「なんだ?ここは」
車は街中の方まで来て止まり、そのまままた歩かされる。
山崎はなんだか楽しそうだ。
「まーまー来いって、いやー、昔来てみたかったねェ」
上機嫌で歩いていく山崎。
さっきの河原の時とはまるで別人のようで。
ふっきったのか。
それとも、とりあえず誤魔化したのか。

…しょうがねぇヤツだな。

場所は相川町、広く見れば佐渡金山がある辺りらしい。
佐渡金山の話は昨日山崎に聞いていた。
もうほとんど彫り尽くされたとか言う鉱脈で、さほど興味をひかない代物。
仕方がないだろう、金にならないなら面白味も少ない。
その相川町の中心部に当たるこの辺り。
電信柱を見ると、文字の読めなくなった色褪せた鉄のプレートが打ちつけてある。
「この辺はよーなんか寺とか多いんだけどよ。その所為で…見ろ見ろ、あったコレだ」
ニコニコー。と。
気味が悪くなるくらいの笑顔で、山崎が指し示す建物は。

「なんだここは?拘置所か何かか?」

俺の言葉に、はー?と、物凄い顔をして。
直後になんとなく納得したような顔。
「ああ、そっか、アメリカ人だもんな。知るわけねぇか。」
「だから、なんだ、って言っているじゃないか」
「んー、遊郭っつって、通じるか?日本にイチ時期流行ったんだけどよ、
 この家の中に女が沢山いて、気に入った女を買って、
 2階の座敷で一晩美味しいことするわけよ」

山崎の説明によると、その、まぁ、風俗遊びだな。その風俗は、
世間でも認められており、その中に花魁とかいう質の高く値段も高い女が生まれたとか。
ほう。
こんな寂れた場所にか。

みると、そう言った風の建物は何軒か軒を連ねているようだった。

「あー、ここで女が身体売ってたんだよなァ。」
「女つきラブホテルか」
「おお、うめぇこと言うじゃん。でもよ、さっきも言ったけどこの辺て、寺とかが多いからよ」
「?」
「男色専門の遊郭もな、隠れてあったんだよ。どこかはわからねぇけどな。」
そう言えば、仏門に降った者は、女とどうこうしちゃ行けないとか何とか。
だからって、
男使うのか…

「穴がありゃなんでもイイってか。ははははは!」

山崎が豪快に笑った。
あのなぁ。
それと同じようなことされてる自分のことを忘れるなよ?
そう言えば、同じような物だったかな。
はじめて山崎にあって、はじめて山崎を抱いた時は。
俺はコイツを買ったんだったな。
高かった…。なるほど、花魁か?うーん。花魁とはどんな物だ。
とにかく、そのごも何度か俺は金でコイツを抱いて。
そのまま気がついたら、ずるずると…
最近は、金を払うまでもなく、なんとなく身体が求め合うって言う感じで。
請求されればいくらでも払う。
コイツとなら、金を出してでもヤリたいからな。
勝気な野郎が快楽に溺れる様ってのはよ、こう、ゾクゾクとくるもんだ。

っと、
こんなコトを考えていると勃ちそうだ。

山崎は可笑しげに遊郭の中を覗いて。
「ここ、ここによ、女が並んで座ってンだよな、綺麗なカッコしてよ。」
「ん?どこだ」
「この座敷。牢屋みたいだろ?同じようなもんさ。入ったら当分出られねぇ」
出られない?
「みんな身売りだからな。親の生活の為に遊郭に売られてよ、
 親は金を貰って、その金の分は娘がここで働いて賄え、ってな」
「身勝手だな」
「生きる為さ」
中の暗がりを見つめたままの横顔の中に
かすかに過去をみた気がした。



遊郭跡のすぐ近くに構えている質素な旅館。清新亭。
俺達は飛び入りでソコに泊まることにした。
時間にして、現在3時を回ったところだ。
ちょうど、チェックインも出来る。
ソレに俺は、遊郭の匂いにやられたようだ…

昼飯を食い忘れたことに気づいたが、
もう、どうでもイイ。
簡素な部屋に通されて、仲居が出ていった後、
おもむろに山崎を押し倒した。
「おい!?まだ日が高ぇぜ!」
「お前を買う」
「はぁ?」
硬い畳の上に、背を預けた山崎。
その身体の中に染み付いたソリマチの匂い。
「じょー、だんじゃ、ねェ、よ、離せー!」
じたばたじたばた。
よく動くやつだな…
足をつかんで引き寄せると、身体を捻って逃げようとする。
「イヤか?」
「俺はまだそう言う気分じゃねー!」
つかんだ足先から。
ふくらはぎ、膝の裏を伝って内腿へ指を滑らせた。
「ん、ぅ…ッ、く、くすぐってぇ」
もう一度。
「……ッ…は…」
もう片方の足で俺を蹴ろうとするのを身体を引いてかわして。
足を自分の肩の上まで引き上げてやる。
「離せよ!」
身体を起こせずにムスッたれた顔で。
その顔に、わざと舌を出して見せて、笑ってやった。
「快楽の為に身体を売った人間ってのはいたと思うか?」
「ああ?…あー。いたんじゃねぇか?男ならなおさらじゃねぇの?」
「何故そう思う」
「自分に会う男色家、見つけること自体が難しいだろ?…離せよ」
足は離さず。持ち上げたまんま。
肘をついて起きあがった山崎の唇を舐めた。

「舐めンな」
そう言って顔を逸らせて。
まぁ、無理にやれば和姦にゃなりそうにないな途中までは。

身体を引こうとするのを無理に押さえながら、山崎のズボンを引っ張って抜き取る。
「ばっかやろ、寒みーよ!返せ!」
膝を丸めこませ、倒れた山崎の上着に手をかけて前を開く。
着物の方が脱がしやすいな、なんてふと思った。
はだけた胸に舌を這わせて。
ゆっくりと肌の感触を舌に味わい尽くした後、掴んでいた足に唇を移動する。
「…セイバー…!そりゃ、病的…ん…く、」
足首の内側に俺の唾液の跡が光る。
恐らくコイツの性癖は、そのソリマチとか言う男が作った物なんだろう。
無理に抱けば暴れるが、
優しく抱くと戸惑いを隠しながらじっとしている。
俺の目を睨んだり、悔しがるように逸らしたり。
足を舐めながら、山崎の中心部に手を掛ける。
「…ッ」
山崎の手が俺の手の上に重なって。
止めようったって無駄だぜ?
お前、もう、濡れちまってるしなァ?
指先に絡みついて来るぜ…

「馬鹿、ヤロ…」

やっと言った言葉は熱を帯びていたから。
腿の内側までたどった舌をそのまま遮る手の上に滑らせた。
指を、一本一本舐めると、ゆっくりと外れて行く。
「…は、…っ」
山崎のかすれた息と、俺の舌先の音。
はずされ切り、露わになったソコを咥え込む。
「…ァッ!?」
俺の髪を掴む指。
「馬鹿…ッて、めぇ…死、ねッ」
「ンじゃお言葉に甘えて死ぬほど戴くとするか」
「そう言う、意味じゃ…あ」
所在投げに畳を這った指が、テーブルの足をつかんで爪を立てた。


入れたまま自分で身体を捻らせて。
うつ伏せの姿勢にさせると、その背中が蛇のように滑らかに反る。
張りのある肌に手の平をパシンと当てて。
「…う…ッ」
「テーブルの足を掴んでいろ」
「なん…」
「いいからよ。離したら、そうだな、明日の朝までファックしてやる」
「…そりゃぁ、勘弁…願うぜオイ…」
震える指が、木の足を掴んで。
金色の髪が、俺の動きに揺れて。覆い被さって、全部、食い尽くすように…
そろそろ、自白しろよ。
俺はまだお前の眼が遠くを見るのが気にいらないんだぞ。

「…どうして、ソリマチのことなど思い出したんだ?」
「…ンな…」
「惚れていたのか?男だろう?」
「…」
「どうなん、だ」

言葉にあわせて強くつき入れた。

かすかな悲鳴。
口をつぐむように、畳に額をこすりつける仕草…
言いたくないのか、声が出ないのかわからんな。
「聞こえないのか?」
もう一度。
「…ッ、ッ…く」
…声が、出ない方のようだな。
山崎の腰をつかんだまま、ぺろりと舌を出した。
「答えないと、朝までだぞー」
「…は…ッ、ちょ、う、ご、か…なッ…!」
「聞こえんな?」
意地悪くそう言って。
そう、本当は聞きたくとも何ともない。
ソリマチとお前がどうだったって俺には関係ない。
俺はお前とするのが楽しみだし、こんな面白いことはないと思っているし。
逃げたところで逃がすワケがない。
そう、関係ない。
しかし、お前の湿気た面は見たくない。

いつでもエラソウで、
自信満万で、人を馬鹿にして。

そうでなければ面白くない。

だろう?お互いよ。

机の足を掴んでる腕に手を伸ばして、後ろ手に引き上げた。
「…あァ…ッ!」
そんな、切なげな顔は止せ。
もっとヒドイコトがしたくなるだろう?

もっと奥まで俺を埋め込んで。冷たいテーブルに手をついて。
もっと激しく。もっと燃えて見せろ、そして身体の一番奥の場所に俺の体液食らいな。
そうすれば、多分、ぶっ飛び切れるぜ…。

そう、したいんだろ?俺もなんだよ。








「うー!食いにくいー!」
うつ伏せのまま、畳に置かれた膳に箸を伸ばしてる山崎に思わず苦笑した。
それでも美味そうな物を探しちゃぁ箸をつけて口に運んでる。
ったく、動物だな。
俺は俺で、もうすでに食い終わって。
まだ足りないくらいだ。
何か、追加するか…。
「オイ、山崎。なんか食うか?」
「すっぽん」
「は?」
「このままじゃ俺の精力がもたねぇからすっぽん食う」
「ないぞ」
「えーーーーーー」

ぼす。と、胸の下に敷いていた座布団に顔を埋めて。
また顔を上げて、今度は魚の煮付けに箸を伸ばす。

「食わせてやろうか?」
「は、願い下げだっつーの」

ソリマチって男が、
こんな山崎の面倒みてただなんて思うと、笑いがこみ上げるもんだな。
同類相憐れむ?ああ、似てるかも知れんな。
このヤクザモン手なずけるなんて、相当のタマだなソリマチは。

悲しくなるほど信頼してたってコトか。


妬けるね。


その日は公衆浴場に浸かって、…山崎には肩を貸して運んだ
風呂の中でちょっとイタズラして…真顔で怒られた
あがった後、ビール五本かっ食らっておとなしく寝ることにした。
山崎はうつ伏せのまま動かない。

どうやら、ソリマチに関しては感覚が麻痺しているようだから
このままでも大丈夫か?と、一人納得して。

…明日、佐渡を後にするらしい。
そうさ、こんなお前の記憶に引っかかるようなところ、
「旅行先」と言う枠で括って片付けてしまえばイイ。

俺には過去はないも同然だからな

仰向けになると、薄暗い天井が見えた。
悲しい記憶は悲しく思い出すコトしか出来ない。
大切な人が死んだ時、思い出すのは死んだコトだけ…なんてよ。
あまりにも、死んだ奴がカワイソウじゃねぇか?山崎よ…