「うえー、食った食った」

部屋に運ばれた夕食を食い切った後、
畳の上にドカンと寝そべっておーきく息を吐く。
今日は本当に食ってばっかり、太るかもなァ。
やっと辿り着いた旅館、名前は「お宿 花月」。
外見は悪いが、中は結構高級なんだぜマジで。
その別館の「花遥亭」で、俺達は晩餐って訳。


フェリーを降りてから

「宿根木」と言う町に一旦寄って(日本情緒を知るにゃ格好の場所だ)
そこで何故か呉服問屋に入らされ(セイバーの単なる日本趣味)
何故か俺は今、着流し状態の着物で(もう笑うしかねー)
たらい舟見て(乗る気にゃどうも…ッつーか沈むッちゅーの)

「竹屋」って店で腹膨らませて。

ゴールドパークで砂金に群がってる奴ら見て(ここで微妙に圧倒された)
尾畑酒造とかいう酒蔵で利き酒しまくりーの(酔った。)
50メートル先のトキ見て(見えねぇっての)



はっきり言って、観光なんてモンは人の群れ見に行ってるようなもんだよな、と。

おっと、話がそれちまったか。
今俺が寝そべって見上げてる天井を目で追って行くと
そのまま隣の小さな座敷の天井に繋がってて
そのまま壁から目線を下ろすと
下にヒノキ風呂ついてんだけど。
ガラスごしには庭園が見えててその向こうには、か、加、加茂湖?ってのが見える。
俺の隣にゴロンと寝そべってきたセイバーがうつ伏せになって。
猪口を口につけながら寝惚けた声を発した。
「山崎よー、日本情緒ってのは、美味いモンだな」
「論点ちげーよ」
「歴史は感じたが重みを感じないのでな」
「昔は昔、今は今、ってんだろ、多分よ」
佐渡ってのはアレだろ、砂金が取れてよ、そこで稼ごうとして海を渡ってきたやつらとか、
貪欲な貴族やらが使用人死ぬまで働かせたりしてよ。
ゴールドラッシュのみみっちい版だよな。
そんな場所だろ。
そんな歴史。
やっぱ、ただの観光名物にでもして誤魔化してぇよなァ。
「なるほどな…」
セイバーがしたり顔でうなずく。
あー、着物ってのは、こう、腹がきつくってよ。
帯、解きてぇなァ。

なんとかよ、反町サンのコトも誤魔化せたし

…思い出しちまったよ俺の馬鹿野郎。

「山崎」
「ん?」
「やっぱ佐渡に何かあるんだろう」
「…」

もう、言っちゃった方が楽なのかも知れねェな…
でも…

「何か思いつめてる風だったぞ、ずっと」

ずっと?
なんだよ、
誤魔化しきれてなかったのかよ俺。
駄目じゃねーか。

反町さん

俺、多分アンタ追っかけちまってるよな。

思い出すと、身体中の血が沸騰しそうになって。

「思い出させンなよ」

思わず、口から出た言葉は予想以上に強い調子だった。
慌てて口を塞いでセイバーを見る。
猪口を唇に押しつけたまま
俺のほうも見ずに前をじっと見つめて。
気に、してる風でもねーな。

そうだ、もう一度誤魔化せば。

キツネと狸の化かし合い。
人間は詐欺師だらけ。
俺は「ウソつき」になるのか?
言わないってことは「嘘」なんかな。
わかんねぇよ、全部が全部…

目を閉じて眉をグッと寄せて。
あー、わかんねぇ。
なんでこんなに反町サンがどうとかセイバーに言うべきかとか。
考えてんだよ。
わっかんねー。
わざとらしく口で息をすいこんで、まとめて吐き出す。
溜め息をつくと、胸の中が軽くなる。
不思議なもんだな。
と思ったら胸が重くなった。
「?」
目を開くと、セイバーが俺の上にイナゴみたいな姿勢でのしかかっていて。
「馬乗りになっても気がつかんようだからな、体重をかけてみようかと。」
真顔でそう、言いやんの。

「酔い覚ましに湖畔でも歩くか?」
「お前が行きたいなら仕方なく行ってやってもイイ」
「その口に核でも突っ込むぞテメー」

言葉を交し合いながら(笑)
俺達は立ちあがって、旅館を出た。
まだ、8時くらいなのだろう。
玄関口辺りにもまばらに人が見えた。

ふとセイバーを見ると、この寒い中浴衣姿で。
俺は冬物の着流しだから寒くはない、と言うより暑いくらいなんだけどよ。
旅館の脇のコンクリートに囲まれた小道を歩く。
右も左もコンクリート。
「独房みてェ」
好きな感じじゃ、ねェな。
眼の先には真っ暗な闇が広がっていて、俺達はそっちに向かって歩く。

見えない。
先が。
なんにも
まるで隠しているかのように
それに不安が伴う。
言葉すくなになった俺に、セイバーが苦笑いしながら言う。

「お前みたいだなこの道は」
「は?セイバーなんだよそりゃァ」
「………」
「なんだってんだよ」
「……センスが無い」

ムカ!と来て、
思いきり弁慶の泣き所に蹴りをいれる。
「オメーの言ってる事のほうがセンスがねェよッ!」
フルフルしながらうずくまってるセイバーに舌を出して、
さっさと闇の向こうへ。
見えない闇の中へ。
旅館で借りてきた木のサンダルの音だけが響く。

あの言葉の本当の意味?

カランコロン。
この先って湖だよな?
カラン…


地面に月が落ちていた。


湖のそれだと気づくまで数秒。


セイバーが俺の真後ろに立ってる。
かすかな体温が俺の背中に当たるからよ。


「こんな広い場所で満員電車みてェなことすんなよなー」
「はは、この距離なら俺は痴漢か何かか?」
「…バッカ…おい、セイバー…」

言うが早いかセイバーの指先は俺の腰からだんだん下へ。
マジで、コレじゃ痴漢…

身体を押しつけられて
セイバーの息が首筋を温める。
くい、と首を反らして、自分の下唇を舐めた。
「俺は…これほど楽しめるセックスなんてそうは無い」
「まー、俺も同意見」
「しかしコレほど掴めない男もそうはいない」
「え?」
振り向いて顔をみようかと思ったのに
後ろから回された手に襟首を掴まれて動きを封じられちまった。
そのまま掴んだ手が、無理に着物を引き下げる。
「ってぇ、な、セイバー、ちょ…」
さらけだされた肩口に軽い歯の感触。
「…こんな、トコでかよ…」
無言のセイバーが俺を近くの木に押し付けた。
辺りは木々がうっそうと茂っていて
でもちょっと先に見えンのは、アレは旅館やホテルの窓の灯り。
双眼鏡でも使ったら一発だぜ…

「山崎、口を使え」
「…強引だな随分と、よぉ」

向き直って。
やっと顔を見ることが出来たんだけど何だよ、無表情ってのは。
掴めねーのはお前も一緒じゃねぇか。
膝をついて。
セイバーのソコに手をかけた。
分かってる、なんだか俺達、違っちまってる。

いつになったら、誤魔化しきれるんだよ…

布を開いて舌を出した。
舐め上げてから、唇にゆっくりと含む。
ちろ、と上をみるとセイバーが俺の口元をみていた。
…見んなよ。
押しこむようにして、口の中に先端だけ収めて
先を舌で嬲った。
「お前が何を考えているのかは知らんが」
腰をつかんで、もっと、咽喉の奥へ
「様子が変なのは確かだ、ぞ、…ッ、噛むな」
立てた歯をそのまま根元のほうへ滑らせて。
分かってんよ。
分かられてんよ。俺。

頭を引いて先端の筋にそって舌で押し上げると
すでにもう、熱い蜜が俺の口の中に溢れ出してくる。
いいよなぁ、こう、分かりやすい身体の関係ってよ。

マズイよなァ、お互いに疑問持っちまうってのはよ…

「山崎」
「…」
「今日のお前は気にくわねぇな」
「…ん、だと!?」

グイ、とソコから身体を離してメンチを切る

頭を掴まれて、

鈍痛を感じたのは脳の奥のほう。
木のゴツゴツした感触に後頭部をヤられて
開いた口に勢いよくセイバー自身が押し込まれる

「ん、ぐぅッ…!」
「気にいらねェな…テメーのそのツラも身体も全部今日は気にいらねぇ」
「ん、ん」

苦し…
息が…

咽喉の奥まで突き上げてくるソレに、むせ返りそうになりながら

「何を…誰のことを考えてる?白状しろ、よ、オラ」

白状、った、って
クチんなか、一杯…っ

…誰のことを…って、?

押し返そうと腰を掴んだ手を、強い力に握りつぶされる。
痛ェ、って
そのまま腕が上に引き上げられて。
両腕が木に押しつけられる。
こんなんじゃ
強、姦ッ…ってぇ…

「戻って来いや山崎ィ!」
「ぐ……ん、んッ…」

口内を強く犯すソレに、身体が
熱く、反応して…
口ン中なのに、なんでこんなに、気持ちいーんだよ…
駄目だ俺
弱くなる…

「馬鹿野郎…誰かのために誰かを抱くなんて、俺の範疇じゃねェんだよ…馬鹿野郎」

…俺…、そんな、風に見えてたんかよ
カッコ、ワリィなァ。
覚えてろよセイバー、眠ったとたんに腹に蹴り入れてやッから…

「俺が気持ちよければイイ、それでお前がよけりゃイイ、だからオメー抱いてたんだぞ?」
「…ッ…」
「もう知らねぇ。俺優先だ、食らえや山崎…」
「…!?ンンーーッ!!」

待て、
と言ったツモリが言葉になんかなるわけが無くって
口の中に熱い飛沫が飛び散るのを感じて。
吐き出す途中で引き抜かれて、もろに、身体に…

「あ、うッ…か、かけんな、よぉ」
「知・る・か、と言ったろう」
「…俺、だって、好きで考えてるわけじゃねェ!」

頬にかかった飛沫を手の甲でぬぐって。
口の中のヤツ?飲んだよメンドクセエ。
なんだよコイツ!勝手な事ばっかり言いやがって!
俺の堪忍袋の尾がぶち切れるってんだよ!

「考えたく無いことなのに気になって仕方がねェってのか」
「うるせーな、テメーにゃ関係ねぇだろ、人のことにあんまり首突っ込むのは近所のババァだけにしとけってんだ!」

覗きこむようにしてきたセイバーの頬に、思いきり拳を入れた。

その拳は、力で止まって。
でもセイバーの頬に食い込んでいて
骨の感触。

ギョロッと睨み付ける目に、睨み返した。

じっと俺を見たまま
簡単に服を整えると。

…俺、置いて帰っちまうだろうな。
終わりか。

セイバーの足が落ち葉を踏んで。
そのまま、地面にドカンと座りこんだ。

…は?

「ヨシ。聞かせろ」

「は?!」

「悩み相談受付中だ。今日は特別にタダで聞いてやる」
は、はは。
何、言ってんだよ。
「ほれどーした」
「……なん…」
「本当はマゾですって告白なら十分身体で感じたぞ」
「俺はマゾじゃねぇー!!」
振り上げた腕を打ち下ろすとセイバーの姿が目の前から消えた。
んの、やろ、ちょこちょこと…

木にぶち当たったり
泥が口に入ったり
拳に何度も骨の感触を感じたり
頭打ったり身体打ったり
もー
湖には落ちるし
息が切れて

「っだぁ!」
「俺の勝ちだな」
「除け!」

セイバーが、うつ伏せに転がった俺の上に乗って、勝ち誇ってやがる。
俺は俺で、もう、疲れちまって。
頭ん中、空っぽ。

「あー酔いが覚めちまった」
「飲みなおすとするか」
「おー」

置きあがったら身体中がギシギシ言ってやがって、
ああ、もう、手加減ってものをしらねぇヤツだな、俺もお前も。

青春映画みてぇだけどコレって本当にあるんだよな。
もう、テンパっちまったら、アドレナリン大放出させて大喧嘩で気分爽快ーってな。
今のところ、頭ん中もう、真っ白だから
考えたくってもなんも出てこねー
とにかく、酒。
咽喉が乾いちまった。

旅館にはいると、驚かれた。
そりゃ、泥だらけだモンな二人とも。
笑って、崖から落ちちまったよ、と言ったら、滅茶苦茶心配そう&信じられないと言った顔で
「ダイジョウブですか?」
だってよ。
「大丈夫」、って言う言葉がもう、カタカナで聞こえるくらい、声が強張っちまってんの。
板場りの廊下、汚しちまって悪いな。


部屋に戻って。
もって来てもらった熱燗五合を一気に飲み干した。
頬の裏側にちっと沁みるけど、イイ消毒だろ?
「っかー!たまんねー」
「コレで縛った女でも吊るしてあれば完璧だな」
「は?オメェそう言う趣味あんの!?」
「縛りならまかせろ?気持ちイイトコ食いこませてやるぜ?ん?」
「変態め死ね」
コイツ、セイバートゥース、図体のワリに手先が器用なんだよなァ。
あー、酒が利く…

いー感じでぶっ飛んじまって。
ぶっ飛びついでにえらく激しいセックスなんかしたような気がする。
気がついたら夜中で、いや、なんかうっすらと空が藍色がかってて
あんまり綺麗だから窓でも開けて外見ようと思ったら
腰が立たなかった。

しょーがねー。
寝るか…

イビキかいてるセイバーに蹴りを入れて静かにさせてから。
ごろん、と寝返りをうって。

自分が、反町サンを誇りに思っているのか
それとも引きずっているのか。
どっちだかわから無くなりかけた。
誰かに頼りたがっているガキのような自分をなんとか
なんとか、あの汚い自分に戻したかった。
「根拠のない自信は、いつか崩れる」
よく聞く台詞。
体現するような人間で終わりたくない、反町サンのためにも…いや、多分、
俺自身の為にも。

なら、根拠を見つければイイ

そう誓って、俺は目を閉じた。






藍色の空に、餌を探すウミネコが細く鳴いていた。