どこへ行く?
ちぃと、榛名のほうへ。
なにをしに
…糸を
糸?
そう、糸でさァ

車のハンドルを握りながら、言葉を返しつつ、ジョージさんを伺う。
どうも、さっきからアタシが糸って言うたんびに、なんか、むすっとした反応を見せるんですよね。

「ジョージさン、糸お嫌いで?」
「…いや、特に」
「まぁイイや、説明しちまうとですね、アタシ黒賀でしょ、黒賀の糸はね。そん所そこらの糸とはちぃとワケが違うんでして」
「…そうか」

あら、簡単な返事。
糸の話はしたくねェンですかね。
信号で止まりがてら、後部座席にヨッとばかりに手を伸ばして、取り上げたのは、糸の切れ端。

「これでさぁ。これの代えをね、手にいれたいンでさ」
「…」

アタシが差し出した糸を、躊躇して受けとらねぇ。
こりゃ、なんか在りますね。ジョージさンと、糸、ってのは
…。
アァ、そうか。
この人だって、糸を操ってたことがあるはずでしたか。

その記憶の奥深くに、触っちまったって事でしょうかね。
知りてェ、と思うのは。罪なんでしょうかね?ジョージさン。

手のひらにじっとりとしみてくる汗を感じて、手袋の先を歯で咥えて引っ張り抜いて。

パタパタ、と手を振ると、皮の匂いがしますね。こりゃ何だか、体臭みてぇで…
ぐい、とズボンに手をこすりつけて。
運転席側のヒーターに手をかざして、手のひらを乾かしちゃいやしょ。
乾いたかな、と見た手のひら。
…この手が、糸を繰るわけですよ。
ねぇ。
ジョージさン。
こんな手が、糸を操っちまうんですよ。

面白いと思いませんか?ねぇ。

「別段」
「…ちぇ。なんでそんなに糸にこだわるんですかい?」
「こだわってなどいない」

思いっきり”こだわってます!”ッて顔をして、アンタなんですかそりゃァ。
ぷい、と窓の方を向いちまって。
…子供みたいなことしまさぁね、兄さンてばたまに。
タバコでも吸って時間誤魔化そうかとして。
ふ、と窓を開けたら、ジョージさんの髪が風になびいた。

…いつも、思うんでさぁ。
兄さンの髪。
糸みてェで…繰りたくなる

車を止めたのは、林道の脇道。

止めたまま車を降りないアタシに不審を感じたんでしょうかね。
ジョージさンが、やっとこっちを向いて。
そのほほに。
素手のまま。
手を添えた。

「…アシハナ?」
「兄さン。一寸だけ、アタシのモンになってくれやせんか」

答えを聞く前に、…その唇、ちょっと感じさせてくだせぇ。
運転席から乗り出して、腹がサイドブレーキに当たって、痛いんですけど。
でも、体温感じる唇が気持ちいいですから、トントンってことで。
ジョージさンは、何故か身動きもしなくて。
何か、考えちゃってるんですかぃ?
たまにゃぁ、なんも考えないで、アタシを欲してくだせぇよ。
糸…髪、に、指を通して。
手触りを楽しみながら、顔を引く。
「アシハナ」
「質問は無しってぇコトで」
「…」
アタシの言うこと聞いて、ジョージさんはおとなしくなっちまって。
別にアタシの言うことなんざ聞かなくたって、問題ないでしょうに。
でも、嬉しいでさァね。言うことを素直に聞かれるってのは。

手にいれた気になれやすからねェ…

ねェ、アンタァ、本当は誰のものなんですか?
自分は自分のモノ、だなんて思ってネェでしょ?
ねェ…。


「アシハナ?…こんな所で」


助手席側にかがみこんで。
ジョージさンの腰に手をついた。

「ン」

布を開いて、舌先を這わせると、ジョージさンがかすかに反応して。
もっと、見せて下せェよ、そういうトコ。
なんで、アタシこんなでっかい玩具欲しくなっちまったんでしょゥ?
顔を真下に向けて、上からそっと咥え込んで。
アタシの髪を掴む指。
あ、今、首筋に兄さンの髪の毛、当たった
…気持ちいいンですよ…それ…

「っ、やめないか」
べぇ、と舌を出して。
「いやでさァ」
「この、我儘にも程が…ッ、っ」

ちゅ。
口ン中、もう一回引き込んで。
糸が光ってらァ。
ほぅら


「!」

ビクン

ジョージさんがこんなに反り返るなんて、珍し。

「…っぅ!?何を!」
「縛っただけですよ、ちぃと、この辺りを」

と、引っ張って見せたの、これ何だか分かりやす?
そう、さっきの。アタシの糸でさァ。

「痛く、無いでしょ?」
「…馬鹿な、コトを…」

分かって下せェよ。アタシの糸なんですから、それ。
バックミラーから窓を通り過ぎてく一筋の光が、豪快な爆音を立てて過ぎ去っていく。
残ったのはエンジン音とヒーターの音と。
アタシとアンタの息遣い。

「その糸、結構、弾力がありやしてね…よ、と」
助手席のシートを倒して。
狭いんですが、大丈夫そうでさね。
「赤いんですよ、かすかに」
「…解け」
答えずに、ニ、とだけ笑って。

服をはずして、それをアタシの中に導いて。


「…キミは」

「んッ…」

「私を何か人形と勘違いしているようだが」

「…そ、んなことァ」

「あるだろう」

ぴん

「!?」

あ、っ、何

「私の髪の毛を糸と混同しているようだからな?」
「あっ、や、やめてくだせぇ…」

ジョージさんの指に絡まる細い糸。
それは、アタシの下腹部に通じていて。
そう、人形なら、こんなことするはずがねえ
わかってまさぁ、
わかってまさぁ、アンタが、アンタが人格を持った人間だってコトはァ…!!!

「ひ、っ、ほ、解いて、くんなぁ」
「駄目だ」

強い言葉に、アタシったらゾクゾクきちまって。
これじゃ、まるでマゾヒスト

兄さンの身体にしがみついて。
ジョージさんが咥えてるその糸、さっきアタシが兄さンに悪戯したはずの糸。

「っあァ…!」
「こんな事をせずとも、しろがね-Oのこの身体ならば…」
「ウソはいけやせん、ぜ、兄さン」

でしょぅ?
アンタ、きっちり感じてるじゃネェですかぃ。
アタシの、中で、
ほら

腹に力入れて、こうしたら、

ねぇ、兄さン
眉間に、皺ァよっちゃってやすよ。
あァ
もう、
なんで、アンタァ、アタシの人形じゃねェんでしょう?

アタシぁ

アタシ…












「どこかの国の話ではあるんだが」
「…へぇ」
「男の子供の頭に塩素を注射器で注入して、自分の言うことだけを聞く人形を作ろうとしていたそうだ」
「…へぇ」

アタシ。完全に反省モード。
ゾクッときちまって止められなかったとは言え、ジョージさンを人形扱いしちまって。
この人、人間なんですよね。
分かってたつもりだったんですが。
「他にもアナトミー手術を施そうとした例など」
「すいやせんでした」
「謝れと言っているのではない」
「ですけど、兄さン…」
ジョージさンは、今まで見たことがねぇほど真面目な顔で。
いつも無表情が売りの人なのに。
こ、こんな顔…
「キミがだな、もしそう言った欲望、いや違うな、感覚といっておこう、それを持っているとしたら」
「持っているとしたら?」

なんですか?
なんか、アタシの方見て止まっちゃってるんですが。
「キミは殺人鬼だ」
「…」
…そんなコト、言われ無くったって分かってまさァ!
しかしその言い草は何ですか、分かってますがね、殺人切って言い草はねぇでしょ!?
アタシだって、ちったぁ気にして…あんまり気にしちゃいねぇですけどね
こぶしを握って、もしかしたら、アタシ殴るかも
ぽむ。
肩を叩かれて。
「だが私がいれば大丈夫だ、安心しろ」

ハァ?

ジョージさんは本当に大真面目な顔で。

アタシを見て、ウン、とうなずいた。
なんでアンタがいると安心なんですかぃ?
なんか、アタシ
おっかしくって

そのまんま、大笑いして。

「何を笑うか!」
「だぁって、だってジョージさァン!ぶ、駄目だ今顔見せねぇでくだせぇ!っはははははは!!!」


あんまりおかしいから、ジョージさンの頭、ぽんぽん叩いて。


ハテナ飛んでるけど、教えてあげやせんよーだ、アタシの笑ってる理由は。


さぁ、もちっと上まで登りやしょう。
アタシの糸、アンタに見せてあげたいんですよ。
血を吐く蚕の赤い糸。
アンタとアタシ、繰り、繰られ。

ねぇ、いいでしょうよ、アタシ等にゃァ、赤い血の糸が、お似合いでさァ。




そりゃぁね、まるで、アンタの髪を血に浸したような
…あはは、アタシ、懲りてやせんねぇ…








FIN


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こめんと
久し振りにからくり書きました!
ずっと書いてなかった理由がひとつあるんですよ。
ぜんぜん、二人の雰囲気が書ききれなくて。
日本と、外国と。和テイストが大好きなんですけど、
どうも、なんか違う文章になっちゃって…
いくつか書いたんですが、アップできなくて。恥ずかしくて。

今回は外国人的な阿呆さ加減をジョージさンが見せてくれたんで
アップしてみました。
いっつもそうなんですけど、小説書いてると勝手にキャラが動くんですよねぇ…
逆に、動いてくれないときは、もうかけない、って諦めるんです。

キャラの力で小説書いてるようなもんでして(涙

でも、この小説もヘボですね。くやしいなぁ。