★SAFETY GATE★
強く突き上げられて、高い悲鳴を上げる。
自分がこんなに快楽に貪欲だったことに、絶望もちょっと感じて。
マミーさんの身体に幾筋もの爪跡をつけて、噛み付かれて、
…そう、終わった今思うと、かなり激しかった気がする。
上にのって自分で動かされ、喘ぐ俺に。マミーさんが放った一言。

「オメェ…もしかしたら、最悪だよ…」

傷つきましたよ。
知っていたから。
抱かれることに貪欲になっていた自分が、
どんなに恥ずかしいか知っていましたよ。
誘いのコトバに俺が簡単に乗るのを、知ってて、誘ったんでしょう?
分かっていましたよ…

ことあるごとに、マミーさんに誘われて。
そのたびに抱かれた。
なんで、自分が抱かれるのか、ソレを考えないようにして。抱かれてた。
マミーさんがいない時は、勝也さんを誘った。
もう、どうにでもなっちまえ…って。
そう、感じたから。
トニーが俺を見てるのも知ってた。

トニーにも誘われるようなそぶりを見せられたけど、俺は、ソレを無視した。

何故だか、わからなかった。

「又、俺を避けるようになったね…」
すれ違いざま、ぽつりと言われる。

苦しくなって、走り出す。
アイツの見えないところへ。
汚い俺が、アンタの目を汚さないように…!



荷台へは、もう俺は入らなくなった。入れないと言った方がイイかもしれない。
もう、アソコへは戻れない。
他の殻を…探すさ。

防波堤に腰掛けて。
海を見た。
自分は、抱かれるたびにどんどん堕落して行く。
快楽に流されて、ソレを更に求める自分が酷く恥ずかしかった。
俺って、もしかして…淫乱なのかなぁ。
もう抱かれてねぇと落ちつかねぇ、
何かを吹っ切るには逃避するしか無いやねェ…

ひとりごちて自嘲する。
ああ、そうさネェ。もうこうなれば自分は淫売にでもなって、
あらかたの男に抱かれてみてもイイか…
……良い訳、あるかよ…

「ボタン」
呼ばれても、振り向かない。
アンタには…用は無いから。
淫売にだって選択の権利はある。そうさ、そうさ…。

「マミーに抱かれたのか?」
「……!」

振り向けない…酷く身体が硬直して。
今、なんと…言った?
何故、そんなコトバが、俺に傾けられる!?

「勝也にも聞いたよ…床上手なんだってね、誇らしげに言われたよ」
「…ッ……」

唇が、痛い。
噛み締めたソコに、鉄の味が広がって。
身体が、震える。何故、何故わざわざそれを俺に…言う?

「君は売り物?」
「……っく…ッ…」
「幾らで売るの?その身体には値段がついているのかい?」

どんな、どんな顔をしてこんな残酷なことを言うのだろう。
トニーは、なんでこんなことを俺に聞くのだろう。
俺は、何故抱かれてしまえないのだろう…

「勝也が、探してたよ。第4倉庫にいるから行ってやれよ。そしてまた…。」

言葉が途切れて。
息が詰まって苦し紛れに振り向くと、
もう其処にはトニーはいなかった。
卑下された。もう行き場が無い。無い…!
俺は、トニーを最後の逃げ場に、してたのだろうか…
其処を失って、だからこんなに無気力になったのだろうか。

ああ、すべて自分の所為だ。
この自分がいなければこんな自分は見なくて済むのに。
意識を思考を殺して欲しくて、勝也さんに強く求めた。
酷い眩暈を覚えて。
支配されるだけの快楽に身をゆだねて、
そう、このまま、死んでしまえればイイ…
俺は、笑っていた。

自分を…戒めることを…自分に…罪を刻んで…

あの場所へ一人で行って。
自分に罪を…
暗闇に身を隠して、愛する刀に愛撫されてしまおう。
尖った切っ先よりも、そう、緩やかな刀身で…
滑らぬ為に包帯を巻きつけた柄を強く握って。
身体を弾くように、首筋から胸へ…。刃を滑らせた。
「…ッ…ん…っく……!」
細い筋が滑ったような、そんな感触とソレを追いかける熱さ。
其の熱さから何かがとろけ出すのは、
これは俺の中の泥?膿?それとも、俺、自身?
もう1度、刃を当てて、スゥと弾く。
「う…ッ…」
痛み。
認識出来ない、熱い痛み…
何度も身体に線を引く。無尽に切り裂いて。
ああ、もっと強く。もっと引き裂いてすべて流れ出せば…。あるいは…!

ガン。
物凄い音が響いて。
朦朧とした意識の俺に、ソレは対した衝撃にはならなかったけれども。
遠くで呼ぶ声がする。
俺の名前を…。
切っ先を目に当てて。
こんなもの、潰れてしまえば、イイ。
開いた瞳に…

恐怖に、目を閉じて。
腿にソレを突き刺した。
「…ッつぅあああッ!!!」

「ボタン!!!ココを開けろ…!」

酷い激痛に、意識が一瞬だけ戻る。
そして押し流されるようにどこかへ消え去る。
ああ、熱い…この熱さは、俺の生きてる証なのか?
この身体は、俺が死ぬ為にあるのか?
俺はどうしてこんなにケガレタノ?
何度も叩きつける音。
そんなに叩いたら、手を痛めちまうよ、トニー…
腹部を裂いて。微かに薄皮一枚切るだけの遊びだよ、単なる。
すべて、流れて…
嗚呼、嗚呼…!もう、もう、俺を誰か、無意味な物にして…!

「開けろ…!何をしている?!おい、おいっ!」

閂は、内側だから。
開かないよ、その扉。
嗚呼、そうか、俺の流した泥が、そうか、
隙間から漏れて滴っているんだろう?
それを見て汚いと思ったんだろう?

タスケテ…コワイヨ。

何故か身体が寒くなって。
くずおれるように其処に横たえる。
眠い…このまま寝たら、気持ち、イイだろうな…
ガァン。
誰だよ…邪魔するのは。
その音を止めて…ウルサイよ…煩わしい、その音を。


ああ、何故俺は、こんなところにいるんだろう。寂しいよ…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ありったけの力で叩き続けた。
この鉄の箱から、漏れた何かが床を紅に染めていたことに
異常なまでの恐怖を感じて。
ソレが、まだ流れつづけていることに、脳細胞が沸騰して。
ボタンが、ココにいるはずなんだ。
俺が傷つけた。あんなこと言って、傷つけた。
誰に抱かれてたっていいじゃないか、
分かってた、ボタンの勝手だ!
ソレが、何故こんなことをするんだ、何をしているんだ、
声を聞かせて、証を提示して…!
名を呼ぶ。何度も。
この紅は、なんの意味なんだ、何を意味するんだ!?
叩き続けた。何度も、何度も…!
「なんだよ、うっせーな!」
罵声を飛ばすマミーに気づいて声を荒げる。
「血、が……」
「…ッ!?なんだ、こりゃァ…」
「ボタンが…いないんだ…」
「ん、だとォ…」
マミーの表情が一変し、扉を掴む。
「開けやがれ…!!ボタンッ!テメェ開けねぇと殺す…!」
返答は、やはり無く。
床に目を落としたマミーが青くなる。
「どう言う、ことだ……」
「俺が…俺がボタンを追い詰めたんだ…」
「なんだと?!…ッ、ち…ッロクな奴がいねぇ!そっち持てトニー!」
扉の中心の出っ張りに指をかけて。
力任せに引っ張る。
汗が、ちぎれるように流れて行く…。
指の関節がいやな音を立てて。マミーの罵声が何度も飛んだ。
心を引き剥がされるような鈍い音を立てて。
突然軽くなった扉に弾き飛ばされる。

立ちあがり、其処に目の当たりにしたのは。


血に染まり倒れるボタンの姿と

その手に握られた深紅の刀だった。



<こめんと>
寂しいです…なんでこんな物かいてしまったんだろう…
実はこの時、大切な友達が行方不明になってて、携帯もつながらない、親
に電話してもいないというだけ。心配のあまり、気持ちが暴走してました。
もし知らないところで災害にでも巻き込まれて
携帯の電波が途切れているのでは、などと…今考えると馬鹿ですな。
それを考えながらかいてたら…ああ、ボタンよスマン、なんか自虐過ぎだ…
恐らく次回、その次ぐらいで終わるのではないかとvv

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