「ジョージさンって頭痛とかしねぇんですかぃ?」 温泉街の和室。 なんでこンな所にいるかって? …そうですねぇ。止まり木がないから、巣がないから、 毎日違う葉っぱの裏で眠る蝶… まあそんなモンだと思ってくだせぇよ。 今日はあちら、明日はこちら… 生き延びることと露をしのぐことで精一杯なんでさ。 今アタシが話し掛けた相手、ジョージさンは、旅館に据え置きのモナカを無感動に弄ってやす。 包み紙をはごうともせずに、そのままカサカサと手の中で弄ぶ様に。 ちょいと兄さン、アタシの言ったこと聞こえてますか? 「ジョージさ−−−−−−」 「うるさい!」 耳元で大声で名前を呼んでみました。 反応有り、おやおや、どうやら生きてるみたいですねェ。 「あのですねェ、聞こえてたら返事しましょうよ返事。」 「考え事の最中に返事と言われてもだな」 「考え事?」 「頭痛とは、どんな物だったかな、と」 「……はぁ」 そりゃ、頭痛を感じないってことなんでしょうよ。 そこで、感じないって答えればいい物を、 いつからこの兄さンはこんなに思慮深くなっちまったんでしょうネェ。 話すたびに、返答の言葉を選んでるってことですかね。 …そんなに気ィ使ってもらわなくてもいいんですがねぇ…アタシぁ。 兄さンは、その後も押し黙ったまま、モナカ弄ってやすね。 あのねぇ、 モナカがそんなに気になりますか。 アタシが目の前にいるのに、なんでこっち見て話でもしようか、 と言う気になってくれないんでしょうねえ。 焦らしてるんですかい? 夜も更けて開け放した窓空の風が気持のイイこんな部屋で。 胸ポケットに手をいれて。 取り出だしたりますは何でしょうネェ? コツン。 裏返されたモナカの上に、その一粒を置きました。 「…なんだ?」 「なんでしょう?」 「…」 アタシが置いたその一粒に、兄さンが指をかけて持ち上げます。 白い一粒。 「なんの錠剤だ?」 「頭痛薬でさぁ」 「…?」 また、思慮深くなろうとしちゃってるでしょう。 なぁンも考えずに、たまにはその本能見せてくだせぇよ。 なんだろう、なんでこンな物を渡すのだろう、とかアタシの心中探ってるんでしょ? 分かる筈ありませんよ、アンタには。 だって、私が言った言葉そのまま信用してるような、そんな人形みたいな単純設計じゃぁねぇ? アタシの本心なんざ掴めやせんよ。 …考えると言う事は、逸らそうとしているからなのか、それとも理解しようとつとめるから、なのか 兄さンが、アタシから目を逸らそうとしてるように感じちゃって仕方ねぇンですよ。 もう、アタシしかいねぇンじゃねぇンですか? アンタの前には。 ねェ… 「そこの缶を取れ」 「え?ああ、コレですかい?…て、ちょ、ちょっとこれビールじゃぁ…」 アタシが渡した錠剤を口にほうりこむと、ジョージさンはそのビールで一気に…! なんてことするんですか、薬ってのは酒と一緒に飲むと効き過ぎちまうんですぜ!? 慌てたアタシの顎を取るアンタの指に 一瞬だけどうなったのかが理解出来なかった 唇を唇でふさがれ、強く押しつけられた其処から苦い液体がアタシの口内を侵す… 「?!」 もがこうとしても、頭を強く押さえつけられてて。 ああ、駄目です… 駄目なんですよォ。 液体の中に、一粒の錠剤を舌で見つけて。 何度か躊躇った後、アタシは自らそれを飲み下しました… … 「…ジョージさン…」 「なんの薬だ?答えろアシハナ」 「……すみません……」 「なんだ?」 「アタシもうすぐ抑えが利かなくなっちまいますぜ…なんてぇ人だ、アンタァ…」 「…媚薬か」 「…酒で、なんて…あ、アタシがどうなっても、いいんですか」 「勝手にしろ。私は知らないぞ」 冷たい言葉に、身体がゾクリと波うちやした。 ああ、そんな言葉でさえも、なんだかこう、ゾクゾクっと来やすねェ… 頭がぼうっとして、身体が熱くて火が出ちまいそうで。 ああ、アタシはどうなっちまうんですか。 ねェ… ジョージさンは何でこんなアタシを静観してるんですかァ…? 「…、はぁっ…ジョージさン…ッ」 「触るな」 「お願い、できやせんでしょうか…」 「私が飲んだわけではない」 冷たいそぶりに。 つい、手が伸びた。 「…無駄だぞ。私は自己制御が利く」 その言葉は無視して。 自分の熱くなったソコに自らの手を這わせながら… ジョージさンの身体を包む黒い布を歯で咥えて外す。 ボタンも、みんな、アタシがもっと焦れる様に、ゆっくりと外して。 アンタが少しでも焦れる様に… 言葉のとおり、反応を示していないソレを唇でゆっくりと咥え込んだ。 「…ッ…無駄だと言っているだろう?」 「制御…出来なくなるまで…奉仕でもなんでも、させてくだせェ…」 「アシハナ、勝手過ぎるぞ。私に薬を飲ませてみようとしたり、 ソレを自分が飲んだからと言って私をこうして誘ったりだな…。」 「どっちにしろ、アンタとしたかったんでさぁ… まさかこんな、熱くさせられるとは思ってもみやせんでしたがね…」 もう、お喋りは御仕舞いにしやしょうよ… 自分の前を肌蹴て、腹から肌を這って自分の熱く潤ったソレを握り締めて。 「あァ…っ」 アタシの溜め息、こんなに熱くなっちまって。 ねぇ、ねぇ、お願いですよ。 考え事なんかしねェで。 本能でアタシを求めてくだせぇよ。 言葉ってのは、ウソでも本当でも言葉なんですから。 本物の、本能、あたしのこの舌で、確かめさせてくだせェよ… 舌で舐めあげて、そのまま口に含む。 髪が邪魔になって、外した顔を一度反らしました。 落ちてくる髪を耳にかけて。 見下ろしてるアンタから、アタシの口元が見える様に、舌を出して… 「ん、ハァ…ッ」 「…何故ソコまでする?」 「……」 「何故私に薬を飲ませようとした?」 「…ん、ん、ぐぅっ」 そっとアタシの頭に兄さンの指がかかるのを感じて。 その瞬間。 口の中、奥の方までソレを強く押しこまれて、苦しくて、強く目を閉じやした。 「…アシハナ。君がわからない」 そんなこと、いわねェでくださいよ。 アタシはいつも一つ。いつも思ってる事は一つ。 アタシの本能が枯れない様に、アンタをこの手で繰りたい、それだけです。 その理由なんてどうでもいいんです。 髪を掴まれて、無理にソコから引き剥がされて。 「あ、痛ッ…兄さ…」 「何を考えているんだ?わからない…」 「アンタのほうがわかんねェじゃねェですか!!!!」 髪を掴むその手を振り解いて。 その手を掴んで、アタシのどうにもならない部分に押しつけて。 「アタシがこんなんなっちまってるのに、なんで慰めてくれねェンですかぁ…ッ」 「…だったら私に頭痛の経験などと聞くな。」 「ふ、あ、うぅっ!!」 突然ソコを強く握られて、柔らかい愛撫を受けたアタシの身体が 我慢できずに耐えられずに、 反りあがってソレを強くもっと求めて、 ああ、アタシこんな、壊れたようなコト…。 「もうなにも感じないんだよ。アシハナ、私はな。頭痛などはもっと過去の話、私が人間であった頃の話」 「あ、あッ…や、ぁ」 「過去を掘り起こしたいのか、私の。今の私よりも、過去の私か?」 「…違、違いまさァ…アタシに見えるのは…」 見えるのは。 いつでも、 いつでも。 「今のアンタしか、見えやせん、よぉ」 身体がふぅ、っと浮きあがって。 それが落ちる感覚に変わった瞬間に、アタシの中に。 「あ、−−−ッ!」 「これで満足か?君は私をこうして感じる、私は一体どうしたら君を感じられる?」 「…っは…兄、さ、ン…?」 ゆっくりと井草の香りに倒れこまされて。 兄さンの唇の感触を、首筋に感じて、アタシはもうソレだけでイッちまいそうな感覚。 これは、アンタには感じられないコトなんですか? ああ、そんなんじゃァ、さみしすぎやせんか。 抱いてるアンタも、 抱かれてるアタシも… 快楽の渦の中で、アンタの髪に手をかけて。 引き下げて、おでこにおでこをくっ付けて。 口元で、アタシの言葉。その脳で、その脳の奥の方を研ぎ澄ませてくだせぇよ… 「なぁんにも、考え、ねェでくだせェ、よ…っ」 「…なんにも?」 「そう…もっと感覚だけになって」 「その感覚が見えないんだ、私には…」 「大丈夫でさァ…アタシの中に、アンタが入ってる、分かりやす?」 「…ああ」 「アンタの動きでアタシがどう反応するのか、もっと見ててくだせェ……」 そう、もっと溺れて。 なァンにも考えずに。 目は閉じて。 そう、目を閉じて。何も見ないで。 見えるのは、アタシの肌だけでしょう? ですよね? そぉ、 アタシが見えるのは、アンタの綺麗な髪だけ アタシが感じてるのはアンタの身体全部全て。 アタシの身体、もっと感じてくだせぇ。 「あ、はァ…ッ、アタシ、もう…」 「…アシハナ…」 「ぁ…は、い…っ?」 「そのままイッて見せろ」 「…そ、そんな煽り文句…ひ、ひァ…!」 アタシの爪で井草がガリガリと音を立て。 アンタが何を感じているのか、考えているのか、 気になっていたはずのそれが全部吹き飛びそうな、 下半身の濡れた感触に、絶頂へと駆け上る、止めようだなんて想像もつかない…! うつ伏せになって、兄さンが弄っていたモナカを指で転がしてみた。 兄さンはと言うと、飲み残したビールなんか飲み始めちゃって。 なんか、いつもと様子が違いまさァね? 「兄さン、ビール飲めるんですか」 「…酔えるなら酔ってみたい」 「酔いたい気分ですか」 「…ほぉって置け」 …なんでしょうねぇ。 さっきひとしきりあんなに激しくアタシを抱いといて。 随分と冷たいじゃないですか。 ねぇ? 覗きこむと、顔を反らされちまいました。 すっきりしない気分で、アタシはまたモナカをモニモニと弄繰り回して。 …これ、面白いですねえ。 指にこう、なんか柔らかいような、柔らかくないような、不思議な感触で。 まるで、人の肌みたいな。 … 「兄さン」 「ほおって置けと…」 「モナカ触ってると誰か愛撫してる気分になりやせん?」 「はぁ!??!」 あ、 赤くなった。 なんで、ですか?酔ってるンですか? … 照れてるんですかぃ? でもアンタ、隠れた本能、モナカで誤魔化しちゃいけませんよ本当に。 こんな近くに、肌が有るんですから、ねェ。 すぐに逃げちゃいそうなこんなアタシ、そういや叩くと動物は怖がって逃げますモンねェ。 逃げられるのが怖いですか? 見えないってのも、本当は何を考えてるか分からないような、ってのも、 どうも、秘密があってクセになりやすねェ。 缶ビール、まだまだ有りやすよ。 アタシがお酌して差し上げましょ。 酔うってな気分、教えてあげやすよ… なぁんとも、気持ちの良い物なんですよ。 アタシの注いだビールをグッと飲み干して、アンタの息はもうすでに酒臭くて。 何も知らない子供にイケナイコト教えてるみたいで、ワクワクしまさァ、実際ね。 ほぅら、月が出た。 モナカ半分あげやしょう、コリャどうも風流ですねェ。 「気持ちは、イイかも知れんな」 「…まぁ、もう一杯いきなせェよ…旦那♪」 「ダンナ?」 その声に、ふふ、と笑って。 月の光も、酔いの気分も、アタシの肌と同じ。 アンタの肌で感じればイイ。 感じたら、照れて誤魔化さずに、アタシに教えてくだせぇよ… 頼みましたよ。旦那?はは。 |