「あ、ジョージ、さン…も、ちょっと強く」
「…」

アタシが使ってるセイフハウス、ココは羽佐間が用意してくれた所。
殺し屋ってのはいつでもどこでも居場所不肖でなければならねェってね。
そんな訳で、分かりやすく言うと、ココは東京のマンションの一室、隠れ家ってことでさァね。
そんな羽佐間に用意してもらったとこで、アタシは今ジョージさンと抱きあって。
これで盗聴器でも仕掛けられてたら、ドキドキもんでさァねェ…無いとは思ってませんがね。
そんなことも気にせずに、アタシは嬌声をあげて。
座ったままのジョージさンの上に腰を落として、熱を奪い合う。
最近のアタシ、どうも存在感が自分で自覚出来なくって。
こンなことでもしてなけりゃ、どっか行っちまいそうなんですよ…
一体、今アタシは何をしたらイイのか、それで頭が一杯になって、アタシは誰だったんだろう、なんてコトまで考えて。
だから…
「…ふ…ぁ」
自分から動いて、ジョージさンの唇に舌を捩じ込んで、アタシからのキス。
舌を絡ませると、ジョージさンの舌がアタシの舌を絡めて侵食してきて…
…上手く、なってるでやンの、キス…

「ね、え。ジョージさン…」
「…なんだ?」

離した口元で、熱い息と共に言葉を吐き出して。

「今ねェ…思ったんですけど…ン…ジョージさン、気持イイことって知ってやす?」
「…?…なんの話だ…」
「男の身体、どこをどう触ったら、イキそうなほど気持ちがイイか。」

眉をひそめてやすね。
でしょうねぇ。こんな状況でこンなこと言われたら、
アンタセックスヘタですよ、って言ってるようなモンですもんね…
いや、下手って程じゃないんですが。
もっと、こう、アタシぶっとびたいんですよ、アンタの執拗な愛撫で狂ったように、とかさァ…
なァンにも考えられなくなって、知らない内に卑猥な言葉とか言っちゃうような、そんな状況、
一度体験してみたくってですね…
…理由はもういいですよね。

「ねェ…アタシが、してあげやすから、キチンと覚えて下せェよ…」
「…なに?」
「アタシだって巧ぇワケじゃねェですけどね…
 アタシがアンタの身体愛撫してあげやすから、
 どこが感じるとか、そう言うの発見して下せェよ」
「…は?!」

身体を持ち上げたアタシから、自分が引き抜かれる感触にジョージさンが顔をしかめて。
…ああ、なんか、この感じも、ドキドキはしまさァねェ…
アンタが気持ちよくなるためだけに、アタシはこの身体全部、
繰りの技も全部使って御奉仕…?
なぁんて、そんな、ワケ、…

思わず、胸が高鳴って。
アタシ、もしかして、マゾっぽいですか…ねェ…

「アシハナ…私に不満があるか」
「…そうじゃねェンですよ…ねェ…させてくだせェ…」
「…アシハナ…!」

アンタの顔に顔をグッと近づけて。
そこでいやらしくアタシは笑って、胸をトンと押しました。

「兄さンが気持ちよくなれるなら、何でもいたしやしょう…どうぞアタシを支配してくだせェ」

そう言って。
ゆっくりとその身体をベッドに押し倒して。
なんでしょうね。
アンタが、無表情に、アタシを見てる。
そんな、アタシを掻き立てるような…顔…

知りませんよ。もう…
被虐心と嗜虐心が入り混じった気分。
其れに駆り立てられるままに、その唇に、唇を押し付けた。
触れるだけで、中に舌は入れずに。
動こうとしない兄さン、なに考えてるんでしょうね。
ちらり、と顔を見ると。
…イヤですよ、困惑した顔して。

「ア、アシハナ…?」
「……」

アタシは無言で。
アンタの無表情な目を思い出しながら、目を閉じて。
首筋から、胸、脇腹から下腹部へ、舌と唇を使って細い刺激を与えて。
「ココ、感じやせんか?」
そう呟いて、脚の付け根の線に沿って指を滑らせる。
強張った身体が、ピクリと震えた。
同じようにその線を舌でなぞりあげると、兄さンの掠れた息。
それを押しとどめるのが聞こえて。
「兄さン、もっと溺れちゃってくだせえ…溺れて、アタシの足を深いところまで引っ張って行って欲しいんでさ…」
「やはり私には抵抗がある、やめろ…ッ、…」
「意地悪しねェで…させて、くだせェ…」
兄さンの勃ちあがってる其れを柔らかく指で掴んで、先を舌で舐って。
どうしたら、気持ちイイですか?
甘噛みしても、イイですか?
歯を立てて、軽く滑らせて…ああ、此れ、さっきまでアタシの中に…
「…は…ッ…ア、シ、ハナ…!」
「噛まれるのがお好きですかぃ?今度アタシも噛んでくだせぇよ…思いきり」
「やめ、…」
「こういう風に」
「…は、あアッ!」
もっと、アタシを煽ってくだせェ、もっと。
もっとゾクゾクさせてくだせぇ。お願いです、から。ねェ…
口に中指を含んで、唾液をからませて。起き上がろうとしてる兄さンの腿に手をかけて、肩で持ち上げてソコを開く。
「アシハナ!!!」
「ン…ほら、アタシの指、こんなん…」
「…やめろ、よく、よく分かったから…!」
「…駄ァ目ですよぉ、もっと、ゾクゾクさせてくだせェ、って」
とまんねェンですよ。
どうしちゃったんでしょう、アタシ、こんなオカシクなっちまって。
兄さンの所為だ、どうしよう、アタシ。
「いい加減に…!」
後ろ手に手をついて身体を無理に起こした兄さンの手が、
アタシの身体に触れる前に。
濡らした指をゆっくりと、ほら、入っちまいますよ…
「や、ァぅ…くっ…」
「変な、感じでしょ。中のどの辺が、感じやす?」
「気持ちが、悪い、早く抜け!」
「ウソをお言いなさンなよぉ…兄さンにアタシ、この辺り突かれると気持イイんですけど」
もう、指は奥まで入っちゃってますし。
逃げようとして腰を引いたら、それって刺激になりません?
強姦されても、多分、アタシ逃げてる間に感じちゃうんだろうな、って思うんですけど。
「この、辺り…」
「…ッ、ん、ん…ッ」
「声、殺さねぇで…」
「…な、なぜ、こんな事を……」
「アタシ、ですね…こういう風に抱いてもらいてェんです…もッと、なんかこう、激しく、おかしくなるような…」
「アシハナ?どうしたんだ、様子が、変…だ、な、何をするッ!」
「強姦」
「なに?!」
「こうやって、アタシを強姦して下せェ!」

思いきり。
多分こンなことされるの初めてだろう筈なのに、アタシはもう兄さンの痛みなんて考えずに、
激しく液体の混ざり合う音がアタシの動きと一緒に聞こえるんですけど。
アンタ、どうしちゃったんです、倒れちゃって、声も出ねェですか?
…ああ、いいなァ、アタシもそうされてェ。
「……ッ−−−−!!」
「ねぇ」
「…、っ…」
そういや、アンタ、痛くないんでしたっけ。
アタシは痛いんでしたっけ?
どうしやしょう、アタシどっかおかしくなってませんか?
震える指が、アタシの肩を掴んで。
爪を立てて、ガリガリと傷をつけて。
「痛い、じゃねェですか」
苦し紛れにののしると、その傷口にもう一度爪を立てられた。
「…痛…ァ…ッ」
そのまま、身体を引き寄せられて。
驚いて目を開くと、兄さンの目がアタシの目の前にあって。
思わず、ゾクリとした。
「アシ、ハナ。」
「…はい」
「私から其れを抜いて、私の上に乗れ」
乱れた息の間から、強い言葉。
鋭い目に、睨まれて。
それに従わなければならないとアタシは錯覚して。
…そう、初めてのアンタからの強い支配。
ゆっくりと身体の上にまたがって、腰を落とす。
「…あ、兄さ、ン…ッ」
「動け、ゆっくりと、イキたくてもイけないくらいに、ゆっくりとだ」
「……」
アタシ、本当にどうしよう。
もうイッちゃいそうなくらい、なんででしょう、アンタの言葉に身体がゾクゾクして…
「…あ…、駄目、駄目でさァ…こんなァ…」
「私が許すまで、ずっとそうしていろ。」
「でも、アタシ、もう、なんだか…」
「なら、付け根でも縛ってやろうか。私をココまで煽っておいて、簡単に許されると思うな!」
「…兄、さァン…」
ああ、アタシ今人形に繰られてる。
アタシの人形に、糸を支配されて、繰られちまって、
でも、それはアタシが望んだ事。
言うことを聞く人形をずっと糸であやつってきた。
アタシはいつも思い通りに。違わず、損じることのなく。
負けちゃぁイケナイ
間違ってもイケナイ
アタシはいつも完璧でなければイケナイ!

その糸の支配を免れるたった唯一の手口
人形に裏切られる事

苦しみと快楽とがアタシの脳の天辺で駆け巡って、
地獄絵図は、最後の晩餐の神々しさにも似ていて

優しいだけじゃ物足りない、
激しくなければ命が燃えない
ギリギリじゃなければ本能に従えない
そうなってしまった自分を戒められない。

どうか、
どうか許して、下せェ、神さン…






ゴン。
ベッドの上で呆けてたアタシの後ろ頭に、兄さンの拳の一撃。
「アイタっ」
「…馬鹿者」
「なん、ですか」
「人扱いしたり人形扱いしたり。私をなんだと思っている」
「…なんでしょう?」
「君が聞くな!」
「おこらねェで下せェよ…アタシだって、アタシだって、ですね…」
「…泣くな」
「…泣いてねェですよ」
「ふん。」
そっぽを向いたアンタの手が、アタシの頭を引き寄せて。
バランスを崩して、アンタの身体にもたれかかっちまいました。
「人間でいたいか、そんなに」
…え?
「君の人間であることの象徴は、少々激しいようだな」
…そんな、あんな動物的な行動が、ですかぃ?
「生きている事を確認する為に人間は、痛みや快楽、支配や服従を求める」
「…そうなんですか?」
「反乱する事で、自分の存在を主張する。暴走族やテロリズム、全ての反乱はソコに基づく」

そんな、むずかしいこと言われてもですねェ…

「アタシは反乱してました?」
「ああ。」
「そうですか…」
「だが私の反乱までは想像がつかなかったようだな。」

「じゃあ、ですよ?
 アンタも、人間って事ですよね?
 認めてます?実は。自分が人間だって事。」

「……。」

アタシの言葉に、兄さンの顔がムッとして。
思わず笑いそうになった途端に。
掴まれていた頭を向こうに放り出されて、アタシはベッドにボフン。

「なにすんですかー!」
「…反乱だ」

そう言ってアンタがニヤリと笑って。
コリャ、してやられちまいましたね。
この野郎、人形め。アタシの人形め。
そうやって糸の主導権握って、だからアタシが一瞬でも安心しちまうんだ。

人間なんて、皆意思を持ったただの人形なのかも知れ無いですよねぇ?

ほうら、糸が見える。
先を握ってて下せェよ。アンタが。
アタシは、アンタの糸を握ったまま、ココに寝そべってますからね?

ぴろろろろろ。

「ん?」
「ああ、アタシの携帯だ」

ぴ、と其れを受信して。

「もしもし?」
『あのぅ…』
「ああ、羽佐間?どうしやした」
『もう、イイですかぃ?』

……もう?

……!

「羽佐間ーーーーーーーッ!!!!!」

ガン、と携帯を壁に投げつけて、あ、バッテリー壊れて取れちまった
しかし、しかしですねー羽佐間!
アタシは何があってもアンタの糸なんか、絶対握ってなんかやりませんからね!!

「アシハナ。」
「なんですか!」



「コンセントのプラグに盗聴器が仕掛けてあるようだが、外すか?」


漏れそうになる笑い声を口元で押さえて。
盗聴器を外したあと、アタシは大笑い。
アンタもなんか笑ってるみたいだし、とまんねェし、イイでしょうかね、このままもうちょっと笑ってても。
吹き飛ぶような気持ち良さに、アンタに枕なんか投げつけて。
投げ返された枕で、修学旅行みたいに。


こぉんな気分。
もっと、味あわせて下せェよ。反乱でも、なんでも、イイですから…ねェ…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


リバーシブル・完