「え?また?俺にか?」

最近、そう言う言葉をよく聞くようになって。
ハヤト先生の口から。
前はなにをあげても、喜んでくれたのに、
そういえば、俺があげた時計、してないな…

…気持ち、離れる?


「先生、今日ヒマですか?」
「いや、悪い、今日はちょっと。な…」


この言葉も最近よく聞くようになって来た。
俺はパシフィック学園から、直接家に車で帰ることが多くなってきた。
太陽学園に行って、先生に会っても、無駄だ、なんて、そんな気持ち引きずって。
先生は、確かに俺を好きだといってくれたことは無い。
生徒として、面倒を見てくれていただけなんだろうか。
それでもうれしいのは本当だ、あんな先生に面倒を見てもらえるのならば。
…でも俺には、その気持ち以上のものが生まれちゃったから。


朝の公園。
冷たい空気が気持ちいい。頭の中まで、すっきりさせてくれるような空気。
その中を、身体が冷えていかない程度の軽いジョギングで走る。
流れる風は肌を冷やすけど、
血が巡って身体が熱くなってくるのがわかる。
首元を触ると、肌自体は冷たかった。
不思議なものなんだね、人間の身体ってのはね。
運動をしていても、外気温に肌は冷やされちゃう。
立ち止まった。
うつむいて。
冷えちゃってるんだ。
…この肌みたいに。
手の甲を、手のひらで擦ってみた。
かすかに暖かくなる。
…先生と身体を合わせてたときみたいに。


っ、なーんて、冗談じゃないさ。
もっと勝気で偉そうで実際偉くて頭もよくて頭脳明晰
ん?ダブったか?まあいいや、日本語なんて対して重要じゃないからな俺には。
運動も出来るし
親も期待してる。
そんな俺が。
何で、こんな気持ちになるんだ。

会えない?


会いにいけないだけじゃないか。
怖いから。
もしかして、邪魔だと思われてたりしないか?

…ありえない話じゃない。


「おう!」


突然声をかけられて、びくっとした身体が飛び跳ねた。
「!?」
「ロイじゃねぇか、お前ここよく走るのか?」
「ハヤト…せんせい」

目の前に、軽い息を吐きながら笑っているのは、間違いなく先生で。
なにを、言ったらいいか。
「き、気持ちのいい朝ですね」
「そうかそうか、気持ちよく朝が迎えられりゃ一日輝いていられる!いい事だぞロイ」
「はぁ」
…やっぱ、生徒扱いか。
「あの…」
「ん?」
最後、だと思おう。
コレで、断られたら、本当に…
「今日の放課後、ヒマですか?」
「あー…ンにゃ、悪いな、ここんとこ忙しくてなぁ…」
「…」

いつもどおりの顔で笑ってる。
でも、その裏、って、俺は見たこと、なかったですね。
人間には、裏があるんですよ。
笑ってても、心の中で泣いてるとか。
邪魔、がってたり、しますか?

「おっと、俺は時間だ、悪いな!」
「あ…」
軽い足音が俺を通り越して行く。
横を過ぎ去る風は、先生なのか、幻だったのか。

…なんでこんな気持ちにさせるんだ!





パシフィックで俺はいつもどおりに笑ってて
そう、心の中が真っ暗だった。
何も見えないから、目の前にあるコトだけをやっていた。
これじゃ、何も進まない。
コレじゃ、ただのロボットだ。
俺はそう言う生き方をしたくない、それじゃまるで日本人だ。
そうだ、アメリカの誇りを持って…

…見上げた空が、すでに赤かったのに気づいて。

駄目だ。

と、確信した。





「遅かったですね」
時間にして、夜の11時。
先生のマンションの前で先生の帰りを見たのは、その時間。
近寄ると、香水のにおいがした。
「…ロイ?」
暗がりで、俺が見えないのか、目を凝らしてこっちを見てる。
そう、俺ですよ。
見えているんですか、まだ貴方の瞳の中に、俺が?
「学生がこんな時間になにをしてるんだ!」
「さあ?」
「さあ、じゃねえ!ロイ、物事にはケジメってモンがある!ソレを自分で果たせないような…」
「ケジメ、つけましょうよ」
スーツの、襟元、
引っ張って。
先生の唇に蓋をした。
男のクセに、柔らかいじゃん。唇。
もっと、荒れてるのかと思った。
…女とキスして、その唾液でボロボロに汚されてるのかと思った。
「!」
息が、出来ない。
先生の手、俺の襟を掴んで、グイと離して引きずり上げて。
「…ロイ」
「…っ」
俺を睨みつける先生の顔、上から見下して笑う。
口元だけで、笑う。
笑え、無いんですよ。

「なんかあったな」

原因がよく言うよ。





スーツの匂い。
この匂いは、日本製の安物の香水の匂い。女がつけるやつだ。
見慣れた扉が開かれて、中に引きずり込まれた。
居間のテーブルの脇に、グイ、と正座させられて。
向かいに、先生がデンと座った。
「よっしゃなんでも言え」
「は?」
「何か問題があるから俺のところにこんな時間に来たんだろうが!」
ビシ。
あのう、正座したまま、俺のことを竹刀で指すの、やめてくれませんか。
「どうしたんだ?様子がおかしいぞ…?」
浮気、してるでしょう。
言いかけて、浮気でもなんでもないことに気づいた。
俺と先生は何の契約もして無い。
「おい、ロイ?」
「最近、誘いに乗ってくれないんですね」
「え?」
テーブルなんて、邪魔でしょう?
乗り出した俺から、さらに身体を引いて。
「何で逃げるんですか」
「な、なんなんだ!俺が何か悪いことでもしたように…!」
「したでしょう」
「なんだと?!言いがかりも…」
「俺の誘いを断り続けた!俺がその間、どんな気持ちでいたのかご存知ですか!!!」
安物の香水の匂い、
引き剥がして。
「ロイ…!?」
「そのおかげで先生のことで頭の中がいっぱいでろくな生活も送れやしない!貴方が気持ちを分けてくれないからだ」
「俺のせいか」
組み倒した体。
下に見て。
先生が、俺をまっすぐ見上げる。
「俺のせいか!」
「…ッ…」
怒らないで、ください。
俺にとってアナタは、それだけ価値がある人なんですから。
俺の足りない部分を補って有り余る、ちょっと有り余りすぎるかもしれないけど、ソレが俺はすごく必要に感じて…
もう、中毒なんですよぉ…
怒らないで…
邪魔に、拒絶、しないでくださいませんか…

「俺の、せいか、って聞いてんだ。答えろロイ!」
「…」
「はっきり出来ないのか!?」
「…アナタのせいです!」

怒られる。
そう思って、目を閉じた。
ふわ、と髪に通る感触を感じて。
違和感に驚いて目を開く。
その俺の目線の真下には、俺の大好きな笑顔。
「俺のせいか。そりゃ嬉しいな」
…え?
「それだけ俺を必要としてくれんのは嬉しいぞ、教師冥利に尽きるってモンだ」
「先生…」
「だがな、気合がたりねぇ!気持ちをもっと燃やせ!じゃなきゃ俺が燃えねぇぞ!」

はい。

その様だね。

「知りませんよ。アメリカの炎は日本みたいに下火でじっくり、ってワケには行きませんから」
に、と笑って。
髪を梳いた指を掴んで、その先を舐めた。
「いー笑顔すんじゃねぇか…」
あなたもね。
でも、その顔、すぐに、半泣きにさせてあげるよ。
「…ばっ、か…ッ、や…」
見せて欲しいって言ったのは先生でしょう?
俺のテクニック、甘く見ないで。
こんな香水の匂い、気がつかなかったことにして。
ソレを問い詰められるだけの勇気が俺には無いから…

舌で耳を蕩かして

右手で硬く尖った突起を捻って

左手でアナタの大好きな部分へ。

「全部、一緒に、って、どうですか?」
耳元でささやいて。
身体のどの部分が感じてるのか、わからなくなるでしょう?
「や、やッ…め」
俺の身体のどこに手をかけていいのか分からない指、
まだ、抱かれなれてない身体。
自分の髪を掴んで、指を震わせて。
「…っぅ…」

唇を突起に移動させて吸い上げて

「ぅあ!」

開いた右手を声のする口元へ差し込んで唾液をかき回す

「…んぐ」

口の中の俺の指、どけようとしたのか、先生の腕が動いたのが見えて。
掴む寸前で、その動きが止まった。
どうしていいのか分からない?
それじゃあ、
「その手、自分の体に這わせなよ」
「…ば、ばか、そんな事…」
「ホラ、ここ触って?」
俺の左手があるトコ。
そっとなぞり上げて濡れてる部分に、
その手を誘導して、握手するようにして挟み込んだ。
「硬いね?」
「…ん、や、やめろ、離し…」
「イヤですか?」
「…」

無言って、肯定でしたよね。

手はそのままで。
「足、開いてください」
「…って、だってよぉ」
「それじゃマグロって言われちゃいますよ?」
「マ、マグロ?」

俺が知ってる日本語でさえも通じないってのは、どういうことなの。
面白い人だ。
不思議な人だ。
馬鹿みたいに純粋で。

ソレを俺は穢しているだけなのか?

俺のマグロの説明に、困った顔をして。
ゆっくりと、その足が開いた。
片手を添えて、ソレをリードしてあげて…。
「柔らかいんですね、身体」
「…も、もういいだろ?」
「いいですよ。入れてあげますから十分味わってください」
「そ、そう言う意味じゃねぇ、違…!!!」

言葉をさえぎるように、組んだ手を擦り上げるように動かしながら。
「ぁ、ッ、く、や…」
きついソコ、ゆっくりと慣らすようにして、こじ開けて入ってく。
「力、抜いてください?」
「っ、は…」
「抜かないとこうしちゃいますよ?」
力の抜けかけてる組ませた手、ソレを包み込むように俺の手で握り締めて、
両手で先生の反応を自在に操る。
俺の手も、先生の手も、どろどろに濡れて。
そりあがった身体に浮いた汗、冷えた肌。
…全部、暖めてあげますからね。

やっと全部入りきったのを確認して、俺は自分の快楽をちょっとだけ優先させた。
「きつくて、すごくイイよ?先生?」
途切れた息の反応。
「…ッ!、!」
先生、身体震えてる。
俺も、イキそう、なんですよ。
ふい、と感じちゃった香水のにおい。
その匂いに俺の脊髄が反応して。
先生の身体から、無理に引きずり出して、両手で握ってたソコの隙間から、一緒に滑り込ませた。
「…ロ、イ…ッ!!!」
聞こえません。
残った片腕が俺の肩を押し上げようとしてもがいているけど。
この両手の中のアナタの物と俺のコレ。
もう、絡み合ってしまっているから。
「…い、イッち、まう、ロイ、…!」
我慢しないで。
イッていいですよ。
そう。
その身体に全部吐き出して。

「女の香水の匂いなんか、俺が全部消してやるよ…!」

一瞬開いた目が強く閉じて。
俺はソレを見過ごして。
顔を背けてる先生の首筋にまで、全部、体中に。
全部、ぶちまけた。














「…換気」
「はい」
「…風呂」
「はい」

ぐったりしてうつ伏せになってる先生の周りで、俺は小間使いみたいにくるくると働かされて。
実は、この状態、この寸前の会話のせい。


    「香水、ってぁ、なんだ?」
    「え、だって、先生、女と会ってたんじゃ…」
    「…ママさんバレーの集団とコートでデートか?」
    「え?」
    「そんなことに嫉妬して俺の身体に…○○ぶちまけやがったのかぁああああああっ!!!!」


と、まあ。
ママさんバレー…
そう言えば、前にコーチを頼まれたとか、言ってたっけ…
でも、何でスーツだったんですか。
ってのは、ぐっと飲み込んで。
どうやら俺の宇宙規模の勘違いだったらしいから、ああ、ため息も宇宙規模に大きくなってしまう。
風呂場に水をためながら、おおーーーーーーーーーきなため息。
でもちょっと安心して、苦笑い。
「バスタオルだけでいいか?ほかのはちょっと洗ってねぇんだが」
背後から先生の声。
風呂場の扉の曇りガラスの向こうのシルエット。
「て、手伝ってくれなくても、いいですよ、今回は本当に俺が悪かったんですから…」
まさか、掛けられるのが苦手だとは知らなかったモンで。
っていうか、はじめてじゃ、そりゃ抵抗もあるってものか…うーん、俺もまだまだだね。
首をひねりながら、脱衣室に入ると。
「おう口開けろ」
思わず開いた口の中に、ポン、と飴玉。
「???」
「疲れてる時ぁ、甘いモンがいいらしいからな」
「へんへい…」
飴玉、でかいです。
「…ソレに俺もお前のこと、ほっときすぎたのに気づかなかった、こりゃ教師としてまだまだだ。」
「…へんへい…」
飴玉、でっかいです。

風呂というものにはじめて浸かったときも、
先生にはじめて背中洗ってもらったときも、
身体を拭いて出て行こうとして背中が濡れてるといって怒られて拭かれたときも
口の中、飴玉入ってました。

だから、当分ため息をつく余裕なんて、なさそうですよ。
いつまでも美味しくて
いつまでも大きくて
いつまでも終わらなくて
いつまでも、俺のため息をふさいじゃう。


本当に、大きな飴玉ですね、アナタって人は…