いつもアタシ達は舞台の上にいる、そう感じたことはありやせんかィ?

突然のアタシの質問に、ジョージさンが首を傾げた。
サングラスの奥の目、ちょっと見せてくれませんか?
ちょっとだけ分かるようになってきたアンタの感情、やっぱり眼から見ないと分かりずれぇもんでして。
と、手を伸ばした指先をちょいとひっぱたかれちまいました。
「あいて」
「何をする気だ」
「サングラスはずして下せェよ」
「ナゼだ?」
「見えねぇからに決まってるでしょが」
フン、と鼻を鳴らしたきり、アンタはそっぽを向いて。
もしかして、サングラスしてるのって、理由でもあるんですか。

「分かりやした、そりゃ取りませんけどね、質問にくらい答えて下せェよ」
ちょい、と両手を上に上げて降参のポーズを見せといて。
サングラスの下の眼、アタシのその動き、確認したでしょ?
なんでなんですか?
何でサングラスしてるんですか?
ねぇ、教えて下せェよ。
その前にアタシの質問にも答えてくだせぇよ。
わかんないことだらけなんですよね、アンタって。
だから面白くて目が離せねぇんですけどねぇ。

「…質問?私に質問していたのか?」
「へぇ」
それ以外誰がいるんですかアタシの目の前に。

フランスの凱旋門。
アレの前に、飲み屋街みたいのがありまして。
日本で言う飲み屋街とはそりゃ違う雰囲気でしてね、かっこいいんですがね。
酒を飲ませるところとはもう雰囲気が違う違う。
そんな場所で見つけたちょっと日本風のお店。
中にはいってみたら、当然のごとくママ、いや、マスターは日本人の方でした。
「アタシはレズなんだよ、だからここはそう言うのが多いからナンパはゴメンだよ」
はっきりそう言ってくださいましてね、あらあら、フランスってのは変わったトコだ。
そんなマスターの言葉を聞いたジョージさンの顔をうかがってみたんですが、
別になんという風でもなくて。
ああ、コレもいつもどおりなんですがね。
ちょっとアタシと一緒に驚いてみたりとかしません?
…無理でしょうねぇ
なら、驚かせるようなこと考えてみましょうか。
なんて、懸命に頭めぐらせて、途中でこりゃアタシの一人舞台だ、って思っちまって。
だって、アンタあたしが何か言うまできょとんとした顔で(いつものぼけっとした顔とも言います)
ソファに座って犬っコロみてぇに待ってる。
観客。
なんて、そんな言葉が頭に浮かんで。

「なるほど」

アタシのそういった説明をうなずきもせずに聞いて、うなずきもせずに兄さンが答える。
「君の思考は理解した、しかし突飛すぎる」
「そうですか?」
突飛でしたかね?
思いついたことってのは、いつでも突飛じゃあありませんか?
だって、思いつきなんですから。
「じゃあ、君はいつも思いつきで行動しているのか?」
「ええ、まあ、あんまり深く計画練ったりはしませんね、普段は」
「それでいいのか?」
「は?」
「不安ではないのか?」
え?
暗い店内、
アタシ達は一番奥のソファ。
目の前には氷の山。その山の尖りは溶けかけてすでに丸く見えてて。
つい、その先に手を伸ばして撫でてみました。
「それも、思いつきか?」
「…ええ」
いけませんか。
触ってみたくなったら触る、そりゃ普通でしょ?
「じゃあ、私のサングラスが気になったのも思いつきなのか?」
今日は、ずいぶんと質問攻めですねぇ…
そうですよ。
おもいつきですよ。
何でそんなに聞くんですか?

アタシが撫でていた氷の山を、同じように撫でてみて。
眉をひそめたジョージさンの指が、そっとサングラスをはずしました。
銀色の瞳、あ、やっぱりしててもしてなくても分かんないモンは分かんないですねェ。
「どうやったら、思いつくんだ?」
「はぁ?!」
「私も何か思いついてみたい」

あははははは。
面白い人ですねぇ。
そう言って、笑ったアタシの顔を怪訝そうに見て。
その顔はいたってマジメで。
…ちょっとォアンタ、マジですかぃ?
「いけないか」
「そんな、『思いつき』なんて勝手に思いつくことですからねぇ…どう、って言われましても…」
困っちゃったなァ。
考えたこともなかったですからね、思いつくってことがどういうことなのか、なんて…
「例えばだ、ある経験から物事を予想するとする、その経験が思い付きを生むのか?」
「は?」
「…〜〜〜〜〜」
ナニ、難しいこと悩んでるんですか…この人ァ。
っていうか、何で悩むんですか?
「分からないからに決まっているだろう!」
「何でわからねぇんですか?」
「それが分からないから悩んでいるんだ、ああ、もう!」



珍しいもの見ちまった気がして。
だって、ジョージさンですよ?
ジョージさンがですよ?
「ああ、もう!」
って、頭かきむしって、固目細めてへの字グチ。
…そんな顔、初めて見せてもらっちゃいましたけど。
結構、アンタ人間くさいんですねぇ。

ははははは。

やだなぁ。

可笑しくなって来ちゃいましたよアタシ。

ぽふん、と。
その銀色の髪のてっぺんに手を置いて。
なでなで。
「!?アシハナ!?何をしている!」
あら、つい。
手を払われそうになって、その手がアタシの指に差し掛かる前にちょい、と避けて。
もう一度、ぽふん。
「アシハナ!」
「ハエじゃねぇんですから、払わねぇでくんな?ねぇ兄さン」
「…君は本当に分からないヤツだな!」
分かられても困ります。
分かっちまったら面白く無いでしょ。
ほら、探り合いましょうよ。
ねぇ?
アタシの手を払った手を握り返して。
その先にちょいと出した舌で螺旋を描く。
「…」
何で赤くなるんですか。
もう、こんなことはよくやってることでしょ、いい加減慣れ…
「…アシハナ」
「はい?」
「思いつくということを多少理解した、
 しかしこの理解の仕方は私はなんとも納得しがたいんだが
 理解したことには変わりない、しかし…」
「はい?」
今度はアタシが理解できませんって、よぉ。
ジョージさんの指が、アタシの方を指差して。
あれ、そういやジョージさんの指って結構細くて長い
…その指が小さめの氷をはさんで。
自分の口にでもほおりこむのかと思ったら。
アタシの口元にそれ差し出して。
「はい?」
「…こう、思いついた、これは思いつきか?」

しょうがねぇですねぇ…
そりゃ思いつきというより、アンタ、衝動ですよ。

差し出された氷、舌先で絡め取って口に含んで。
熱くなってるようだから、その口に戻して差し上げやしょう。

「あんたたち、仲がいいねぇ」
「ひゃあ!?」
「!」

いつから見てたんですか?!
マスターはアタシ達を見て笑ってて。
や、やですよぉ、なんかもう情事の現場見られたような気分!
ちら、と見るとジョージさンも真っ赤で。
それみてたら、またアタシ可笑しくなって来て。

奥に部屋があるから、使いなよ。

ああ、なんか気使ってもらっちまってスミマセンねぇ…って、あのぅ。

まあまあ、と押し込まれた奥のビップルーム。確かに外からは見えませんがね、
なんか突然ラブホテルに押し込まれたような気分じゃありません?
「…確かに舞台かも知れんな」
「え?」
「しかし私はあまり観客に見られるのが好きではないようだ、サーカスにいたときもそうだった」
「…見せるのが商売でしょうに」
「まあな」

でもアンタ、忘れちゃいませんか?
アンタの前には最近じゃいつでもアタシという観客がいるじゃねぇですか。
「不快ではない」

あんたねぇ。
そりゃ、
最高の口説き文句ってヤツですよぉ…?


与えられた舞台でアタシ達はちょっとだけ最高の幕を演じて。
ちょっとは照れますよ、そりゃ与えられちまったんですから。
本当だったら、こんなことはヒミツの舞台で演じること、でしょう?


そういや、アンタの肌見るのも瞳見るのも、同じくらいの回数でしたねぇ。
サングラスはずすときって、そんな気分の時ですかィ?
「…答える義務は無い」
「そりゃそう言った時点で答えてるって気づいてました?」
「…むう」

あははははは。本当に可笑しな人ですねぇ…

「何か、また思いつかないのか?」
え?
「何か思いついてみてくれないか?」
「あのですねぇ、思い付きってのは思いつこうとしてするもんじゃねぇんですってば」
「…そう言うものなのか」
ねえ。
それは歩み寄りってヤツですか?
質問ってのは、興味があるからするんでしょ?
ちょっとはアタシに興味もってくれてたりします?
…もたれても、歩み寄られることなんて、無いんですよアタシは、何故って…怖いんだそうで。
そういや、何でこの人、アタシをこわがらねぇんでしょうね。

ねえ、もっと何か質問してくだせぇよ。
アタシも、アンタに聞きたいことが沢山あるんですよ…
どんな答えが帰ってくるのかがこんなに楽しみだなんて、そうそう無ェ。

「まだ何も思いつかないか?」

あっはははははは!!!
まだそんなこと考えてたんですかい!
まったく、アンタ本当に予想のつかないお人だ。

「それよりも兄さンの思いつき、聞かせて下せェよ?」
「…」


何で、赤くなってんですか…