空港に出迎えに来ていた男は、篠原と名乗った。
山崎と入れ替えに、女を連れて車から降りていく。
「本気でアリガトウございます!」
「ん?んんにゃ、いいってことよ」
そう言ってにぱっと笑った山崎が、キーを受け取った。
篠原と山崎は日本語で話しているから、詳細はつかめないが
どうやら、この男の、篠原の乗ってきた車は、日本での山崎の車らしい。

「ふむ」

話をしている2人+女はほっておいて、
車の傍に寄ってみた。
見たことのある車。
プレートをみると、「PIROT」と書いてある。
「パイロット?…」
ああ、消防車とか緊急用の車でよく使われている。
アメリカの方でよく牧場系でもみかける車だ。

ピックアップにしてある(荷台付きの車)わりに、そこにはハードカバーがかけてあって。
見た目は、やたらと長くパワフルな霊柩車。
真黒なんだ。
ボディは艶消しの黒。
ガラスはフルスモーク。
装甲車のようだ?いや、そういう感じ、というより、
日本らしいVIPって感じだな。
ふむふむ。
コレは山崎の趣味か?
手で撫でてみると、艶消し特有の、ざらざらした感触。
山崎の肌のほうが手触りがいいな。
張りがあって。

「おいおい、オッサン、なにやってんだよ」

顔を上げるともう篠原と女は行ってしまったあとのようで、
山崎だけが口の端を上げながら、キーをくるくると回していた。

「コレはお前の車か」
「ん、ああ。サファリな」
「あ?」
「ああ。アメリカだとパトロールって名前だっけか」
「日本車は輸出時に名前を変えるのが好きだな」

キーを差し込んで、山崎が運転席にひょいと乗り込む。
それに釣られるようにして助手席に乗り込んだ。
無論、輸入車だから左ハンドルだ。

後で山崎に話を聞くと、昔は日本でも「パトロール」という名前で売られていたらしい。
イメージチェンジの為に、サファリと名を変えたということだった。
俺も名前を変えてみたら、イメージが変わるか?
うーん。
「いいじゃんマコト君で」
「誰がマコト君か」
「ちょっとはパブリックだろ、クリードとかセイバートゥースよりよ。」
「セイウチ(セイバートゥース)の方がましだ」

あははは。
山崎が笑う。
やはり、日本にいる山崎は、こう、生き生きとしている。
アメリカにいたときより。
アメリカにいたときの鋭さ。
日本の山崎は、鋭さに加えて、色がついたように見えた。
いいもんだな…こう、そそるねぇ。
うーん、若いな俺も。ここのトコロ特に。
運転している山崎の、コートを脱いだそのうなじに手を掛けた。

「ん?」
「別に?」
「ふーん」

再び前を向いて、アクセルを踏みなおす。
もう夜に近くなっていた空が、紫色に見えて、山崎に似合うな、と思った。
…少々センチメンタルだな。
むぅ。
うなじから上に向かって髪の毛を梳き上げながら、ラジオを聴く。
ラジオでは、まるで映画の内容を語るかのように
アフガニスタン状勢やら行政がどうのとかヒグマがどうのとか
ビートルズの誰が死んだとか言いながら、
ビートルズ特集などにつながれていく。
ラジオをにらみつけて、ボタンで電源を切った。
日本に山崎がいる。
あまりにも嵌り過ぎていて、どことなくそれが俺を煽るようで。
うれしくなって、顔を背けて窓の外を見るフリをした。
顔が、ほころんじまってるからな。





いい加減、車に乗るのも飽きてきたころ。
高速を降りたパトロールは、そのまま一路込み合う繁華街の横道をすり抜けていく。
ネオンをバックミラーに映しながら走る車の右横に、精神病院、その向こうに大きな神社。
神社の前にさえぎるように大きなバンが止まっていた。
神社を挟んで向かい側の細い道に、パトロールは体を滑り込ませる。
「こんな所に入っていいのか」
「ここ入らなきゃ家にいけねぇだろ」
…なるほど。
家に、招待してくれるとは、有り難いね。もとよりその心算(つもり)だったがな。






「ひゃー!なっつかしいねぇ」
砂利の敷かれた小道から飛び石をわたって家に入るなり、
縄張りに帰ってきた猫みたいに木の床をぺたぺた、と触って。
俺が見ているのに気づいて、顔を赤らめて立ち上がった。
「そんなに懐かしいのか」
「ああ、まぁここは篠原の家なんだけどな、何度か上がった事があんだわ」
ほう、
人の家か。
道理で、何かちぐはぐな印象を受けると思った。
「まー。すぐ慣れるだろ、とにかく風呂はいる風呂」

勝手知ったる風に山崎はさくさくと上がりこんでさくさくと姿を消した。
進んでいった方向、ガラスの嵌った黒い扉の方に、同じように着いていく。
台所、ダイニングテーブルも備え付けてある、その左上手に、二階に続く階段があった。
変わった階段で、アンティーク調、センスはいい。
上をぼんやりと見上げていると。
右手奥から、ザー、という音が聞こえて。
「ここか」
「おう」
脱衣室の洗濯機をわき目にそこを覗くと、
想像以上に広い湯船がそこにあった。

…おお。
いや。
別に、何も考えていないぞ。
別に…
水を溜めるために中腰になっていた山崎を、後ろから抱きよせた。
「…な、なにすんだよ」
「分かってるだろ」
「…あんなぁ…風呂くらい…」
パタパタ、と、蛇口に手を伸ばす山崎を少しだけ解放して
お湯の調節をさせる。
それを見届けた後、もう一度抱き寄せた。
「おい」
「まあまあ減るもんじゃなし」
胸から回した手で顎を捕り、後ろから口付ける。
下を差し込んで、ゆっくりとかき回すと、抱えていた体が強張った。
敏感になっている舌先を掬い上げて、何度も絡めて吸い上げる。
「ん、んン…」
顎を固定したまま、片手で腰から前を探る。
気持ちいいだろう?
俺は今、やけに嬉しいんだ。
本当の山崎、お前を捕らえたような気分で。

本当の、お前の匂いがするぜ…

……脱ぎ捨てた服がシャワーの雨にぬれて、床に張り付いている。
ゆっくりと全身を舐め上げて、冷たいタイルに後ろ手を当てている山崎を見上げた。
「ずいぶんと感じているようだな」
「…そゆこと言うな」
「足開け、足」
「オッサン元気良過ぎだよ」
苦笑する山崎、しかし軽く開かれた足。
その奥に指を滑らせた。
「ン…っ!」
それを埋め込みながら、山崎の其処を口の中に収める。
「は、な、なんだよ!何、入れ…」
今俺は口が塞がっているから、何も言えんぞー。
ここは、篠原の家だといっていたな。
篠原という男、なかなか危ない男だな…
こんな物、風呂の一角に忍ばせてあるだなんて。

「ど、っからそんなモン持ってきたんだよ」
「んー、んんんん」
「うあ、そ、其処でしゃべるなぁ」

喉の振動が伝わって気持ちいいとか?
はっはっは、そういう手もあったか。
バイブレータの振動はオンにせずに、
そのまま、ゆっくりと動かしてやる。
「ん、あ、あっ…馬鹿、馬鹿、ヤロ…ぉ」
俺の髪を掴む手が震えたのを確認して口から其処を抜き取ると、もうずぶ濡れで。
「日本での最初の一発が機械ってのは味気ないな」
「そ、そう思うなら抜け!」
「イクなよ?動かしても何しても。味気ないからなぁ」
逃げようとする腰を掴んで、強く攻め立てる。
イイ、反応してやがる。
あー、たまらねぇ。
もう限界だ。
「お、れも限界だってば!」
片手で俺の頭をごちごちごちごち。
い、痛い…
んー。

報復。

「ーーーーー!!!!」

その体が、ガクンとくず折れた。









ぶくぶくぶくぶく。
風呂に頭まで突っ込んだ山崎が、顔を水から上げて、髪を掻き上げて。
「うへー、生き返る」
「死んでたのか」
「死ぬわい!」
「そーかそーか、死ぬほど良かったか」
「チガウー!」
ごち。
今日はよく頭を殴られるな。
んじゃ。
報復。

「殴られたいのかオッサン」

ごち。

慣れっこといった風に、しかし照れて笑う山崎が言うには。
今日はこの後、篠崎の扱ってる店や通りを流しに行くらしい。
顔見せ、という事だそうだ。
ふむ。なかなか面倒なものだな。
「ついでにメシ食おうぜ」
「そうだな」
俺が体を伸ばしても、気持ちよく風呂に入れた。
湯船の縁に肘を掛けて、山崎が気持ちよさそうに浸かっている。

風呂から上がったら、その濡れた髪、ちゃんと乾かせよ。
俺が拭いてやる。
「犬や猫じゃねぇんだからよ」
いーや、俺が拭いてやる。タオルかぶせてわしわし、ってな。
ん?
床を見ると、さっき脱ぎ捨てた服がびしょぬれで張り付いていた。
「おい、服をどうする」
「そうだな、その辺に掛けとけば3日もすりゃ乾くんじゃねぇの?俺は篠原の服着てもいーしよ」
「俺はどうするんだ」
「…ああ」
そういえば、という顔で俺を見る。
俺の体を水越しに品定めして。
「んー、いい店があるからつれてってやろうか?」
「そうだな…頼む」

そんなこんなで、今後の予定は満タン。
ワクワク、するな。
どんなことでも楽しんでしまうお前、その生き方、もっと俺に。
もっと楽しませろよ。
期待してもいいんだろ?


大きなタオルでむすっとしてる(照れてるんだな)山崎の髪を拭きながら、
俺は笑ってた。


さて、これから、また楽しくなるぜ?なあ?