即効で会津を後にした俺たちは、
なんと。
なんと。
馬鹿みたいに、路を戻って辿って、一路、「老神温泉」くんだりまで。
車の中でお互いをののしりながら、大笑いしながら思ったよりも快適な道をかっ飛ばす。
所々を工事しているようだったが、それほど時間を割かれたりはしなかった。
今俺は助手席。
だから、珍しくセイバーが運転している。

出発しようか、と、歩き出した俺が自分でも思わぬふうにふらりとよろけて。
その俺の様子を見たセイバーが、鍵をよこせ、と俺に言ってきたって訳。
しゃあねぇよなぁ…ここんとこ、毎日やりっぱなしぶっ続け、何発くらい食らってんだ俺。
腰が抜けないのが我ながらすごいと思うぜ…vv

「山崎、少し眠ったらどうだ」

ナビゲーションシステムのついた車は、俺が一言一句はさむ暇もなく
スムーズにお目当ての場所まで向かっていて。
そのナビにちらっと目をくれて。
俺はずっとこのナビつかわねぇで道走ってきたんだぜ。
まあ、こんな物、よっぽど必要なときでもなきゃ使うつもりにもならねぇ、面白味がねぇからな。
しかし、悔しいが俺より性能いいぜコイツ。
機械にゃかなわねぇな。
現実的なもののありがたみってヤツ?
感じたくもねぇけど感じちまうよな。

「いーよ、眠くねぇからよ」
「その割にさっきふらついてたじゃないか」
「あんなけヤりゃ足くらいふらつくだろ!?」
俺のが正論だろうがよ!
「俺はどうってことないぞ」
「お前の体と一緒にすんな、俺はデリケートに出来てるんだ!」
俺の剣幕に葉巻をくわえたまま、したり顔で笑ってやがる。
ったくよ、余裕なんか見せてんじゃねぇよ。
こっちはもう結構いっぱいいっぱいって言うか…確かに眠いというか、だるいというか…
しかしソレ認めるのは、なんとなく情けねぇ気もするし、
なにより、ムカツクからよ。
セイバーはミュータントとかいう種類の人間で、人間を超えた能力を持っているとかで。
超回復能力、要するに、怪我しても疲れても、人より数倍、イヤ、数十倍回復するのが早いってわけだ。
そのおかげで俺は限界ぎりぎりまでヤリ通される訳なんだけどな…

う、眠…






ドコで意識が途切れたのか、よくは覚えていなかった。
ふと寒気を感じて目を覚ますと、ちょうど車がどこかに停車する時で。
「…あ?」
「ついたぞ」
「…。ああ」
眠っちまったのか…くそ、かっこ悪ィ…
セイバーに促されるまま、車を降りると。
周りを取り巻くのは冷たい空気。
広い道路のカーブのこっち側と向こう側に、それ以上に広い駐車場が観光客狙いの売店とともに構えられていた。
冷えた体に、毛皮のコート(セイバーに貰った)を引っ掛けて。
息を吐くと、かすかに白く見える。
うわ、冬って感じだよな。
道路の脇や駐車場のど真ん中いたるところに、観光土産の名前や、店の名前、駐車場の表示、
あとはなんだ?ああ、観光地の位置を示す手書きの看板。
『吹き割りの滝ここから徒歩一分』
近ッ!!!
一分!?
そんなモンなのか、滝ってのは。
セイバーを見ると、どこか遠くを見ていた。
その方向を向くと、かすかに滝の音。
「あっちか」
「看板に書いてあんだろがよ」
「水の匂いがする」
…動物め。
…水の匂い?
そんな物、嗅いだ事なんてない。
俺が知らない水の匂いを知っているセイバーが
なぜだか疎ましく思えた。

看板の矢印どおりに歩を進めると、どこかの誰かの自宅の裏道。
いいのか?こんなところ歩いて。
物置あるしよ。ドラム缶二合缶が並んでいたり。

坂道にかすかに息を切らした俺の横で。
当たり前のように、さくさくと歩を進めてる。
なんだよ、超回復能力ってよ。
一緒にいる俺が体力ねぇみたいじゃねぇの。
そう感じちまうのは仕方ねぇ?

馬鹿?と聞きたくなるほど品物が並べられた(だって関係ねぇものばかり)土産物屋が道沿いに並んでて。
ソレを無視しながら、直で滝を拝むために、歩いた。
「大丈夫か?」
…なんだよ、わざとらしく心配なんかしてよ。
大丈夫だっての。
俺だって、人並み以上の体力精神力気力精力持ってるんだぜ。
『人』、並以上だけどな。
…なんでこんなにコイツ、強いんだろうな。
…俺も、こうなれるんか?
…別に人間外になりたかねぇや。

「どうした?」
「あーなんでもねぇよ」

訝しげなセイバーの先に立って先導するように歩いた。
劣っているだなんて、思いたくない。
勝っているとも思えねぇけど。
感じたくなくても、いつも片隅で感じてる。
セイバーと俺は、同等の位置にいられないような気がしてよ。
置いて行かれたくない。
目の前に強いものがいれば、追い越したくなる。
でも強すぎて。
自分が弱いものなんだと錯覚しそうになる。
そう思ってしまったら、セイバーは俺の視界を邪魔するただの物体に成り下がっちまう。
そうは、したくねぇ。

尊敬くらい、俺だってしてる

「すごい音だな」
セイバーにそう言われて、初めて滝の音に気がついた。
階段の下から、その音が聞こえてくる。
見えているのはまだ川の一部。
川に滝があるなんて。
階段を降りきると、思ったよりも小さな滝がそこにあった。
「あ?コレか?なんか想像と違…」
そういいながら辺りを見回して。
小さな看板に『鯉飛の滝』と書いてるのを発見する。
なんだ、違うのか。
期待して損した、なんてちょっと思っちまったじゃ…

そのまま先まで歩いて。
対岸までは下手すりゃ50M。
俺の目の前にドでかい川が渦を巻いて流れている。
歩道らしきものが片隅に作ってあったから、そこを歩くことにした。
実際よ。
先から聞こえてくる音と、白く巻き上がってる水煙に、俺はちょっとビビリ入ってる。
飲み込まれそう…
そう、セイバーに飲まれる俺みたいに。
勝ち目なんてありゃしねぇ。




道が途切れて、溶岩の固まったような岩伝いに歩くと。



白い水煙を上げながら俺の足元から滝が落ちた。



「…!」



コレが、吹き割りの滝…


目の前に流れる川が深い溝に向かって流れ落ちていた。
滝?
って言うより。
何かの入り口みたいな…
引き込まれそうで、つい、体を引いた。
その俺の肩に、セイバーの手がかかる。
「…おい…な、なに」
振返った俺の肩を掴んだまま。
不意に滝のほうへと体が押し出されて。
「…!!!!!」
落ち…

グイ。

掴まれた腕を引き上げられて、滝から遠ざかる。

「な、な…」
「驚いたか?」
意地悪く笑うセイバーの顔。
「お、驚いた、って、テメー…」
足が震えて。
多分、俺は、怖くてたまらない。
俺を掴んでるこの手がいつ俺をここに突き落とすか。
飲み込まれたら、流されるだけ。
強い力に逆らえない無力な俺を感じて死ぬだけ

「俺とお前を一緒にすんじゃねぇ!!!」

掴まれた手を振り払って、その瞬間にバランスを崩した。

「…ッ!」

腕を掴まれて。
セイバーの胸の中へと引き込まれる。
「危ないだろう!」
「…離せ」
「なんだと?」
「離しやがれ!」

そういった俺を離しもせずに。
掴まれた腕が、痛い。

「何を怒ってる」
「…」
うるせぇよ。
俺はびびってなんかいねぇよ。
お前の力に逆らえないだなんて、一瞬でも思ったりなんか…

「俺は人間なんだ!簡単に死ぬんだ、お前と一緒にすんな!」





……!!…言っちまった





「ふん…」
「…」
「そうか。人間とは柔いものだからな」
「…」
「俺とお前は違うのか」
「違うだろ」
どう見ても。
お前のほうが強いんだろ。
俺は付いていけないんだろ。
…なんだよ、いつから俺こんなに怖がりになったんだよ。
「俺が怖いか」
違う。
お前が怖いんじゃない。
自分を弱いと感じてしまった自分が怖いんだ。
「どう違うと言うんだ?お前と俺が。」

セイバーの目が、無表情に言う。

「どう違う?」

問いただすように。
分かってるくせによ。
お前は自分を強いと信じてる。
俺だって自分が強いと思ってる。
でも俺はお前の強さに流されてしまう程度の、弱い人間の中でもがいてるだけの蟻なんじゃねぇかと…
「根本的に違うだろうよ」
「どこがだ」
「…お前」
「なんだ?」
「お前のほうが強いだろ!!!!」

そういいきった俺の手を引き上げて。
そのまま俺の体に手をかけて持ち上げた。
滝に、投げ落とされる!?
「…止め…!」
「違う、かもなぁ!」
言葉とともに、体が浮き上がって。
宙に浮いた俺の体は、なぜかセイバーが抱きとめてて。
「????!?」
持ち上げられる感触だけで、落ちる感覚はいつまで経っても俺の体に襲っては来なかった。
遠く深く目の下に滝の落ちる底が見えて、息を飲んだ瞬間。
目の前が木々で掻き消えて、かすかに体が落ちた。

気を落ち着けて辺りを見回すと。
さっきまで俺が立ってた岩場から川を飛び越えて、その向こうの断崖絶壁の崖の上。
川の水面なんかよ、井戸の中を覗いた時みたいに沈んで見えた。
「な、な、な…!!!」
すごすぎる。
俺を持ち上げて、こんなところまで飛ぶなんて。
…もう、俺の付いていける範囲じゃない?
強い、弱いだなんて…
そんな範疇の問題じゃねぇ

「山崎。弱いな」
「なに!?」
胸の奥にズキンとした痛みが走る。
核を突いて引き裂く様な言葉。
「弱いんだろう?俺には勝てない。そう思った。違うか」
「…違…」
「嘘をつけ…弱い、弱いなぁ。怖いだろう?俺が。さあ、怯えて見せろ」

怯えて、なんか…
息が上がってるだけで、俺は怯えてるわけじゃない。
怖いだなんて、思わない。
そういうふうに生きてきた。
のに。
久しぶりに感じるこのヤバイ位の血の気の引き…
「なに、威嚇入ってんだよ」
やっと言った言葉は震えてた。

セイバーが笑いながら、俺の体に手を伸ばす。
動けない。
怖い?
違う、と思わなければ…
このまま引きずり込まれちまう!








「…ッ、ふ…」
「どこが俺と違うんだ?ん?」
冷たい外気が肌に触れて。
服を裂かれ裸体をさらした俺の体、動けない俺を。
セイバーの指が徐々に犯す。
「離せ…離せ、よぉ…」
「ここか?違うのは」
セイバーの曲げられた指の、関節の感触が、俺の入り口を柔らかく探った。
「……うッ…」
「ああ、どうも違うようだな。俺とは。俺はこんな所をこうされても」
言葉とともに押し上げられて。
「んんッ…!!」
「お前みたいにそんなふうに感じたりはせんなぁ」
「や、やめろ…」
「何をだ?」
駄目だ。
これ以上。
これ以上、俺を支配しようとするな。
されそうになりそうだから。
だから、頼むから…
これ以上、自分に力がないだなんて、思わせないでくれよぉ…

目を閉じて。
強く頭を振った。
でもソレは止められることはなく…
「ここは俺と同じ様だ」
そういって掴み上げられ、息が詰まる。
「俺と同じだろう?こうすると、善くて溜まらない筈だ。どうだ?」
指の腹が其処を掴むようにして、じらすように動き始める。
熱い…。
コレで感じてるなんて、本当に支配されちまう寸前。
されたら、俺じゃなくなる…
でもコイツ、俺より凄い、凄くて強い、金もある、何でも出来る…
俺は、
何だったんだよ、俺は…
「あ、っ…」
「俺はこうされるのが好きだ、そしてお前はこうされるのが好きと見える」
足を割ったセイバーの体の。
中心が俺を勢いよく貫いて…!!!

「ふ…あッーーーーッ!??!」

やめろよ。
もう、
やめろよぉ。
弱ぇよ。
嫌ぇだ。
イヤだ。
苦しい。
俺は、
何のために
今まで…

「如何した?いつもの戯言は吐かんのか」

声も出ない俺にいっそう動きを激しくして。
あざけるように上から俺を見下ろす。
苦しさに、目の前が、にじんだ涙で曇ってしまう。
助けてほしいだなんて言わない。
けれど。何で、こんな意地の悪ィコト…

「怖いんだろう?」
「…ッ、ん」
「弱いんだろう?」
「うあ…」
「支配してやろうか」
「…や」

「許してくださいって言えば抱きしめてやるぞ?」

…抱きしめて?
許して?
俺を?
弱くて、いい、って?


「許し…」
「もっと大きい声で言え」
「許し、て…」

わざとらしく、俺の言葉の途中で突き上げる。

「んンッ!」
「どうした?」

その笑う顔を。
このまま。
此の侭…
手を伸ばして…
頬に手を添えて、弱弱しく引き寄せた。
「許し…」
「言え」
「ゆる…」

ガッ、
足を強く絡めて。


「許してなんかやらねーからな!!!死ぬまでイキ続けろ!!!」


近づけた顔に怒鳴りつけた。
許すか。
絶対に、ゆるさねぇ。
俺をコケにしやがって!
強かろうがなんだろうが、逆らったモン勝ちだ!!!
強く締め付けた足、
その腰の奥に力を入れて、体をのけぞらせる。
「う……ッ、山崎、貴様…」
「おら、どー、した、よ」
「…深すぎ…やしないか」
もっと。
もっと奥で締め上げてやる。
体の奥が脈打って、それと一緒に中が脈打ってる。
お前のモノ、その痙攣で果てさせてやる。
そらした体をもう一度勢いよく足で引き寄せて、もっと奥へ引き込んだ。
「う、ああ…ッ」
やべぇ。
自分で、すっげぇ感じちまって…
イケよ、早く…!

「戻って来たか…」

息切れしながら、セイバーの声が。
俺の耳元でそうつぶやいた。
「イケ、よ、俺ン中にぶちまけて果てな!!」
「遠慮は、しないぞ…」
「は、早く…、出せよ…俺、だってイキそ…」
俺の動きにあわせてセイバーの体が強く俺を押し上げて…
限界…
ギリギリ、寸前で、我慢を続け
体中がビリビリして、足も腕も腰も背中も全部性感帯になっちまったようになって
いつの間にか舌と舌を絡め合わせてて
凄い音、聞こえて
セイバーの痙攣と、
俺の体が弓のように撓るのと
俺の意識が吹っ飛ぶのが同時





「やーまーざーきーーー」
「…」
「おいおいおいおい」
「…」
肩を貸されて、引きずられるように。
見え隠れしてた橋まで歩いて、それを渡ると、ちょうど吹き割りの滝を越えた先の道に出たようだった。
セイバーは俺がヘタッちまってるのに、困り果てていて。
あたりはもう真っ暗。
明かりひとつありゃしねぇ。
「山崎…いくらなんでも無茶しすぎだ」
ひしゃげた顔で、セイバーが言った。
その顔に、苦笑する。
変な、顔でやんの。


礼なんか、言わない。


思い出しただけだ。
俺は強がってたんじゃなくて。
自分の強さを本当に認めてたこと。
自分自身で、自分を認めてたこと。
思い出しただけだ。

誰と比べるもんじゃねぇ。
でも誰かに負けるモンでもねぇ。
力でもねぇ。

痛みだろうと苦しみだろうとなんだろうと、笑い飛ばしてる俺に。俺は惚れてるんだ。

ただ、ちょっと俺と俺が倦怠期になっただけ。

俺は俺と長く付き合ってんだ、たまにゃそういうことだってあらあな。

だから、セイバーのおかげで惚れ直したわけじゃねぇ。

「疲れてるな山崎」
「ったりめーだ」
「いい顔だぞ」
「…は、あったりめーだ」

俺は俺に向かって笑った。
どうだ?惚れ直しただろ?
かっこいいよなぁ、俺。
かっこいいついでによ。
惚れすぎて身が捩れるくらいのコトしようぜ。

そう、例えば。

先には、もう駐車場のかすかな明かりが見えていた。
ここから。
また、俺たちは走り出す。
「今日は、どこに宿を取るつもりなんだ?」
暗くなってしまったのを気にしているのか、
セイバーの眉が寄ってる。
バッカ。
今夜は。
一番楽しいことが待ってんだよ。

そう、例えば…


「…夜っぴいて走るぜ」



ほら、身が捩れそうだろ?
楽しくてたまらないって言う笑い顔、その笑い顔。
俺が惚れた俺、その俺が惚れたそのテメーが笑った笑い顔。


カッコ、よくてたまんねーよ。