佐渡から直江津港までカーフェリーで二時間半。
ソコからすぐ近くの上越インターから上信越道を使って信州中野までは1時間程度。
190キロで飛ばしたから30分。
邪魔な車は外側内側からちゃっかり追い越して、
いやー、外車ってのはたまんねーぜ。この爽快感、なー?
旅先でずっと乗ってたベントレー。はっきり言って、山越えするにゃ不向きの車だ。
だってよ、デケエし。でもセイバーの持ち物だ、当然か?
でもよー。ベントレーで頭擦ってる男ってはじめてみたぜ俺。
ちょっとしたアップダウンなら、この高級車のサスが吸収してくれるからいいんだけどよ、
大きな起伏だとさすがのベントレーも揺れるな。
その揺れの時がたまんねくオカシイ。

ゴン

だとよー!!!ぎゃははははは。漫画だお前!!

腹がよじれるほど笑わされて、腹筋痛ぇ。

あー、おっさん、あんた天然の生き物だぜオイ!


信州中野で降りた俺が向かっているのは。
温泉。
いいだろ?日本って言ったら、温泉だよな。
後芸者とカミカゼとハラキリだろ?うはははは。
…いんだろうなぁ、まだ忍者とか信じてる外人。
忍者なんてのはただの泥棒兼からくりマニアだってーの。

「ほう、温泉か。」
「おう、いいだろ?裸の付き合い、ってよー」
「裸の付き合いなら人一倍しているだろうが」

オヤジギャグかよソレ。

なんだかギースの野郎を見ているような気にもなるよな。
外人の日本への理解の仕方はこの位の年のオッサンだと似たようなもんなのか。
時間にして、現在12時ちょっと前。
国道293号線を派手に走って。
うーん、爽快ッ!
途中通りすぎた地獄谷温泉の名前をセイバーがえらく気に入ったようで、
何かあると「ジゴクダニ」と繰り返してる。
乞う、悪い奴ってのは、そう言う感じの名前に惹かれるよな。
俺も同じようなもんだけどよ。なんだ?「喧嘩上等」だの「天上天下唯我独尊」とかな。

車は白根山を通り過ぎ、殺生河原を過ぎて。

見えてきた町並みは、寒さの所為か、もうすでに煙に覆われたようになっていて、
おお、こりゃ絶景じゃねぇの。

草津役場の前の駐車場にベントレーをいれると、
始めて見るその車に観光客が目を丸くして立ち止まった。
駐車場の管理人と簡単な会話をして、
さて。

「おいおい、歩きか?」
「日本は狭いんだよ」
「…確かにな」
お前ならどこの国でも狭いだろーけどなー。
「『狭い日本そんなに急いでどこへ行く』ってな」
「あ?なんだそれは。」
「日本人が生まれて一番はじめに教えられる言葉」
「そ、そうなのか」

信じてるよ…おいおいおい。
まあイイか、ほっておこ。おもしれーし。けっけっけ。

「せまい…」

なんだかセイバーが暗誦しちゃってるみたいで、思わず笑いにむせそうになって息を止めた。
マジかよ、覚えようとしてるよ!

「山崎?震えているぞ?」
「い−−−−や、なんでも?」
「声が裏返ってるぞ」
「いーーーーえ別に。」
「ウソだな?」
「なーんのコトだか俺にはさーっぱり」

笑いを堪えるので精一杯だっつーの。

まんじゅうの煙がもくもくと出ている2軒の店を通り越して、
その先に進む。
なんか、この辺中華街のいかがわしさにも似てるんだよな。
『本家ちちや饅頭』って言う店のちょっと先を曲がった細道、
ソコの2階にある『龍燕』でメシを食って。
なに?北京ダックねぇの?やっぱな。
腹も満足したところで。さて、散策開始。
…しかしよ、この『ちちや』。名前も意味わかんねーけど、
なんの本家なんだよ。饅頭か?それとも『ちちや』の本家なのか?
はっきりしねーなー日本語ってのは。
『ちちや』って、なんなんだよーーー。

セイバーを見ると、試食で手渡された饅頭を腕一杯に抱えて。
「な、なにやってんだよ!」
「いや、気がついたら乗せられてどんどん増えて…うわ、もういらねぇッてんだろ!」
セイバーの威嚇むなしく、ニコニコと笑うおばちゃんが山積みの饅頭の上に、
便所バサミみてぇの使って、器用に饅頭を2つ乗せた。
外人は狙われやすいよな。
わかってて、ココ通ってんだけどな。あーおもしれぇ。

やっとのコトで、ちょっとした広い道に出て。
饅頭を食い尽くした(スゲ)セイバーが指先のアンコを舐めながら立ち止まった。
「山崎」
「なんだよ」
「ありゃ、なんだ?」
見ると、先に豆腐を作ってるような木の箱がズラリ。
その中に、黄色っぽいお湯が満たされて、もくもくと煙を上げている。
「あれはな、夜になると一般開放されて、闇鍋大会が開かれるんだ」
「ウソだろ。」
「ウソだ。」
ムキー!
掴みかかってくるセイバーをよけて、立て看板を指差す。
セイバーがそっちに気を取られてる隙に、危険のない位置まで離れた。
「コレが温泉なのか?」
遠くで俺に向かって話しかけてるセイバー。
コレ、俺が答えないでほっといたら、ヤバイ独り言のオッサンだよな。
ソレもなんだかカワイソウか?
だから、俺は親切に
「そーだよ」
と答えてやった。
うん、俺ながら親切きわまりネェな。

匂いに鼻腔をやられるのか、さっきからセイバーはくしゃみばっかりしている。
つられて、俺もくしゃみが出た。
あ?
つられるのって、アクビじゃなかったっけか。
「セイバー、神社行くか神社。」
「神社?おお、日本らしいじゃねぇか」
「んじゃ決まりだな、ソコ曲がって…」
『ベルツ通り』と銘打たれた道を歩いて。
ちょっと曲がると、白根神社がある。

「知ってるぞ!コレは、トリイ、だろ?」

嬉しそうに言うなっての。
なんか発音違ってるけど、まあ間違ってネェな。
「ト」にアクセントついてるからなんかオカシイのな。
観光地だってのに、人っ子一人いないのは。
昼時だからなのか、季節の所為なのか、場所の所為なのか?
列なる鳥居の下をくぐって。
赤い屋根の境内に入った。

立て看板を見ると、対して由来のない神社。
げ、こりゃ貧乏クジ引いたか。
「なんの神社だ?」
「…あー」
「読んだんだろう?」
「白根山の従1位白根明神と本白根山の従2位小白根明神を合祭し、
 明治6年に吾妻郡全般の卿社となるに際し、運動茶屋より現在地に新築奉還し、
 明治10年及び大正5年には町内十数カ所の神社を合祭、
 明治15年には拝殿を改築し現在に至ります。祭神は日本武尊。
 以上っ」


間を置いて。

「は?」


俺だってわかんねーよ。
漢字なんて読めねーのあるから適当に読んだし。

うーん、と一人で看板の前で考えこんでみる。
ふと気がついてあたりを見まわすと、セイバーの姿がなかった。
ココ、木が多いからな。野生にでも返ったか。
しかし、こんな由来のない神社。
なんでこんなに…強い気の様なモンを感じるのかね。
もう一度、看板を見なおした。
「合祭、合祭、合祭…烏合の衆ってトコか」
あっちこっちでいろんな念受けてきた神社が一つにまとめられたってコトだろうな。
かち合う願いとかも有ったんじゃねぇかな。
コイツに死んで欲しい、いやアイツに死んで欲しい、とか逆に生きて欲しい、とかな。
仏のバチより人間の念の方がよっぽど怖いよな。
誰かを恨むってことは、時に心を狂気に走らせる。

じっと、手を見た。

もう一度振り向いても。セイバーの姿はなく。

「セイバー?」

「おー」

遠くから、返事の声。
そっちに向かって砂利を踏み荒らして行く。
「どこいんだよ」
「こっちだ」
声の主のもとまで辿り着こうと歩を進めても。
一向に姿をあらわさずに。

参ったな…

小さな遊歩道、その回りを取り囲む全く同種の草。
コレは…シャクナゲ、とか言うんだっけな。
花は咲いてないが、綺麗なもんだ。
ところで、セイバーの野郎は…
「おい」
真上から、声。
見上げると、そそり立つ木の枝の上にでっかいオッサン。
「な、何やってんだよ!」

ふいに、その枝からセイバーの姿が消えて。
ハテナマーク連発で目を凝らす。
「!!!!」
不意に浮きあがる身体!
「ぎゃーーーーーー!!!」
脇の下から手を突っ込まれて、た、多分セイバーが俺掴んで飛びあがって、
ど、どこ行くー!?



やっと気持ちが落ち着いてあたりを見まわすと。
俺がいるのはさっき見上げた枝の上。
「こ、怖ぇえ!」
グラグラと揺れる枝になんとか捕まって。
セイバーが支えてなきゃ、マジ落ちだ。
「山崎、下を見ろ」
「無茶すんなよな、死ぬぞテメー!」
「下を、見ろって」
言われるままに、恐る恐る下を覗く。
と。
シャクナゲが、俺達を見上げてた。

…へー。

太い枝の根っ子に胡座をかいたセイバーの上に、俺は座らされて。
不本意だぜ、こんなスタイル。コレじゃバカップルのシネマスタイルだっちゅーの。
でもよ。
動いたら、落ちる…
後ろから回された手に、身体を預けるしかない。
「下ろせよコラ」
そう言った俺の声に、「んじゃ…」と、セイバーが手を離しかける。
「待ったー!!下ろさなくってイイ!っテメー後で覚えてろよ!」

慌ててセイバーにしがみついて下を見た。
シャクナゲが風に吹かれて笑ってやがる。
…燃すぞコラ。


風にぐらりと揺れる木に、全身の毛が総毛立つ。
「セイバー、テメー、なぁ…」
「あー暖ったけぇ」
「抱き締めんな気色悪い」
「…セクハラは相手が嫌がってる場合だよな」
「はあ?」
ある程度意味を理解しながら、俺は素っ頓狂な声を上げた。
慌てて腿に這わされる手を振り払おうとして、ずり落ちそうになって腕を掴みなおす。
「お、落ちるッ、ての!オイ!マジで止せ!」
「ん〜♪」
鼻歌交じりで、俺のベルトを外して。
押さえようとして手を離すと落ちる。
離さなければ好き勝手に…
「動かない方が身の為だぞ?」
「…最後までする気じゃねぇだろうな?」
「それはさすがの俺も無理だな。楽しみは夜だ」
んじゃ、別に今そんなトコ弄らなくッたって。
俺の控えめな抵抗むなしく、指は服を開いて入ってくる。
うう、動くと、落ちるー…

こんな、真昼間に、
木の上で、
なにバカなことヤッてんだよ…

しっかし、セイバーのおっさんってよ、本当動物、よく言えばワイルドだよな…。



さっきからよ。
ずっと気になってたんだけど。
なんか俺、今日、気持ち軽いよな。
佐渡を離れた所為なのか?
なんかよ、素直だ。



服の間から入った指が、絡め取るように触れて。
「…ん」
「どこでも感じる奴だな」
「…そう言うトコ、触ってんのはお前だろがド阿呆」
多分コイツは俺の身体に触りたかっただけだろ。
猫がすり寄って来る時と一緒。
なんか、欲しいんだろ。
あー。
猫みてぇに、何も考えずに甘えたりそっぽ向いたり
そーゆーの、楽だろうな。

「ひ、人が来たら…如何すんだよ」
「お前がイかなければ見つからないだろう」
「馬鹿、言ってんじゃねぇ、誰がイクか!」
「そうか?ウソつくなよ」

し、しまったー…
セイバーの言葉通り、ウソかどうか試されて俺は。
我慢しっぱなし。
激しく擦られても、イキたくても、乱れそうでも
動かずにその場で耐えてるだけ。
「…ッ、も、もう、止め…とけってェ…」
「イクなよ?」
「…ん、だ、だから、イッて、ねー…」
擦り上げる指に身体が震えて。
先端を親指で柔らかく押し上げられて。
強く、唇を噛んだ。










「さーて、どこヘ行く?」

セイバーがニヤニヤしながら、道の先に立ってる。
俺は下半身疼きっぱなし、このヤロー、火付けといてそのままかよ。
しかしなんとか身体を治めて。

さすがにまだ午後1時半。
こんな人の多い観光地じゃどっかで一発、ッてワケにもいかないか。
あー、高い所、嫌いになりそうだぜ…

こう言う時は、スッキリするのが一番。

「んじゃ解消しに行くか」

お?という顔を、セイバーがして。
そりゃ、俺から言うのは珍しいもんな。
だがなー。

じゃーん。
そこから少し歩いて辿り着いたのは。

「…山崎〜〜」

「解消の方法も色々だよなぁ?はは、そう思い通りにさせるかっての」

山沿いの道にでっかい建物。
「草津ビッグバス」と言う名の建物。
温泉にフィットネス、オラどうだ、スッキリしそうだろうが。はッはッは。ザマー見ろ!
……
よく考えたら、煽られて、堪らなくなってる度が高いのは俺の方。

「この借りは夜に返すからな」

セイバーがニッコリ笑って言った。
ここであんまり体力使うのは止めとこうか、なんて、俺の頭にそう言った考えがよぎった。



あーあ、
今日は本当に素直だよな。


自信の根拠、って奴なんか探してるひまがないくらいに。
もしかしたら、そんな物存在しないんじゃないか、なんてチラッと思って。
まだ見てないものをそう言う風に決めつけるのはツマラネェ。
と、思って、その考えを打ち消した。