私は工藤から黒澤を買った。
工藤に話を持ちかけられたときは、無論耳を疑ったよ。
「シツケの悪い犬がいるんだけど、買う?」
顔も見たくないと突っぱねるつもりだった。
クスリでやられていると聞くまでは。
情けない姿を拝んでやろうと、ただそれだけの小さな嗜虐心だった。

小さな紙切れを渡される。
「其処が黒澤のヤサ。其処で多分まだ喘いでると思うよ」
意外な台詞を当然のように吐く工藤に驚きながら、そのまま走り去る姿を見送る。
「ふん…どうせロクなもんじゃないさ…」



「後、一晩我慢したら開放してあげるよ黒澤さん…」
工藤は俺にそう言ってもう一度クスリを挿入すると、また俺を一人きりにした。
繋がれていようといまいと、もう体が言うことを聞かないような気がする。
荒い自分の息だけが部屋にこもる。
ぞっとする夜の冷たさに、不意に恐怖心が沸き起こるのを押さえられなかった。



扉が開く。
失せそうになっていた正気がよみがえる。
何かを探る音がして、部屋が明るくなり、俺は硬直した。
「ヘェ…そんなんなってたんだねぇ」
俺の姿を見て困ったように含み笑いをしながら近づいてくる女。
掠れた喉から声が出ない。
「面白いモンが見られるってんでね。来てやったよ」
そう言うとナギは俺の顔に汗で張りついた髪をそっとかきあげた。
乱れた息が止まらない。
どうあがいても腕が震えるのを止められない。
見ら、れた…
驚愕とショックでナギから目が離せない。
「酷い格好だね…工藤に突っ込まれてよがってたらしいじゃないか」
「…わ、らいに…来たのか…ッ」
「無論そうさ。目が汚れるとは思ったけどね、
 元々街の汚物だった奴が少しくらい汚れたところで
 たいして変わるモンでもないね」
そう言って含み笑いをする。
ベッドの上の俺の開かれ拘束された脚の間にナギが飛び乗り、
衝撃とスプリングが俺の体を揺らした。
今は動いていない後の異物が中で捩れて…思わず声を漏らす。
冷たい靴底が、俺の其処を押し上げる。
「ぐぅッ…」

  私は何か掻き立てられるように黒澤の其処を踏みつけた。
  脚の下で苦しむ顔を見て、体がゾクゾクとする。
 「イイ顔して苦しんでくれるじゃない…」
  不意に踵に何かが当たるのに気づいて、足を持ち上げる。
 「ここに入ってるのは…工藤の忘れ物?」
 「ナギぃ…て、め…ェッ」
  引き千切れそうなくらい鎖をひきながら身を捩る獣。
  その後ろに深く刺さったそれを靴先で小突く。
 「う、あ…ッ!止め…」
 「どうしょもないくらい汚いねアンタは…もっと汚れてみせな!」
  黒澤の掠れた声を聞くたびに体が高揚する。
  つま先に力を入れるたびに、苦しそうに顔をゆがめる。
  そして小さく喘ぐのを見逃さない。
 「こんなコトされてまで感じる?アンタ相当好きなんじゃない?」
  工藤からクスリの話は聞いていたから、ある程度の想像はしていた。
  だが、口を開くと出てくるのはそれを煽る文句ばかり。
  その言葉を吐くたびに、酔いしれる自分に心が躍る。

「いいものあげるよ…感謝しな」
ナギが俺の上に体をかがめる。
顎に右手をかけ、クイ、と持ち上げるとそのまま投げ捨てるように離す。
開いた左手が、硬く尖った乳首を強くねじ上げた。
「ぐ…っ」
痛みの後に暖かいぬめった感触がそこを襲う。
舌でそこを爪弾きながら、左手で俺の脇腹に爪を立て、引き上げる。
「ぎゃぁぁぅッ!」
鋭い痛みに体が跳ねる。脇腹を掻いた爪が、執拗に肉を抉る。
痛みと共に舐め上げられ、脊髄に熱いものが走った。
こんなものにまで反応する、そんな体にさせたクスリは
今、工藤がすべて持ち歩いている。
指先に微かについた血をナギが俺の目の前に差し出した。
「汚れたよ」
そういうをその指先を俺の頬に押し付けてぬぐう。
脇腹に残る引き裂かれたような痛み。
其処に意識が集中する。
だから、一瞬の出来事に俺は悲鳴を押さえられなかった。
バチン!
軽い音が響いたかと思うと、乳首の先に熱い痛みが走る。
思わずのけぞる俺の体を体重をかけて押しつぶす。
「最近はピアスも簡単にあけられるからね…」
痛みと薬の快感で一瞬気が遠くなった。

靴底でにじられた其処にナギの手が伸びる。
「ずっと萎えてないの?」
「……死ね…ゲスがぁ…ッ」
「アタシの前で出してみるかい?見ててやるよ」
「誰がテメェなんかに…ッうぁ…」
細い指先が意外な強さでそこを握る。
ナギの顔が俺の見えないところへ移動する。
あちこちに走る痛みと、執拗に握り擦られる下腹部への連続する刺激。
耐えられるものではない。
俺の精神だって限界がある…二日間のあいだ、工藤と稲垣に砕かれ尽くした精神力は
もう微かな効力さえも発揮しない。
「…ひッ…あ、ふぅううッ!」
後に入ったものを不意に動かされ、快感に喘ぐ。
止まらない。こんな奴にこんな辱めを受けても…止まらない。
悔しくて、歯を食いしばる…しかし、それさえも続かなかった。
擦られながら激しく抉り上げられる。
反応を止めない体。
「止め、ろッ…テメェにだけは…こんなこと…ッ」
されたくなかったのか、されたかったのか。
抗うたびに酷く責められる。指先までもがしびれ始め、朦朧とした意識の底で髪を乱す。

「早く…楽になんなよ…」

微かに聞こえた優しい声に耳を疑うが、快楽の渦でそれも押し流される。
こらえようとして膝に力が入り、束縛された足首に血がにじむ。
ナギが、腹の上に手をつくのを感じた。
熱いもので快感の中心部が包み込まれる。
同時に後ろのものに失われていた電動力がよみがえり、気が違いそうになる。
「黒澤…バカだよ…アンタ…ああ…」
正気の戻らない意識の下でナギの肌の熱さにも気づけない。
意識がすべて押し流される。
一番なりたくなかった、快楽に支配された知性を失った状態。

掠れた声を上げて。
ナギの体が躍る。
首筋に爪を立てられ、皮を抉られ血をすすられる。
何もかもが、嘘のように思えた。
俺がナギの中ですべてを吐き出したことも。
最後に助けを求めてしまったことも。
すべて。嘘に…したかった。



ギリ…
妙な音に気づいて微かに戻った意識を引きずり上げる。
神経に作用するクスリ特有の副作用。吐き気と気だるさ。そして酷い頭痛。
音は耳元から聞こえる。
頭に響くその音に、不快感を感じでやっと頭を動かす。
細い腕に筋肉の筋が浮かんでいる。
目だけでその腕を追うと、歯を食いしばるナギの顔が其処にあった。
右手のチェーンが軋む音を立てる。
それに引っ掛けられたペンチが鈍い音を立てる。

「…何を…してる」
乾ききって掠れた声で微かに問い掛ける。
「黙ってな」
俺に目も向けずにナギが言い放つ。
力をこめながら…低い声で呟くように。
「おい…ナギ…」
「服従させるなら、飼われた犬よりも野獣がいい」
体重をかけてペンチを引き下げながら口元を上げる。
ナギが動くたびにゆれる金髪。整った顔。
少しだけ、綺麗…だ、と…
ガキン。
不意に軽くなった右手がだらりと落ちる。

力を入れてみると、指先から少しずつ感覚が戻り始める。
「後は好きにしな…アンタのゴキブリみたいな生命力でね」
ふん、と鼻を鳴らしてベッドから飛び降りる。
綺麗だが、やっぱり鼻につく奴であるコトは確かだ。
脱ぎ捨ててあったジャケットをするりと羽織ると、足早に扉へ向かう。
困惑しながらそれを目で追う。
やっと開いた指に、そっと握らされたペンチ。
うっすらと湿っている。
「何故…」
カツン。扉の前でナギの靴音が止まる。
振り向きもせずに扉に向かってナギが呟いた。
「あんたにもプライドがあったんだね…驚いたよ」
それだけ言い放つと、さっさと扉を開けて出て行く。
「おい…!」
呼びかけてもまた扉が開くコトはなかった。


ガキン。
理解できずに思いきり左手のチェーンを叩く。
衝撃で繋ぎ目が砕ける。
「…の…ヤロォ…服従させるなら野獣がいいだと?」
ガキン。
ガキン、ガキン。
「誰が服従させられるって?」
ガキン!
すべて自由になった身体を、痛みも気にせずに勢い良く起こす。
「上等だ…逆にこっちが狩ってやらぁ…」



野獣会本部で携帯の音が響いた。
「ハイ…あっ!黒澤さん!どこ行ってたんすか!?…は?はい…
分かりました。速攻用意しておきます!」
携帯を取った男が其処に集まっていた集団に大きく声を張り上げる。
「ソウルとMAD狩りだ!仲間集めろぉッ!」



解き放たれた野獣は獲物を求める。
潰すなら完膚なきまでに…



FIN
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あーやっと落ちついた。
黒澤あのままじゃ慰みモノッすからね(笑
そんなん黒澤じゃない〜って夢でお告げがありまして。
ッて言うか夢で黒澤に殴られまして。(嘘
しょうがないので(おい)逃がしました〜。
工藤と稲垣どうなるんでしょうね〜
今度はそっちが気になるッつーに(困