ドグラマグラ 11

カランカラン。
木製の扉をおして二人組が浮かない顔をして入って来る。
テーブルを囲む先客に軽く挨拶をすると、カウンターに座りこむ。
ため息突きながら顔を見合わせるイルーゾォとホルマジオ。
その顔を見て呆れたように笑うリゾット。

    リゾット:「なんだやっぱりガセだったか?」
   イルーゾォ:「あーもういい!その話やめて!」
   ホルマジオ:「警察の罠だったんだよなぁ…
          しかし、戻ってこられたのは儲けモンだったぜ」
    リゾット:「チョコラータの検挙の為だってな?」
   ホルマジオ:「なんだ知ってんのか?」
    リゾット:「俺の情報量を甘く見るな」
   イルーゾォ:「しっかし面白いヤツ等だったなぁ」

リゾットが用意したグラスを掻き回しながらイルーゾォがつぶやく。
走馬灯…いや違った、懐かしい思い出のように天を仰ぐ。
あの…ホルマジオが塩入れてますよ。気づけイルーゾォ。

   ホルマジオ:「いやでも確かに面白いヤツ等だったよな。
          ホモにザマスにお坊ちゃんってな」
  
警察、と言う言葉とホモとザマスとお坊ちゃんで困惑しているリゾット。
塩を大量投入されるコップをチラリチラリと眺めながら、
言葉の意味と味をを推測して吐きそうな顔になっている。

   イルーゾォ:「ん〜まあ面白い経験したと思えばイイよなぁ」
   ホルマジオ:「そ、そうだよなぁあ…クック…」

遠くを見たままコップを持ち上げるイルーゾォにホルマジオが期待の目を向ける。
リゾットが息を飲む。
止めてやれよリゾット…
カルアミルク(甘いコーヒーカクテル)の塩入。
最悪の味の状態を想像してリゾットが微笑む。
悪魔かアンタ。

   イルーゾォ:「あいつらと一緒に飲んでみてぇなぁ…。」
   ホルマジオ:「そうだな、飲んでみてぇなー」
   イルーゾォ:「これはお前が飲めッ!」

ガブゥ!
イルーゾォにコップを突っ込まれてのた打ち回るホルマジオ。
リゾットまでもが指を指して大笑いしている。
その間にホルマジオのテキーラに塩を入れまくるイルーゾォ。
塩大流行。
リゾットがイルーゾォの持っていた手紙をチラリと思い出す。
その手紙の中身には、最近世の中を騒がせているとか言う、怪盗の名前のサインと
ある屋敷に、しのびこんで欲しい。
ある絵を盗んできてほしいのだ、と言う内容が書いてあった。


    リゾット:「警察が怪盗の名を語るとは、世も末だなぁ…」



ここは社員食堂。その端ッこのほうで煙草の煙にうずもれているソルベ。
ジェラートが窓を開けて外を眺めている。

     ソルベ:「ったくよぉ。してやられたよな〜」
   ジェラート:「まったく。絶対メローネだけは僕が捕まえてやる」
     ソルベ:「しかし、なんであの怪盗、俺達の動き知ってやがッたんだ?」
   ジェラート:「それも目下調査中…イルーゾォ達のほうから
          ネタがもれたってこともありえるしね…」
     ソルベ:「チョコラータを捕らえることが出来ただけでも儲けモンかナァ」
   ジェラート:「一番のネックだったしね。
          でもメローネの計画どおりに自分が動いたってのが口惜しいよ」
     ソルベ:「しかしなー何かありそうなんだよなぁ…」
   ジェラート:「僕もなにか、おかしいような気がしてるんだよねぇ…」

顔を見合わせる。
そのままみつめあう。いや違うでしょ二人とも。
何か忘れているね。みんな。ここもソコもかしこも。
俺のこと忘れてるね。はははははは。
夜景の見えるビルの最上階。
商談中のスーツの男二人組。
楽しげなカップル。
金持ちの家族。
フランス料理のフルコースをこともなげにたしなむ。
商談中らしいスーツの男がワインを傾けながら笑う。

   +++++:「成功だったな。」
   +++++:「アンタのおかげさ、メローネ。」

夜景の映る窓に男達の顔もまた映る。
伏目がちに笑うメローネと、金色の髪をかき上げて快活に笑う男の顔。

    メローネ:「面白い仕事が出来て実に気持ちがよかった。
          礼を言わせてもらうよスクアーロ。」
   スクアーロ:「あまりにも暇なドグラマグラだったんでね。ちょっと思いついただけだ。」
    メローネ:「君のシナリオの成功に」
   スクアーロ:「アンタの完璧な演出に」

グラスを合わせる。
すべてが仕組まれたシナリオの上。
これはすべて狂人が書いたシナリオの上のドグラマグラ。
本物こそ芸術。
テレビドラマに人間は存在しない。スクアーロはそう言って笑った。


登場人物
  イルーゾォ
  ホルマジオ
   リゾット
  ジェラート
    ソルベ
  ギアッチョ
 チョコラータ
  スクアーロ
   メローネ

脚本
  スクアーロ
演出
   メローネ



監督 



ここまで読んでくれてありがとう…。
さて、本当の策略者は…そう、ドグラマグラの中で微笑む。
本当の首謀者に気づいたアナタ、狙われないように心して…



ドグラマグラ・完
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