★饒舌な人形★
■マミー


ここのトコロ、カー坊の様子がおかしい。
ぼたんも殆ど顔を出さない。
集まれって、この俺が収集かけてるのに、其処に姿が見当たらない。
「お前、ぼたん知ってんだろ。どこだ?」
「…し、しらねぇよ、マミー…」
カー坊は俺に一瞥をくれて、そそくさと逃げる。
「ふぅん」
一発殴ってやろうかとも考えたが、ほっておいた。
カー坊の顔が、あまりにも荒んでいたから。
まるでずっと人を避けて暮らしているような、そんなヤツの顔。
まるで殺しでもやった後のような、そんなヤツの…。

まさか…な。


「殺しちゃいねぇんだろうな」

俺が声をかけると、引きつった顔でこちらを見た。


「…何の話だ」
「いーや?別に、何とは言ってねぇだろ?ただ、殺してないのかって聞いただけだ」
「黙れ」
「…なんだと?」
「だ…黙れッ!」
カッと来た俺は意思よりも先にカー坊に殴りかかる。
カー坊はそれを避けもせずに。
立ったまま、俺の拳を横っ面に受けて。
動かない。
強く叩いた筈の頬はびくともせずに、其処からちらりと見えた目が。
どこか違う場所から俺を見ている様で、ゾッとして拳を引いた。
「カー坊…!」
「…心配すんなぁ…生きてるよぉ…っはっはははは」
カー坊が、ゆがんだ顔で、笑った。

「…ちょっと待て…どう言う…」
「ころしゃしねぇよ。死んだら面白くねぇじゃねぇか。なぁ?」
瞳孔が開いたままの瞳に、吹っ飛んだ笑い。
「お前…本当にぼたんを…殺…」
「わけねぇだろ?ばぁか。」
カー坊の言葉に。
溜め息が出る。
顔を反らして当たり前の様にそう言い放ったヤツの舌が、
チロリと唇を湿らせるのを見た。

…ぼたんの携帯の番号…は。

そう思わせる雰囲気が、いまのカー坊にはあった。

そう、まさに狂った精神のような…。

いつも勝也にくっついて回っていたぼたんが、そもそもココにいないのが妙なんだ。

「……」
呼び出し音が鳴って。
その音が聞こえたとともに、ブツっと電波がさえぎられるような音がして。
「?…ぼたん?」
「は…はい…」
焦燥しきった声が。電話口に出る。
「おう、速いな。俺だ。」
「あ、マミー…さん…」
一瞬の安堵に聞こえたのは、何故なんだろう。
しかし電話口に出たぼたんの声は、なにかを、期待していた様でもあった。
「お前、生きてるな?」
「は、はい」
「んじゃなんでこねぇ?収集かけたろうが」
「すみません…か、身体が…」




■ぼたん


「身体が…」
「なんだよ?怪我か?その程度でなー」
マミーさんの俺に説教する声がする。
ああ、でもこんな顔、見せられません…
どこも、痛くないんです、何処も怪我してないから。
怪我なんか、してないんです。
それなのに、痛くて、痛くて、堪らないんです。
「マミーさん…あんただったら…俺を助けてくれますか?」
「はぁ?何言ってんだよ?助ける?」
「…イイエ…」

電話は要件だけ告げて切れた。
用なんて、あって無いような物だったんだろう。
かかって来た時、正直勝也さんかと思った。
心臓が身体中に鳴り響くような、
そして恐怖みたいなあの感覚がまた沸き起こって。
早く取らなければ、怖い。
そう思った。
そうか、マミーさんだったのか。
そうか…。


■勝也


そう、マミーが俺にその後始末を思い出させたような物だ。
俺に向かって笑いながら。
目が、死んでて。
「どうせ殺すなら、お前も一緒に死ねやぁ?なー?」
表情の無い笑顔がそう言った。

俺も?死ぬ?

一緒に。

わからない。わからない。何が言いたい。
殺してイイのか、本当に。
確かにそれなら終わる、終わる筈。
マミーはなにか知っているのか?!
イヤ、知らないはずだ。ぼたんだってこんなこと言う訳が無い。無い。無い、だろう?
密告者がいるなら、処罰が必要だ。
そう、だよなぁ。
ぼたんはまたどんな顔するんだろうか。また、あの時みたいに引きつって、俺を怖がって。
俺が待つ部屋に、あいつが訪れて。
相変わらず震える身体を、鉄パイプで叩きつけた。
「…ッ!」
かがみこむ身体を引き起こして、顔を上げさせる。
「お前、チクったのか?そうなんだな?」
「だ、誰にも言ってないです!本当です、本当…」
「ウソを付け!」
おもむろに、ぼたんの肩口に噛み付いた。
このまま、肉を噛みきってやろうか。
強く力を入れた途端に放たれた悲鳴に、口がゆるんだ。
「脱げ!」
「…あ……ッ…は、い…」
声とも息ともつかぬ音で、返事をする。
そう、その声も、気に入っている。

待て。
待て。
俺も、ココで死ねば

脱ぎきるまで、ずっと目を離さないでいてやる。
これも、いつものコト。

止まれ。
ココで、俺が死んだら…?

ぼたんは、泣くだろうか。


こんなにオカシクなった俺は、もう俺にはどうするコトもできない。
もう、死んでしまったら楽なんじゃないか?

ぼたんと目線が合う。
ぼたんが、ソレをそらす。

お前がそうやって
ココに来るから
俺が、オカシク、なったんだ。

「お前、俺が怖いのか」
「…はい…」
「お前。死にたいのか?」
「…い、いいえ…!」
「じゃあ、なんでココに来た!」

ビクンと俺に向き直って。
ぺたんと座りこむ。

「あ…っ」
座りこんで、酷い急所を突かれたような面持ちで。
恥ずかしげに目線をそらすその行動は、何故なんだ?

「勝也、さんが…」

ぼたんが重く口を開く。
聞いてはイケナイ。
聞きたかったコトは、一番聞いてはイケナイことのような気がした。

「勝也さんが、俺を呼ぶからです…」

「ああ?」

「どんなやり方でも、俺を求めて、貰える、なら…」
「俺がお前を求めていると?」
「い、いいえ…あの……」

大当たりだ馬鹿野郎。
知ってるなら知ってると、はじめからそう云やいいんだ。

「ぼたん!」
「は、はい…」

「自分で慣らせよ。足広げて指入れてよ」

ぼたんの息が引きつった。
そう、その息も懐かしいよなぁ。

「早くしろ」
「う、そ、そんな…」
「足を開け」

俺の言葉に従う人形。

「中指を其処にゆっくり入れてみな」

震える指が。
俺の笑みを刺激する。

「勝也さん…許してください…こ、こんな事…」
「慣らせってんだろ!」

己を知っているように、1度口に含まれた中指が(分かってんじゃねぇか…)
濡れた糸を引いて、其処を探る。(痛くは無いのだろうか…)

「…ん…ッく…」
「ゆっくりだ。ゆっくり入れてみな」
「は…ッ…はぁ…ッ、はぁ…」
「力抜け!」
竦んだ身体が、また言う通りになる。
本当に、俺の言うなりなんだな。

ゆっくりと指しこまれた自分の指に、かすかに身悶えるのが異常なまでにそそる。
「いったん途中まで抜け」
「……」
指が、音をたてそうに其処から動かされる。
「…ふ…ッ」
「もう一度入れろ」
「はぁ…ッ!!や、やぁ…ッ」
自慰をして悶える姿に。身体が熱くなって、震えて、止まらない。
「続けろ…何度も。何度もな」
「う…ふぅ…こ、こんな…こんなことぉ…ッ俺ぇ…」

なんだよ。
ちゃんと、感じるんじゃねえか。
乱れた息をふさぐようにぼたんの片手が自らの口を塞いで。
ためらいがちに動く指に、探り当てられ、そう、自ら見つけて快楽に身を捩る。
「痛いか?」
「…い、たく、は、無い…です…」
「気持ちいいのか?」
「…ッう…勝也…さぁ…っ」

お前が俺に求められていると思うなら。
お前は俺を求めているのか?
いいのか。俺でも。
俺でも、いいのか…?
こんな、破壊者でも、欲しがって満たされて、いいのか。

お前が欲しがるから。
許されたような気になる。

指を抜かせて、喘ぐ体に手をかける。
ビクリとされたが、恐怖ではなかったようだ。
荒い息に、無表情に。
「入れるぞ」
「…ッは…い」
ぼたんの表情を見る。
身体を進めるたびに、苦しそうにゆがむ眉根に動きを止める。
「…」
大丈夫か?その一言も出ない。
「大…丈夫です…」
声の無い問い掛けに、ぼたんが答えた。
俺に触れそうになった手が、震えて外される。
いいから、そのまま掴んでくれ。俺の肩を。
その手を引き戻して。
俺の肩に触らせた。
「…。っ!」
強く抱かれる。
それで、それが。それが、答えなんだな。

中に進めると、その手がまた強く俺を抱く。
1度引いて、もう一度。
「ココが、いいんだろ?」
「…ん…あ…っう、う、んん…」
言葉にせずに、頭を強く振るだけ。
「さっき自分でやってたじゃねぇか。ココが随分気に入ってたみてぇだな?ぼたん?」
中の中腹辺りに、押しつけて刺激してやると、思惑通りに身体が跳ねた。
俺が抱いた身体が、俺にすがりついて、俺を求める。
俺が抱いた身体が、痛み以外に濡れる。
「怖いか?」
「…い、いえ……」
「お前は、なんで俺に従うんだ?」
不意に一瞬尖った気持ちに、腕が動く。
ぼたんのソレを握りこんで、刺激を与え始める。
「従う理由はなんだと聞いてんだよ」
「…勝也さんは…俺の…ステイタスだから…」
「お前の?」
「すみません…ッ…ステイタス、だなんて…分かってるんですけど…
 でも、俺はそれが無かったら、強いだなんて、思い込めない…情けない…です」

途切れ途切れに紡がれた言葉は。
俺が最後に取って置いた言葉と一緒だったのに。気づいて。
恥ずかしくなって、ぼたんの意識を飛ばす。
「や、ああ…ッ…」
「気持ちいいか?」
「は…は、いっ…」
「感謝しな」

体を持ち上げて、自分の上に座らせる。
そのまま、腰を掴んで突き入れた。
見開いた目が、震えて閉じられる。
「…っふぅ…ッ!」
「痛かったらそう云え」
「いいえ……して、下さい…」
微かに開いた瞳が、俺を捉えて。
ためらいがちに、そっとキスをされた。

お返しにとばかり、髪を掴んで咽喉を開かせ、其処に歯を立てる。
苦しそうな声。ああ、そうか、俺はただのサディストか。
ぼたんはただのマゾヒストなんだ。
安心して傷つけられる。
コイツは逃げないから。俺からは絶対。
俺も逃げられないから。コイツから絶対に。

こんな、居心地のイイ場所なんか、いままであったかよ。

いいから、俺にすがってくれ。

お前が求める物で、俺がいられる間だけでも。
その方程式が崩れたら、俺はお前を殺して食ってやるから。
すべて。この肌も内臓も。すべてを。俺一人で食い尽くしてやる。
ソレまでは、俺に…すがって…。
いや、俺を…許して抱いてくれ。


逃げ場を見つけた野良犬が、
キズを舐めあうには、ココは居心地がイイな。



お前が俺のステイタスを保つ唯一の命綱だなんて、
お前は…。もう気づいた、のかな?


全部読んでくれてアリガトウございます!
この話はちょっとボタンの気持ちが伝わりづらくて、
実は失敗したと思っている次第でv(涙
今度はもうちょっと優しい勝也さん書きます〜
エ?このままでイイ?へへへ。そんじゃお言葉に甘えて。(オイ

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