俺から聞いて、どんな人間になるんだろうね。
俺は何でこんなことを先生にしているんだろう?

いじめたい。

なんでだろう。

くやしいから?

そうだ。

この人はどんなに汚しても、汚れひとつつかない!

先生の前にしゃがみこんで、目隠しを解くフリをして。
俺の持っていたもう一枚の布を、その手首に通した。
「ロイ…?!」
「お願いです。汚させて下さい」
「な、何言ってやがる!変だぞ?何かあったのか?」
「ええ、いろいろありました」
「だったら、俺が全部聞いて受け止めてやるから、こんな馬鹿なことはよせ!」
「…こうさせてください、ソレが先生が俺を受け止められる唯一の手段なんです」

…なんて。
また、俺は嘘ばっかり。


「大丈夫ですよ、この間みたいに、身体に触れたりしませんから」
「…ち…女々しいなロイ。情けねえとはおもわねぇのか、自分でよ」

そう言うこと言って。
俺がもっと汚したくなるようにあおるんでしょう。




憧れても


俺はもう戻れないから、しょーがないさ。


純粋に誰かを愛せる心、なんて、俺が全部壊して、この世からなくして…
自分をカッコいいだなんて思い込み。
いつまでも続くもんじゃない。
その限界をあんたを見た瞬間に感じた。

「いい身体ですよね」
「…」
俺の言葉に、耳を貸そうとしないといった風に、顔を背けて。
それでも、俺は言葉を続ける。
「裸にして、オイルでもぶっ掛けて、指でぬるぬるって、そうだ、先生胸弱かったですからね、弾いてあげたりしてもいいかな」
「…くだらねーコト言ってんじゃねぇ…」
唇、噛んで。
前で手首を縛った布、解こうとすればアナタなら簡単に解けるのに。
何で、解かないんですか?
もっと、いじめてほしいから?
「それより、直にゆっくり擦ってあげたほうがイイかな?イキたくてもイけないくらい、焦らして、イキたくて泣いちゃうくらい」
「誰が泣くか」
「…」
結構、強いね。
「…何人か人を集めて、見せ物ってのどう?」
「…っ」
「好きみたいだね」
「好きなわけがあるか!あまりのお前の発想の…あ、す、すごさ、いや、馬鹿さ加減に驚いただけでぇ!」

じり、とあぐらを掻いていた足を閉じて。
感じてるんだろ。
知ってるよ。
そのつもりで言ってるんだ。
嫌なら、解けばいい。
なんだよ。
それ。
何で逃げようとしない?
すきなのか?苛められるのが。マゾ?
…それとも
同情、じゃ、ない、ですよね、先生…

俺は、ソファにドン、と座って。
床でうつむいたまま顔を上げない先生を、偉そうに見下してる。
ごまかそう。
そう、今、俺の言いなりなんだよ、先生は。
そういいなり、
そう、思い込んで。
思い込め。
す、と伸ばした足先で、先生の閉じられた足の間を割って軽く踏みつける。
「…っ!!!!!」
「どうしました?」
「…な、に、しやがる…」
「さあ」
「ロイ…」
「はい?」
「俺には、わからねえ、お前がどうしてこんなことしたいのか、わからねぇんだよ」

…でしょうね。
わからないだろうと思ってました。
だって、俺だってわからない。
アナタになら、わかるかもしれないなんて。
そう。
そう、思っていたかもしれないなんて…

ぐい、と、ねじる様にもう一度。

「うあ…!」
「勃ってますよ先生?言葉だけでココまでなっちゃうなんて、困り者ですよね?」
「…そう、させたかったん、だろ」
…!
知ったような口を利きやがって!!!!
わからないんだろ、俺のこと!
だったら、俺を殴るなりなんなりして逃げればいいじゃないか!
「殴ろうと思った、けど、よぉ」
「けど…?」
「お前が一生懸命、俺に勝負しかけてきたんだ、俺は、合点がいかねぇからといってソレから逃げるってのは
 どうも性にあわねぇの、よ…」
「かっこつけんな!!!」
「ぐぅ…ッ!!!!」

強く踏みつけて、そのまま、足先で扱き上げた。
「うあ、あああっ」
「感じてんだろ、同じなんだよ、女も男も、日本人も先生も、
 汚いんだ、みんな快楽があればいいと思ってる!」
「…ろ、ロイ…や、」
「やめねぇよ、欲しいんだろ?欲しいっていえよ!どっかの女みてぇに、どうせ身体だろ、
 アンタもどうせそうなんだ!」

駄目だよ。
先生。
おれ。
愛することと、愛されることに、慣れすぎて、
本当はどうしたらいいのかもう、わからなくなっちまったんだよ。
次々に俺の口から出る言葉。
もう、とまらない、止められない、殴り飛ばしてくれてもいい、止めて…
口が、勝手に、すべてを否定する。
「キョウコを愛してる、ただ素直にその気持ちを持ってる、なんて、
 ジャップ!ただのサルだ、動物の本能しかないサルなんだろ!?」

ブン、と、
俺が縛っておいた先生の両手、
目の前で大きく振りあがるのが見えて。
「…ひ!」
頭蓋骨に響く衝撃を予想して、体中がこわばった。
その途端。
その両手は、俺の身体の後ろにかぶせられるように。
抱き寄せられて。
「!?」
ドキ、とした瞬間に。
ゴン!!!
「がっ!!!」
頭突きを食らった。

「ロイ!俺にはわからねぇ!好きで何が悪い、気持ちよくて何が悪い!
 快楽があればそれでいい、ソレが汚いだ?!んなこたぁ決め付けたのはロイ、お前じゃないのか!」

俺の後ろに回した腕、不器用に使って、自分の目隠しをちょっとずらして。
「ち…っ」
苦戦してるから、その布を唇で咥えて、剥ぎ取る手伝いなんか、して。
「馬鹿かお前は。俺にあまり難しいことを考えさせるな!」
「…だ、だって」
「もっと自分を磨け!強くなれ!間違いと思うなら、誤魔化して認めたフリをするな!」
そう、俺の目の前で言う先生の目、って、まっすぐで。
恥ずかしくなって、
涙が、出そうになって。
くそ。
先生じゃ、ないか。
この人は。
本当に、教師じゃないか。
はずかしい。
おれは、はずかしいよ。
先生なんかより、ぜんぜん物を知っていると思っていたのに。
横ばっかり見て、誤魔化してただけだったんじゃないか。
まっすぐ、見ることを、覚えさせてください。
せんせ…

…?
「元気、ですねぇ」
「!!!そ、ソレは…!」

あわてて、俺の首から腕を外そうとしたのを、身体を立たせて封じ込めて。
「こ、言葉に力があるってのはよぅくわかった、からよ…」
「いえいえ、こんなにさせてしまって、俺も責任というものがあります、男だったら逃げたりは出来ません、ねぇ?先生?」
「う…そ、それと、これとは」
「同じでーす」
俺の方の後ろに回したまま縛られてる手が、震えるのを感じて。
こういうのを、自縄自縛っていうんでしょうかね?
日本語で。
「日本人のは固いってのは本当ですね」
「し、知らん!しらな…よせ、って、言ってんだろ、う、がぁ!」
俺が身体を立てると、無理に引き上げられちゃって先生も立ち膝になって。
腕を解こうともがいてるけど。
解ける前に。
「こっちの痛みは取れました?」
おもむろに後ろの指を這わせて、ちょこっとだけ埋め込んだ。
「ひゃあああ!!」
「うわ!」
俺から逃げようと身体を引く、その動きに引っ張られて、先生ごと、倒れた。
いうなれば。
正常位で、俺の背中に手を回して抱きついているような状態。
「おやおや。欲しがっているみたいな格好だなぁ」
「…ううううう〜〜〜!!」
「そんなに、強く引っ張ったら、俺が密着しちゃいますってば」

俺も器用に、自分の服を脱いで。
先生の下半身も申し訳ないけど、さらけ出させて。
「もっと引いてもいいですよ?」
「…う、ッ…」
「引っ張ると、こんな風になりますが」
「や、あっ、やめろ…なにすんだ、コラ…、っ」
そう、
身体、密着しちゃうから、擦れちゃうでしょう、困るなぁ。
困りませんか?
心臓の音も早いね。
酸素を求めて開いた口に、舌なんか入れてみたりして。
「ロイ、覚えてろ!今度あったら百叩きにしてやるー!!」
「返り討ちにご注意を☆」
「俺に勝てると思うなーーー!!…っ、んっく…」
先生は引っ張るのをもうやめてるのに。
俺はその身体に身体を擦り付けて、やばい位感じてる。
「−−−ッ、っ…」
自分のソレが先生からあふれる蜜で濡れきったのを確認して。
片足を担ぎ上げる。
「入っちゃいますよ」
「!!!!!」
声も上げないで。
快感に震えてるの、わかっちゃうからね。
俺は先生から比べりゃ百戦錬磨。
こないだのは、ちょっと油断しただけさ。
「中、いっぱいでしょう?」
「う、い、言う、な…」
「俺のコレ、先生の中の粘膜引っ掻いて刺激してるの、わかりますか?」
俺の言葉に強く頭を振って、歯を食いしばって、声、もう、出してくれないですね。
出ないのかもしれないけど。
こんなこと、覚えさせちゃっていいのか?
ちょっと、よぎったけれど。
素直な話、覚えさせたくてやってるわけじゃない、ってコト。
そう、
ただ単に、
この俺の先生ではない、どこかの学校の教師の方が、俺のことを受け入れてくれるから。
それに甘えたくなるってだけ。

日本人だなんて。
先生、アンタ、『日本人』とかそんな枠内の人間じゃぁないよ。
「俺の、目の前で出してみせなよ、先生」
目いっぱいのあおり文句で、自我を乱すだけで精一杯だった。









「コラー!!!!!!」
ものすごい大きな爆音に驚いて、飛び起きた。
こ、ココは?ベッドの上。
俺を覗き込んでる顔を見ると。
「ハヤト先生!?NO!?!?俺!?」
「俺のベッドまで占領しやがって!遅刻する前にとっとと出やがれ!」
先生は、もうすでにいつもの赤ジャージで、竹刀振り回して。
げ、元気だなぁ…
「あーうるさい!日本人は細かいから嫌いだ!」
「おいおいおいおい、アメリカ人は遅刻しても許されるってのか?」

確かに、そんな法律はなかったな…アメリカにも。

つぅか、朝!?

「先生、いいんですか?生徒と一晩同じ部屋で過ごしたーだなんて」
「その辺は教師として指導してやる」
「へ?」
「現在朝の5時!!これから走るぞ!性欲が有り余っているのは、
ソレを消化するだけの運動をしていないからだ!」
「ノオオオ?!?!」
っていうか、遅刻とか関係ないじゃ…
「ウダウダいうな!」
「は、はいいいっ!」
あまりの剣幕に、飛び起きて姿勢を正すと、
先生が笑っていた。
「一対一、か?これで。」
「え?」
「はじめは俺が勝ち、昨日のは悔しいが俺の負けだ」
「…」
「…次の勝負はマラソンだ」
「えーーーーーーーーーーーーーー」
「気合が足りーん!!!」
「ハイッ!!!!」

と、まあ、言葉の魔力というより、俺は先生の押しの強さに負けて。
今迄で一番長い距離を走らされる羽目になった。
先生は俺を先導して、って言うより、ずっと先で怒鳴ってる。
なんで、そんなに元気なんだ!

でも、楽しそうだ。
日本人みたいに、義務で笑ったり、走ったり、楽しいフリしたりなんか、してない。
アメリカ人として、俺はあんたを「はじめて気に入った日本人」と認めてやるよ。

「ロイ!遅いぞーー!!」
「は、はひー」

ひとつだけ!
アメリカ人で、良かったと、この時ばかりは、思った、から、



根性を愛する日本人扱い、しないでくれー!