「日本はなぁオセチってもん食うんだオセチ。」
ふむふむ。
山崎の講釈と和田アキコの熱唱に耳を傾けながら
足はどっぷりコタツの中。
年末年始って言うのは、どうも、こう、気が抜ける。
山崎は一升瓶を空にして、すでに次に手を出している。
俺は俺で、ピスタチオの殻をワリワリと向いて。
ソレを山崎のほうに転がしながら、ウイスキーなど。
「アメリカでは、クリスマスとそう変わらんな」
「はぁ?んじゃ連荘じゃねぇの」
「クリスマスと、正月とな、似たようなもんだ」
「へぇ」
山崎がつまらなそうな顔をして。
なんだ?
ソレは、正月を楽しみたい、って言う意思表示か?
ふむ。

「ときに、オセチとはどんなものだ」
「…んー」
「難しいものなのか」
「マズイ?」

聞かれても、なぁ。

って、
不味い?

「不味いのか?」
「んーまぁ、豪華で、絢爛で、不味い。」
「駄目じゃないか」
「駄目なんだよなぁ」

俺が転がしたピスタチオを受け止めて、口に放り込む。

時間にして11時40分。
もう、そろそろだ。
コタツに入って、年越しか…
どうも。
どうも、納得行かんな。

「山崎」
「ん?」
「俺は不味いものは食いたくない」
「だからオセチはつくらねぇってばよ、メンドくせぇし」
「うむ」
「なんだよ」

出来れば。
美味いものが食べたいものだな。
たとえば、そう、
なにか、肉とか、野生をあおるようなもの。

「そりゃ、正月には縁がないモンだぜ?」

山崎の苦笑い。

「なぁクリード?」

ピスタチオを俺に転がし返して。

「腹減ってんのか?」

ピスタチオを受け止めて、口に放り込んだ。
こりこりとソレを噛み砕きながら、
うむ、
と、横目で天井を軽く仰ぐ。
もうすぐ、カウントダウンだ。
そのときに、何をやっているだろう、俺は。
…ピスタチオの殻を剥いているのは,ちょっと願い下げだな。

「年明けの瞬間に、何をしていたい?」

俺の突然の質問に、
山崎がむせかえった。
「な、なに?何だよ、別に何もしたくねぇよ」
「なぜ声が裏返る?」
「…いや、オッサンのことだから、年明けの瞬間にイキてぇとか言うのかと思ったんだよ」
「それじゃいつもと変わらないじゃねぇか」
「…そう言うもんだいかぁ?」
とか何とか言っている内に、
時はもうすでに12時間近。
やばいぞ。
このままだと、ピスタチオだ。

「オッサンもこんなイベントに踊らされるなんてなぁ」
「もう聞き飽きたぞその台詞は」
「だってよぉ」
「記念だ」
「記念?」
「お前と俺が一緒にいるって言うことの重要性についての記念だ」

「へ?」

そんな、顔をするモンじゃない。
テレビの中は、もうカウントダウンの真っ最中。
あと、もう、2分。
うがー!!!

とにかく!
とりあえず!
なんか、
したほうが、
いいようなきがする

「クリード!??!」
「悪いな山崎、突然だが」
「な、なん…」
「入れるぞ」

引き寄せて押し倒して後ろから服を引き降ろして

「…−−−−−−−ぎ…!」
「いつものことだろうと何だろうと」
「…っ、なに、しやが…ぁ!」
「俺はお前の中がイイ」

無理にねじ込んで、抱き上げて、

「…ぅ、阿呆、ッ、死ぬかコラぁ!」

座った自分の上に抱き上げて、
膝を抱え込んで開かせる。

「つまんねぇ、コトに拘るなよぉっ!」

暴れる山崎。
無理強いか、な、コレは。
つまらねぇことか、な?コレは。

「俺にとっちゃ結構重要要素だ」

カウントダウン、テレビの中で、花火が突然上がって。
ああ、年が明けたらしい。

「馬鹿か?俺は?」
「…馬鹿、だよ!…離せ!」

慣らしてもいないのに、
濡れてるくせに、
よく言うぜ。

「あ、ァ…」
「酒、飲むか?目出度いぞ」
「…っ、く」

なんだか、山崎がやたらと感じ入っているように見えて。
どうしたのか。
記念の一発ってのは、利くものなのか?

「山崎?大丈夫か?」
あまりに、山崎が苦しそうで。
少々心配になって、動きを止めた。
テレビの音なんて、もう耳に入ってこない。
オセチが不味いかどうかなんて、忘れちまった。
記念とかそう言うのも
忘れちまった。

「苦しいのか?」
「…違…ぅ」
「…しかし…」

「クリード…」
「なんだ?」
「…なんでもねぇ」

何かを言いかけた山崎が、そのまま口をつぐんでしまって。
「ん…」
体勢を整えようと動かした俺の刺激に、
中の蠕動が反応を返す。
「俺もな、わからんのだ、だが、何かしたくなった。」
その蠕動の刺激に逆に俺が顔をしかめながら。
動かない山崎へ言葉を続ける。
「お前の人生に何か残したいのかもしれん」
「嘘付け」
「なに?」
「自分の人生に、だろ?」
たぶん、山崎の苦笑い。
片手で、前を隠して、もう片方の手で、自分の膝を掴んだ俺の指を剥がしにかかる。
「いいよ、今年は、『俺トヤッテタ』、それで、よ。」
「そうか。なら来年は?」
「来年のことなんか言うと、鬼が笑うぜ」
「いや、たぶん来年も同じコトをする」
「なんでよ」
「独り占めって奴だ。」
そう言って。
山崎の身体を畳に下ろして…無論入れたままだぞ。
だから、言わずもがな、獣の体勢。
「なんだか、特別な感じがするだろう、なぁ山崎」
「…ッ、特、別ゥ?」
「そうだ。お前とだと特別に感じるからな、不思議だ」
振り向きかけた山崎、
なにを言おうとしたのか。
「…はッ…、ーーー!」
言いたそうにして、ソレを快楽に流されてしまったようで、
言葉にならなかったようだ。
「なんだ?山崎?」
「っ、は、…」
ゆっくりと、山崎を押し上げて。
当たり前のように、
入れて動くだけ、
当たり前
それだけ…?
ん?なんだと?
この感じ、は
どこかで他の誰かを抱いてたときと同じ感じ
…まずい!
正月とかいうものの、匂いにやられた所為か?
どこか気の抜けた山崎。
どこか気の抜けた俺。
正月の所為。
ぼーっとして、
でも身体だけははっきりしていて。

テレビの音が遠くから聞こえて。

『正月ですからねー』

正月だからか。

『無礼講って奴ですね』

無礼講?

『おめでとうございマース』

目出度いのか。

『さぁ皆さん楽しみましょう』

こりゃ、気も抜けるはずだ。

「…や、やめろ、こういうのはヤダ、ってん…」

ん??

「…どうした山崎?」
「しらね、けど、気が、抜けて…っ、はぁっ」
「気が?」
「わかんねー…けどよぉ、…」
ふにゃ、とその手がコタツ布団を掴んだ。
「ダメだぁ…気が、抜ける…」
「???山崎?」
そう、俺も。
いつも、どこかで緊張していた精神の糸が、ほつれているように思えて。

…まずい。
から。

「山崎…」
「…ん…?」
「強く行くぞ」

正月独特の雰囲気だとかいう、時が止まったような感覚に。
流される、それはなんだか、真綿にくるまれているようで落ち着かなかったから。
強く、腰を掴み上げた。
俺を見る横目が、眉根を寄せて。力なく笑った。
「…頼むわ…スゲーのくれてやってくれよ」

山崎も、まずいと思ったんだろうか。
俺もまずいと思ってる。
このままだと、正月ボケって奴だ。
「気合、入れるぞ山崎」
「…い、入れすぎんなよ…?!ちょ、ちょ、ッとオッサン…!」

山崎の髪を掴んで引き上げて、
痛みに喘いだ喉元に、そう、牙を突き立てた。

牙の先から、傷口から、野生を呼び覚ませ。
ボーっとしている場合じゃない。
いつでも、そんな場合じゃない。

「…痛ゥ…うあ…!!!!」
「ボーっとしていると、食い殺すぞ」

何度も、噛み付いて、肌を血で濡らして、
起きろ。本物の俺。
山崎の内壁が、強い蠕動を繰り返して。
俺を飲み込む。
俺の腰を後ろ手に掴む指、その指に強く筋が浮いた。
そう、はっきりしてきたぞ。
気がつけば、頭に靄がかかっていた、だなんて、
ちょっといただけねぇ。
その意見は俺たちの中で一致して。

テレビは、消した。

正月ボケにならねぇように。

目出度い気分と、酒と、楽しみと、高ぶる心だけは残しとく。

じゃなきゃ、俺じゃねぇ。
なにか、こう、吹っ切れねぇ気分だったんだ。
じゃなきゃ、山崎じゃねぇ。
なにかこう、違和感があったんだ。
こればっかりは「たまにはイイ」で済ませられねぇ。

山崎の飲んでいた一升瓶鷲掴みにして、ソレを呷って。
勢いで、汗に濡れた髪から肩から身体に酒をぶちまけた。
「…っ!?」
「はははははは」
「な、なん、…やめ…ッぁ…!」
「流されるわけにゃぁいかねえのよ!!!」
頭から。
つま先まで。
全部、酒に浸した。
どうだ山崎。
どっか、イカレてるだろう?
ソレが、気持ちよくはないか?
ああ、目覚める
気持ちいいよなぁ。
顎を捕って口の中にも注ぎこんで。
「ん、ぐ…」
「オイオイ溢してるぞ?」
笑う俺の手を掴んで、一升瓶取り上げて、自分で呷って
山崎が酒を吐き出しながら笑った。
酒瓶が転がって
獣の背が反って
俺の胸が焼け焦げる
何度も吐き出して溢れさせて
山崎の舌が喘いで宙を舐めた






「はー」
「…うええ」
まったり。
正月気分というか、いや、さっきソレは否定したから、
身体が満足して、本能吐き出しつくしてその感覚、に、まったり。
イベントにあおられて、
それに反発した本能と
追随する性的本能とで滅茶苦茶に壊れて。
ソレがひどく気持ちよかったからな、身体ゆだねたら。
正月早々山崎がコタツにカタツムリ化してる。
俺はもう、腰の辺りがスッキリで。
狩りをして腹を満たしたどっかの野生動物みてぇにコタツでまったり。

「やはり、この方が落ち着くな」
「この方、って、何よ」

ぐったりしていた山崎が頭をもたげて。
おお、まだそんな元気があったか。

「流されるより、自分の時間で生きる…ってのか?」
おお、われながらカッコいいこと言ってないか?
「クリスマスで盛り上がってた奴が言うせりふじゃねー」
「ぐぅ。」
そりゃそうだ。

「そういやあン時は流されていたな」
「でも流されてたわりにゃぁ気が抜けてたりはしなかったよな」

山崎が、謎な顔。
俺も、謎な顔して。

「謎だな」

二人でステレオでハモッた。

Wで苦笑い。

「まー、良いんじゃねぇの」

山崎がそう言うから、いいんだろうか。

「だってよ、俺はなんか珍しいモン見てる気分で新鮮だしな」

なんだ。
お前の理由か。
うむ。
お前の理由なら、良いか。
俺の理由を楽しんでくれる人間なんて、珍しいぞ。
「パンピーと一緒にすんじゃねぇよ、この山崎竜二を」
偉そうにそんなコトを、のたまわって。
でも、それには俺も納得だ。

「ソレでオセチだが」
「食うのかよ!」

コタツの中で、足をけられた。
山崎が大笑いして、コタツを引っ張って、
俺はソレを引っ張り返して、
蹴り蹴り。


いつでも戦っているつもりの俺は
いつでも遊んでいる山崎に、惚れたわけだ。

なんでも本気で遊んで、そう、戦いでさえもおそらく。

ソレを見たくて、俺はつい、イロイロな仕掛けをする。んだと思う。

いつしか静かになった山崎を覗くと、突っ伏したまま、熟睡しちまってて。
足を絡ませて、俺も横になった。
こんな関係がいつか終わるんじゃないか、なんて思いそうになって
ソレを酒で打ち消した。
いいのか悪いのか、わからない、しかし、楽しい。
それで牙が抜けるようでは、困る。

牙を突き立て合いながら、生きていければいい、そう願った。

…俺にしては珍しく。
お参りにでも行ってみたくなった。
明日、山崎が起きたら、どこか神社に連れて行ってもらうことにするか。




なるようになるこの関係、
束縛したくなる気持ちってのが、理解できるような気がした。



こりゃ、惚れ過ぎだな…
こんな正月経験させられたら、癖になって当たり前だ!