巻き上がる砂煙と、邪魔にならない程度の風。 狭い校庭に、命を燃やしきるかのように笑うのは熱血隼人先生。 どうも駄目だ。 俺はパシフィックの今日の課程を全部終えて、迎えの車に乗り込もうとして、 ふと気が向いて。 そのまま車を帰らせて、太陽学園のグランドへ来て、隅っこで馬鹿みたいに樹に寄りかかって。 目線の先は、隼人先生。 どーもおかしい。 どーもやばい。 この俺が日本人に惚れること自体おかしいのに、 その日本人の中でもなぜ俺がアレを選ぶかな。 男臭い、うるさい、雑で豪快、 でも筋が通ってる。 自分らしさのある日本人なんて、そうそういないだろ。 そのそうそういない日本人を、見つけちまったってトコか… ふぅ。 ヒタイに手をやる。 熱はないようだ。 遠くの方で、俺にも気づかずに、竹刀を振り回しては大声で叫んで。 その掛け声に従って運動をしている学生たちは、自らそれを選んで従っているのだろうな。 あの人にはそれだけのパワーがある。 よく、ランナーズハイとかいって、マラソンをしている途中で体内で分泌されるアドレナリン?ドーパミンだったか、 それで快感を得てしまう人間がいるというが。 どうする?ハヤトがそれだったら。 … しかし、俺も違うとは言い切れんしな…ラグビーで自分を最高潮に燃焼させたときの快感ってのは、 あの快感に似たものがある。 実際の話、勃ったりもする。 …そこで読んでいる女子。 コレは実際にあることだから、引かないよーにな。 それが男ってもんなんだ、理解してほしいね。 竹刀を振り上げた腕。 うん、やはり張りがいいなぁ。 身体のバランスもいいし、見ていて飽きない。 日本人にしては長い手足。背の高さに比例したものなんだろうが… ハヤトの後姿を見てた俺は、ふ、と自分が唇を舌で湿しているのに気づいた。 …欲情してどうする。 まあ、しょうがないか… 俺は、あの中身を知っているわけだし。 動き一つ一つに反応してねじれ、脈打つ筋肉と張りのある肌にうっすらと汗が浮いて… 「…」 いかん。 いかんいかん。 何考えているんだ。 「ロイ!?」 「!」 遠くからの声に、顔を上げる。 と、竹刀を持って腕をぶんぶんと振り回す先生の姿。 気づかれたか。 やっと。 「こんにちは」 「おうおうおうおう、どうした、暇をもてあましているなら気晴らしに運動でもして行くか?!」 「ははは、今日も元気だな、先生は」 丁度運動が終わったらしく、生徒はハヤトに頭を下げつつ散り散りになって消えて行く。 ソレに一つ一つ声をかけ返しながら、俺のほうへ走ってくる。 額の汗をぬぐって、ああ、またこの人はこんな気持ちよさそうに笑って。 「参っちゃうなぁ」 「ん?なにがだ?」 「セクシーですよあなたの身体は」 「…」 「?」 「ばっかやろう!人の身体をいちいちそう言う目で見るのは気合がたりねぇ証拠だぁっ!」 ブン、と振り上げた竹刀、 こ、この人は本当に勢いだけの人だな! その竹刀を腕で受け止めようとして、頭の上に素早くガードを置く、と、 その寸前で竹刀がとまった。 「んなこと言われたのぁ、はじめてだな、気分は悪かねぇ」 「鍛えているんでしょう?」 「ああ、まあ、俺の趣味だしな、身体が思うように動くってのは気持ちがいいだろ?」 確かに。 成長するにつれて、子供の頃の身体の柔軟さ、軽さがだんだんとなくなっていって、 ジャンプひとつするのにも、自分の体重を感じるようになるのは、普通。 …普通、だと思ってたんだけどな。 「俺はかんじねぇぞ?」 「え?」 「鍛え方が足りねぇんじゃねぇのか〜?」 ニヤニヤしながら俺を見て。 ち、勝ち誇りやがって。 俺だって、それなりに、当然だ、鍛えてる。 「疑うなら見せてあげますから」 「へ?」 「来て下さい」 「は?」 ハテナマークを連発する先生を引っ張って。 そこまで言われちゃ俺だって黙ってられませんよ。 確かにアンタみたいな筋肉の付き方じゃないけれど。 俺だって、必要に準じて鍛えてるんだ。 「おいおい、ちょっと待て、ロイ…」 「ほら、見てくださいって」 「こ、こんなところで、オイオイ!脱ぐな!」 ここは体育倉庫。 だって、ほかに四方を壁で囲まれたところが見当たらなかったからね。 止めようとする隼人先生を振り切って、 一気に上半身の布を取り払った。 「どうですか?」 「…まぁ、それなりだな」 「…俺はクオーターバックですから」 「ん?」 「耐久力が必要になります」 俺のしているラグビー、コレは瞬発力よりも、耐久力の方が必要になることが多いから。 どうしても、筋肉の上に耐久用の脂肪層が付く。 だから、うらやましくもあるんですよ。 その、鞭みたいな身体がね。 「耐久力なら負けんぞ」 むん、と胸を張る先生の。 ジャージの上に手をかけて、グイ、と引っ張りおろした。 「ロイ!」 「見せてください」 「見、見慣れてるだろう、俺の身体なら…」 その言葉をさえぎって。 上半身を裸にさせた。 「ほら、やっぱりちょっと違う」 「そりゃ、人間が別なんだ、筋肉の発達の形態も違って当然…」 「でもあなたは綺麗だ」 「はぁぁあ?!」 どうかしてますね、俺。 アナタに見惚れて。 ドキドキがとまらないんですよ… どうしてくれるんですか。 俺から、ドキドキするなんて、コト、なかったのに。 「ロイ、どうし…」 首をかしげる先生、その身体に手をかけて。 汗ばんでるその肌に、舌を這わせた。 「…おい!こ、こんなところで!」 どうしてだろう。 アナタが欲しくてたまらない。 自分の身体とすり替えたい。 アナタみたいに笑いたい。 俺だって、自分に自身を持って生きてきたはずなのに。 あなたを見ていると、もっと先があるんじゃないかって、感じてしまうんですよ。 この身体に、同化してしまえたら、それが見えるかもしれない、だなんて… 湿った肌をもっと濡らして。 竹刀が、カラン、と落ちる音、遠くに聞こえた。 背中に手を回して、逃げようとする身体、抱き寄せて。 ぎゅ、と、強く、離れないように。 「…ん…」 そうやって、声をいつも殺してしまうんだ。 どうにもならなくて声がとまらないくらいに、乱してみたい。 なんでなんだろう? 「アナタを見ていると、気持ちよくしてあげたくなるんですよ」 「…?意味が、わからねぇ、よ、俺には」 「俺にもわかりません…」 性行為なんて、快楽のぶつけ合いで。 どっちも良くなって、お互いに気持ちよくなれれば、それがパーフェクトなんだと思っていた。 アナタと同化して、自分が満たされるために。 取り込むために。 唇を、ゆっくりとふさいで。 口内の粘膜を舌で掻きまわして絡めとった。 「…ッ、ん」 強く目を閉じてしまった先生の、腰から、邪魔な布をゆっくりとすべり下ろす。 「んん!」 抵抗?それ。 「ねぇ、先生。」 離した口元で、荒い息を聞きながら。 「気持ちいい?」 「…っ、し、知るか!」 「ねぇ、そんな手の届かないところにいないで」 くい、と顎に手をかけて。 見下ろした俺の顔、見上げて俺を睨んでる。 「セックスしたいって、言ってくれないかな」 「…な…!」 あーあ、顔、真っ赤。 駄目、 でも、そんな顔しても。 俺の我侭、止まらない。 「いつも俺ばっかり勝手にしてて…」 「ロイ…、でもな、俺は」 「先生は俺を受け止めるだけで、俺を求めたりしてない感じがするんだ」 「…」 何でそこで、俺を見たまま、何も言わなくなっちゃうのさ? 本当は、いらないの? 俺がやりたがっていて、先生にその衝動をぶつけるから、受け止めてくれるだけなのかい? … 「何にも言わないんだね」 「…わからねぇから、はっきりしたことがいえねぇ、自分にイライラする…」 苦しそうに眉ひそめて。 そう。 わからないんだ。 俺を求めてるのかどうか、自分にもわからないんだ? もしかしたら、俺じゃなくても良かったのかもしれない、とか、そう言うことだよね。 「もういいよ」 「え?」 「いい」 言い放って。 胸の突起に歯を立てた。 「っぅ!」 そこをもう一度、やさしく舐めとって。 「…、ロイ、ちょ…」 「言葉は要りません、どうせ嘘でしょうから」 「ロイ!」 自分のタイを拾って。 先生の両手首にクルリとかけた。 「抵抗、しないんですね」 「…どうしたいのか、わからねぇし、どうしていいか…」 「イヤじゃないんですか?」 「…俺ぁ、恥ずかしい、ってだけで、他には…」 そうですか、 じゃ、知りませんよ。 グイ、と、その手を吊り上げて。 俺が何をしようとしているのかに気づかれる前に、 天上の梁にそれを括り付けた。 「…、?、ロ、ロイ?…な、何しやがる!!!!」 「ウチの学校の制服なんで、破ったりしないでくださいね」 「な、なんだとー!!?ちょい、待て、コレは…」 暴れかけた身体、また、その突起を弾いて動きを止めてあげる。 「んぅ…!」 「乱れちまいなよ、先生」 俺の言葉に、 先生が見せた表情は。 今まで見たことないくらい、俺を寂しくさせるものだった。 「ふ、ぅ、ッ…ぁ」 ギシ、 と、軋むのは、梁か、タイの布か、 それとも、先生の気持ち? 両手を高く掲げたままの先生の、腰元にしゃがみこんで。 逃げようと引いた腰を掴んで、後ろに手を滑らせ込みながら、口の中で最高の愛撫を。 形をなぞって、片手で根元をしごきながら吸い上げると、細い悲鳴が一瞬聞こえた。 口の中に溢れた物、先生の快楽の象徴。 口移しで飲ませてあげる。 「ん、っぐ」 「こぼしたら、このまま置いて帰るよ」 「…」 そんな顔、しないでください。 身体を持ち上げて。 先生の身体に反応した俺の部分、先生にねじ込んだ。 「ロ、イ…!」 「ずいぶん慣れて来ましたよね、こんなに簡単に入っちゃうなんてさ」 「…っ、どう、した、っていうんだ、ぁ、ッ、う、うごかな…」 「泣いたって止めてあげませんから。」 ギシギシ、と千切れそうな音を出していた筈の布らしき音はもう聞こえなくて。 汗で濡れたその身体、獰猛に突き上げながら、天井の梁に目をやった。 天井の冷たい空気と、 声にならない先生の途切れた息、と、 梁を自ら掴む先生の指。 見えて。 馬鹿…だよ、アンタ… こんな俺じゃ届かない。 届かないよ。 「は、ぁッ、…ロ…ィ、…」 「遠いよ、先生…まだ…」 「う、ぁあっ…!」 何度も果てさせて、俺も何度も先生の中で果てた。 どろどろになった中の方、まだ足りない、もっと掻きまわして、狂わせてしまわなければ、 違う、 違う どうしちゃったんだよ、俺…! 「SORRY…許してください!」 何度も、そうつぶやきながら。 歯を食いしばって今までになかった快感に耐えて震えてる、 その身体、 もっと犯さなきゃ、なんて、 そんなことばっかりに思考を囚われて。 吐き出し、犯し尽くした其処から零れ落ちる俺の液体拭って、舐めさせて。 「い、い、加減に…、やぁ…もお、」 「限界、ですか?」 「…っ、ま、だ」 まだ、強がって、俺のところに来てくれない。 そうやって、俺を少しだけ拒絶したまま、いつも抱かれて。 俺の行き場なんて、ないんだから。 受け入れてるつもりで、 こんな寂しい気持ちにさせるなんて、アンタ悪魔だよ! 壊れてしまえばいいんだ。いや、違う、止めて、先生。コレじゃ俺のほうが壊れて…。 「うあ、ああっーーー!!!!」 ギリ、と奥歯のなる音と、共に、密着した俺の身体に、先生の飛沫が飛び散る。 震えた身体を無理に止めようとする仕草。 「…?!」 梁を掴んだ指ががくがくと震えてる。 大丈夫、ですか? そう、言いかけて。口をつぐんで。 言いたくてもいえない。 もう、抱いちゃいけない、俺は欲しがりすぎなんだ… 諦め掛けて、その身体を開放しようとした途端。 目を見開いて痙攣してる先生の足先が。 強く俺の身体に絡みついて、さらに奥へと導いた。 「…もっと、奥で、出せ、ってんだ、よ」 「せ、先生!?」 苦しそうに閉じた瞳を、やっと開いて、俺を見止めて。 唇が、かすかに笑った。 「勢いだけだな、お前、も…」 …俺を、全部、許して。 それから、先生は俺の腕の中で崩れ落ち、意識を手放して… 先生を梁から解いて、その場にゆっくりと寝かせた。 「…」 なんてコトをしたんだろう。 こういう関係をするつもりなんてなかった。 俺は誰かを抱くことにかけては、筋を通していると思っていた。 与え合う、それが快楽だと、俺は偉そうに先生に語っていたはずだったのに。 俺は一方的に先生を気持ちよくさせて、 ソレに飽き足らず俺の快楽を優先させた。 駄目だ。 自分をも制御できないようでは、全然駄目だ。 憧れていたいだけだったのに。 ああなりたいな、って、そう思って、憧れて、それで生きていければよかっただけだろ? 「無理に欲しいって言わせても、意味なんかないのに…俺は…」 悔しくて。 涙が… 「泣くか普通、男が」 「!?」 がたがたがたがた! そこらじゅうのものを撒き散らして、俺は転がって。 あわてて起き上がると、片肘を付いて呆れ顔の先生。 「おいおい、片付けろよ。お前一人でな」 「…せせせせ、先生!?」 「あーあー、散らかしやがって。ッてて…。」 手首を撫でながら、上半身を起き上がらせて。 「先生…、き、気絶してたんじゃ…。」 「…俺がそうそう気絶なんかするか!ちょっと気を失っただけだ!」 …同じだろー!?! おき上がって両手を付いて、先生に誤ろうと、日本流に頭を下げ… ようとした首に、 ふわり。 パシフィック学園の、俺のタイ。 頭を上げたら、先生のまっすぐな目があった。 「大事なタイなんだろ。無茶しやがって、破れたら俺の所為ってのはどういう了見だ!」 「ス、スミマセン!」 「そもそも、俺がどんな状況であれ、欲しいだなんて言うか!」 「スミマセン!」 … え? 「俺の性格、いい加減把握してくれよ」 え? じゃあ… 俺の、一人勘違い…? ああああああああ?! 「ロイロイロイロイ!散らかすなー!!」 「片付けるからほっといてくださぃぃー!」 「今からすぐ10分で片付けろ!」 「…ハイ」 ぐちゃぐちゃになった倉庫内から、どうやって見つけ出したのか、 俺の頭は竹刀でひっぱたかれて。 「あ、あの、先生?」 「もう5分だぞ!」 「は、はい〜!」 ま、また俺は先生の勢いと気合で、 本当に聞きたいこと、聞きそびれて。 あわてて片付けながら、ちら、と先生を見ると、 困った顔で笑ってた。 「先生!」 「なんだ!」 「ご、ごめんなさい!」 「謝るくらいならするな!」 …そりゃそうだ。 んじゃ、今度は謝らないでやろうっと。 今のは、それでもいい、ってことですよね。先生? まぁ、そのうち俺に泣きついて欲しいって言わせてみせる、 それを目標に! ぐ、とコブシを握り締めて。 「10分!片付いてねえじゃねぇか!」 「ああああああああ」 あたふたと片付けて。 俺の目標、間違ってるな、なんてちょっと思いつつ、 そんなことに自分で笑ったりしてた。 この俺が憧れるのも無理はない、よな…なぁ、あの身体はあの人の心の集大成だったんだから。 |