「お二人さんかい??」
甲高いとも通るともどっちとも言える声で、
おばちゃんが満面の笑顔で。
よくある、温泉街の『旅館案内所』。
飛びこみで泊まることにした俺達は、
面白そうな部屋が無いかその詰所のおばちゃんに聞くことにした。

狐の毒に当たりに行くんだよ。

なーんてコトは、さすがに言えなかったけれど。
「とにかく、上限無し、下限一万な」
「あらあらあらあらあらあら」
アラの連発。こんなに大量に聞いたのは久しぶりだぜ。
セイバーの野郎は外で犬と威嚇しあってる。
どうも、この詰所のおばちゃんの犬らしい。
おばちゃんはそれに目をちょっとくれてから。
「良い部屋ならね、隣の『ふくます』さんがちょうど空いてるよ」
「あん?隣?あア、面倒がなくってイイやな」
「お部屋見るかい?一人一万で朝ご飯夕ご飯つくよ」

…おいおい、安いな。
部屋、大丈夫なんだろうな?

まあまあまあまあ、
と、今度はマアを連発されながら、とにかく隣の宿の部屋を覗きに行く。
扉を開けて、すぐ横の受付に声をかけて…
「ほらほらほらほらスリッパ履いて」

おばちゃん、アンタ商売上手過ぎ。
唸ってるセイバーを引きずって、黒っぽい木の階段を上がると。
ちょっとしたホテルの部屋のような入り口の扉が並ぶ。
「…」
「こっちは洋間!洋間もイイのよ〜〜〜」
洋間の扉を開けて、おばちゃんが手招きする。
仕方なく、ソコを覗くと。

「おい、セイバー…」
「…こりゃ…」
「ん?」
「…洋間?」

大正時代の日本を彷彿とさせる、そんな洋間。
照明は暗く、置いてある家具の色も黒っぽい地味な色。
すぐ横に、赤いセピアがかった女のドレスみたいなベッドが二つ。
その前に籐の衝立がある。
ジュウタンの柄も地味で派手。
凄いな、こりゃ…
しかし、
今まで見た部屋の中で一番センスはイイな。

「いいんじゃないか?」

セイバーがそう言うから。
和室も見ずに、その部屋に決めた。
おばちゃんはまた「はいはいはいはい」とか何とか繰り返しながら、
俺達に鍵を渡すと、そのまま次の仕事をしに詰所へ戻っちまった。

…なんかよ、かっこイイなァ、なんて思っちまったよ。

「イイのか?こんな安い部屋で」
「金使ってばっかいるとイイ物見落とすぜ」
「お前が言うな」

…確かに。
スプリングの固い、ねっ転がりやすいベッド。
そこにうつ伏せになって。
ふと見ると、セイバーが窓を開けて身を乗り出していた。
「何してんだよ」
俺の言葉に、ビクっとして身体を引く。
「別になんでも無いぞ」
??
「なんだよ」
身体を起こして、セイバーが身を乗り出していた窓へ。
俺を遮ろうとするのを手で払って、同じように身を乗り出してみる。

狐が、見え隠れ。

抜け駆けかよ。
身体を引き戻して、セイバーを見ると、困ったように頭を掻いていた。
「気になるか、オメーもよ。」
「ん…まあな」
毒されちまったかな、お互い、よ。
ココにとどまりたくなった切っ掛け、9尾の狐。
矢で射られて石になった狐の欠片。
その欠片に、今日は雨が降ったりしない様に、なんて思ったりして。

セイバーがベッドに座ってたんで、その隣に腰掛けた。

茶でも入れようか?

いいや、いらん

キツネに会いに行った俺のふくらはぎは疲れに固さを増していた。
セイバーに構わず、ベッドにうつ伏せになって足を伸ばすと、気持ちよかった。
あーあ。
旅行ってのは、どうしてこう、獣の牙を抜くかね。

突っ伏したまま、目を閉じる。
疲れからなのか。
ふ、と気が遠くなり掛けたり。
戻ってきたり。
気持ち、いーじゃん。
寝ちまおうかな…ちょっとくらい…

ギシ。

スプリングの軋む音。

俺の肩に噛み付く獣。

「セイバー…?やるのか?」

俺の言葉に無言で。
もう一度、肩に歯を立てる。
「…ん」
じわじわと這う舌に、身体が脈打ち始めて…
世の中、毒だらけだぜ…
のしかかる重みを身体で持ち上げて。
後ろ手にセイバーの身体に触れた。
俺を犯すように覆い被さった身体。
その中心の充血部に指を這わせる。
「…そのまま握ってくれ」
片肘を突いて。
もう片方の腕を後ろ手に。
脇腹の服の隙間から手を入れて、言われるままに熱いソコを握り締めた。
「すっげー固ぇ」
そのまま、ゆっくりと、指を使って刺激を与える。
セイバーの荒い息が首筋に掛かって…
俺達もまるで獣みたいに。

そう、悪い獣みたいに。

濡れた舌がうなじを這いあがって、耳元で音を立てた。
「擦れよ」

随分、ヤラシーコト言ってくれんじゃねぇの。
後ろ手にセイバーの邪魔な布を払って。
握りなおしたソコを、親指と人差し指を使って擦り上げた。
「もっと、強く、だ」
快楽を求める獣に、流される俺ってのは、獣かね。

そのまま、自分の指の感触をフルに使って。
裸に剥かれた俺の背中に向けて、そう、もっと熱く吐き出してしまえばイイ。
「上手いじゃないか、山崎…」
そう言いつつ、
オメーの指、
俺ン中で動いて、んじゃ…

セイバーの身体が強張る感触と、
背筋に掛かる熱い液体の感触。
掬いとって俺の口元へ。
しょうがねぇな…
舐めれば、いいんだろ?
全部…。

セイバーは俺の指で満足したらしくて。
そのまま俺の中には入ってこねぇで、俺の身体を仰向けに引っ張った。
「…入れねぇの?」
「まだ、コレからだ」
そうやって俺をゾクゾクさせてよ。
イイのかよ。
毒が強まっちまうぞ。
「唇を軽くひらけよ」
そう言って、すぐに、セイバーの唇が俺の息をふさいだ。
唇を開く前だったのに。
キスの感触が、何故かいつもよりも痺れるような感じで、何度も唇を舐められてそれでまた痺れが強くなる様で。
どうしちまったんだよ、俺…
「山崎…たまには欲しいって言ってみろ」
「…なに言ってンだよ」
欲しがるわけ…
ねーじゃん…
差し出された舌に自分から舌をからめたのはよ、もっとお互いによくなるためだろ?
だろう?どうなんだよ、俺。
セイバーの片手が、俺の胸を探ってる。
違う、そこじゃない、もっとイイとこ…
キスを外した口元で、声が囁く。
「ココだろう?」
「…ひぅッ!!」
声と共に摘み上げられて、身体が仰け反った。
「そんなにイイか?」
反論しようとした唇をもう一度塞がれて。
何度も抓り上げる指先。
そのたびに跳ねる身体。
そ、そんなに、煽るなよぉ…

いくらそんなことしたって、
俺は、欲しいだなンて言ってやらねーから、な

「ン…」
口ン中が、ビリビリして
胸の突起を軽く弾かれて目を強く閉じる。
差し込まれた舌に舌を絡めて、ぬるぬるした感触、自分から求めて。
駄目だ、こんな強い毒
舌先から
胸から
身体に染みこんでくる…!

やっと解放された口から吐くのは、乱れた熱い息だけで、
言葉なんか出ねぇ。
胸に沈みこんだセイバーの頭部、
確認して
「……は、ぁっ…く!!!!!」
歯を立てられて、それだけでイキそうになって、思いきり自分の腕に噛み付いた。

「まぁそう我慢するな…」

うっせえ、獣

「もっとイイ声で鳴いて聞かせろ」

うっせぇよ、毒…

「お前が俺を殺せる毒だって言う証拠をもっと見せろ」

…ばっかヤロォ…




口元から、腕を外して。
セイバーの舌先に身を委ねた。
硬い髪を掴んで、自分の身体に押しつけた。
「欲しいか、ココに」
「…ッ…」
意地悪く舌先を見せて。
俺を煽る…
「…言ってくれ」
「……」
欲しいよ。
滅茶苦茶に。
身体中。
ソコにも、アソコにも。
全部。
貫いて。
熱くなるほど。
たとえば。
死ぬほど。

…欲しい。





でも




「言え、ねぇ、よぉ…頼むからもう…」
俺が出来たのは、求めるコトじゃなくて、ちょっとした懇願だけ。
腰に足を絡めて、俺を見下ろすセイバーの首筋をぺろんと舐めるコトだけくらいしか。
これ以上、させるなよ…
コレ以上、できねぇよ。
俺の毒は、抜けねぇよ…
抜いたら、ただの石になっちまうから
「殺されても言えねぇ!」
強く言い放って、セイバーの首筋に噛み付いた。
咽喉元に、強い指の感触を感じて。
引き剥がされた時は、息が出来ねぇくらい、締められてて。
その手に指をかけて、爪で引き裂いた。

霞んだ俺の目に、セイバーが笑う。

「それでこそ山崎竜二だ…堪らんよお前は」

俺の裂いた傷跡を舐めて、血塗れた舌で笑う。







その時は。
本当の話だぜ。マジで聞けよ。
そん時はな。
一度しかしなかったんだ。
もっと、こう、死ぬほど何度も、メシ食うの忘れて次の日までやりっぱなしとか
そう言うの覚悟してたんだよ。
首締められて落ちる寸前だったしよ。
セイバーってやつは、時たまこうやって寸前まで追い詰めるよな?
動物だからだよな、絶対。
しかし、そん時は、本当に一回だけしかしなかったんだ。
俺もセイバーも、やたらと敏感で、一度しただけで指先一本動かせないくらい痺れちまって。
転がったまんま、セイバーは「狐の祟りだ」って言ってたよ。
んなワケあるかよ。
…多分。





指が動くようになって、
痺れたままの指先の匂いをかぐと。
狐の毒の匂いと、セイバーの毒の匂いがした。

染みこんだ毒は、水で洗い流して。案外簡単に流れた。


「なんだよ、結構ヤワなんだな」
「何がだ?山崎」
突っ伏したままのセイバーが顔を上げた。
目の前で、手を振って。
「オメーの毒がヤワだっつったんだよ」
「ん、だとぉ!」
腕を振り上げて、そのままもう一度ベッドに突っ伏すのを見て。
やっぱ、ヤワじゃねぇかよ。
…超回復能力でそのうち元通りなんだろうが、まあたまにゃ大人しくしてろや。



キィ。
開け放した窓から身を乗り出して。
狐の方に舌を出した。



暗くなり掛けた町が、毒煙…。
いや、
温泉の湯煙に包まれて。
もやの中に、ぽう、と月が光っていやがった。
今日は、寒さに上がる湯煙に。
狐も湯治と洒落込むワケか。
いいじゃねぇの。
なぁ。
俺も、入りに行くからよ。
今度は湯煙の中で、会おうや。

そん時はオメーのカケラ全部集めてやるからよ。