★ツキトユキトミルクティー★
不意に行き場所を見失って
どこに居ていいのか分からなくなる時がある。
ちょうどその時もそうで…
ここに居つづけてはイケナイ
と言うことだけが頭ん中を支配してた。

だから

逃げた。

そっと空を見上げて問う。
ここに居てイイですか?ここでこうやってのさばっててもイイですか?
もしかしたら、邪魔になってませんか?
すべてを否定されたような気分で、
見なかったフリをして月から目をそらす。
その光は自分に降り注いでいてじっと見つめられていて
どこへ行っても逃げられない。どこにも居場所がない?

だから

車の中で震える体を自分で抱いた。
息が白くにごっても
それについて無感動で…
目に入るものがすべて虚構に見える。

そんな状態で、
俺はソコから逃げだしたんや。

携帯が鳴ってる。
さっきから何度も。知ってる。
分かってるけど俺の手はそのボタンを押そうとしない。
押す気も起きない。
助けて、って誰かに言いたくても言ったらアカン、
そう感じるだけで言葉にはならない。
そのまま。そのままずっと居たかった。
なのに。

「やっぱりここにおったんか」
そう言ってソイツはオレのテリトリーを邪魔しに来た。
ほっといてんか。
そう呟いても聞こえない声にしかならない。
思うだけで言葉がでない。
面倒や。何もかもが。
ほっといてんか…?

tetsuの声が何度も頭に響く。
「どうしたん?なんか言ってよ」
「なぁ?」
「…調子悪いんか?」
「みんな心配してんねんで」
みんな、通り抜けて行って。
声が、出せない。出したら…俺多分…

雪の中。
tetsuを助手席に置いたまま、外に飛び出した。
雪が、足元で舞う。
目の前に邪魔をしにくる。
月がないこんな夜くらい、自由に居させて。
月のないこんな夜くらい、誰の目も突き刺さらないこんな夜くらい。
呼ばれて振り向いてしまった俺の目に、tetsuの目が突き刺さる。

「……ほっといてんか…」
「なんでや」
やっと発した言葉に無造作に問いが返って来る。
答えな、アカンのか?
「答えて?」
俺の心を読んだtetsuがそう言った。
だから俺はこう呟いた。
「音が…鳴らんへんねん」
そう言った自分が笑っていることに、気づいて。
それが心の中にもっと隙間を空けて。
どうやっても埋まらんその隙間にせめて雪を詰め込ませて。
もっと、俺を埋めるように降りつづけて、雪。

うずくまって雪をほじくる俺の肩に
また雪が積もる。
tetsuは車の脇でじっとしてた。
ずっと俺を見てた。
見ないで欲しいんや。本当に、見ないで。こんな俺は俺じゃないんや。
だから、いつもの俺が戻ってくるまで、ほっといてんか…

ゴン。
えらいイイ音がして、俺の後頭部にぶち当たるもんがある。
衝撃に目から火花が出て、振り向きざま、怒鳴る。
「なにすんねん!」
「阿呆」
「なにが!」
「阿呆や、kenちゃん、いや、馬鹿。阿呆、とんま、タコ助!」
「な、なんやと!?」
無意味なぶっつけ文句に無性に腹が立って、雪の塊を速攻で作って投げた。
ヒラリとかわしたテッちゃんが俺に向かってもう一度。
「アホー!」
「むっかつく言い方やなー!なんやねん、そんなんなら、もう、ええわ!
もうエエわ、どうでもエエわッ!」
掴んだ雪をそのまんま投げつけて、言い放つ。
その雪のベールで隠れて、走って来たテッちゃんの影に気がつかなかった。
タックルをかまされて、雪の上に転がる。
「い、痛ッたー…な、なんやねん一体…」
「そんなこと言うな」
「あん?」
「言うな、頼むから…どうでもイイなんて…いわんといて…な」
テッちゃんの目が濡れてた。
慌てた。実際マジで慌てた。なんか俺そんなにひどいこと言った?
だったら、だったら……
…謝らん。謝るもんか。
俺かて…どうでもええんや、こんな空虚になった俺はどうでもええんや。
「kenちゃん……どこ行きたいんや…」
「…。」
どこにも、行き場がないから、こうやって日陰で生きとるんやないか。
これは俺やない、こんなん俺やない、もっと元気でもっと強いんが俺や。
だから、これは俺やない…
「ゆっくり、しとき。」
「え?」
「エエよ。雪は遊ぶだけのもんやない、kenちゃんもそうや」
「?」
「見よ?雪。」
涙目のテッちゃんが、そう言って俺を引き上げた。
見てて、エエのん?雪。
俺は雪で遊ばんでも、エエの?
「じゃーん。」
テッちゃんがそう言って懐からなにか出した。
「ミルクティー。たまにはエエやろ?こう言うんも。」
そうやな。
たまには…エエな。
「たまにはイイよ、たまには、kenちゃんが雪みたいでもエエよ」

受け取ったミルクティーの缶があったかくって、落としそうになった。
そうや、あったかかったからや。
テッちゃんが俺の頭を撫でて。そんで、言うんや。
「エエよ。こういうのも、エエと思うよ、俺は、いや、逆にこういうのも好きや」
「そうか?」
「こういうkenちゃんも好きや」

阿呆…
核、突きよってからに…
ミルクティーは甘くって。
そんで、俺には似合わんかなと思ったけど
テッちゃんは美味しそうに飲むし
俺も美味いと思ったし
たまには…
そうやな。
月がゆるさんでも雪に許してもらうからエエわ。
いつか…月見ながら…ミルクティー飲んだるからな。

この野郎、月。予告やぞ。
そう思った俺の顔は、ちょっといつもどおりに笑ってて
なんや、自分、ここにおったんかいな。

また会えたな、自分、また会えたな、テッちゃん。
何度も、会おうや。
それも、エエよな。

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