★三ツ時ニ闇ノ唐繰リ★
「返せ…よ…ありゃァ俺のもんだ…ッ」
俺の声は掠れて。やっとのことでそう紡いだ。
ボンチューの牙が咽喉の肉を裂いて離れる。
「随分と…ご執心だな」
「……アレは…アレしか…俺の言うことを聞くのは…ッ…」
そう。
俺の言うことを素直に聞くのは、アレしか、ないんだよ…
裏切らない。
俺を傷つけたり、しない。
そして俺はアレに守られる。
大事な、俺の。護り…

「それが、気にいらねぇ…なんでそんなに執着する?
 なんでお前の目は人を見ない?」
「知るか…テメェなんざ見たくもねぇ」
「そうかよ」
「ぎゃうぅッ!」

胸を引き裂く爪に、思わず声が漏れた。
一瞬気が遠くなって、負けそうになる。
ああ、だから、助けて…。アレを、俺に…

「すべてなくして、はじめて世界を見ろ!」

すべて、なくして…?
何を、コレ以上、何を?
何をなくせ、と、言うんだ。
コレ以上、引き剥がさないで。
コレ以上、苦しめないで。

もう、痛いのは怖いよ…痛いよ。痛いよぉ。

逆らえ…よぉ…俺…まだ…もう少し…だけ…
死ぬ前に…。

ボンチューの手によって、俺の身体はすべて引き剥がされた。
すべてさらけ出して、力を失う。

「下衆が…」
「こんな格好で言う言葉か?」
スルリと伸ばされた指に、其処を絡め取られて息が引きつる。
俺の胸に滲んだ血をぬぐい、塗れた指が俺を愛撫する。
血濡れのぬるりとした感触に、吐き気がする。
それと共に、否定しがたい快感。
「お前、この状態で感じてんじゃねぇか?」
「死に腐れ…ッ……んッ…」
指が滑ってなめらかにうねる。
そむけた顔を覗きこまれて、睨み返すと意地悪くも強く擦り上げられた。
「…あぅ…ッ!!」
「そうそう、もっとイイ声出せよ、イイ顔したぜ、今…」
「する、ワケねぇだろ…そんな…顔ォッ…」
分かる、分かる。俺は左右に頭を振るだけで、否定できないのが分かる。

嗚呼、お願いだから…
せめてあの刀をどけて…!!

アレだけは、俺の元に帰ってこられるように、
せめて今だけ何処かに隠して……。

身体を持ち上げられて、滑車が軋む。
落とされたのは、ボンチューの欲の上。
捩じれる身体が、その指でたどられて悲鳴を上げた。
強く割りこむ其処に、止まらない感触を無視できずに。
「ぅ…ああッ…!!」
「力、抜かねぇと中まで血まみれになるぜ?」
「外道…ッ…う…」
計らずも涙が零れる。
もう、もう終わりたい。
こんな事したくない。
誰にも愛されないなんて、そんな痛いことしたくない。
早く終われ。早く終わってしまえ俺の命。
刀(アレ)さえも俺の過去になるのなら、終わってしまえ…!!!

「快楽で、泣く奴があるか。」
「…分かるか…テメェに…ッ!!こ、こんなッ…あ…ッ…」

俺の髪をかきあげて。
目を伏せた俺の瞳を奪おうとするのは何故?

「痛いか?」
「…うる、せぇ……」
「俺もイテェんだよ」

強く突き上げられた。
そして強く抱きしめられた。
ああ、この男、何か知ってやがる。
俺を殺せる術を、知ってやがる。

「気づけもしねぇで、一人で孤独になってんじゃねぇよ!」

身体を深く割って入るソレに、怒りをぶつけられているようで、
酷く恐怖を感じた。
乱れて、髪を撫でられて、喚かれる。

「気づけ馬鹿!なんでテメェは一人ぶってんだよ!」
「…ぶって…なんか、いやしねぇ…ッ!」
「傷付けねぇ人間が何処にいるッ!傷つけられねぇ痛くネェ人間が、
 何処にいるってんだ!?おらァッ!答えてみろよ!」

ボンチューの言葉に叩かれて。
酷く痛んだのは、俺じゃなくてコイツ?
がむしゃらに俺を抱くその動きに、辱めよりも妙な責任を感じて。
やたらと悔しい気分で、
こいつを絶対におれより先にイかせてやるって、そう、訳もなく思った。
抜き差しに、中が蠕動する。
すべて、コイツを咥えて吐き出させる為に。

俺をおとしめていたのは俺だと今更気づいて。

快楽にぼうっとした頭で、向こうに転がる刀を見る。

アレは、俺の、もんだ…。

俺は、アレの、もんじゃ、ネェ。



ボンチューが悲鳴を上げた。
自分の汗が、傷にしみる。
その悲鳴を聞いて、力の抜けた身体を奮い起こす。
俺が、ただ食われると思ったら、大間違いだ…。



この男にどんな事情があろうと。

なぁんとなく、わかったよ。
俺が、自分と同じだったのを、見ていたくなかったんだろ?
ソレで、自分を傷つける為に俺を傷つけたんだろう?
バァカ。テメェと一緒に堕ちるほど、俺は弱くねぇよ。

テメェ一人で地獄に落ちな。

そう言った俺を見て一言。

「一緒にすんな、ボケ」

ムカツク…
自分で落ちる前に、俺が落としてやろうか地獄の輪廻。
手渡された刀を握って、そんなことを思った俺の捨て台詞。
「またな」



そう、いつかまた堕ちようじゃねぇか。
そうしたら今度は切り刻んでやるさ。


…またな。下衆野郎。


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