★ハナタバ★

花が届いた。
誰あてに?

「コレ、kenちゃん宛やで」
テッちゃんがそう言った。
hydeは隣の部屋にこもってる。
kenちゃんは、花束を見て眉をしかめた。
「ファンの方からです。危険はないようなので、折角だからお持ちしました」
事務所の人間の一人がそう言ってそれを運んできた。
そう言って運んできた。
もう一人運んできた。
そんでもう一人。
花束に群がるようにして3人。

「……な、なんやコレ…」
あんぐりと口をあけたまま、テッちゃんが目をまんまるにした。
俺だっておんなじ。なんだよ、この大きさ。尋常じゃない。
kenちゃんに届いた花束は、ゆうに1メートルを越える代物で。
これってば、中に爆弾とか仕掛けられそうな、
イヤ、人一人中に入っててもわからなそうな大きさ。
危険は、ない、か。
あるのにね。
引き鉄になるのに、ね。

どっかりとソコに置かれた花束を3人で囲む。
そこに添えられていた一枚のカード。
「愛するken様へ★今度はお姫様抱っこしてください★★」
だってさ。
何が、お姫様抱っこだってーの。
もぉ、もぉ、kenちゃん愛されちゃってんなぁ。
今度はお姫様抱っこしてくださーい、だってさ。
今度は。
今度、は?
「なんだよkenちゃん、コレ」
俺の声がなんとなくトゲトゲしい。
「んー、なんやろな。」
「今度は、だってさ。知ってる人じゃないの?」
「知らん。最近面倒なことなんかして…
 イヤ、もしかしたら…んー。やっぱちゃうやろ」
なにが、もしかしたら、なんだよ?
「kenちゃん手早いモンなー」
テッちゃんが笑いながらkenちゃんを叩く。
俺は、笑うフリしながら、テッちゃんと同じく、その背中を叩いた。
「イ、イッタ…」
困ったように笑うkenちゃんが、なんとなく申しわけなさそうに俺を見て。
フンって感じで目をそらす。
なんで、俺を見るのよ。

「ゆっき…知らんよ、ホンマ」
「知ってるような口ぶりじゃない?
 まぁ、アーティスト足る物スキャンダルの一つもあるよねー」
とか言って、ニコ、とか笑ってみたりして。
「知らん!知らんってば。なん、俺そう言う扱いか」
「まー。しょうがないよねー。ほらすごい花束。愛だね。偏愛だね。」
わかってるって。嫉妬だって言いたいんだろ。
そうだよ、嫉妬だよ。
もてるkenちゃんが羨ましい?そんなんじゃない。
俺も花束が欲しい?そんなんじゃない。
なんだよ、花束なんか貰っちゃってさー。
「ファンの子の気持ちってのはな、大事なんやで。」
kenちゃんが、ちょっと真面目な顔でそう俺に言った時。
俺はとりあえず、このスタジオから去ることにした。
花の香りがむせ返るように、匂いが鼻につくんだ。
鼻につくんだよ。

「ちょ、待ちぃな、ゆっき!」
閉まる扉の隙間から、kenちゃんのそんな声が聞こえた。
関係ないもんねー。
俺は別に、花が嫌いとかそんなんじゃないし
とにかく、何となくむかついたから、
嫉妬だって?知るかもう、そんなん知るか。
なんだよぅ。いいじゃん、俺だって花束くらいなー。
贈ってみたいけど、アホじゃん。
俺はkenちゃんのファンじゃないもん。
好きだけど。ファンではない、と思うもん。
へーんだ。知らないぞ。なんも俺は知らないぞ。
むっかつくなぁ…
ただの、嫉妬じゃん。見苦し。

「ちょー、ゆっき、待ちって!」
バタンを音を立てて、扉がもう1度しまった。
廊下の突き当たりで振り返る。
kenちゃんの、ちょっと困った顔。
「アホか。ゆっき。お前俺がどこでなにしようが勝手やろが」
「勝手だよ。知ってるよ。だからナニ?」
むかつく。
今ちょっと話しかけないでよ。
振り返った顔を元に戻して、そのまんま廊下を進む。
と、走る音がして、真後ろから声が聞こえた。
ドキっとして、立ち止まる。
「お前だって勝手やないか。何で怒ってんね?」
「怒ってない。花が嫌いだから気分悪いだけ」
「ウソつけ。なんやその態度。
 自分が気分悪いからって人まで巻き込むな!」
「あー悪かったよ!どうせ俺はその程度だよ。
 邪魔だろうから出て行ってやったんだ、 ほっとけばイイだろ。
 ソレを勝手に追いかけてきて、気分悪くされたのなんのって、
 そっちが勝手に気分害されたんでしょ?俺が何したって言うの?
 俺は、迷惑かけないように、出てきたでしょ」

言葉の乱射。
自分でも何言ってるのかよくわからない。正当防衛、自己の正当化。
正当である為に、言葉の乱射。
誰かみたいに、言葉を紡いで表すなんてそんな上等な芸なんてもってない。
kenちゃんの綺麗な黒目が、スッと細まった。
「そんな言い方するんか」
「するね。言われたくなけりゃほっといて」
「イヤや。俺はもうムカついてる。このままでは済まさん。」
「勝手なこと言うなよ!」
「勝手はそっちやろが。アホ言いな。
 自分の理由掲げて人踏みにじるような真似は俺は気にいらん」
「kenちゃんだって今、自分の理由掲げて俺を踏みにじろうとしてるでしょ」
「……話しても無駄なんか」
「ほっといて、って、言ってるだろッ!」
喧嘩、なんか、したくない。
もうちょっと、俺がおさまるまで待って。ほっておいて。
じゃないと、嫌われてしまう、今以上に。
待って。お願いだから、待って。
こんな俺じゃ、ロクな言葉も出せない。
「テッちゃんにほっとけって言われた。
 でも俺はほっとけなかったんや。俺は間違ってたみたいやな」

そう一言残して、kenちゃんの風が俺の背後から消えた。
待って。
待って。
ほっておいて。でもいかないで。ちょっと待って。
俺が、わかるまで、待って。
なんで、怒ってるのか、ちゃんとわかるまで、待って…
「kenちゃん…」
なにも聞こえない。やっとのコトで呼びかけたのに、なにも帰ってこない。
バタン、と扉の音がした。
俺は、カッコワルイ。
花束がいけないんだ。いや、花束は悪くない。
贈り主が悪い?贈り主だって悪くない、むしろ歓迎すべき筈でしょ。
だったら、俺はなんで怒ってるの。
俺、怒ってたの?
なんで?
なんでだよぉ。kenちゃん。教えて。なんでだよぅ。

バタン。
もう1度、扉の音がした。
テッちゃんが俺のコトなだめに来たんだろう。
テッちゃんにはいつも迷惑をかける。
言い争うと、テッちゃんが困った顔して。
テッちゃんにも、ご免ね。kenちゃんにも、ご免ね。
俺は、なんで、こんな気持ちになったんだろう、わからなくて、ゴメンナサイ。

バフ。

不意に、後ろに気配を感じたと思った瞬間。
顔に、でっかい花束が押しつけられた。
「やる」
振り向くと、kenちゃんが真顔で立ってた。
「半分、やる。だから怒るな。」
真顔で、立ってて、そう言った。
「い、いらない」
「貰え」
「いらねぇって言ってんじゃん」
また、俺、なんかくだらないこと言いそう。
ほっておいてって、あれほど言ったのに。
「なんや、俺ゆっきが怒ってる理由わからん。
 俺も気分悪いし、ゆっきも気分悪いんやろ。」
「……」
「だから、やるから、機嫌直し」
「……」
なんなの、この人。


バラバラ…散らばる花びら…雫は…


花束は、落ちた。
俺を睨み付けると、それを屈んで拾う。
「そんなに、花が嫌いなんか?」
「嫌い。近づけないで」
「そう。わかった。もう近づかん。」


瞳あけたまま 腐食…


拾って、それを抱きかかえて。
花束の中でkenちゃんが目を伏せた。
気持ちが腐る。
このまま、ふさぎこんでしまいたい。


死んだ世界


くるりと、俺に背を向けて。


閉じた瞳…


そんでくるりとこっち向いて。
……
え?
そんで、俺に向かってその花束投げつけた。
「う、うわ…」
「お前拾え!」
「なん、なんで俺が!投げたのkenちゃんだろ!」
「花は気持ちや!気持ち捨てるな!大事にしたれ!」
「な…」
「俺かて花くらい贈る!花は贈りモンや!贈りモンは気持ちや!
 気持ちにそんなことしたら寂しいやろ!拾え!
 俺の気持ちと、その子の気持ち、拾え!」

ただ、かき集めるだけで。
俺は、気持ちをかき集めるだけで。
抱いてはあげられない。
kenちゃんは、抱いてあげられるんだね。
俺の気持ちは、贈り物には…できないよ

「コレは、kenちゃんの気持ちも入ってるの?」
「入っとる。満タンや。」
「……誰に?」
拾い集める俺に向かって、kenちゃんが、唇を突き出して、そっぽを向いた。
誰に向かっての、気持ち?
お願いだから、言って…
じゃないと、俺は寂しくってたまらないよ。
ビシ。
kenちゃんの、指が、俺を指差して。
そんだけ。
向こう向いたまんま、俺を指差して。
そんで。
「は、はよう拾いや!」
だってさ。
kenちゃんの花束には、カードはないの?
お姫様抱っこしてください★とか、書いてよ。
してあげるから。いや、出来るって。してあげるって。
ちょっと、待ってて。よいしょ。
「うわ、なにすん、ちょ、待ち、キモッ!」
「お姫様抱っこ」
「俺の体重知ってんか!?」
「出来る!」
「出来ん!」
「出来たら晩飯オゴリ」
「出来んかったら今度のツアーのメシ代ゆっき持ち」
「おっしゃ」

がば。
kenちゃんごと花束抱っこして。
持ち上げて。
どうだ、お姫様抱っこだ!
俺、なんかと張り合ってない?
ま、まぁ、お姫様抱っこだ!できたんだから、俺の勝ちだ!
「うわ、ホンマにやったな、アホやお前、男、姫抱っこしてどないすんねェ!」
kenちゃんが俺の腕の中で大爆笑する。
「俺も男にこんなことしたことないって!
 うわー、妙だ、完全に変態って言うか、変!」
俺もkenちゃんを腕に抱いたまま大笑いした。
扉がおそるおそる開いて、テッちゃんが顔を出す。

「……」

あんぐりと空いたまんまの口に、
肉まん一つほおばれそうだな、なんて思いながら。
「どうどう?テッちゃん?お姫様抱っこや!最悪ー!キモー!」
kenちゃんがまだ爆笑してて。
つられて俺も大爆笑した。
テッちゃんの金縛りが解けて、ヘラっと笑った。
はたから見たら、変な格好だろうなぁ。バカすぎ。
冷静な自分が今の状況に判断を下してた。いわゆる、自分ツッコミ。
そのまんま抱っこして、スタジオに戻って、
大きな鏡で見てみたら、死ぬかと思った。
いい男がいい男抱っこして、しかも花束つき。
「うわ、はずかしッ!下ろし!」
kenちゃんが床を気にしながら、俺の腕の中でもがいた。
「ちょ、落とす、落とすッ!」
「落とすないな!?ちょい、どうやって降りんねん!」
「記念撮影〜」
パシ。
テッちゃんの手元からフラッシュが光った。
「あー!テッちゃ、待ち!それ駄目、捨て、捨て捨て!」
「現像してフライデー行きや!」
テッちゃんが笑った。kenちゃんが慌てふためいて、
落ちそうになって俺の服の襟を掴む。
「く、くるしっ!しぬ、しむっ!」
「怖いー!お姫様はこんなんに耐えて生活してんのかいなー!」
ごたごたわたわた。
スタジオひっちゃかめっちゃか。
大事なはずの贈り物の花束もクチャクチャ。
あ、と思った時には、kenちゃんをその中に落としてた。
花まみれ。
花と一緒にクチャクチャになって、
服半分はだけちゃって
ソコから顔出してるkenちゃんが意外とサマになってて。
ひげ生やしてるし、柔らかいシャツ着てるし、胸はだけてるし。
俺ももう、たまらなくって茶化しちゃう。
「ベルサイユの薔薇ッ!アンソニー臭い!」
「違うがな!名前ちゃうがな!それキャンディキャンディやん」
テッちゃんが自慢の知識で鼻を鳴らす。

「うるっさいなー。駄目駄目ですぞ」
変なコト言いながらhydeが登場して。
その登場で、舞台が静かになった。
hydeが持ってる白い紙を皆で覗きこむ。
「出来たで、タイトルは『花葬』」
kenちゃんが、ギターを取る。
テッちゃんが、ビーンと音を弾く。
ドラムセットに俺がおさまる。
そっと強く歌われたその曲で、俺とkenちゃんと顔見合わせて。

あとで、ちょっとだけ、照れ笑いした。
「花は魔性やなぁ、ゆっき」
「いや俺もホントそう思う」

hydeが妙な顔して俺達に「ん?」って言ったけど
まぁまぁまぁまぁ。

語り部が紡ぐ言葉で
俺達は遠くを見る。


花束、あんがとね。君。



君に、花束を贈る気持ちを、教わったよ。
あんがとね。
君。
そんで、kenちゃん。あんがとね。




あ、でも俺、もうちょっと…小さいやつに、する…

ショウセツTOP