それは一本の電話から始まったことだった。

「は?」

耳を疑って、聞き返す。
電話の向こうでは、けたたましい女の笑い声、と、高い男の声。
たしなめる声と、より高くなる笑い声。

『お願いしたいんですよ、俺が帰ってくるまでの間…』

電話の相手。
俺が作ったヤクのルートの一部を総括している男、日本人の篠原。
そいつなんと結婚するらしい。
その相手の女が今後ろで大笑いしてるヤク中のサンディ、ルーマニア人で、
不法入国者だ。
観光ビザ使って長く滞在してるってだけなんだがな。
その女と一緒に、ルーマニアのほうへ挨拶がてら行きたい、と。
何でそんなの俺に言うのよ。
『だって山崎さんこの辺気に入ってたじゃないですか〜』

頭は切れる、顔は広い、結構使えるんだ、この篠原って男。
しかし、イイのかね…
いや、クリードの事。
俺がまた日本に帰るなんていったら、どんな顔するか。
…見ものではあるがなぁ。
うーんうーん。

篠原に任せていたルートの一部、捌くのにももってこいの場所。
そこにあった派出所を撤退させたのは俺の腕。
まぁ、無法地帯って言うほどじゃない。
それなりの場所は一点集中に作ってあるからな。

「…しょうがねぇな。どれくらい行ってくるんだ?」
『観光ビザで行くんで、一週間かそこらじゃねぇかと思うんですよぉ』

…本当に一週間で帰ってくる気があるのかどうか怪しいところだが。

「いいぜ」

結婚祝いだ、他に何もやらねぇかわりにまぁ楽しんで来いや。

高い声でうれしそうに何かのたまわってる携帯から耳を離して、考えた。
クリードに、言っておくべきか…やっぱ。









「日本に?!」
「あー。まあしょうがねえじゃん、仕事だしよ」
思ったとおり。
結構なショックを受けているらしく、俺が寝っ転がってるベッドの脇から裏返った声。
払っても払っても俺の金髪を弄んでいた手が、急停止した。
顔を上げて、そっちを見る。
「…」
無言で、考え込んでる風で。
だよな、俺がいない間、どうやって体の処理するか、って
どうせそんなトコだろ。
「…年末近いからな…アレは任せるとしても、アッチはどうするか…」
「あ?」
裸の俺の腰を撫でながら。
「気持ち悪ィな!!!」
「ああ?うん」
上の空。
「なに考えてんだよ、たかが1週間か2週間か下手すりゃ1ヶ月だろうが」
「1ヶ月!?!??!こっちでの仕事はどうするつもりなんだ!」
「ネット使う」
「…あ、その手があったか」
うんうん、と俺の横でうなずいて。
そうかそうか、とニコニコと。
気持ち悪いな、こいつが上機嫌で笑ってるってのは。

なんで、上機嫌…

「んじゃ早急に手配しないとな、出発はいつだ」


思わず、目が点になって。
思わず、口元がほころんだ。
いやいや、と顔を背けて。なに喜んでんだ俺。
まだそうと決まったわけじゃ…
「行くんだろ?」
…そりゃ、さっきから言ってんじゃねぇの。
腰から滑らせた手を、足の間におもむろに突っ込まれて、
「ぎゃあ!!!」
「色気のない声を出すな」
「色気があってたまるかーーー!!!」
そのまま、掴まれて捻じるように動かされて。
叫び声は、途中で途切れた。

ちょうど、さっき一戦目が終わったばっかりだったんだ…
だから、まだ、体の熱さが冷め切ってない。
たちどころに俺は善い様に遊ばれて。
…やたらと嬉しそうなの、なんでなんだよ…
聞かせろよ、こんな事する前に。
多分、俺、聞きてーんだから、よぉ…
「ん、う…」
「行くんだろ?」
「…い、く、つってんだろ」
「ん?もうか?」
「違う!!!!」
オヤジギャグかそれ!!!!
体をねじって突っ込みのコブシ一発。
完全無視、クリードのヤツ、まだ上の空。
おもむろに腰を持ち上げられて、それをサポートするように俺は自ら膝で体重の配分を変えた。
慣れてるなぁ、俺。
「行くぞ」
「ッく…」
ゆっくりとした動きを繰り返しながら、だんだんと深く…
「…、あ」
「山崎」
「…?」
俺の体を抱きかかえるようにして、クリードが覆いかぶさって。
そりゃもう楽しそうに。
「日本、久しぶりだな」
「…ん。そ、そう、だな」
「俺も行かせて貰うぞ」
「…うあ!」
体を起こしたクリードに抱きかかえられて、俺はその体の上。
座ったまま後ろから突き上げられて、仰け反りながら其の腰に爪を立てる。
「っ、う…、どう、言う…」
「イクぞ…」
「どこ、にぃ」
「絶頂(にやり)」

…こんの、オヤジーーーー!!




…こほん。
と、まあそんな感じで。
俺は今飛行機の中。
隣でイビキかいてるオッサン、周囲が迷惑して耳ふさいでやがる。
イヤーウイスパーも用意しなきゃならねぇな、最近の航空会社はよ(苦笑


俺も、久しぶりの日本だ。
久しぶりだな、一線に出るのは…
地方のフィールドだが、都内より需要が大きいのは風俗法が届かないせいなのか。
いい機会だ、楽しませてもらうぜ…


行くぜ、高崎市柳川町。