★ゲーセン発24時★
繁華街ゲームセンター発24時。
パンチングマシーンが不調になって(壊したんだけど)
対戦してたら乱入されて勝って(実戦だけど)
まァ満足して出てきて。さて次はどこに行こうかな、と。

「かぁ〜つぅ〜やぁさ〜ああ〜〜ん!はじめまして〜」
上っ調子な声に度肝を抜かれて振り返る。
一体なんだ、こんな喋り方のやつに知り合いなんていたか?
自問自答しながら見たその先に、もうそりゃヒマワリみてぇに笑う顔。
そこでまた度肝を抜かれる。
「ボ、ボタン?…???」
「はぁーい」
こいつのこんな顔見るの始めてだし、こんな状態のこいつ見るのも始めて。
目が落ちるかと思うほどに目が丸くなってるだろう、俺の顔。
実際落ちちまえば見なかったってコトにして
そそくさとその場を離れられたかもしんねえけど、
…って何言ってんだ、俺もしかしてかなり混乱してるのか?
あははははと笑いながら俺の身体をベチベチと叩く。
よ、酔っ払いだ…。
俺は酒はのまねェ。もっぱらヤクルト専門だ。おっと、余計だったな。
「どしたんすかー。暗いッすよ〜激暗ッ!あ、これってばニュー言葉?」
お前が明るすぎるんだッ!って、その言葉飲みこんで。
ボタンって酒弱かったのか?強いって言う噂だったんだが…。
酒豪馬鹿マミーとは比べモンにならんだろうけどな、
それでもまぁソコソコ強いって話だったと思ったんだが。
「ボタンさん…すごい酔ってますね…」
連れの後輩達が漫画みたいに口に手を当てて驚いている。
「一人で飲んでたのか?どこで飲んでたんだ?」
「知りませーん。わかりませーん。ははは。」

ははは、じゃねぇッての。
これからどっかまた回って遊ぼうと思ってたのによ。
「ワリィな、俺抜けるわ」
「ええっ!?勝也さん、今日は遊ぶぞって…」
「ボタンとおまえらとどっちが優先だ?」
すごんでやったら頭を掻きながらあとずさる。
取り巻きなんてのはいつもこの程度だ。
「そんじゃ、スンマセン、俺ら先に…」
後輩の声に、ひらひらと手を振って、ボタンを見る。
と、見たツモリだったのに…目の前にいない?ど、どこ行った?
「???」
見まわすと、UFOキャッチャーに貼りついてる男が一人。
アレを、俺に剥がせと言うのか…。恥ずかしい!
「ボタン!何やってんだ、離れろ!フラフラすんな!」
「えーーー」
俺の声にムスッたれてイヤそうに離れて。
でも目はその中に注がれたまんま。
チラッと覗きこんだら、限定物のジッポが並んでいた。
コレが、欲しいんか?コイツ。
こんなわざわざ取りにくく箱に入れたような、ッて言うか、これ取れるのか?
明らかに、金をどぶに捨てるようなゲームだぜ…。

「あー!!!」
え?!え?!なんだよ突然声出して。
「煙草が無い!どうしよー勝也さん!?」
ああ。俺、今日は厄日だ絶対。殴ってやっても良いけど、
この状態だと殴られた事も覚えてないだろう。
そんなつまんねぇ傷なんかコイツにつけるのはなぁ…。
どうせなら、脅えてるトコ殴ったほうが面白い。だろ?ん?聞き流せ。

「おいお前等ちょっと待て」
様子を見い見い離れて行っていた後輩の群れに
大声で呼びかけると、速攻で集まってくる。
俺がお菓子でお前等が蟻ってところだな。こりゃ壮観だ。
「なんでもない」
面白いのでちょっと言ってみたら、
困った顔して笑われて、挨拶して離れて行かれた。
「おいちょっと来い」
もう一度呼んだら本当にまた集まってきやがった。馬鹿かこいつ等。
「なんなんですか〜」
「ボタンがよ、煙草がねぇんだと」
「は、はいっ!え、えーと…」
「パーラメントのロングだ、あと冷たいモン、なんか見っけて来い」
「はい、ちょっと待っててください」

「まるで蟻だなぁー」
ボタンがその様子を見ながら呟く。
酔ってるわりにその辺キツイこと言うよな。
俺と同じ意見だって所に納得が行ったから良しとする。
さて、この場で待つにもコイツをどうすべきか…
「……お前じっとしてろ!」
またも貼りつき。俺にどうしろってんだ!
「ダッジのジッポ・…」
「はぁ?」
「ダッジですよ〜勝也さん…」

ヒョイ、と中を見て、もう1度確認する、ボタンの目線の先は…
単なる車の絵が描いてある、ジッポらしき物体。
車はどう見ても60年代アメリカのタクシーのような絵で。
「コレがなんだ?」
「んふふふふ。」
ドラえもんみたいになって来たボタンを
とにかく引き剥がして店の脇に座らせて。
足元もおぼつかないくらい、こんなになるまで飲んだなんて、
なにかあったな。
恐らく…
「マミーと何かあったのか?」
「……」
気持ちよさそうに閉じていた瞼がそっと開いて、何も言わずに閉じた。
そうか、マミーとなんかあったってことか。
また、マミーかよ。
「ボンチューが来てー。マミーさんが出てってー。
 俺はついてってー。邪魔だってさー…」

「お待たせしました…大丈夫ッすか、ボタンさん」
「ほっときゃ勝手に醒めるだろ」
パーラメントと良く冷えたコーラを受けとって。
おもむろにプルタブを開いてボタンの頭にぶちまける。
目を閉じて、顔を引いてそれを受けて。
「な、何してんですか勝也さん!」
「くだらねぇ酔いが醒めるかと思ってな」
頭冷やしな。お前が俺に会ったのは運が悪かったんだぜ。
やさしーく介抱してくれるかもなんて期待したら大間違いだってんだよ。
そもそも俺の前でそんな風にマミーの名前出すなんて、な。

「……に、すんだァ…」
「ああ?」
「なにすんだテメェ!ぶっとばす!」
俺の手の缶がぶっ飛んで。カランと音を立てたと思ったら、
ボタン本人がすごい勢いで殴りかかってきた。
さすがに焦ったが、相手は酔っ払い、その拳を掴んで受けとめて、
殴り返そうと…身構えて。倒れてきた身体に潰される。
引いた拳をとっさに開いて受けとめた身体は、酷く熱かった。
「勝也さん…ボタンさん?大丈…」
「忘れろ!チクったら殺すからな!」
後輩たちの散り散りに逃げる姿を仰ぎ見て。
そう、俺はボタンの勢いで一緒に転がっちまったってわけだ。
ざわめく雑踏に睨みを利かせると、
何事も無かったかのようにすべてが通りすぎる。
一般人はそうやって見ないフリしてりゃいいんだよ、臆病モン共が。
ぐったりしたボタンを持ち上げて、自分も起き上がる。
「おい?」
「ZZZ」
寝てるよ…。あんのか、こんな漫画みたいなコト。あるモンなんだなぁ…。
ボタンの頬をつねったら痛そうに唸ったから、夢ではないようだ。


力の抜けた身体を引きずって持ち上げて、肩に担ぎ上げる。
大荷物だな、こりゃ。


ボタンの皮のパンツのポケットを探ると、鍵が出てきた。
コイツのマンション、この近くだったっけな…。
思わず笑みが零れる。
いや、男として当然だろう?まな板の上のなんとやら、だ。


そろそろ、マミーのコトなんか、
忘れちまえば。
楽になれるんじゃ…ねぇか?




■コメント■
うお!エロくないよ!(爆笑)
酔っ払って、ぐでんぐでんで
アホみたいに笑ってるボタン…
が、書いてみたくて始まりましたこの小説。
UFOキャッチャーに入ってるジッポって、あれ本物なんですよね。
絶対エセ賞品だと思ってたら、本物だった。驚いた。
昔ゲーセン勤めてたんですが、
その時に本物だと知っていくつか頂戴致しました。
いや、合法的にですよ!
本当!本当ですってば!(怪しいやん

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