怖いんだ。
実は。
俺は俺さえ、制御できない。
山崎は自分もそうだと笑って言っていたが…
もしかしたら。
気を使ってくれているだけなんじゃないか、なんて。

ヤバイんだ。
わかっている。
こんな一週間、過ごすべきじゃなかったんだ。
失敗したんだ、俺はこの現実を過去にすることが出来なくなってる。

惚れ抜いてる。

さっきまでぐったりしていたか、と思ったら、ハンドルを握ったとたんに目を輝かせやがって…
山崎は嬌声を上げながら先の見えないカーブをグリップだけで勢いよく曲がっていく。
楽しそうで。
それに感化されて俺まで楽しくなっちまって。
終わりだというのに。

「ひゃー気持ちよすぎ」
どこの山なんだか、山頂まで上り詰めて、俺たちは車を降りた。
冴え渡るような冷たい空気の中、山崎が空を見上げてる。
俺もつられて見上げた。
釣られてばかりだ。

「どうしたよ、ノらねぇか」
「…そう見えるか」
「んだよ。せっかく気持ちいいトコ来たのによシケタ面しやがって」

山崎は俺を楽しませる。
俺は?
いつ暴走して誰を誰ともわからなくなるような、
そんな俺は、俺自身への約束さえ守れない。

「…山崎。」
「ん?」

「俺は明日日本を発つ」

「……」

山崎は俺のほうを見ようともしなかった。
満点の星空。そういう言葉がそっくり当てはまるような天を見つめたまま。
何者にも染まらない肌と瞳とその生き方。
俺にもっと見せてほしかった。

女々しいと、また言われてしまいそうだな…

「女々しいな」

そう思っているうちに、即効で言われた。
「なんだと?」
「女々しいよセイバーよ、お前」
「…」
「…」
「そうかもしれんな」

自嘲するしか、ない

曇らない瞳が俺を見た。
憧れそうだ。
その口が、笑みを含んだまま、開く。

「本音ごっこしようぜ」
「本音ごっこ?」
「マジの部分聞かせろよ。心の奥底に隠したまま、人と付き合うたちじゃねぇだろお互いよ」







風を纏って近づいた山崎に、不意に唇を奪われた。
離した口元で、もう一度唇を舐められて。
「なぁ…お前はどうしたい?」
「お前こそ」
「さあ?俺はただいる場所で命燃やしてるだけだぜ…なんつって、カッコイー」
ははは。と笑って。
強すぎるんだよ、お前は…
そうやって俺をビクつかせる。
「しょーがねっなぁ」
戸惑う胸のツボを貫くように、胸元を指でつつかれる。

「んじゃ、ギルティだ。嘘で汚れた言葉聞かせろよ。」

突付いた指を拳に変えて。
俺の胸をもう一度ドン、と叩いた。

「…いや…どうかな」
「なんだよ。臆病だな」
「本当も嘘も…言わん」

俺の胸を貫いたその腕を掴んで。
引き寄せて抱きしめた。

「おいおいおい」
「…黙れ」

背中に回した腕を、体をなぞるようにして下ろしていく。
腰から、俺が何度も犯したあの場所を探って。

「…ン…ッ、おまえ、コレばっか…」

何度も聞いたぞ、その言葉ならな。
俺は何度、こうやって誤魔化してきたんだろう。
偽りだらけの偽らない瞳、見えない奥底、でも透き通ってるやけに掴めない瞳。

ベントレーのボンネットの上に押し倒すと、腰の辺りを膝でけられた。
「マジかよ!寒みーだろ?!」
「うるせぇ」
「あのなぁ!」
「黙れ!」

「……」

きょとんとして、そして眉根を寄せて。
俺がわからないのか?
俺もお前がわからねぇよ。
何が欲しいのか。俺はそれに相当するのか、
俺は体以外でお前を満たしているのか。

起き上がろうとする首筋に、牙を立てた。

「…ッぐ!」
このまま、気道を噛み切ってやれば、ただの人形になる。
俺を脅かさない…。唯の…
「セイ、バー…」
頚動脈の音がウルセェよ…
この時計を止めるには、コレを断ち切れば…いい
「…クリード」
「…!」
舌を突き出して喘いだ山崎の口から出たのは、俺の本名。
ずっと呼ばれていなかった、本当の俺の中身。
「…呼ぶな」
自分の牙の荒々しい噛み痕を目の前に離して…
この傷跡に爪を突っ込んで裂いてしまえば…
「とんだ嘘吐きだな、テメーは…」
山崎の指が、自分自身の体をさらけ出す。
俺の目の前で。布を破いて引き下げて。
冷たい風を体中に感じるために?
それとも、それは俺の体温で満たされるためにか。

「抱かれたいのか」
「…抱きたいんだろ。」
「お前はどうなんだ」
「…」
「言え、言ってくれ。わからないんだ、もう全部見えないんだ!」

俺の頭の中はもうぐちゃぐちゃで、たぶん麻薬さえ効かない。
嘘吐きは山崎お前のほうだ。
何も言わない、避けてばかりで何も掴めない。
表面をなぞるような関係だけで、終わるなら。殺したい。

「…何のために脱いだと思ってんだよ、馬鹿ヤロ…」

目線をそらした山崎の言葉に。
何も見えなかった俺はちょっとだけ、山崎を見た気がした。
「…嘘を…」
「え?」
「嘘を、言うぞ」
「…聞くぜ」


「俺は多分お前に惚れている」

「そりゃすげぇ嘘だな」

冗談じみた関係で、終わる

「俺もだけどな」

冗談…

「え?」
「だから、言ってんだろ、寒いから早く抱けってンだよ!!」


バッカヤロー…覚悟しやがれ…頬が熱い、イヤなんでもない、もう知るか。

いまさらそんなコト言われたって
どうにもならねぇのは承知なんだ…!







ボンネットの上にコート一枚で背を預けた体を、その膝を抱え込んで。
「う、あ、あっ…!」
誰もいないこんな場所で、凍りつくような寒さの中で。
途切れがちな山崎の悲鳴をもっと響かせたくて、俺のモノで貫いてそのまま突き殺してしまうほど強く。
貪り食う、まさにそんな抱き方。
「あ、し、死…にそ…ぉ…」
膝を折り曲げて、一番深く入る体勢へ体を丸め込ませた。
熱く湿った肉が俺を引きずり込むから、それに逆らって体を引いて摩擦を起こす。
「…ッ、ひあ…」
「突いて欲しいか?」
「…ん、じ、焦らすなァッ」
「俺はなお前が欲しいんだ、全部何もかも、いつでもな」
「あ、うっ」
抜けそうな位置で、小さな動きを見せてやると、歯を食いしばって仰け反る喉元が見える。
俺の牙の痕。
消えなけりゃいいのになぁ…
ボンネットが汗と体液で湿って。
山崎が喘ぎを強く飲み込んだ。
「…俺はどこでも生きて、らぁ」
「しかし俺はまたお前を殺そうとするかもしれん」
「殺せば?」
「は?!」
「死なねぇ、って言い切りてぇところだけどよ…」
背中に回された手を強く引かれて。
それでも腰は引いたまま、まだ深いところまで入れてやらねぇよ。
焦れた顔が好きなんだ。
変態?なんとでも言え。
そんなコトも好きでいられなければ、抱き合うことなんて無理だろう?
「くそ、焦れってぇ…テメー…」
「死にたいのか?」
「わかんねぇ、終われば終わり、それだけだ。どこまでいけるかは俺次第だろ」
今度は足を腰に絡ませて、俺を引こうとする。
「まだだ」
「ン…」
微かに動いた俺の感触に、体を震わせて。
もっと焦れて、もっと欲しくなってもっと濡れてみせろよ。
閉じた瞳が不意に開いて俺を見た。

「殺すんなら、その後死姦しろ」

はぁ!!??!

「そんでな、俺の肉全部食えよ。約束破るなら呪い殺す…かんな」


なんで。
何でそう、お前は。
何でそんなに、強いんだ!!


「−−−−−−−は、ァッ!!!!」


焦らすだけ焦らしたそこを一気に抉り上げた。
引きつった喉がボンネットにつくほど反り上がって俺の背中を爪が掻く。
堪らねぇよ、その反応。
「山崎!」
「…、あッ…う」
髪を振り乱して悶えるその体、もっと激しく貫いてやる。
だから。
「俺のところに来い」
「……な、ん、…っぅあ…ッ」
「金に為るぞ」
乱れた表情が、不意に、微かに笑った。



気を失っちまったらしくて、山崎の体を持ち上げると、普段よりも重く感じた。
気絶した人間ってのは重いって言うが、本当だな…
そのまま、後部座席に寝かせて。
閉じた瞼に囁いた。
「いつか暴いてやるからな…」

そう、それが俺のギルティだと。
詐欺師同士は嘘で本音を会話する。
お前が殺されたいといったって殺してなんかやらない。
お前を殺すのは、そう、俺が殺したくなったときだけ。
そういうのも、あり、で、いいんだろ。

なぁ山崎…。

どうにもならねぇコトをどうにかしちまっても、文句を言うなよ…。