階下の食堂で思ったよりも豪華な夕飯を食って。
とりあえず腹が満足した俺達は、いつもながらに夜の町を散策に出掛けることにした。
伊香保よりは冷えるだろうから、ちょっと照れるけどよ、浴衣に半纏を羽織って。
部屋の入り口の洗面台に備え付けのちょっと大きめの鏡に自分が映っているのに気づいて、
「うっわー似合わねー」
ボソ、と呟いて、自分の後ろに映っているオッサンに気づく。
…うわあ、俺より似合ってやがる。
外人のクセによー。

なんとなく気分もあって、上げっぱなしだった髪をクシャクシャと下ろした。
ん、まあ、こっちの方がまだ見られるだろ。
と、鏡を覗きこんだ。

「なんだ女みたいに」

とはセイバーの声。
真後ろから聞こえたから、後ろ蹴り食らわしてやった。
おう、と言う声が聞こえて、後ろ頭を軽く叩かれる。

「さーてと、那須には何があるかね」

閉めきられた玄関をカラリと開け、ピョイと飛び出して。
「寒ッ!」
「これはまた冴えるな…」
空を見上げると、どうやら曇ってきているようで。
たいして星なんか見えなかった。
月だけが煌煌と照っていた、眩しいくらいに。
宿の前はちょうど坂道になっていて。
右手にいくと下り、左手にいくと昇り。
昇った向こうには狐がいるから、チラっとだけ目をくれて、下りを選ぶことにした。
見えるのは何軒かの家、店、旅館の明り。
それも結構まばらで、温泉街と呼ぶにゃかなりひなびた感じだ。
車が上から降りてきて、俺達の横を通りすぎていく。
一台。

車通り、ほとんどないのな。

セイバーを見ると、物珍しそうにあたりを見まわしながら先頭に立って歩いていく。
やっぱ珍しいんだろうな、こう言う景色はよ。
日本人の俺から見てもなかなか見ることのないような景色なんだから
たぶん、外人から見たら『日本らしい』何かを感じるのかも知れねェな。
同じように人がすんでてメシ食って寝て起きてセックスして子供作って殺して…とか、やってんだろうによ。
「山崎」
セイバーが突然立ち止まって、思わずその背中にぶつかる
「ぉうわ」
「何をしてる?」
「突然止まんな!ド阿呆!」
セイバーの身体を押し上げるようにして離れた。
顔だけで振り向きながらヤツが言うには…
「ここは日本か?」
は?

「日本と言う所はもっとゴミゴミしていて、汚くて、それでいて神経質に整理されている場所だと聞いていた」

…まあ、そう言うイメージはあるよな。

「そうだな、言ってみればお前の部屋なんかは日本らしいかもしれんが」

…ゴミゴミしてて悪かったなー…
しかし、ここだって十分日本らしいだろ、ゴミゴミしてるしよ?

俺がそう言った後、セイバーは緩めた歩を進めながらあたりを見まわして。
軽く頭を振って見せた。
「ゴミゴミと言うよりは、こう、殺伐としているな。汚い、だけど何もない」
そう言われて見りゃあ…
整備されてるとは言いがたいこの景色。
自然と調和しない街灯や道路、無駄に作られた表式、看板。
「でもこんなのアメリカだってヨーロッパだって同じじゃねェの」
「そうだな」
「はぁ?」
なに、言ってンだか?
「うーん、なにかこう違和感があるんだ」
また突然立ち止まるセイバーにまた俺は激突して。
よ、よそ見はもうやめよう…
鼻の頭を撫でていると、セイバーがおもむろにこっちを向き直った。
「?」
「お前と、どうも調和せんな」
「俺が?日本と?」
「日本の、こう言う場所と、だ」
うーん。
かもな。
俺はどっちかって言うと、本当にゴミゴミした日本、あえて言えば夜の繁華街。
そんな場所が似合うと、自分でもわかってる。
逆を返せばこう言った簡素な路傍に突っ立ってるのなんて、似合わねぇってもんだよな。
「要するに、ここに来たのは不本意だったと言いてぇワケ?」
「喋ってると山崎なんだが、黙ってると山崎じゃない」
「はぁー???」

さっきから、ワケわかんねェよこのオッサン。
ッて言うか…
俺に判るように話して欲しいもんだぜ、頭、悪ィんだからよ。




ようするに。
多分、なんだけど。
もっと、五月蝿くてぶっ飛んでてイカレてる俺が、常にここにいればイイ訳か。

俺だって気が抜けてる時もあンだよなァ…



「俺が大人しいのが気にいらねェんだろ」
「多分」
「って、言われてもなァ…こんな静かなとこでいくらなんでも俺だって騒ぐ気にゃ…」
「ならんよな」
「ならねぇな」
「そうだよな」
「だ、ってんだろシツケェな」


なんだよ今度は俯いちまって。


…俺が悪いことしたみてェじゃん。


参ったなー…


「セイバーよぉ」
「…俺もな」
「あ?」
「俺も自分が大人しくなってるのが分かる、それが気にいらねェ。ぶっ飛びてェ」



あー
分かるぜソレ。


…なら…





「おっしゃーいっちょぶっ飛ぶかァ!?」
個室の中なのをイイことに、俺はでっけぇ声で叫んだ。
キーを差し込んで、エンジンをふかしながらかける。
「山崎、一体…」
「この先山だろ?攻めるぞ一気に」
フォン、と、駐車場脇の温泉街を抜けていく日本車、ありゃ走り屋だな。
んじゃ、食わしてもらうか。
ボン、と低いエンジン音、ベントレーがふわりと波打った。
ハンドルを握る手の汗を浴衣で拭いて。
アクセルを目一杯踏み込んで、日本車のテールを追い掛けることにした。
たいしたアップダウンもなく、たいしたワインディングもないから、追いつくのは簡単なことだった。
へっへっへ。
ベントレーに追われる気分ってどうよ?
なかなか経験出来ないよなぁ。語り草だぜオイ。
「山崎、抜け」
「あいよー」
ポン、とエンジンの軽い爆発音。
それに従うようにベントレーが加速度を増す。
直線ならベントレーの方が強い。あったりめーだ。日本車は直線に弱い。
狭い国用の車ってのは、パワーがないってのが基本さ。
ドイツやロシア、アメリカみてーなイカレた長さの国の車ってのは、伸びがよくて気持ちがイイ。
運転席から唖然と俺達を見送る若造に手を振って。
まあワインディングが多ければお前の勝ちだろうからよ、文句言うな?

窓を全開に開けると、死ぬかと思うほど冷たい風が吹き込んできた。

「寒みーぞー!!!!」

大空に向かって、大声で叫ぶ。
隣で、セイバーが「なんだそりゃ」と言わんばかりに苦笑してた。

俺は、確かにこう言う感じの一本抜け落ちたような気分が大好きだ。
ぶっ飛んでて、周りに言わせりゃイカレてて。
はっきり言えは周囲に迷惑で。
邪魔でカッコよくて憧れられて僻(ひが)まれる。
そんな位置で、性懲りもなくのさばれるってのが、
一番好きだ。
「ガキかお前は」
風に煽られて、セイバーのそんな言葉が窓の外に流れて飛んでく。
ガキがベントレーなんか乗りまわすかっての。
ばーか、ははははは。





有料道路をぶちぬけて(金は地味にキチンと払ってみた)
そのまま、てっぺんまで。
もっと星の近くへ、もっと月が俺達を照らすとこへ。
言うなれば、独壇場ってヤツ、そこまで一気に駆け上れ。
「セイバー!」
「なんだ?」
「アオカンすっか」
「あ?」
意味が通じねェのは重々承知だよ。
珍しく俺が誘ってんのに、オッサンには通じねェの。
通じないから言ってんだけどな。
通じるなら、言うわけねェ。
ボルケーノハイウェイの終点は、峠の茶屋と言う店とでっかい駐車場があるらしいから。
そこまでいかずに、途中のロープウェイの発着場所へ車を入れた。
バス停と、ロープウェイ乗り場。
こんな時間だ、バスもこねェし人気もねェ。
さっき追い越してきた日本車が、意気を上げて道路の方をすりぬけていくのがチラッと見えた。
「なんだ?」
俺が車を停めると、セイバーが不可思議そうな顔をする。
サイドブレーキをバッチリ引いて。
エンジンはかけたまま、暖房の入った車内。
車体がエンジンの振動で微かに揺れてる。
助手席のセイバーのほうに向き直って。
おもむろにイスごと倒れこませた。
「?!」
俺の腰を邪魔する帯を解いて、イスの後ろにセイバーの腕を縛りつける。
「お、おい?山崎…」
「なんだと思う?」
訝しがる顔に唇を近づけて、舌を出して。
そのまま身体を下げて…
ちょっとキツイけどな。
歯で浴衣の紐を解きながら、胸から腰まで…手を這わせた。
その手の終点は、セイバーの鬱血しはじめてるソコ。
「もう、勃ってんじゃねぇの…元気だよな歳のワリに」
「歳のワリに、は、余計だ!」
「イイってことよ…文句言うなって」
そう言いながら。
手で包みこんだソコの先端に舌を乗せて軽く嬲る。
「…ッ…」
「この辺、好きだよな…?」
「…そんなに煽って、どうなっても知らんぞ…」
「ん…」
セイバーの言葉は無視して、口の中に滑りこませる。
先端からにじみ出る蜜が口の中を柔らかく濡らす…

やべ…俺も勃ちそ…

運転席から身を乗り出して。
ステレオを切った車内に、俺の口から発せられる音だけが響いてる。
わざと音を立てて、口から抜き取った。
「ん…すっげ」
「随分と淫らなことをするじゃないか」
「ヤラシーのは俺に舐めてもらって勃起させてるテメーのココだろが」
「人のを舐めてるだけで勃たせてるやつがよく言う」
…ばれてら。
帯を解いた所為でもうすでに俺の前は肌蹴てたから。見られちまったかな…
もう、イイか。
俺も、中に感じてえから…
肩から浴衣も半纏も、全部落として。
セイバーのみてる前で、口に自分の指を含ませて濡らした。
「こう、言う俺のほうが気に入ってんだろ?」
舌先で自分の指を舐めながら。
「そそるね。その方が」
「ンじゃやりたくねー時は大人しいフリしてるコトにすんよ」
もう一度、口の中の奥の方まで指を含んで。
俺の口の中って、あったけーんだなぁ…
セイバーのコレ、俺のこの感触、感じてたってコトだよな。
…なに、考えてんだよ俺。

そのまま指を自分の後ろに持って行って、ゆっくりと埋め込んでく。
一度抜いて、もう一度…
「…ッ…ん」
「自慰でも見せるのか?」
「違、…慣らしてんだよ…」
まだ、このままだと多分キツイ…もうちょっと慣らさないと。
いつも無理に突っ込んで、はじめの方結構痛いんだからな…
たまには、一番イイ感じで始めから…ってよぉ…
「今一本だけだろう」
「…だよ」
「二本にしてみろ」
「………ん、くゥッ!」
見てんなよぉ…
ずるいぜ…俺だけ、なんて、お前も…
指を中でゆっくりと動かしながら。
もう一度屈み込んで、唾液に光るセイバーのソコを舐め上げた。



「なんで、こんなに癖になっちまったん、だよ…」
セイバーの腰の上に自分の腰を押し付けて。
身体を押しつけながら動く。
中に擦れて抜き出てく感触と、また奥まで入りこんでく感触。
コレも、もう、いつも味わってる物と一緒。
いつか飽きるかと思ってるのに。
なかなか、飽きやしねぇ…
それどころかコレじゃなくちゃ面白くないだなんて思ってる。
「仕方ねェだろう、理由なんてどうにでもつけられる」
「理由、…つけられんのかよ…ッ」
「身体が合うとか。お互い貪欲だとか」
「ロクな、理由じゃねェな…はは…」
唇を押し付けあって、舌先を噛みあって。
快楽の虜になってソコから逃げられなくなるのはご免だ。
そう思うのに。
無理だな、こりゃ、逃げられないどころか逃げたくねェ。

車内の狭さの所為で、俺はセイバーの胸にべったりとはり付いてて。
ゆっくりと動くコトくらいしか出来ない。
当分、イカせられねェな…
後ろ手に括ったままのセイバーの腕を、紐を引いて解放した。
好きな様に探って欲しくて。

「紐、か…」
「…なんだよ?」

俺が解いた紐をまじまじと見ていたセイバーが、
密着してる俺の腰と自分の腹の間にその紐を通し始めた。
な、なにすんだよ!?
「…ッ?!」
俺のソコに紐を幾重にも絡ませて、ピンと引いて。
「うあ…!」
「咥えろよ」
紐の先が俺の口元に寄せられた。

ああ、コレだから、コイツとやめられねェんだ…

素直にその紐を口に咥えると、見計らった様にセイバーが動き始めた。
「…んんんっ!」
「動くと大変だな?」
身体を反らすと、咥えたままの紐が張り詰めて…
「離すなよ…絶対に」
「…ッく…」
引っ張られた紐が強く俺を締めつけて、
捻りあげるように擦れて周囲を巡る。
駄目だぜ、こんな、ヒデェことしちゃぁよぉ…

もう、何がなんだかわからなくなってきた頃に。
やっと俺のなかに熱い飛沫が流れこんで、その熱さに捻られるのも構わずについ、身体を反り上げ…。
「ーーッ!」
「…ッ…イケよ…山崎」

その言葉にゆっくりとうなずいて…口の紐を落とした。








「はーれたそらー」
「晴れてないぞ」
「そーよぐかぜー」
「そよいでないぞ」
駐車場に停めた車から飛び降りて。
セイバーが俺の歌にツッコミ入れてるけど、手をひらひらと振って遮った。
んー。と、腕を空に伸ばして伸びをする。
お月さんの位置が変わってて、大きさもなんか小さくなってきてた。
どれくらい経ったんだ?
時間の感覚、まるで駄目だよな。
このまま、俺は現実逃避したままでイイのかな、なんても思うんだけどよ。
どうせ、終わりがあるから…
終わりがあるなら、その終わりに全てをまかせて、逃避出来る時間くらい脳味噌、旅立たせてたってかまわねぇよな?
まだ現実に気持ちをもって行かれるには早すぎる。

持って行かれそうになったから、多分俺達はぶっ飛びたくなった。
そんなコトくらい、分かってた。
まだ、見たくない。
ゴールのテープを切るのは、気持ちイイとはかぎらねぇもんだ。

…現実を見られなくなってる自分に嫌気も差すよな。

どうしてイイか判らないから、どうにもしないことにした。
タイマーは勝手に周ってるし。
ソレを止める手立てはねェし。
止める理由もねェし。
止めたくなる自分は多分嫌いだからよ。





そろそろ。
眠りたくなくなる時間が見えてきたよなぁ…
くっそー。