寮のその扉の前には人山の黒だかり…、黒山の人だかり!!が出来ていた。 女生徒の群れが、口々に扉の中に向かって声をかけている。 「っち…」 ったく! うわさを聞きつけて駆けつけてやれば! こんな状況で! いったい! あの! ロイってやつは! …どこまで色男なんだ!! 「悪いな、どいてくれないか」 女生徒にそう後ろから声をかけるが… 埒が明かない。 … うるせぇな。 いい加減にしろよ。 もう少し、周りのこと、ちゃんと見られるようになってから好きだとか嫌いだとか言いやがれ。 …嫉妬じゃねぇからな! 「病人相手にギャアギャア騒ぐな!!!!!」 「!!!?」 女生徒の群れが、いっせいに俺のほうを向いた。 アンタ誰?ッて顔して。 しょうがねえじゃねぇか、ロイのヤツが、じきじきに俺に電話してきて。 かすれた声で 「死にそうなんです、先生に会いたいなぁ…うう、死ぬ」 とか、馬鹿みたいな演技かましてやがってよ。そりゃ、信用しなかったさ、はじめはな。 いつもどおり、なにか騙くらかそうってンだろうと思ってた。 ところが、太陽校内でも多少のウワサが飛び交っていて。 ひなたが言うには、「センセイセンセイ先生ー!あのロイが風邪を引いたんだってー!」 これにゃ驚いたよ。 まさか、本当だなんて、思っても見なかったからな…あの、ロイが、風邪… たかが風邪くらいで、と言いたい所だが、 ロイが多少の風邪で学校までを欠席するはずが無いからな。 疑って悪かったかな、という気持ちもあって。 見舞いにきてみりゃ。 これだ。 「…?」 女生徒達の視線。 「俺ァ太陽学園体育教師、熱血隼人!ロイに呼び出されて来たんだ」 ホントー?って感じの目で。 あのなあ。 「ああ、もう、どけどけどけ!ロイ!入るぞ!」 ガチャ。 … なんだ、鍵、かかってんのか。 ポケットからキーを出して、カチャリ。 妙な視線を感じて振り向くと、 俺の手の中の合鍵に羨ましそうな視線が集中していて、あわてて手の中に隠した。 すごいな、ロイの人気ってのは。 捨て猫みたいな女生徒達に、「帰ンな、ロイのためを思うならな?」と、一言言い置いて。 なんだか、かわいそうな気もするが、 あんなのに一斉に中に入られたら、ロイもたまったものじゃないだろうな。 ちゃんと、内側から鍵をかけて。 「ロイ?」 声をかけても、返事はなかった。 でも、いる気配はするな。 寝てるのか?だったら、俺も邪魔しちまったかな…。 会いたいって言ったのはロイだが、状況によるだろ? 夕方でもう薄暗くなった室内には、電気もついていない、 …こりゃ、寝てるな。 電気をつけずに、寮特有のワンルームマンションのような廊下を歩いて。 結構、綺麗にしているんだ、ロイは。 というより、飾り屋かな。なんだか、見せるために部屋を飾ってある、そんな雰囲気だ。 ベッドルームまで足を運ぶと、寝息が聞こえてきた。 そ、っと扉を開いて。覗き込む。 「…やっぱ、寝てたか…」 邪魔、しちまったな、俺も。 しかし、あの女生徒達の嬌声の中、よく寝てられたな… 耳を澄ますと、もう声は聞こえなくて。 俺が部屋に入ったことで、何か声をかけずらくなったかどうかしたんだろ。 なんにしろ、寝てるなら… …飯、食ってるのかな? …まいったな。このままほっといて帰ればいいのに、そんな気になれねぇ。 何かしら、世話を焼きたくてしょうがねぇのは、俺がお節介なのか? しかしなぁ、病人だろ。どっかで牛丼買ってきて、食え、ってワケにゃいかねぇしな… あー。 … もう一度、寝室を覗き込んだ。 いつも俺に元気な顔を見せてくれるロイが、 苦しそうに眉を寄せて眠っていた。 …まいったなぁ。 腰に手を当てて、髪を掻いて、うーん。 寝室を見渡して、うーん。 …うーん。 … 「はぁ」 しょうがねぇ。 絶対このまま帰れねぇ。 お前に何かしてやりたい。 ほっときゃいいのに、相手は男だし、風邪なんてほっといたって治る… …でも、独りだし、ロイのヤツ。 そもそも、素直なこといえば、本当に帰れねぇんだよ、俺の気持ちが帰ろうって気にならねぇんだよ。 お前に元気がねぇと、俺が寂しいのは、なんでなんだろうな…? 邪魔だろうけど、世話、焼かせてくれよな、ロイ… 台所、そっと入って。 米とか、パンとか、何でもいい。 なんか、作って置いてってやろう… …作ってる間に、起きてくるかもしれねぇし。 …一言でも聞かせて、安心させてくれよ…。 …っち、なに弱気なこと考えてんだ、俺は! ガン! っと、台所のシンクをたたこうとして、アブネェアブネェ! ロイ、起こしちまうじゃねぇか、馬鹿か俺は。 もっとこう、直情的にならずに、落ち着いて、落ち着いて… 慣れねえなあ、こういう場面。 居間とキッチンがつながっているような造り。 黒いカウンターで仕切られているあたり、ちょっと外国っぽい雰囲気があるな。 キッチン内に入って、ロイにゃ悪いが、辺りを簡単に物色した。 さすがにアメリカ人だからな、米は置いてねぇか… …と思ったら。 ペットボトルの容器に入った米が、ズドン、と冷蔵庫に仕舞ってあった。 …なんだこりゃ。 少々使った後はあるみたいだな、蓋は開いてるし、ちょっと減ってる。 米、食うのか、ロイのやつも。 だんだん俺は、ロイに食わせるものを作ることに熱中し始めて。 なんで、こんな一生懸命? しょうがねえな、手のかかるヤツ。 なにやってんだ俺? ロイの好みって、どんな味だ? …色々頭の中、めぐっちまって、ぶんぶんと頭を振った。 米は炒めてから、水とジンジャーペッパー、ニンニクを入れて煮た。 寝室からはロイは出てこない。 ぐっすり、眠ってるんだろうな。 …こんな時間からそんなに寝てると、夜眠れねぇぞ。 コトコトコトコト。 ゆっくり、煮て。 意外だった。 気持ちが、焦らなかった。 いつも突っ走って行くのに。 何でもかんでもガーっとやって、勢いだけ、って言われた事もあったのに。 …へへ、おっかしいの。 30分ほど煮た米が柔らかくなって、膨らんで。 水も上がってきたんで、ソコに牛乳を入れた。 後は、トマト刻んで。 結構、冷蔵庫の中、モノ入ってるんだなァ…。この辺は意外だったよな。 トマトはオイルと塩とパルメザンチーズで絡めて、 なんとなく思いついて味が合いそうなモン全部ぶっこんだだけなんだけど。 どう、かなぁ、こんなモンか?? 鍋に顔を近づけて、匂い嗅いで、匂いは悪かねぇ、けど、味はどうなんだ?? 食ってみたほうがイイのか? そもそも、これ、俺どこにおいてくつもりだ? 不味かったら、どうすんだ? 作り終わった途端に、一気に現実的な気持ちが押し寄せてきて、一人で慌てて。 い、居間のテーブルにでも、おいて置けば…その前に、皿、いや、味見しとかねぇと! あー… あ? 「どうも」 小さな声で。 居間のソファに座っていたロイが、俺によ、っと手を上げた。 い、いつの間に…!!! 「お前、起きてていいのか…って、俺が起こしちまったか?!」 めっちゃ慌てて、もう、すまねえ、俺本当に邪魔だったかも… 「んーん、目が覚めて、水飲みに来たのさ」 声、かすれてんじゃねえか。 「あんま、しゃべらねぇでイイぞ」 「うん」 つらくねぇのかな。 本当に、俺が起こしちまったんじゃねえだろうな? 居間のテーブルにおいてあった水差しから、 ロイが水を注いで飲むまでを一部始終、ぼんやりと見ていた。 水を飲みきって、俺のほうを向いて、にっこり笑う。 「少し、調子イイんだよ?」 「…」 「どうしたんですか固まっちゃって」 顔を上げたロイに、 思い切り。 頭を下げた。 「すまねえ」 「センセイ?」 「俺はお前が風邪引いたって信用してなかった。その上に押しかけて勝手なことをして…!」 恥ずかしくて。 本当に、俺ってヤツは、何やってたんだ!!! 馬鹿、だよ、俺は…。 「コッチ、来てよ先生」 「…悪かった…すぐに帰るから…いや、片付けてから…。」 「いいから、来てよ?」 パジャマに軽くローブのようなものを羽織ったロイが、手招きをして。 俺は、それにおとなしく従った。 ロイの横を示されて、そこに座る。 「センセイ」 どう、答えてイイか分からなくて、顔を上げた。 「反省してる?」 「ああ。すまない、本当に…」 やっぱり、うるさかったのか… 本当に俺は、何も考えられない馬鹿ヤロウなんだな。 そのほうがイイんじゃないか、なんて、勘違いして。 「こんなときに迷惑をかけてすまない」 「んー」 「…悪かったよ…許してくれって…」 「んー」 ロイは、何か悩んでる風で。 許すか、許さないか。 考えてるのか? 俺を指差して、そのまま俺の唇にポン、と指をおいた。 「風邪引いてるからキス出来ないんだよね困ったなぁ」 … そっちのこと考えてたのかよぅ!! 俺に気、使って、話そらそうとしてくれてるのか? いいんだ…俺が悪かったんだからよ。 「それに迷惑だなんて思ってないし」 「…許してくれるのか?」 「んー」 もう一度、考えて。 俺の唇に、もう一度指をポン、と当てて。 「クチでしてくれたら許してあげるよ」 …って… ベッドの上に座ったロイの、足の間、俺は這いつくばって… いつもよりも熱い。やっぱり、熱があるんだな…。 舌先でそんなこと感じて。 「もっと、奥まで入れられる?」 「ん…」 ロイに言われるまま。 せめてもの、罪の償い、みたいな気分。 それに煽られて、せめてものご奉仕。 クチの中、ロイでいっぱいで、息、出来ない。 「そのまま、喉の奥で締めながら、抜いて…。」 言われたとおりに。 ロイの体の反応が、多少はまともな事を俺が出来ているコト、知らせてくれる。 指示を出してくるロイの言葉どおりに、舌を進めて行くと、不意に視線を感じて。 クチはそのまま、目だけで見上げると。 ロイが、俺のことを見ていた。 「…み、見るなよ…」 「舌、出して、舐めてるトコ見せて?」 「…分かったよ…」 ロイの視線の中。 ゆっくりと、熱いソコを舐った。 舌先に感じる粘液の感触、使って、深く咥え込む。 俺の髪をロイの指が探って。 握りこまれて、強く腰を押し付けられて。 もう、駄目…だってんだよ、俺だって…。 「ん、ぐ…」 苦しくて、片目閉じちまって、思わず声を漏らした瞬間。 ロイの手が、俺の髪を引き上げた。 「痛…ェ、な…」 「…先生、上、乗れる?」 「…ん」 服を全部はずして。 座ったままのロイの腰の上に、面と向かい合って体を乗せた。 ロイが、俺を見てる。 ちょっと、やっぱり、体の調子悪そうだな… 「いいのか?こんなことして、身体…。」 俺の疑問に、ロイの手が答えて。 腰を掴んで、誘導する。 分かったよ。 半ば諦めて、腰を落とした。 「…ン、んっ…」 熱っ、ちぃ…なァ…くそ… 「動いて」 「…そ、そんな…」 「ん?」 「…分かった、よぉ…」 言われるままに動く俺を、ロイはじっと見てた。 もーそろそろ、許せよ… なぁ… 「…もともと、怒って、ないし」 「…ん、ッ…え?」 「迷惑だなんて冗談じゃないさ…ねぇ、もっと動いて?」 「…あ」 そんなやさしー目で、見るなよ… 「もっと来て、近くでセンセイ感じさせてよ」 ロイの言葉の魔力にやられて。 俺は、そのまま、全部体の中で受け止めるまで…ずっと… 絶頂と共に。 ロイの言葉も俺の侵した現実も、一瞬途切れて消えた。 「子供の味みたいですが美味しいですよ」 …あーそうかい。 トマトのみじん切りを乗せたさっきのリゾットは、結構ロイのクチには合ったようで、それには安心した。 けど、今度は、さっきと違う理由で俺は照れちまってて、顔が上げられねぇ。 ロイは、全然怒ってねぇし、邪魔にもされてなかった。 面倒かけたわけでもなかったし、逆に俺が来たことでロイは相当喜んでる。 俺の反省、全然意味無しかよ! その上、メシまで作ってやっちまって! 馬鹿みてーーーー! …通い妻みてェなコトしちまったよ〜〜。 ってな、そんな理由で、俺はもう、自分が恥ずかしくて。 何で、こんなことしちまったのか、もう、自分にゃわかってる。 ロイのことをほっておけない自分がいる。 「もう、認めたら?」 「…知らん!」 「強情だなぁ」 ポム。 唇、指でまた押された。 「…」 「センセイの嘘つきは中々治らないね??」 !!!!!! 「嘘つきじゃあねぇ!!!」 照れ隠しに怒鳴りつけた俺の口に。 ちょうどいい暖かさのリゾットがスプーンで運ばれて。 むぐ。 もぐもぐもぐ。 「…」 「結構いけますよコレ」 … もぐもぐ。 …本当だ、思ったより… ってぇ、また!!!俺は誤魔化されて。 頭ン中、グチャグチャなまま。 「あれ?もう、無いんですか?」 「ま、まだ食うのか?!」 元気な笑顔を見せるロイは、嬉しそうで。 だから。 俺はもう完全に抵抗するのをやめた。 わかったよ。 俺は、お前のこと、 「え?俺が欲しくてたまらない?」 「馬鹿か貴様はーッ!」 「素直じゃないなぁ」 「っせぇ!」 ガン! やっぱり、素直じゃなくて充分だ! 頭さすってるロイの顔。 風邪というより、欲求不満で寝込んでたんじゃないか?ッてくらい、 すっきりサッパリしてて。 俺の気持ちも、なんだかちょっとだけサッパリしてた。 「俺、嬉しかったんですよ、センセイが来てくれて凄く。」 「…あー」 わかってるよ。 お前の顔、身体、全部がそう言ってたから。 全部、見えたよ。 全部、感じたよ。 多分、お前は俺の全部、感じて、もう分かってるんだろ? 「どうでしょうね?」 そう言って俺の一番好きな笑顔で笑って。 だから、俺が安心して照れちまうんだ。 お前の、声、笑顔、聞いた、見られた。 そのことが俺を元気にする、それだけは間違い無い。 お前の笑顔が一番嬉しい。 そんなこと、いまさら気づいて、 気づかれてるのに 恥ずかしいから知らんぷり、なんて、 うーん…俺も、まだまだガキだよなァ…。 ======================== ■あとがき■ ぬわー!!! …バカップルーーーーー!!!!!!(TдT) …実はこういうの好きなのかなぁ…vv 隼人先生がまともなご飯作れるのかどうか知らないんですが(苦笑 このときは、たまたま上手に出来た、とか そう言うことにしといてくださいvv |